番外編 《メタイベント》めっちゃ遅れたホワイトデー
途中まで書いといて、ホワイトデーの時に階段落ちかまして、それどころじゃなくなって忘れてたので……今更ながらのホワイトデーのお話です。
※海底ダンジョンアタック前の話ってことで(笑)
【注意】若干シリアス&メタ‼︎苦手な人は逃げてください‼︎
グラン目線から始まります!
それでは〜よろしくどうぞっ☆
「という訳で、ホワイトデーのお返しを作ろう的な料理教室です。先生は勿論、料理系男子なスイレンさん〜」
俺がパチパチパチと拍手をすると、白い割烹着を着たスイレンさんは大きな溜息を零した。
「急に儂の屋敷にやって来たと思ったら、急に始まった……というか、儂、バレンタインデーもらってないんだが……」
「「「「えっ……⁉︎」」」」
俺らはスイレンさんの呟きを聞いて、顔を見合わせる。
いや、だってさ……?
てっきりリリィ嬢から貰ってると思うじゃん?
……だけど、貰ってない……だと……?
…………バレンタインデー貰ってない人に、ホワイトデーのお返し作りを手伝わせるなんて……俺、鬼畜じゃね……?
ーーーージッ。
スイハ達の冷たい視線に晒され、思わずたじろぐ。
お、おぉう……えーっと……えとえと。
「大丈夫だ、スイレンさん‼︎バレンタインデーって女性から渡すものみたいになってるけど、本当は男の人が渡すヤツらしいから‼︎」
女性がチョコレートを渡すのは俺の国のやり方で、他の国だと男の人から渡すのが普通だって聞いたことがある。
ホワイトデーになってるけど……きっと、男から渡しても問題ないはず‼︎
俺の言葉にスイハ達はハッとする。そして、スイレンさんを励ますように声をかけた。
「そ……そうだったのか‼︎なら、叔父上。作ったら誰かに渡すといいと思うぜ」
「うんうん、それが良いよ。俺もリズのために頑張ろうっとっ‼︎」
「……(こんな始まりで大丈夫だろうか……?)」
セーゲルだけは凄い心配そうな顔をしてるが、今回は無視。
無理だ、これ以上のフォローはできねぇよ‼︎
まぁ、そんな感じで……。
若干、お通夜ムードでお料理教室がスタートした……。
「………取り敢えず、事前にグラン殿に聞いた話では、チョコレートのお返し?ということだったから……比較的簡単なパウンドケーキをーー」
「「「「ちょっと待って⁉︎貰った物より、お返しのレベルが高いんだけどっ⁉︎」」」」
「……?何を言ってるんだ?プロが作るなら難しいだろうが、一般家庭で作るパウンドケーキは比較的簡単に作れるぞ……?」
スイレンさんはキョトンとしながら首を傾げる。
あ、あぁぁ……そうか……貰ってないから、リジー達が寄越したチョコが溶かして固めただけって知らないのか‼︎
というか、普通にスイレンさんが女子力高めなだけか‼︎
「それに、最近の男は料理ができぬとモテないぞ」
「「「「スイレンさん(叔父上)もモテるとか考えるんだ⁉︎⁉︎⁉︎」」」」
「……?この名言は先祖代々の言葉だが?」
「「「「先祖代々⁉︎⁉︎⁉︎」」」」
先祖代々の言葉なら、なんでスイハも驚いてんの⁉︎
あ、旅してましたね。お前。
「まぁ、とにかく。早速作るぞ」
「「「「アッ、ハイ……」」」」
ちょっと(?)混乱した(したの俺らだけだ)けど、スイレンさんの指示に従って、大人しく作り始める。
バターを混ぜて、砂糖を入れて……卵と振るいにかけた小麦粉を入れて、混ぜる。
ついでに溶かしたチョコレートも入れたら……オーブンで焼く‼︎
その間に使った器具を洗ってーー数十分後。
釜から出したパウンドケーキはふっくらと焼きあがっていて。
竹串を刺して生焼けかどうかをチェックしたスイレンさんは、満足そうに笑った。
「ふむ。きちんと中まで火が通っておる。完成だな」
スイレンさんチェックが通ったら、きちんとラッピングして……と。はい、完成とな。
……うん、良いんじゃね?中々、良い感じで出来上がったと思いますよ。
