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第59話 第1回ダンジョンアタック〜リリィ&スイレン(1)〜

 






 唐突な転移で送られた先……そこは、真っ青な世界。

 つまりは、海面から差し込む光がユラユラと揺れる、海の底だった。





「はぇ……⁉︎」


 あたしはポカンッと口を大きく開けて、辺りを見渡す。

 色とりどりの珊瑚に囲まれた、ちょっと開けた場所。そんな場所にあたしは立っている。

 というか……えっ⁉︎なんで海の中なのに息が出来てるんだ……⁉︎


「なんとまぁ……面妖な。これがダンジョンというモノなのか」

「‼︎」


 隣から聞こえてきた驚いたような声に、あたしはハッとして振り向く。

 そこにはあたしと同じように、辺りを見渡すスイレン陛下の姿。

 陛下の長い髪と服の裾がユラユラと揺れていて……海の中だってのを余計に実感させられる。なのに、息も出来ているし声も出るらしい。

 不思議だ……不思議過ぎる……。これがダンジョン……。

 あたしの困惑が伝わったのか、スイレン陛下も困ったような顔を返してくる。

 そしてーー……この先がすっっごい不安になる質問を、ぶつけてきた。


「……つかぬことを聞くのだが」

「………え?あ、はい……」

「リリィ嬢はダンジョン攻略をしたことがあるだろうか?」

「…………いや……ない、です」


 ずっとリリィ(あの子)の中で見ているだけだったあたしが、ダンジョン攻略をしたことがあるはずないじゃん。

 勿論リリィ(あの子)もダンジョン攻略なんてしたことない。

 やったことがあるのはあの、地獄のサバイバル合宿(を、あたしは中から見てた)ぐらい……。

 この時ばかりは、身体乗っ取られてて良かったと、思わずにはいれなかった。

 だって、とんでもなくハードだったし。1日ごとに転移させられて、サバイバルって冗談抜きで笑えないだろ。見ているだけなのに、ドン引きしたからな。本気で。


「………そうか。困ったな」

「……?」

「実を言うと、儂もダンジョン攻略したことないのだ」

「………………へ?」

「つまり、素人二人組の初めてのダンジョン攻略になる」


 ………。

 ………………。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎」


 嘘でしょ、嘘だろ、嘘ォ⁉︎

 スイレン陛下っ、ダンジョン攻略したことないのっ⁉︎

 はぁ⁉︎じゃあ、この人選、最悪じゃん‼︎


「リリィ嬢は魔王の役目を知っているか?」

「え?いや、知らないけど。というか今、それ、関係ある?」

「多少はな。儂がダンジョン攻略をしたことがない理由は、魔王()があの地から離れることが出来なかったから、という理由なのだよ」

「…………はぇ?」

「良い機会じゃから、説明しておこう」


 そこから語られたのは、魔王のとんでもない役目だった。



 大陸に住む生き物が悪いことをしたり、悪感情を抱くと負のエネルギーが発生する。負のエネルギーは大陸中に張り巡らされた魔脈(血管)に溶けてしまうため……そのまま放置すると、大地が穢れ、不毛の地になってしまうらしい。

 そうさせないのが、魔王という存在。

 魔王は、負のエネルギーで穢れてしまった魔力を大地から奪って、綺麗な魔力にして還元している。でも、その過程で魔王本人に穢れが溜まってしまう。

 それが限界を迎えると魔王は暴走する。魔王が恐ろしい存在だとされていたのが、これが原因なんだとか。



「長い歴史の中ーー魔王が倒された後、暫くの間平穏が続くであろう?それは、魔王に蓄積された穢された魔力が、魔王が倒されることで浄化され……大地へと還元されるからなのだ」

「えっ⁉︎じゃあ、スイレン陛下もいつか暴走して、討伐されちゃうのかい⁉︎」

「ふふっ。確かに少し前までの儂であったらそうであっただろうが……今はそんな心配はない」

「……そうなのか?」

「あぁ。グラン殿達のおかげでな」


 討伐される以外で、魔王に蓄積された穢れた魔力を浄化するには……聖女の使う神聖魔法ーー浄化が必要だった。浄化されると、魔王(スイレン陛下)も死なないし、また数百年単位で魔王として濾過出来るようになるらしい。

