第44話 冒険者の問題は冒険者に投げます(合掌)
やっと本編ですぞ。
いつも誤字脱字を教えてくださってありがとうございます。
不定期更新だけど、よろしくね☆
リジーとマリカ嬢が恋バナにシフトチェンジした後ーー。
俺はリジーにある物を作ってもらって、事情聴取の報告のために応接室を後にした。
あぁ、報告に行く前にあそこに行った方が良いかな。
「よう、元気してるか?」
「うわっ⁉︎」
転移先は、冒険者達の待機場所として提供されたダンスホール。
俺の姿に驚いたガイは、一瞬ギョッとしてから……満面の笑顔を浮かべて、バシバシと肩を叩いてきた。
「オメェ、相変わらず急に現れーーー」
「ガイ。歯ぁ、食い縛れ?」
「ーーーーえ?」
俺は顔面を殴ると見せかけて、その腹に掌底をかます。
ガイは「グフッ⁉︎」と呻きながら、ばたりと倒れ込む。
鎧越しでも衝撃ってのは身体に響くもんだから……気を失った方がマシと思う程度に痛いだろうけど、気は失わせてません。
俺はにっこりと笑いながらガイの頭をガシッと掴む。
そして、ドスの効いた声で告げた。
「お前、サラッと俺らの冒険者やってる時のイチャつきを生徒にバラしただろ」
「…………ぎくっ」
「それどころか自分達のミスを俺らのミスみたいに語って、俺らが助けてやったのにお前らが助けてやった……そんな風にも語ってやがったなぁ?」
俺の言葉にガイはブルブルと震え出す。
顔面蒼白という言葉が酷くぴったりだった。
「な、な、なんで、それをっ……」
「あはははっ、言っただろう?俺らは一週間リアルタイムで監視してたって……という訳で《フォレスト》は酒無しな」
「なんとっっっ⁉︎」
ガレスのおっちゃんがギョッとするが、あんたら家族仲が良いからな。
本当はモーラさんに酒を渡すつもりだったけど……あの人は酒を飲まないからきっと家族に渡しちゃうはずだ。
そうなるとガレスのおっちゃんが飲むことになるだろうけど、ガイは100パーセントネコババする。
だから、リジーに酒の代わりになる物を用意してもらったんだ。
「つー訳で、MVPでありながら酒を貰えないモーラさんには、リジーの作った防御具を渡しとこう」
「あら、お酒よりも嬉しいわ」
たおやか美魔女と化したモーラさんはふんわりと笑いながら、俺の投げた十字架を受け取った。
「一応、致命傷レベルの物理・魔法攻撃を5回無効化するらしい。そしたらそれ壊れっから」
俺は簡単に説明するが、それを聞いた周りの奴らはギョッとする。
モーラさんも笑顔でありながら……冷や汗を掻きながら、頬を押さえた。
「…………これ、国宝級のアイテムになるんじゃないかしら?」
防御系のアイテムは命を守れる回数が多いほど、防御力の強度が高いほど、レア度も高い。
市場に出回るのは1回防げるぐらい。
それでも結構な値段&数少ない&物理攻撃限定ぐらいなんだが……5回も防げて物理・魔法攻撃を防げるとなったら、まぁ国宝級って思われるのも当然なんだろう。
でも、作るのはリジーだからなぁ……。
簡単に作れるし、安物の十字架に付与しただけなんだよな。
まぁ、言わないけど。
「まぁ、特別だ。特別。今回は事件が起きたし」
「あのあの、グランヒルト殿下……‼︎」
すると、魔法使い風の冒険者(モアもいる)達が俺に詰め寄って来る。
……………《フォレスト》3人が変わらないから大丈夫かと思ってたが……やっぱり俺の身分を知ると、こう呼ぶようになる奴もいるか。
「なんだ?」
「あの、あの大人数を一瞬で違う場所に送った魔法はなんですか⁉︎」
「あんな魔法、見たことがありません‼︎」
「説明するんじゃ‼︎」
じーさんから若い奴まで全員が目をキラキラさせて俺に質問する。
そーいや……緊急事態として転移魔法使ったんだった……。
魔法使いって新しい魔法のことになるとなりふり構わなくなる奴が多いんだよな……やべぇ、面倒くせぇ……。
……………言い訳……なんか、この場を上手く言い包められる言い訳を……。
あ、そうだ。
「固有能力だから、あんたらにゃ無理」
『なんとっっっ‼︎』
ぶっちゃけ他の奴で時空魔法なんて見たことな……いや、ハルトがいたか。
でもあれは時空魔法じゃなくて、〝伴侶のためならなんでもできる〟っていうある意味俺よりも特殊過ぎる例だから……論外ってことで。
結論、時空魔法は現時点で俺の固有能力って言っても嘘じゃないはずだ(リジーもチートだから、例外)。
俺はそれ以上面倒な話に巻き込まれないように、話を終えるという合図でパンパンっと手を叩いた。
「んじゃあ、取り敢えず……MVPへの対応は終わりってことで。あ、そーだ」
俺は転移しようとしたが、ふと注意しなくてはいけないことを思い出して立ち止まる。
そして、冒険者達に視線を向けた。
「一応、忠告な。あんたら冒険者は身分を気にしないってのは知ってるし、俺が冒険者として活動している時は変わらず接してくれていい。しかし、王太子として動いてる時はそれなりの接し方をしろよ。下手に他の貴族に見られたら不敬罪で処分されるぞ。後、嘘をつくな。誇張した話をするな。それと、あんまり俺と同じクエストを受けたとかも言わない方が……」
「………それぐらい弁えているが?」
ガレスのおっちゃんは俺の言葉を遮って〝なんでそんなことを注意するんだ?〟と言わんばかりの顔で言う。
いや、あんたみたいな高位ランクは心配してないぞ?
