第55話 小指を絡めて、約束を
お久しぶりです。生きてます。
お久しぶりの甘々(?)話ですよ。多分。
でも、最後は甘いままでは終わってないですよ。
伏線だもの、仕方ない。
では〜!今後ともよろしくねっ☆
ちゃぽんっ……。
「はふぅ……」
王族専用の学生寮ーーーーグランの寮室に備わった浴室。
グランを椅子代わりしながら浴槽に入った私は、お湯の温かさに息を零したわ。
「あぁ……さっぱりする……気持ちいい……風呂、最高……」
グランは微妙におっさんくさいことを言う。
あぁ、そう言えば……前世の年齢と合わせたら、もうおっさんだったわね。
……………精神年齢おっさんならもう少し、エッチなことは抑えめにして欲しいわ。
私は身体の疲労感と……さっきまでのグランの元気さを思い出して、大きな溜息を零す。
そして、顔を少し傾けて……ジト目でグランを睨んだわ。
「…………ねぇ。実際のところ、グランが私の不安払拭を理由にエッチなことをしたかったということでいいのかしら?」
私の言葉に、彼はキョトンとするが……次の瞬間にはニッコリと笑う。
その笑顔は若干、腹ただしさを覚える笑顔で。
グランは、私の質問に堂々と答えたわ。
「リジーの不安を払拭したいのも本当だけど、否定はしないな。というか……俺はいつだって、リジーとそういうことをしたい」
「ぶふっ⁉︎」
私はグランの明け透けすぎる言葉に、思わず噴き出す。
こうも素直にぶっちゃけるなんて、逆に男らしいわね⁉︎
というか、顔が熱いわ‼︎
「もっ……もう少しはオブラートに包みなさいよ‼︎馬鹿グラン‼︎」
「だって、本当のことだし。それに、一週間も神経を張って戦闘合宿を見守ってたから……イチャイチャも控えめで、終わった瞬間に余計にリジーに触れたくなったって言うか?アレだな。疲労が溜まると余計にエロいことしたくなるヤツ」
「ぶふっ……⁉︎」
グランが照れる様子もなく告げるものだから、私は思わず噴き出してしまう。
いや、でも……確かに?
戦闘合宿中は、生徒達に気を配らなきゃいけなかったから、スキンシップは普段より(?)控えめだったけど……‼︎
だからって終わった瞬間に爆発しないで頂戴よ‼︎
ぶつけられるこっちの身にもなって‼︎
「それに……」
グランはそこで言葉を区切って、私の頬に張り付いた髪を耳にかける。
そして……優しい顔で見つめてきた。
「本音で言わないと……何がお前の不安になるか分からないじゃん。攻略対象がヒロインに惹かれちゃうかも……なんてリジーが思っちゃう前に、明け透けに言っておかないとな」
「っっっ‼︎」
私は、それに言葉を詰まらせる。
…………グランの言葉にも一理あったわ。
下手に隠されたら、私は変な勘繰りとかしちゃうでしょうし。
でもっ……明け透けすぎるのも、問題なのよ‼︎
甘すぎる言葉と行動は、毒だわ。
思考が溶けて、何も考えられなくなっちゃう。
自分が愛されていることを……言葉でも身体でも理解させられて。
不安になるのが馬鹿らしくなるぐらいに、グランは私に惚れてるってのを伝えられるのは……もう十分すぎるわ‼︎
私はなんかもう色々と思い出してしまって、逆上せたのとは違う熱さを感じながら、叫んだ。
「うん、やっぱり無理だわ‼︎これ以上、甘い言葉を言われたら心臓止まる‼︎」
「ぶはっ……‼︎」
「不安になった私も悪かったけどっ‼︎もう不安を抱きようがないから、もう明け透けに言わなくて良いわ‼︎」
私、結構切羽詰まった気持ちになりながら言ったのだけど……グランは私の言葉を聞いて、口を覆いながら「クククッ」と面白がるような笑い声を漏らす。
何よ、本当のことしか言ってないのに……何が面白いのよ……‼︎
「ふふっ……」
「っ……⁉︎」
だけど、唐突に彼から向けられた翡翠色の瞳と色気を帯びた甘い笑顔に……私は言葉を失ったわ、
熱を帯びたそれは……昨夜見たモノと同じで。
「…………なんだよ、その反応。可愛すぎるだろ?」
グランはペロリッと唇を舌で舐めながら、肉食獣のように目を鋭くさせる。
……………ちょっと待って。
一体、私の何がグランの琴線に触れたの?
