第4話 第一王子はコソ泥予備軍(笑)
ギルドに戻った私達(森の入り口からは徒歩)は、仲良く手を繋いでいた。
ちなみに……騒ぎになるかもらしいので、アースは人形のフリしてもらってます。
つまり、人形を抱えた幼女と少年ですよ‼︎
なんか幼稚園児みたいだよね⁉︎
幼稚園児年齢だけど‼︎
そして、周りの大人達のほっこりした目線よ。
癒しなのか、我ら。
「おねーさん‼︎」
「あら、リジーちゃん。それにグラン君も。どうしたの?」
「ツノウサギたおしたー‼︎」
「倒したのね。分かったわ、魔石を出してくれる?」
隣でグランが私のお子様モードに肩を震わせてマナーモードで笑ってやがるけど、それは無視する。
あ、ちなみに……この世界では魔物を倒すと魔石と素材がドロップします。
私はアースを抱いてるのと反対の手……つまりは、グランの手を振りほどいてポッケの中から魔石を取り出すフリをした。
えぇ、空間魔法で収納してますけど何か?
「はい‼︎」
「確かに確認しました。よく頑張ったわね。ギルドカードを預かります」
お姉さんがクエストクリアの魔判子を押してくれて、報酬とカードを返してくれる。
ふふふっ、初クエストクリアだぜ‼︎
初自分で稼いだお金だぜ‼︎
思わずちょっと嬉しくなっていたら、グランも隣で優しく微笑んでいた。
うわぁ、美形。
「ローナさん、パーティー申請、お願いします」
「二人で組むの?」
「「はい‼︎」」
お姉さんはローナさんと言うのか……。
彼女は「まだ二人の方がマシか……」と呟くと、私達のギルドカードを預かった。
「パーティー名は?」
「リジーが決めていいよ」
「えぅっ⁉︎」
唐突だなぁっ⁉︎
私とグランのパーティー……?
えっと……。
「《リインカーネイション》で」
「へぇ、輪廻転生ね」
隣でグランがボソッと呟く。
分かりましたか。
やっぱりお前さんはゲーム脳っすね?
でも、私達にはぴったりっしょ?
「俺もそれで、おねがいします」
グランも少し見た目年齢に相応の声色で返事をする。
お姉さんはそれを聞いて頷いた。
「分かったわ、登録します」
こうしてパーティー《リインカーネイション》が誕生した。
ギルドカードを返してもらうと、下のところに小さくパーティー名が書いてあった。
ふふふっ、いい感じですな‼︎
「ちなみに……リジーちゃんが抱いてるのは何かしら?」
「う?アースドラゴン‼︎」
「へぇ、アースドラゴンの人形か……随分マニアックね」
マニアックと言われてアースの身体に少し力が入ったが、我慢してもらう。
私達は大人たちにバイバイしてギルドを出た。
「そーいえば、グランはギルドカードの得意なとこ、何にしたの?」
「剣技だぞ」
「あー……下手に魔法のこと書かなくて良かったね」
「それな」
人通りが少ない道へ入って、後ろを振り返る。
そこにはやっぱり誰もいなくて。
流石にゴロツキに絡まれるなんてテンプレは起きなかったか、と少し拗ねた。
「あはは、安心しろ。俺にゴロツキ絡みテンプレは発動した」
「えぇっ⁉︎体験してみたかった‼︎」
「王都で登録してる冒険者は大丈夫だが、護衛依頼とか他所から来た奴とかはたまに絡んでくるんだよなぁ……その分、元S級ギルマスに絞られるけど」
「うーけーるー」
ケラケラと笑いながら、少し拗ねモードのアースの頭を撫でた。
やっぱりさっきのお姉さんの言葉に苛ついていたらしい。
『マニアックじゃないもん……』とかブツブツ呟いている。
「さて。俺はこれから帰るが……リジーも帰るか?」
「うん」
「なら俺が送ろう。転移魔法の魔力消費量はほぼゼロに近いからな」
「助かる〜」
「流石に今は疲れてるだろうから……夜にでも会いに行く。明日の予定とか考えよう」
「おけおけ」
私の部屋のリビングに転移した後、グランは私の頭とアースの頭を撫でて、私の頬に優しくキスをする。
だから、こーいうノリは慣れないんだって‼︎
「また後で」
そう言ったグランは優しく手を振ってくれた。
なんか胸がムズムズするって‼︎
*****
屋敷の自室に戻った私の耳に届いたのは、大人達の慌ただしい声だった。
何事だろう?と思って急いで部屋着用のゆったり薄桃色のワンピースに着替え、アースを抱いて外に出る。
すると、偶々居合わせた執事がギョッとした顔をしていた。
「お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁあっ⁉︎」
「うぁっ⁉︎」
思わず後退りすると、執事は直ぐに「旦那様に報告をっ‼︎」と叫んだ。
私はガシッと肩を掴まれて、逃げられないように拘束される。
何事?