ただ…………。
「ガイとか若い奴ら、絶対ヘマやらかすだろ」
『…………………あぁ……』
一部の冒険者達は俺の言いたいことが理解できたのか、年若い冒険者達に視線を向ける。
若い奴らは意味が分からなそうな顔で首を傾げていた。
……………俺が懸念しているのは、貴族からの指名依頼だ。
俺が身分を明かしたことで俺と一緒にクエストを受けたことがある奴とかは、〝あの王太子と共に戦ったことがあるんだ〟とか言いふらすだろう。
ぶっちゃけ、王太子と共に戦ったとかステータスになるし。
それを言いふらせば指名クエストが入るようにもなるだろし。
あのセーゲルと一緒のクエストを受けたことがある奴だって、それを言いふらしてたんだ。
きっと俺でも同じことが起こる。
言ってしまえば、売名行為?
だけど、俺はずっと自分の力を隠して、低ランクを維持してきた。
なのに、俺はランク以上の強さを模擬戦の時に貴族達に知らしめてしまったから……。
ガイがやってしまったみたいに、生徒達に自分のミスを俺のミスみたいに話して、〝俺がグランを救ってやったんだ〟みたいに話したり。
俺と一緒にクエストをクリアしたとか話したら……絶対、俺と同等以上の冒険者だと勘違いされるだろ?
そうなると、身の丈に合わないクエストを指名されることになる訳だ。
このディングス王国は魔物が弱い。
年若い冒険者は、ここ以外の国での経験がほとんどないだろうし……護衛任務とかで他の国に行ったとしても魔物避けを施してある道ばっかり使ってて、他の国の魔物のレベルに対応できないはずだ。
現に、今回の合宿でも高位の冒険者は比較的問題なかったが……若い奴らは微妙だったし。
つまり、何が言いたいかと言うと……若い冒険者達が死ぬ可能性があるってこと。
全部可能性の話だけど、ほぼ100パーセント間違いないと思う。
だから、俺はこういった忠告をしたんだが……。
「…………はぁ…」
俺は溜息を吐いて、肩を竦める。
そして、薄っすらと冷たい笑みを浮かべていたモーラさんに声をかけた。
「頼めますか?」
「えぇ。こんな良い物をもらっちゃったんだもの。若い子達の教育は任せてね」
そう言って微笑むモーラさんの背後に、一瞬だけ般若が見えた気がしました。
……………まぁ……うん。
ご自身のご子息含め、今だに頭が足りない奴らがおられますからね。
無闇矢鱈に若い奴らを殺さないための教育を高位ランクの冒険者がするのは普通ですもんね。
………………積極的に次世代を育成していたモーラさん的には、高位ランク冒険者になるために必要な知識とか、技術とか、政治的な問題とか、取り引き・駆け引き云々とかを教えていたのに、俺の懸念を理解してない馬鹿どもにキレてるんだろうな……。
再教育されて、心が死なないと良いですね(心の中で合掌)。
「んじゃぁ、俺は父上に報告があるので。さらば」
俺はそう告げるとそそくさと、その場を退散する。
別に、巻き込まれる前に逃げた訳ではないので悪しからず。
その後ーーー。
冒険者ギルドでは、シナシナに枯れた若い冒険者達が正座しながらひたすらに〝冒険者のいろは〟を再度叩き込まれている姿が見られたという噂を聞いたが……俺には関係ないとしておこう。




