第45話 地味にグランは王位継承権返上を諦めてなかった。
遅くてごめんよー。
遅くなったら、ちょっといつもより長め?になったよー。
誤字脱字教えてくれてありがとうございますー。
よろしくねー。
冒険者達の元から転移して、父上の執務室を訪れた俺は、合宿の件の報告を行うことにした。
「各国の国王へ報告書の転移完了。通信の安定を確認。では、合宿のご報告を致します」
魔法で展開した電子スクリーンに映る国王達……所謂テレビ電話をしながら、俺は報告を始める。
父上達は一国の王としての真剣な顔立ちでそれを聞き始めた。
「安全面は、合宿前に申し上げたようにあの編み紐に仕組んだ魔法(防御魔法、回復魔法など)で配慮していました。冒険者達も一定ランク以上の者を採用していたことはご存知かと思います。それを踏まえて、安全対策関連の問題点はありましたか?」
「いや、事前の準備は出来うる限りされていた。グランヒルトは充分対策を講じていただろう」
他の国王も父上に賛同するように頷く。
一応、合宿前にプレゼンをしておいたからな。
下手にイチャモンを付けられなくってよかったわ。
俺は「ありがとうございます」と挨拶して、続けた。
「報告を続けます。5日目までは問題ないように思えましたが……最終日に空から襲来者が来たため、緊急措置となりました。緊急措置内容はお配りした報告書の2ページ目に記載してあります。ご確認を」
『生徒達を学園に強制転移、ね。相変わらず規格外だね。ちなみに、この転移が遅れたパーティーは?』
「襲来者……《境界の魔女姫》の領域干渉型の固有能力の所為です。彼女の能力は、彼女自身を基準として自分より強い者に対する弱体化効果があります。転移が遅れたパーティーは固有能力の範囲内にいましたので、わたしの転移が上手く発動せず、対応が遅れました。なお、フリージア嬢、学園医の診察で生徒達に固有能力の影響はないことが判明しています」
『あら?でも、その固有能力内にいたパーティーも遅れて転移をしたって書いてあるけれど?』
アクス王国の女王は不思議そうな顔で質問してくる。
俺はニヤリと笑って答えた。
「チートなので」
『…………あぁ……』
俺の言葉に父上達は納得したような顔になる。
何かある度に〝チート〟で乗り越えてきたからな。
もう皆、この一言で理解してくれる訳だ。
…………うん、毒されてきてるよな。
「………その襲来者の詳細は?」
「通り名は《境界の魔女姫》。真名……というよりは俗名の意味合いが強いらしいですが、名はマリカ嬢というようです。暮らしているのは第Ⅰ大陸らしいのですが、《第Ⅰの魔王》との話し合いと言う名の殺し合いの結果、殴られた衝撃で第Ⅱ大陸まで飛ばされたそうです」
「『ぶふっ⁉︎』」
俺の言葉に父上達は噴き出す。
まぁ、うん。
どこに魔王と殺し合いの果て、大陸跨ぐようなことをするような奴がいるんだって思うわな。
………いたけど。
「彼女は現在どうしている?」
「フリージア嬢と恋バナしてます」
「『……………はい?』」
「恋愛トーク中です」
「『……………………………………』」
沈黙が満ちて、国王達の目がどこか遠くを見つめ始める。
まぁ、うん。
魔王と殴り合えるような猛者が恋バナ中とかんなアホなって思うわな。
でも、事実なんだよなぁ……。
…………よし、今のうちに畳みかけようっと。
「今回は怪我人などは出ませんでしたが、多くの貴族令息令嬢の命を危険に晒すこととなりました。わたしは、合宿スケジュールの発案者としての責を負わなければなりません。ですので、王位継承ーーーー」
「ちょっと待て。お前、今回の件を利用して王位継承権を返上しようとしてるな?」
「チッ、現実に帰ってくるのが早かったか」
「…………お前ェェ……」
父上が舌打ちした俺を胡乱な目で見てくるが、俺はにっこりと笑って誤魔化した。
「ですが、責任問題はあると思うんですよ。だから、王位継承権をアズにですね……」
『いやいや、誰が他大陸から人が飛んでくることを予測できる?責任問題にはならないだろう』
ファディ国王の言葉に他の王達もウンウンと頷く。
くそっ……脳筋の癖に時々、無駄に頭が回りやがって……。
俺の〝責任とって王位継承権返上作戦〟を失敗させようとするなよ‼︎