「リジーっ‼︎リジーはいたのかっ⁉︎」
しばらくすると、金髪碧眼トリオなお父様とお母様、お兄様が凄い勢いで駆けて来た。
その顔は涙でボロボロで、驚いてしまった。
「リジーっ‼︎今までどこにいたのです‼︎探していたのですよっ⁉︎」
お母様が勢いよく抱き着いてきて、私は呆然とする。
あ、抜け出してからグランと話してる間にだいぶ時間が経っちゃったもんね……。
娘がいなくて騒ぎになったのか。
「ごめんなさい……」
「リジー…今までどこにいたんだい?」
お兄様が少し舌ったらずな声で聞いてくる。
素直に冒険してましたなんて言えねぇよなぁ……えっと。
「かくれんぼしてたら、ねちゃったの」
「……リジーの部屋は全部探したぞ?」
お父様は怪訝な顔をするけど、私は譲りませぬ。
隠れんぼです、隠れんぼ。
それ以外はありません。
「リジー…その人形は……?」
お母様がアースを指差す。
あぁ……できれば、この屋敷にいる間はアースも自由に動きたいよね。
私は素直に話すことにした。
「かっていい?」
「飼う?人形をか?」
「ちがうよ。このこはアースドラゴン‼︎」
私が喋っていいよ、と頭を撫でるとアースは『ママ〜‼︎』と元気よく動き出した。
ずっと人形のフリさせてごめんよ‼︎
疲れたよね‼︎
それを見てお父様達はギョッとしていた。
まぁ……そうっすよね。
一匹で災厄と言われる、属性ドラゴンの一匹だもんね……。
アースドラゴンはそれでも、穏健派なんだよ。
他のと比べれば。
「いい?」
『ママといっしょにいる〜』
お父様は呆然と何かを考え込んでいたが、しばらくしてなんとか動き出してくれた。
「えっと……うん、リジーを慕ってるなら大丈夫、なのか?まぁ護衛ということだな。好きにしなさい」
「ありがとう‼︎ほかのひとには、ひみつだよ?」
「あぁ……」
小声で「言える訳がない……」と呟いていたが、そこはスルーで。
お兄様も「ドラゴンかぁ‼︎」と目をキラキラさせてアースを撫でようとした。
『さわるのや〜』
「えぇっ‼︎いいじゃないか‼︎」
『弱いのにさわられたくない〜』
「よわい……」
ショックを受けるキラキラした美少年お兄様……エドガー・ドルッケン。
えぇ、攻略対象その2だよ。
ポジ的には公爵家子息兼グランの友人かな。
またの名を付き人とも言う。
グランの1つ歳上でまだ会ったことがないけど、いつの日か会いに行くだろうな。
「じゃあ、リジーは強いのかい?」
お父様の言葉にアースは頷く。
そして、お父様、お母様、お兄様……周りにいた人達を順に見て告げた。
『つよいよ〜。ここにいるひとたちじゃかてないかなぁ〜』
「………何…?」
『よわいね〜、みんな』
ケラケラと笑うけれど、その声は嘘偽りないようで。
まぁ、うん。
異世界転生チート持ちですからな。
強いですわ、そりゃあ。
「アース、いこー‼︎」
『うん‼︎』
ちょっと空気が悪くなったのを感じたので、私はスタスタと庭に向かって走り出した。
いやぁ、家族の顔がヤバかったな。
ウケるわー。
そんな感じで、アースと庭でまったりしたり……食事や入浴などを済まし終えて、もう寝るだけの時間になった頃。
私の隣でスヤスヤ眠るアースの頭を撫でていたら、パジャマ姿のグランが転移してきた。
なんか高そう。
「アースは寝たのか?」
「うん」
「なんか可愛いな。これが高レベル魔物だとは思えねぇや」
