第64話 第1回ダンジョンアタック〜マリカ&セーゲル(3)〜
別名、開いちゃいけない扉が開いちゃう回。
どうも足を引っ掛けて棚に頭からダイブした島田です……。肩がバキッて鳴ったんだ……痛かった……。
年末最後の更新になると思いますので、年末のご挨拶。
今年も色々とありがとうございました!
ゆったり更新な島田と、毎回大・暴・走☆するリジーとグランにお付き合いくださってる皆様にたくさんの感謝を!
寒い日が続きますが、お身体に気をつけて良いお年をお迎えください。
それでは〜来年もよろしくどうぞっ( ^ω^ )ノ
アッ、セーゲル目線だよ!
ダンジョン開始から約5時間ほどーー。
マリカの機嫌は現在……最高潮の悪さに、達していた。
「あぁぁぁぁぁあっ、もうやってられませんわっっ‼︎」
魔法と《境界》を駆使して人魚を討伐していたマリカが叫ぶ。
本音を言うと俺も叫びたい。だってそれぐらい、彼女に迷惑をかけている。
人魚は雌型しかいない。そのため、雄を誘惑し……連れ去ったり、操って味方撃ちさせたりする。
そして、邪魔者でしかない他種族の雌は敵と判別され、過激な攻撃をされるのだ。
つまり、マリカにばかり戦闘の負担をかけてしまっているという状況だ。
それに嫌気が差したのだろう。彼女は頭を掻き毟りながら叫ぶ。それから据わった目になったかと思えば……ズボッと勢いよく、自身の胸の谷間に手を突っ込んだ。
………ブハッッッ⁉︎
「…………何を咽せてますの?」
「……ゴホゴホゴホッ……‼︎しょ、諸事情だ」
「は、はぁ……」
谷間に手を突っ込んだまま何かを漁る彼女は、不思議そうな顔だった。今している自分の行動がどれだけ刺激的かを理解していないらしい。ついでにどうして俺が咽せたのかも。
それが有難い反面、少しは男事情に考慮してくれと恨みたくなる。こんな、こんな光景っ……目を逸らすのが、大変になるだろうっ……⁉︎
どこかから〝ムッツリめ……〟と呆れた声が2人分、聞こえた気がした。
「あっ。ありましたわ」
ーースポンッ‼︎
「⁉︎⁉︎」
マリカが勢いよく谷間から手を引き抜くと、その衝撃でタプンタプンッと胸が揺れる。
くぅっ……‼︎な、なんて危険な揺れっ……‼︎
思わず前屈みになりそうになったが、彼女が手にしていた布が広げられた瞬間ーー湧き上がりかけていた欲望が一気に霧散した。
「うふふっ。しまっておいて良かったですわぁ」
「…………(い・や・な・よ・か・ん)」
…………マリカの手によって広げられてのは……それはもう少女趣味全開☆と言わんばかりに白いフリルがたっっぷりと付いたピンクのワンピース。
それを見るや否や、俺の頭の中に危険を予期する警報が鳴り響いた。
どうしてだ……マリカは、仲間のはずなのに。惚れた女性で、あるはずなのに。
…………俺は何故……今……ものすっっっごく……彼女から逃げたい気分なんだ……?