…………マリカ嬢みたいに変なのは出来上がんなかったな。良かった……(真顔)。
「手伝ってくれてありがとう、スイレンさん」
「いや、構わんよ。一晩寝かせて落ち着かせた方が上手いが……渡す時期に関しては各自好きなようにすると良い」
スイレンさんはにっこりと笑って、自分の分を持って台所から出て行こうとする。
俺はそんな彼を見て、思わず声をかけていた。
「スイレンさん‼︎」
「……どうした?」
「スイレンさんは渡さなくて良いのか?」
「…………」
言葉にせずに困ったような顔。
でも、それが俺の質問の答えだった。
「ではな」
必要以上に何も語らずにスイレンさんは台所を後にする。
残された俺達はなんとも言えない空気……というか、ある意味俺がそんな空気にしちゃったようなものだから、スイハ達に「何してんだよ、馬鹿‼︎」って凄い怒られた。
でも……気になっちゃったんだよ。
だって、スイレンさんにはお世話になってるし。迷惑を凄いかけてるし。苦労人(……俺とリジーの所為でもあるよな……)だし。
なんていうか……スイレンさんは、めっちゃ良い人な近所の親しいお兄さんってポジションなんだよ。
…………だから、そんなスイレンさんには幸せになって欲しいんだ。
*****
【スイハside】
グランの所為(?)で、哀愁漂う感じで叔父上が台所から出て行った。
本当に何してるかな?グランは……。
確かにおれらは一途な一族だけど。叔父上の場合は事情が事情なんだから、下手に首を突っ込まない方が得策だ。
叔父上だって子供じゃないんだし……自分で解決できるはず。
……。
…………まぁ、心配になる気持ちも少しは分かるけどな。
でも、こればっかしは当人が解決しなくちゃいけねぇ。まぁ……きちんと顔合わせて話を始めるとこからしなきゃいけないだろうけど。
……とにかく。この件に関して、おれは静観を決め込むことにした。
…………ぶっちゃけ、第三者が関わったら拗れそうだからな。
(※ただし、後に海底ダンジョンアタックを知って〝何してんだよ……〟と遠い目をすることなるのを今の彼は知らない。)
「という訳で、バレンタインのお返しだ」
「まぁ……‼︎」
おれらに与えられた部屋で読書をしていたアウラは、お盆に乗せられたパウンドケーキを見て目を輝かせる。
彼女はそっとそれを受け取って、ラッピングを開ける。
中から出てきたまだ暖かいパウンドケーキ。
バターと甘い匂いがふわりと香って、アウラの頬がふわりと緩む。
そして、嬉しそうにしながらお礼をしてきた。
「ありがとうございますわ、スイハ。とても嬉しい」
「そりゃあ良かった。菓子なんて初めて使ったから、緊張してたんだ」
「…………全然、そんな風に見えませんでしたけれど?」
「なら、上手く取り繕えてたっことだな」
「ふふっ。早速、頂いても?」
「あぁ」
一緒にお盆に乗せて来た皿とフォーク、お茶セットを準備して卓袱台の上に置く。
嬉しそうに食べる最愛の感想は「とっても美味しいですわ」という、最高の一言。
おれはそれを聞いて、ホッと安堵の息を零した。
「美味しいって言ってもらえて良かった。不味いなんて言われたら、落ち込んでた」
「……わたくし、もし不味くても食べ切る自信がありますわよ?」
「そんなの食わせられねぇよ‼︎」
「でも、わたくしが作った料理が不味くてもスイハは食べ切ってくれるでしょう?それと同じですわ」
そう言って笑ったアウラは、どうやらおれのことをよぉ〜く分かっているらしい。
…………最愛におれのことを理解してもらえる喜びったら、堪らないな。
「今度は、一緒にお料理しましょうね」
「おぅ」
誰かに自分が作った食事を食べてもらえるーー。
それに喜びを感じながら、おれはパウンドケーキを食べるアウラを見つめ続けていた。
*****
【ハルトside】
「ただいま。という訳で、リズ‼︎バレンタインデーのお返しだよ‼︎」
