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第35話 過去の話(2)『旅は続くよ、嫌がらせと共に』


よろしくね‼︎


 






 旅というのは色々あるもので。




 まぁ、魔物が出ても前の人達(王都を拠点としてない冒険者っぽい。まぁ、いろんな国を旅してるから長期契約してるんだろうけど)が倒してくれてるけど思ってしまう。



 これ、完全に嫌がらせだよな。



「あり得ないわ……なんで最後尾なのよ。普通、私達が真ん中でしょ……」


 リジーが小さくぼやくけど、俺もそれに頷いてしまう。

 そう、俺らが護衛するブロッサム商会。

 ブロッサムさんの荷馬車は最後尾だったんだ。

 一番安全なのは、中央。

 二番目は警戒をする前方。

 一番危険なのは最後尾。

 後ろから襲われたら、一番最初にやられるのが俺らになる。

 加えて、俺とリジーは問題ないけど……初護衛だというのもあって、体力の配分を間違えてしまったらしい。

 体力がないから、今はブロッサムさんの好意で荷馬車で休憩していた。

 つまり、実質二人で護衛している訳で。


 ……………嫌な予感なんですが。


「ごめんなさい。ワタクシが女性なので……嫌がらせなんですよ」

「「………………あ……」」


 どうやら俺らの呟きがブロッサムさんに聞こえてしまったらしい。

 彼女は困ったように笑いながら、答えた。


「ワタクシのブロッサム商会は、最近売り上げがうなぎ登りなんです。まぁ、適正価格だけど手頃な値段。市民の皆さんでも買いやすいように頑張っているからなのですが」

「……………」

「でも、女性が商会長というだけあって連合にはちょっと嫌われ気味でして。多分、後ろから襲われたら囮にする気なんじゃないですかね?」


 …………うわぁ……なんともまぁ……。

 リジーもそれを聞いて絶句してるし。

 ………うーん……王国に帰ったら、ちょっと連合にちょっかい出すか?

 でも、下手に王族が絡むと面倒か……ここが難しいところだな。


「ちなみに、なんでブロッサムさんは魔王領に行くのかしら?普通は代表とか代理でしょう?」

「うふふっ、言ったでしょう?ワタクシ達のモットーはラブ&ピース。いろんな国の方が他国のモノを見たり買ったり、楽しみを共有して欲しいんですよ。でも、代わりの人に頼むなんて不誠実だと思いませんか?商会長であるワタクシが行くのは誠意、というものです」


 …………え?この人、スゲェいい人じゃないか?


