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第31話 乗っ取り宣言‼︎


今後ともよろしくね‼︎


 






 戦闘合宿当日ーーー。




 合宿会場となる魔の森の入り口には、死んだ顔をした二、三年生と……緊張した面持ちの一年生が集まっていたわ。

 並んだ彼らの背後には、C級以上の冒険者達。

 あ、見知った顔もいるわね。


「リジー、準備はいいか?」


 合宿開催の挨拶のため、前に出ていた生徒会メンバーであるグランはそう私に聞いてくる。

 私は満面の笑みでそれに頷いたわ。



「えぇ。楽しみましょう(・・・・・・・)?」



 マルーシャさんがマイクを持って、皆の前に立つ。

 そして、全員に向けて『注目アテンション‼︎』と大声で告げた。



『えー……ただいまより、3泊4日の戦闘合宿を開始する。手首に配られた編み紐を結んだか?それ、何かあったら緊急信号が発信されるようになっている……なんか王家の秘術使ってるらしいので、外さないようにな』



 ………王家の秘術とか嘘なんだけどね。

 ただ、今回の合宿はハード(・・・)だから、5泊6日(・・・・)分持つように防御魔法やら何やらを仕込んだだけなのよねぇ。


『内容は3泊4日、魔の森でサバイバルをしてもらう。各パーティーごとに冒険者がつくことになっている。これは、魔物氾濫スタンピードがおきた場合など、対処ができるようになるための合宿になる。以上が概要だ。他に分からないことはーーーー』

『うふふ〜‼︎あるよ〜‼︎』

『ーーーーーーーえ?』


 マルーシャさんの背後から現れる銀髪美少女と、黒髪の青年。

 二人はマイクを奪い取ると、にぱっと笑った。



『はいはい、皆さんこんにちは〜‼︎戦闘合宿を乗っ取りに来たよ‼︎』



 …………軽っっ‼︎

 リズベットさん、ノリが軽いわ‼︎

 ハルトさんはそんなリズベットさんの可愛さに顔を蕩けさせながら……ハッと我に返ってこちらに振り返った。


「という訳で、グランヒルト様とフリージア様は味方になってくれ。あ、言うこと聞いてくれないとここにいる青年がエロい感じで縛られます」

「なんでっっっ⁉︎」

「「ぶふっ⁉︎」」


 ギャァッ⁉︎と叫ぶマルーシャさんに、私達は噴き出す。

 いや、そんな脅し文句初めてだわ。

 凄く平和的な脅しね(笑)