何がグランの肉食スイッチを入れちゃったの?
頭の中で、警鐘が鳴る。
このままでは、また、グランに食べられてしまーーーー。
「……………と、まぁ。ここでまた襲おうかとも思っちゃったが、リジーの負担になるのでやりませんっと」
次の言葉で思いっきり、脱力したわ。
「もうっ……‼︎なんなのよっっ‼︎一瞬、覚悟しちゃったじゃない‼︎」
「えっ?期待させた?」
「期待じゃないわ‼︎単にグランから逃げられないって分かってるだけよ‼︎」
「うん、まぁ……俺はお前を逃さないわな。でも、リジーも一週間、頑張ってたし。もう無理はさせないぞ?」
「それを言うなら、エッチなことをする前に休ませてもらいたかったわ‼︎」
「それは無理かな」
「馬鹿グラン‼︎」
グランの軽すぎる謝罪に怒った私は、ペシペシと彼の頬を叩く。
どうせダメージはチート身体能力の所為で通らないけど……私の怒りを知りなさい‼︎
「まぁ、とにかく」
叩いていた手を取られて、グランは私の手の甲にキスを落とす。
そして、唇を触れさせたまま……上目遣いで私を見つめる。
楽しげに歪められた目元。
グランはキスをした手を引いて、私の身体を強く抱き締めたわ。
「俺はリジーが好きだよ。だから、大丈夫」
…………確証なんてない言葉。
でも、何故かグランの言葉は信じられそうで。
私は口元に笑みを浮かべながら、その背に手を回した。
「信じていいのね、グラン?」
「勿論。俺はお前と一生を共にするつもりだよ」
「…………破ったら、許さないわ。覚悟して」
「あぁ。リジーこそ、俺から離れていこうとしたら許さないから。覚悟しろよ?」
「…………ふふっ、分かったわ。約束」
「約束、だな」
互いに小指を絡めて、約束を交わす。
私は絡まる指を見て、なんだかとても泣きそうな気持ちになったわ。
*****
絡まる小指を見つめつつ……俺はリジーにバレないようにほんの少しだけ眉間にシワを寄せながら、思考を巡らせた。
今の現状は、リジーが気にしている乙女ゲームとは乖離しまくっている。
魔王は敵対してないし、聖女にも事情聴取とかしなくちゃいけないし。
そういや忘れかけてたけど……マリカ嬢とセーゲルの件もあったし、魔王引き継ぎなんてこともあったな。
…………。
………………………。
……………………………あれ?
…………なんか、聞いてた乙女ゲームのシナリオよりも今の方が面倒そうになってないか……?
…………というか……何故だろう。
なんか、嫌な予感が……。
まるで、こっからが…………。
「…………………まさかなぁ……?」
「…………グラン?どうかした?」
思わず声に出ていたのか、リジーが心配そうに見上げてくる。
俺はにっこりと笑って、彼女の頬を柔く撫でた。
「いや……こっから本番って言うか……。なんか、面倒ごとが起きそうな予感がしただけ」
「ぶふっ⁉︎ちょっとっ……⁉︎それ、笑えないのだけどっ……⁉︎」
「あ、やっぱり?」
「あ、やっぱり?じゃないわよ‼︎貴方の勘は笑えないの‼︎」
リジーは若干顔色悪くなりながら叫ぶ。
実は言うと、いつ頃からか《直感》っていうスキルを覚えたから……何気に勘が当たるようになったんだよな。
そして、悲しいことに回避不可。
「……………まぁ、うん。これからも大変なのには変わらないってことかな」
ローテンションで告げられた俺の言葉に、リジーはさっきと打って変わって……ガックリと肩を落としたのだった。