 で……。グランヒルト様が作った魔鉱石にフリージア様はギュッと浄化魔法を込めて、注ぎ込んだ魔力を浄化魔法に変換、ついでに半永久的に使えるようにしてくれたおかげでスイレン陛下は暴走する心配がなくなったんだとか。


「す、凄いな……あの人達は……」

「あぁ、そうさな。こうして儂が国を離れられるようになったのはグラン殿達のおかげだ」

「…………へぇ」

「だからの。こうしてダンジョン攻略に挑戦するのは、初めてなのだ」

「……………」


 って‼︎結局、そこは変わらないじゃん‼︎

 どうするんだよ、素人同士で‼︎


「…………うぅっ……‼︎どうすれば良いんだ……?」

「まぁ……適当に攻略していくしかないのではないかのぅ。グラン殿が言っておったようにこう見えて魔王だからな。そんじょそこらの輩には早々負けぬよ」

「………うわぁっ……‼︎不安だぁ……‼︎」


 あたしは頭を抱える。

 だって、強いって言うけどさぁ‼︎見た目はそんな風には見えないんだから、仕方ないじゃん⁉︎

 だって、無駄に美人だし‼︎なんか女のあたしよりも動作が上品だし‼︎美人だし‼︎

 ほんとーに大丈夫なのかなぁ、あたし達二人で⁉︎


「とにかく、進んでみるか。どうやら標として白い砂が敷かれているようだし」

「うぇ?」

「ほれ。見てみろ」


 そう言われてスイレン陛下の指し示した指先を見ると……灰色の砂底に、道標のように白い砂が敷かれている。

 ………全然、気づかなかった。


「で、でも……白い砂を辿って進めとは限らないんじゃ……」

「…………おや。リリィ嬢は慎重派のようだな?」

「…………いや、これぐらい普通だろ?」

「しかし、灰色の中に白……他に分かりやすいモノもないと思うが?儂らの足元が始まりのようだしな。辿れ、と示している可能性は高かろうよ」


 言われてみれば、あたし達の足元の砂も真っ白で……背後には白い砂なんて一切ない。それが余計に、スイレン陛下が言っている通りかもしれないと思わせる。

 でも、素人判断が一番危ないって言うじゃないか。


「……なんでそんな無鉄砲なんだよぅ……」

「…………⁉︎わ、儂が……む、無鉄砲……だと?」

「⁉︎⁉︎」


 無意識に溢れていたらしい言葉に、あたしは息を呑む。

 あぁぁぁぁ‼︎こんな状況で悪口言うなんて、失礼じゃないか‼︎いや、結構本気でそう思ってるけど‼︎

 でもでも、素直に口にしちゃうなんてあたし、馬鹿だっ‼︎

 半泣きになりながらオロオロしていると、スイレン陛下が困ったように笑う。

 彼は大きな……それはもう大っっきな溜息を漏らしながら……眉間を揉んだ。


「………そうか……無鉄砲か……」

「………あ、あの……」

「嫌だなぁ……。無鉄砲なんぞグラン殿達の専売特許であろうに。それなりにまぁ長い付き合いであるからか、洗脳されてしまったか……」

「…………ふぇ?」

「……………あの二人のように破・天・荒・☆扱いだけはされたくないな……」


 ーー若干、目が死んでるような気がするのは……気の所為じゃない気がする。

 またもやオロオロとしていると、スイレン陛下は再度大きな溜息を零してから……乾いた笑顔で告げてきた。


「………兎にも角にも。こうしていてもダンジョン攻略は進まぬ。取り敢えず進んでみて、駄目であれば戻るのは如何か?」

「あ、はい。それで良いです。早速行きましょう」

「あぁ、そうしよう」


 という訳で……あたし達は白い砂に従って、進むことになる。



 こんなダンジョン攻略の始まり方で大丈夫か……?と不安になったのは、ここだけの話だ。

 陛下の地雷踏んだらしいの、あたし自身なんだけどね。






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