「セーゲル」
「…………(へ、返事をしたくない……したら確実に終わーー……)」
「セーゲルッ‼︎」
「ハイッ‼︎」
強めに名前を呼ばれて、ついつい反応してしまった。
顔には出さずに、俺は心の中で苦悶する。
あぁ……嘘だろう……?この後の展開は……。もしかしなくても…………。
「着て、くださいますわよね?」
ーーにっこり。
そうやって微笑むマリカは、今までに見たことがないくらいに美しい笑みだった。
「…………」
まさかと思ったが、想像した通りの展開になってしまった……。
冷や汗が止まらない俺の頭の中で、本能が〝逆らうな‼︎絶対逆らうなっ‼︎〟と叫んでいる。
しかし、マリカの圧に負けて死にかけている理性が〝せめてっ、最後の悪足掻きくらいしろっ‼︎男だろう⁉︎〟と泣きながら訴えている。
俺は恐る恐る後退しながら、ワンピース片手に迫る彼女に問うた。
「…………アノ……理由ヲ、オ聞キシテモ……?」
「あの人魚達……見た目は人に近しくてもやはり魔物ですから、そこまで知能が高くなさそうですの。つまり、見た目で騙されるということよ」
「…………つまり……」
「女装すれば、セーゲルも女性認定されますわ。多分」
「そんな馬鹿なっっっ‼︎」
俺は思わず叫ぶ。
絶対、そんなことない。そんなはずない。
いや、それ以前に女装なんてしたくない。したくないんだっっ‼︎
「お願いですわ。私の負担を減らすために、これを着てくださいませ」
「い、嫌だっ……」
「セーゲル」
「嫌ですっっ‼︎」
ーードンッ。
背中が壁に当たる。ハッとした時には手遅れで。
距離を詰めたマリカは右足を持ち上げて壁を蹴りつけて、俺の身体が逃げられないように捕らえていた。
「セーゲル」
そんな風に最近巷で噂の小説に出てくるらしい足ドン(壁ドンの派生系)をされた俺は……。
「着ろ」
「…………あい……」
………………彼女の笑顔に、押し切られました……。
……。
…………。
………………数分後……。
俺は水着の上にワンピースを着ていた……。フリッフリのピンクのワンピースだ……。
でも、当然のことながらサイズが合わなかったので背中のボタンが止まらず……肩出しワンピースのようになっているし。胸と腕周りの生地がパツパツだし。女性物であるがゆえに丈がかなり短いという……なんというか地獄のような姿になっていた……。
泣いたよな……。流石の俺もこれには泣かずにはいられなかったよな……。
けれど、もっと悲しいのは……。
『キシャァァァァァア‼︎』
こんな雑な女装で騙される人魚達だっっ、畜生っっ……‼︎‼︎
「あははははっ‼︎ねぇ?言った通りでしょう?簡単に騙されましたわ、このお馬鹿さん達は」
さっきとは打って変わって攻撃しまくってくってくる人魚達を、俺は剣で倒していく。
まさかまさかのこんな雑な方法で俺も女性認定されるなんて……‼︎
もしこれで女性認定されなかったらっ……このワンピースを脱ぐことができたはずなのにっ……‼︎これじゃあ脱げないじゃないかっ……‼︎
だが、マリカだけへの集中攻撃がなくなり、彼女の負担が減ったのも確かで……‼︎もうなんか、言葉に言い表せない気持ちだったっ‼︎
機嫌良く倒していくマリカの隣で、俺も泣きながら攻撃してくる人魚を倒す。
う、うぅぅ……‼︎うぅぅぅぅっ……‼︎
マリカにっ……マリカにこんな恥ずかしい姿を晒すなんてっ……‼︎もう恥ずかし過ぎて、婿に行けないっ……‼︎
「セーゲルッ‼︎」
「っ‼︎」
……意識を逸らし、半泣きで戦っていた俺が悪かった。戦闘に集中出来ていなかった俺は、背後から迫る人魚に気付くのが遅れてしまった。
慌てて剣で防ごうとするが……駄目だ、間に合わない。
振り下ろされる爪。俺は右腕を犠牲にすることにした。勿論、少しでも傷を浅くするために後ろに身を引こうとする。
そしてこれから襲ってくるであろう痛みを堪えるために歯を噛み締めたところでーー。
「《氷よ、貫きなさい》‼︎」
『ギィィイッ‼︎』
ーーザンッ‼︎
人魚は氷の剣山に貫かれて、光の粒子へと変わっていった。
「……マリ、カ」
俺は魔法で守ってくれた相棒の方へと振り向く。
彼女は杖を構えたまま、呆れたように呟いた。
「もう……危ないでしょう。戦闘中よ?」
「うぐっ……」
「でも、集中出来なくさせてしまったのはあたくしの所為でもあるのかしら?少し意地悪をし過ぎてしまったようね」