「それなー」
グランは私のベッドに腰かけると、大きく伸びをした。
どうやら王子様生活は大変みたいだ。
「さて。今後の行動だが……」
「あ、アースのことは家族に話したよ。他には言わないように言っておいた」
「………えぇ…言っちゃったのか?」
「駄目だった?」
グランは少し困った顔をする。
いや、ずっと人形のフリさせてるのは申し訳ないんだよね。
「いや……一応、アースドラゴンも魔物だろ?下手したら、冒険者が……とか考えなかったのか?」
「あー……でも、それは情報が漏れた時だよね?」
「お前の両親は大丈夫だとしても、兄や使用人達は漏らすかもしれないだろ」
「…………ヤバイかな?」
「かもな」
グランは何かを考え込むように眉間にシワを寄せる。
そして、諦めたように溜息を吐いた。
「俺達が婚約するのってまだ先なんだよな?」
「そうだよ」
「なら、今婚約してしまおう」
「ふぇ?」
「俺の婚約者ってだけで俺が盾になれるだろ?ついでにあの雷魔法を使い、アースドラゴンを従える者だと公表してしまえば、下手に手出しできないか」
「雷魔法?」
グランは王宮に戻ってからの話をしてくれた。
魔の森の中心部で巨大な雷柱が現れたこと。
それが凄まじい魔力量であったこと。
この国から王宮魔法使いを筆頭に冒険者との混成チームで調査をすることになったこと……など。
つまりは私の魔法の所為ですな。
「魔の森の中心部は片道5日はかかるからな。今日、旅立ったから……もう意味がないと思うが」
「あそこ、無駄に面積広いよね〜」
「初心者ダンジョンに裏ボスがいるくらいなんだ。逆に狭い方だと思うぞ?」
「それもそうか。縄張りから出ないから、アースドラゴンを積極的に討伐しようとする奴もいなかったんだもんね」
で、そんなアースドラゴンは縄張りから出て今は私のところにいると。
そりゃぁ問題だよねー。
隠すより公にした方がやりやすいかー。
「ごめん、私、ゲーム脳だけどそーいう政治的なのはからっきしだから任せていい?」
「あぁ、大丈夫だ」
「いやん、頼りになる〜」
「ははっ、惚れてくれて構わないぞ?」
「あはは〜。私を殺さないようにできたら惚れてあげる」
グランがニヤリと笑うけれど、私はサラッと流した。
ちょっと不服そうな顔も可愛らしいですぞ、グランさんや。
「取り敢えず……冒険者としても活動しておこう。しばらくは大丈夫でも、レベリングは大事だし。自分で好き勝手できるお金があったら、逃亡資金にもなるし」
「おけおけ」
「…………お前、考えるの面倒だとか思うタイプだろ。行き当たりばったり派だろ」
「攻撃力特化のお前に言われたくない。ステだけ見ればグランの方が脳筋だからね?」
「否定できねぇ‼︎」
グランと二人でケラケラ笑っていたら、トントンとドアがノックされた。
扉の向こうから険のある声が響く。
『お嬢様、誰かいらっしゃるのですか』
「やべっ、また来るわ」
グランは私の手の甲にさっとキスをして転移する。
それと同時に、初老の執事長のセバスティアンが入って来た時、彼は怪訝な顔をしていた。
「先程、お嬢様以外の声が聞こえたのですが?」
「きのせーじゃないですか?」
「………お嬢様」
「なんならだれかいるか、さがしますか?」
執事長は困ったような顔をして、何も言わずに退室した。
なんか、第一王子がコソ泥みたいで面白いなぁ……と思いながら、私は眠りについた。