「グランヒルトよ。言っておくが、お前が何をしでかそうが王位継承権は揺るがないと思え。はっきり言うが、この間の模擬戦でお前の敵対者は全員心が折れたようだからな」
ニヤリと笑う父上。
この間の模擬戦って……リジーとやったヤツか。
確かに側妃やら貴族やらもいたな……。
模擬戦ってレベルを越してたから、俺に逆らったらヤベェって思われたのか。
「チッ。やり過ぎたか。もう少し無能なフリをしておけばよかったな。そしたら、アズに王位継承権が移っても問題なかったのに……」
「…………お前……どんだけ王になりたくないんだ……というか、本性隠さなくなってきたな……?」
「…………まぁ、面倒くさいので。認識阻害魔法も使ってんの怠くなって、冒険者達に身分バラしたし」
「あぁ……そうだったな。お前、いつから冒険者なんて……」
「4歳からですけど?」
俺の言葉に父上は絶句し、他の国王達も爆笑したり、頬を引きつらせたり、苦笑したりと忙しそうだ。
でも、これ以上何かを言うつもりはないらしい。
というか、チートが何してても仕方ないって納得されてる感じか。
…………マジで毒されてますね、あんたら。
「えーっと。取り敢えず、マリカ嬢の今後はこの後、彼女と話し合ってから、セーゲルが告ったことに対する返事も含めて再度ご報告します」
『他大陸から来た魔女とS級冒険者とはいえ、流石に色恋沙汰に王が絡むのは間違いじゃからのぅ。一応、儂らにも後日、報告を頼む』
ラム国王の言葉に俺は頷く。
はぁ……取り敢えず、報告するようなことはこんなもんかな。
悲しいことに、王位継承権は返上できないってのを知ることになったけど。
父上はフリーズ状態から再起動して、眉間のシワを揉む。
そして、呆れたように告げた。
「はぁ……お前の破天荒っぷりは今に始まった話じゃないが……余り、無茶をするなよ。グランヒルト」
「しませんよ。リジーに心配かけたくありませんし」
「そこは親ではないのか」
「親じゃないです。では、報告は以上です。御前を辞させて頂きますね」
「…………あぁ……(本当にフリージア嬢第一主義だなぁ……)」
なんか父上がアレなことを考えてそうだったが、俺はそれをスルーして退室する。
他人の恋バナなんて興味ないが、リジーがいるため……俺はさっきの応接室に転移で戻った。
すると………。
「うぅぅぅっ‼︎分かります‼︎」
「分かってくださるの、カメリア様っっ‼︎」
アズの婚約者であるカメリア嬢とマリカ嬢が意気投合してた。
「えっ?どういう状況?」
俺は思わず真顔で呟く。
その声で俺が帰ってきたことに気づいたリジーとアズがこちらを向いた。
「お帰り、グラン」
「お帰りなさい、兄上」
片方のソファで互いに手と手を取り合うカメリア嬢とマリカ嬢。
反対のソファには、お茶をしていたらしいリジーとアズの姿。
えっと……これは……。
…………取り敢えず、リジーを背後から抱き締めた。
「あ、すみません。兄上。フリージア義姉様の隣に座って……今、退きますね」
「いや、別にいい。というか、マジでどういう状況?」
リジーの顎を軽く撫でながら聞くと、彼女はちょっと困ったような顔になる。
そして、2人の方へ視線を向けた。
「…………いや……どうせなら2人で恋バナするより、人が多い方がいいかと思って……アズール様に会いに来てたカメリアさんを呼んだのよ」
「で、カメリアと離れたくなかったわたしも恋バナに参加してました」
「そしたら、好きな相手に素直になれないってところで2人が意気投合して……こうなったわ」
2人は素直になれないという話から、どんどんエスカレートして……好きな相手の愚痴の言い合いになったようだ。
マリカ嬢の相手である《第Ⅰの魔王》のことはアレだが……カメリア嬢、本人を目の前に愚痴って大丈夫なのか?
「わたくしが止めてと言っても、アズ様は甘い言葉を囁いてきたり、ボディタッチをしてきたり、こちらのことを考えないぐらいに甘々なのに……時々、普通よりも紳士みたいな態度をしたりっ……訳分からなくて‼︎」
「ぐはっ⁉︎」
アズは恥ずかしそうに顔を両手で覆い、リジーとは反対側のソファの肘掛けに頭を叩きつける。
……………アズ、お前……カメリア嬢の気を引きたいからって、そんなことしてんの?