彼女は耳に髪をかけながら、近づいてくる。
俺は何を言えばいいのかが、分からなかった。
「ねぇ、あたくしの間違いではなければ。貴方は、女装程度で恥ずかしがるような……戦闘が出来なくなるような男ではないと思うのよ。だって、この女装は戦略としてしていることだもの。冒険者として優秀な貴方ならば、戦略として行っていることに躊躇うはずがないわ」
確かに、俺は女装すること自体は恥ずかしいとは思わない。
戦略として必要だと判断すれば、女装だってセクシーな衣装だって。格好悪い姿になっても、全裸になったって動じることなく堂々としているだろう。
しかしーー……。
「なのに何故、貴方はそんなに女装を嫌がっているのかしら?」
それは全てっ……マリカに見せることがなかったらという……話なんだっっ‼︎
俺はやっぱり涙目になりながら、叫んだ。
「と、当然だろうっ⁉︎こっ……こんな情けない姿を君に晒してっ‼︎嫌がらずにいられると思うのかっ‼︎」
きっと、今の俺の顔は真っ赤になっているだろう。羞恥心で。
そう……俺がここまで嫌がっているのは。恥ずかしがっているのは。この姿を見せている相手が、君だったからなんだ。
マリカは俺が惚れている女性だ。
そんな彼女の前で情けない姿を見せるなど……嫌がらずにいられるだろうか?俺は無理だ。
好きな女性の前では、格好いい姿だけを見せていたいと思うのは、男として当然のことだろう。
だから、俺は……マリカに格好悪い姿を見せたくなくて。嫌がり、恥ずかしがり、半泣きになっているのだ。
「なので……‼︎出来ることなら、俺のことをっ……見ないでくれっ……‼︎」
俺は顔を逸らしながら、懇願する。
本当は、脱ぎたい。今直ぐに、脱ぎたい。
だが、あの馬鹿な人魚達の所為で……脱いだら俺は男認定されて、またマリカだけに攻撃が集中してしまう。だから、脱げない。冒険者として、誰かに負担がかかる戦闘は許せない。
でもやっぱりマリカにはこんな俺、見せたくないっ……‼︎
そうなればこんな情けない姿をした俺を見ないでくれと、彼女に頼むことしか出来ない。
そうして実際に頼んだのだが……マリカからの返事がないことに違和感を覚えた俺は、顔を上げた。
そして、彼女の顔を見たことを後悔した。
何故なら……。
「………………」
なんか……マリカの目が、途轍もなく……怖かったからだ。
「…………マ、マリカ、さん……?」
俺の頭から足先まで、観察するかのようにマリカの視線が動く。
それから視線がジッと顔に固定されて……気まずさに顔を背けると、「あらぁ〜……?」とねっとりとした声が聞こえた。
初めて聞く声音に驚いて振り向けば、マリカの顔はまさに……愉悦に歪んでいる、という表現がピッタリ嵌まるような表情をしていて……。
何故だろう。俺の身体が、興奮したようにふるりっと震えた。
「…………セーゲル」
「は、はいっ……」
「貴方の嫌がる姿……随分と、可愛らしいわね……?」
「………………エッ」
「顔も真っ赤で、涙目で……恥ずかしさに震えて……それでお願いしてくるなんて……なんて、愛らしいの」
近づいてくるマリカが、俺の頬を撫でる。
ドキドキと、煩いぐらいに心臓が脈打つ。
「………何かしら?この、胸に満ちる感覚は。上手く言えないけれど……でも、確かに……あたくしの胸が、疼いているの」
妖艶に微笑みながら、彼女は唇を舐める。
体温が、異常なくらい上がり……呼吸が、荒くなる。
「…………もっともっと……恥ずかしがって欲しい……泣いてみて欲しい……いいえ。あたくしの手で、泣かせたい。……辱めて、オネダリさせたい」
そう告げるマリカの声の熱量にーードキュンッと、俺の胸が高鳴ってしまった。
「…………ねぇ、セーゲル?貴方のこと……少し、虐めてみても……いいかしら?」
普通だったら、虐められることを許容するなんてあり得ないのに。今の俺には……それを〝拒否する〟という選択肢が存在しない。
それどころか……マリカが相手なら、何をされてもいいとすら思ってしまう始末で……。
(ま、まさか俺は……もしかしなくても……マリカに虐められることを……期待して、いる……⁉︎)
そう考えついてしまえば、もうそれ以外には考えられなくなってしまって……。
その瞬間ーー俺は、互いの開けてはいけない扉を開けてしまったことを……悟ったのだったーー……。