「お帰りなさい〜‼︎うわぁ〜、ありがとう〜‼︎」
リズの屋敷ーー。
玄関先まで迎えに来てくれたリズは俺からラッピングされたパウンドケーキを受け取ってくれる。
そして、彼女はそれを胸元に抱いてニコニコと笑った。
「ふふふっ〜、美味しそう」
「お料理男子(?)なスイレンさん直伝だよ。皆で作ったんだ」
「そうなんだ‼︎……何気にバレンタインデーのお返しを誰かと作ったのとか、今回が初めてじゃない?」
「そうだっけ?」
俺は今までの記憶を思い返す。
俺達は何回も、何十回も、何千回も、何万回も生まれ変わってきた。
どうしてそうなったのかは分からない。もう始まりなんて忘れてしまった。
リズのことは忘れてないけど、他のことは多過ぎる記憶量で曖昧になってしまっているところだってある。
でも……確かに。
「……何気に、初めてだったかも」
「ほらやっぱり‼︎もうやったことがないとは思ってても、まだ初めてのことが私達にも残ってるんだねぇ」
「……だなぁ」
きっと、俺達はまた生まれ変わる。
何回も、何十回も、何万回も。それこそ何千回も生まれ変わるだろう。
その過程では忘れてしまうことだって沢山ある。
だけどーー。
「……俺、今回の人生のことはきっと忘れないと思うな」
「ふふっ、奇遇だね?私もだよ」
ーーきっと、遠い遠い時間の果て。
本当の終わりがやってくる時までーー俺は、今回の楽しい人生を忘れることはないと思う。
*****
【スイレンside】
文机の上に置かれたパウンドケーキ。
きっと、彼女には渡せぬであろうそれ。
儂は窓辺に座り、重い溜息を零した。
「どうすれば良いのだろうなぁ……」
彼女との関係をどうすれば良いのかーー答えはまだ出ない。
いいや、答えなんぞ初めっから一つしかない。
だが、はっきりとさせたくないのだ。
動き出してしまったら、もう止まらない。
一度崩れてしまえば、元には戻せない。
だからーー恐い。
彼女の答えを聞いたら儂がーーどうなってしまうのか?
………きっと、何もかも制御できなくなってしまう。
そしてーー。
魔王らしく、全てを滅茶苦茶にしてしまうかも知れなくて、恐くて堪らない。
「……はぁ…」
魔王なんぞしていても、好いた女が関わるとこうも弱くなるとは……なんと情けないんだか。
自分で自分が嫌になりそうだ。
だがーー。
「…………いつかは、答えを出さなくてならぬのだろうな」
儂は胸にあるその感情に溜息を零し、そっとパウンドケーキから目を逸らした。
*****
【セーゲルside】
「好きだっ、結婚してくれ‼︎」
「ふにゃっ⁉︎」
既に日課(?)となった告白と共に、魔王屋敷で与えられたマリカ嬢の部屋に突入すると……彼女は顔を真っ赤にしながら、こちらを睨んできた。
うむ、可愛い。
「な、なんなのよぅっ‼︎」
「今日はただプロポーズしに来ただけではない」
「……なん、です……って?」
マリカ嬢はそれを聞いて驚いた顔をする。
まぁ……確かに。ここ最近はプロポーズのためだけにここに通っていたが。
俺は部屋の中に入ると彼女の前に座る。
そして、先ほどキッチンで作ったパウンドケーキを渡した。
「バレンタインデーのお返しだ。ありがとう」
「‼︎‼︎」
彼女は顔を真っ赤にして俺の顔とパウンドケーキを交互に見つめてくる。
…………困ったな……そんな愛らしい顔で見つめられると、襲いかかってしまいそうだ。
しかし、彼女は俺の気持ちに気づかずにビシッと可愛らしく指を向けた。
「…………あ、あたくしっ‼︎知ってるのよ‼︎」
「……何がだ?」
「あたくしが作ったチョコが巨大化して冒険者ギルドを壊したの‼︎」
「…………」
……あぁ、そんなこともあったな。
もう一ヶ月も経つから、すっかり忘れていた。
「修理費っ……貴方が出してくれたんでしょうっ……?あたくしっ……貴方に迷惑かけたのにっ……なんでお返しなんてっ……」
……本気で申し訳なく思っているのだろう。涙が零れ落ちそうだ。