俺、弟の恋の駆け引き方法を知っちゃって……ちょっと生暖かい気分なんだけど。
「こっちなんか完全に思わせぶりな態度を取ったとかするのよっ⁉︎素直になれなくて殺し合いになることが多いけど……〝お前といると楽しいよ〟とかっ……‼︎なのに、目が覚めて会いに行ったら、いつの間にか知らない女の子と仲睦まじくなってて‼︎でも、ロゼは良い子で‼︎だけど、ディランとロゼはいい雰囲気になってるしぃぃぃっ……‼︎あたくしの前でイチャイチャするしぃぃぃぃいっ‼︎」
マリカ嬢の好きな人は〝ディラン〟。
その男性と親しくなった女性(マリカ嬢とも仲が良いらしい)は〝ロゼ〟っていうのか。
っていうか、話を聞く限りだと……幼馴染ポジにいたけど、いつの間にか他に好きな人ができてて、永遠に幼馴染ポジで終わる女子キャラみたいだな……。
「(……幼馴染から抜け出せないキャラ……)」
………リジー……同じこと考えてるな……?
「(リジー、微妙に声に出てるから)」
「(あら、危ない)」
リジーは口元を押さえて、チラリとマリカ嬢を見る。
どうやら聞こえてなかったらしい。
聞こえてたらまたマリカ嬢、泣いてたかもだし……泣かれたら面倒くさいから、聞こえてなくてよかったわ。
アズの方も、カメリア嬢に自分がしている接し方を暴露されたことで羞恥心のあまり撃沈してるから……ここらへんで止めた方が良さそうだな。
「はいはい。取り敢えず、恋バナはそこまでにして。今後のことを真面目に話し合うぞー」
俺の声にカメリア嬢達はこちらを見て、驚いた顔をする。
この感じだと俺ら……リジー達がいるの忘れてたな?
「申し訳ありませんわ、グランヒルト様。少し盛り上がってしまいました」
「ごめんなさい。貴女達のこと、忘れてたわ」
「いや……いいけど。カメリア嬢は、君に自分の恋の駆け引きの仕方を暴露されたアズをなんとかしてくれるか?恥ずかしさのあまり、死に体だから」
「…………恋の、駆け引き?」
キョトンとするカメリア嬢。
…………アズ……気づいてもらえてないよ……。
思わず哀れみの目を向けてしまう。
リジーも流石に可哀想と思ったのか、カメリア嬢に声をかけた。
「…………カメリアさん。甘い態度ばかり取っていたのに、急につれなくされたり、距離を置いた態度を取ったりされたら、何かしてしまったのか?とか、どうかしたのか?とか不安になって、相手のことをばかり考えてしまうでしょう?そういうのも恋の駆け引きよ?」
「……………っ‼︎」
リジーの説明にカメリア嬢は数秒黙り込み、ハッとしたように顔を真っ赤にする。
つまり、アズは自分を四六時中意識して欲しくてワザと甘々な態度と紳士な態度を使い分けてたってことな?
やっと理解?
「それもまぁアズなりの愛情表現だと思ってやれ。カメリア嬢にずーっと自分のことを考えて欲しいだけだから」
「ぐふっ⁉︎」
アズが再度呻いてガンッと強く肘掛けに頭を叩きつける。
まぁ……うん。アズの気持ちも分かるぞ?
俺もリジーにはずっと俺のことを考えていて欲しいし。
まぁ、つれない態度とか無理だけど。
「あ〜に〜う〜え〜」
アズがドスの効いた声で名前を呼ぶ。
だが、兄に勝てると思うなよ、弟。
「まぁ、後は若いもん同士ってことで。指令略、《強制転移》」
「ちょっと、待っーーーー」
シュンッ‼︎
アズとカメリア嬢の姿が消える。
ちゃんと王宮の庭園の東屋に転移できたから、オッケーってことで。
一応、庭師も近くにいるから……未婚の男女2人っきり(醜聞)ってことにも、危ない雰囲気(一線越えるとか)にもならないだろ。
ちゃんと気配を把握してから転移してるから悪しからず。
俺は抱き締めていた腕を離して、リジーの隣に座る。
そして、真剣な顔でマリカ嬢を見つめた。
「さて、真剣な話をしよう。今後、マリカ嬢はどうするかだ」