 リジーもパチパチと拍手していた。


「………………リジーさん、リジーさん」

「なんですか、グランさん」

「帰ったらちょっと(ブロッサム商会についての)お話ししましょうか」

「勿論ですよ、グランさん」


 互いに〝うん〟と頷いた俺達。

 ブロッサムさん、あんたは当たりを引きましたな。

 帰ったら、俺らが少しブロッサムさんにサービスしてやりましょう。

 まぁ、だけど……。


「その前に、邪魔な魔物を始末するか」

「そうねぇ」

「えっ⁉︎」


 俺らは背後から迫り来るだろう魔物の方へ振り返る。

 ブロッサムさんはギョッとしたが、リジーが「大丈夫よ」と落ち着かせていた。

 俺は光でできた弓を出現させ……ゆっくりと構える。


「魔物の種類は?」

「ウルフが5匹。遠視魔法はいるかしら?」

「必要ない。俺も遠視ぐらいは使えるさ」


 魔物の判別はリジーの方が精度が高いけど、距離感の把握は俺の方が得意だ。

 多分、時空魔法のおかげなんだろうけど。

 俺は遠視魔法で約1キロ先にいる魔物を認識する。

 地を這うように駆け抜ける狼達。

 弱いヤツだな、ちょっとつまらん。


「護衛なんだから、つまらんとか思ってないでしょうね?」

「………てへっ☆」


 …………流石、俺のリジー。

 俺の本音が分かってらっしゃる。

 リジーは呆れたように溜息を吐きながら、ジト目で睨んできた。


「……………グラン、真面目にやりなさい」

「はいはい」


 光の矢を5本生み出し、それを弓にかけ……目一杯、弦を引く。

 真面目にやりなさいと言われたら、真面目にやるさ。


「…………《光矢・五月雨》……なんてな?」



 パァンッ‼︎



 空間を裂くような破裂音と共に、矢は一瞬で野を駆け消える。

 それと同時に、ウルフの眉間に矢がヒットし……光になって消えた。


「ナイスヒット。でもあの技名は厨二病っぽいわよ?」

「…………えぇぇ……なんてな?って言ったじゃないか。というか、ただ打っただけなのに……技でもないのに届くのは変かと思ったんだが?」

「………………あぁ……普通の人間じゃあ、矢で1キロ先は届かないんだったわね」

「中々にチートに毒されてるよな。基準がズレる」

「それな」


 そんな風にほのぼのと会話していたら、前方の護衛達が大慌てで駆け寄ってきた。

 俺は武器を消して、笑う。


「な、なんだっ⁉︎さっきと音は‼︎」

「いやぁ?魔法でちょっと魔物を倒しただけだ」

「はぁっ⁉︎どこにいるんだよ‼︎」

「1キロ後方」

「ば、バカなこと言ってんじゃねえぞ‼︎クソガキ‼︎そんな遠い距離、分かる訳ねぇだろ‼︎」


 まだ若そうだけど、偉そうな冒険者が俺に向かって怒鳴る。

 …………いや、まぁ……お前らはできないだろうけど。

 俺らはそれぐらいできんですが?


「だから嫌だったんだよ‼︎こんな子供だし、そっちなんか女だろ⁉︎どうせ役に立たなくて迷惑をかけるだーーーー」

「あ〝?」


 俺のドスの効いた声で、その場の空気が一瞬で凍る。

 まだ殺気は放ってないが……どうやら少しだけ圧が漏れたらしい。

 冒険者達は目を見開き、俺を見つめる。



 まるで、一瞬だけ現れた化け物を見たような顔でーーー。



 あぁ……そんな顔をするなら、ちゃんと自覚させてやるか。

 ランクと実力が、比例する訳じゃないって。



 俺は殺気を放とうとした瞬間ーーーーリジーにスパンッとハリセンで叩かれた。



「落ち着きなさいよ、グラン。私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、気にしてないわ」

「……………………」

「もぅ。今日一緒に寝てあげるから、ね?」


 リジーからのそんな甘い誘惑に、俺は自分の頬を手で揉む。

 そして、ヘラリと笑って冒険者の方を見た。


「護衛を放置してここに来てていいのか?ほら、前にいる商会の人が早く戻ってこいって叫んでるぜ?」


 俺の言葉に冒険者達は慌てて後ろを振り返る。

 一応、商会にごとに冒険者パーティーがくっついてるから、勝手に後ろに下がられたら商会の人達からしたら堪ったもんじゃないんだろうな。


「っっっ‼︎おい、戻るぞ‼︎」

「クソガキ、あんまり調子乗ってんじゃねぇぞ‼︎」


 冒険者達は護衛に戻る。

 俺は大きく息を吐いて、首の後ろを揉んだ。


「あー……すまん。もっと静かに殺せばよかった。ごめんなさい、ブロッサムさん。冒険者達と軋轢産生んだかも」


 俺の謝罪にブロッサムは「………い、いえ……」と首を振る。

 それどころか、目を瞬かせながら質問してきた。


「今の魔法……魔法で武器を生み出すのは高度な魔法と聞きます……グラン君は高位の魔法使いなんですね……」

「いや、剣士だけど?」

「え?」

「魔法使いは私よ。まぁ、軋轢を生んでも……私達だけでも連団は守れるから問題ないんじゃない?」


 取り敢えず、俺はリジーを呼んでむぎゅっうっと抱き締める。

 抱き締めるついでにお姫様抱っこで持ち上げて、そのまま歩き始めた。


「あら?このまま行くの?」

「あぁ、俺の精神安定のために。リジー、ぎゅうってしてくれ」

「うふふっ、いいわよ?」


 リジーはクスクス笑いながら、俺の首に抱きついてチュッと頬にキスをしてくれる。

 あー……さっきの所為で荒んだ心が癒されるー。

 なんかいかにも弱そうな奴が、俺のリジーを貶すことを言うなんて腹が立つ。



 俺のリジーを馬鹿にするなんて、許せない。



「はぁー……本気で癒される」

「ふふっ、何それ。セラピーなの?」

「そーそー。リジーセラピーだから」


 そんなほのぼのとした会話をしていた俺らは知らなかったんだーーー。




 まさか、こういった俺達の会話やら行為が……後に面倒なことになることをーーー。








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