……ふむ。これは素直に本音を言うべきだろう。
「……………貴女からバレンタインデーを貰えて嬉しかった。だから、お返しをしたかった」
「でもっ……」
「とは言ったものの、本音は貴女のことが好きだからだ。それじゃあ駄目か?」
「⁉︎」
マリカ嬢はさっきよりも顔を真っ赤にして……それこそ耳も首も真っ赤にして、さっきとは違う感じで涙目になる。
そして……ぷにっと唇を突き出して、小さな声で呟いた。
「……もぅ……貴方、本当に馬鹿ね……頂くわ」
…………馬鹿は君の方だ。君に好意を寄せている男の前で、そんなに可愛い顔をするな。キスしたくなるだろう。
(※ちゃんと我慢しました。)
*****
【グランヒルトside】
「一部シリアスな気配を察知した‼︎正確には二人ほど‼︎」
「急に転移して急にそんなこと言うの止めてくれる?驚くから」
学園の寮ーー。
部屋に戻ると同時にソファで本を読んでいたリジーさんにツッコミ入れられた。
いや、だって……本当にシリアスな気配がしたんだもん。ついでに、若干甘い気配も。
「まぁ、いいや。はい、どうぞ。ホワイトデーです」
「あら、ありがとう。今年はバームクーヘンではないの?」
「ングッ⁉︎」
ニヤニヤと笑ったリジーは、言外に去年渡したバームクーヘンの意味のことで揶揄っているらしい。
いやねぇ‼︎確かにまたバームクーヘンを渡そうかとも思ったけど‼︎
流石にバームクーヘンは作れねぇよ‼︎そこまで男子力(?)高くないから‼︎
「えーっと……今回は皆で手作りシリーズなので。手作りパウンドケーキです」
「いや、無駄にレベル高くないかしら?渡したチョコより上なの返ってきたわね?」
「スイレンさん的には一般的には簡単な部類らしいよ。まぁ、分量測るのは微妙に面倒だったけど……混ぜて焼くだけだったし」
「そ、そう……」
リジーは苦笑を零しながら俺からパウンドケーキを受け取る。
そして、棚から皿とフォーク、ナイフをテーブルの上に出す(魔法を使ってる)と……ラッピングを開けた。
「あら。マーブルパウンドケーキなのね」
「え?チョコじゃないの?」
「プレーンのところが残ってたら、マーブルじゃないかしら?後、普通のマーブルパウンドケーキに入ってるのはチョコじゃなくてココアパウダーだと思うわよ」
「……そうなんだ。知らんかったわ」
お菓子って奥が深いネ。
「それじゃあ、早速頂くわね」
「あ、どーぞ」
適当なサイズに切ったパウンドケーキを、リジーは上品に手つきで口に運ぶ。
そして、満面の笑顔。
うん、その顔が味の答えだわな。
「美味しいわ、グラン」
「顔見りゃ分かる」
「グランも食べる?」
そう言って差し出される、フォークに刺さった一口分のパウンドケーキ。
俺は素直にそれを口にすると……咀嚼して、飲み込んだ。
「うん。初めて作ったにしちゃ、まぁまぁじゃない?」
「充分美味しいわよ」
「そりゃあ良かった」
リジーは嬉しそうに笑いながら、もぐもぐとパウンドケーキを食べ続ける。そんな彼女を俺は見つめて……まぁ、ちょっとアレなことを思ってしまったり。
…………俺の大切なリジーが、俺が作ったモノを食べて。それが彼女の身体の一部になるって……地味に興奮するな?
「なんかちょっとアレなこと考えてないかしら?」
ーージロリッ。
動きを止めたリジーは胡乱な目でこちらを見てくる。俺はにっこりと笑って、それに答えた。
「いーや?特にこれってことは考えてないぜ?」
「……本当に?」
「あぁ。強いて言うなら、エッチなことしたい」
「んんっ⁉︎明け透けすぎるわよ、変態‼︎」
リジーは全然痛くない拳でポコスカ殴ってくる。
よし、誤魔化せた。最近、言葉がなくても以心伝心気味なので嬉しい反面、ちょっと困るな。余計なことまで伝わっちゃうから。
(※惚気ですか……?)
…………まぁ、そんな感じで。今後、ちょくちょく料理してリジーに食わせようと思った俺なのでした。