「えー、仕方ないなー。マルーシャさんがエロく縛られるのは困るしー(棒)」

「そ、そうね……くふふっ……仲間になりましょう……あはははっ……」


 目尻に涙を溜めながら、私達は二人に近づく。

 何も知らされていない皆はざわざわしながら、こちらを見ていた。


「グランヒルト様‼︎フリージア嬢‼︎これは、どういうっ……」


 マルーシャさんが叫ぶけど、私達は笑って誤魔化す。

 …………というか、グランがパチンッと指を鳴らすと、マルーシャさんはお兄様達のところに転移させられたわ。


「グランヒルト様⁉︎リジー⁉︎一体、何をするつもりなんだいっっ⁉︎」


 お兄様や先生達が私達を取り押さえようとする。

 まぁ、リズベットさん達は不審者だものね。

 でもね……。



「近づくなよ」



 グランの威圧で彼らは動けなくなる。

 空気が軋む。

 だけど、生徒達の背後ーーー。



 そこから跳躍する人がいた。



「おや?」


 グランは光剣を出現させ、叩きつけられた大剣と鍔迫り合いをする。

 あら、凄い。

 弱めの威圧とはいえ、動ける人がいるなんて。

 大剣の持ち主は、グランから距離を取るように飛び退く。

 生徒達が悲鳴をあげながら、彼から逃げるけど……あぁ、転んじゃってるわね。

 ちょっと回復っと。


「んー?あんたの顔、見たことがないな。誰?」


 グランは首を傾げながら聞く。

 穏やかな群青色の髪と、中性的な顔立ち。

 だけど、それに反して無骨な黒い大剣と鎧が酷く違和感があるわね。

 彼はこちらを見ながら、答えた。


「セーゲル。S級冒険者」

「……セーゲル……S級……あぁ。《断絶》のセーゲルか」


 グランは納得したように頷く。

 …………って、えぇ⁉︎

 S級ってこの世界に三人しかいない超絶凄い人よね⁉︎

 そんな物騒な人まで、合宿補佐クエストに参加してたの⁉︎


「逆に聞く。お前は誰だ」

「グランヒルト・ファイ・ディングス。この国の王子」


 身分に囚われない冒険者であるセーゲルが目を見開く。

 ………まぁ……剣を向けた相手がこの国の王子じゃ驚くわよねぇ。


「…………王子?ただの王子が俺の剣を受け止める?」

「あんた。まだ本気じゃないだろ?あ、リズベットさん。こいつは俺が抑えてるから、説明進めててくれ」

『はいは〜い‼︎んじゃあ、横でドンパチやってるけど、ご説明しまーす‼︎』


 グランはそう言うと、セーゲルさんに急接近して魔の森の中に放り込む。

 ………あら……危ないから場所を変えたのね。


『えー。これから、5泊6日の第Ⅱ大陸巡回サバイバル合宿を開始しまーす‼︎』


 生徒、教員、冒険者達はギョッとしながら騒つく。

 そんな彼らの前にハルトさんは懐から数枚の紙を取り出す。


『ちなみに、学園の理事長の許可、各国の国王の許可は頂いてます。つまり、この乗っ取りは公的な乗っ取りです‼︎』

『はぁっっっ⁉︎』


 皆がギョッと叫びながら、固まる。

 やだ、埴輪みたいだわ。

 面白い顔……ぷぷっ。


『うふふ〜。不安になった?これからどうなっちゃうのかな?とか思っちゃった?甘いなぁ〜。グランヒルト君とフリージアちゃんが仲間になった時点で、これは悪巧みが働いてるなとか考えなよ〜』

「今まで猫被ってたから、皆さん私達の性格知らないのよ」

『あ、そうなんだね‼︎まぁ、とにかく‼︎去年と同じじゃつまらないでしょ?魔の森は去年もやったから、慣れちゃった人も多いんでしょ?だから、日が変わると同時に皆は次の国に強制転移されるよ‼︎』


 そうそう。

 編み紐はそのために用意したものでもあるのよ。

 去年は魔の森に三学年が入るから、協力し合う人が多くなってちょっと……って感じだったらしいのよね。

 だから、今回は魔王領含めて六ヶ所に編み紐の色ごとに配置し……日が変わると同時に強制転移してローテーションするように細工済みなのよ。


『良かったね‼︎慣れない魔物の対処方法も学べるよ‼︎ちなみに、グランヒルト君達を仲間にしたのは編み紐が緊急信号を発した際、対処してもらうのと……皆にちょっかい出してもらうためです‼︎ただ魔物を相手にするだけじゃ簡単過ぎるから、余裕してやがるチームがあったらグランヒルト君達が追い詰めます。じゃなきゃサバイバルじゃないからねぇ』



『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎』



 二、三年生が絶叫する。

 うわぁ、凄いわぁ。

 どんだけグランの恐怖が刷り込まれてるのよ。


『んじゃあ、グランヒルト君達が戻ってきたらスタートね‼︎ハル君、逃げようとしてる子を捕まえてね‼︎』

「任せろ‼︎」


 公的な乗っ取りだから、教員達は手を出せないし……冒険者達は困惑の極み。

 生徒達は……まぁ、ハルトさんがなんとかしてくれるし……。

 後は……。


 ぽんっ。


 私の肩を叩く、細い指先。

 私はにこーっと笑いながら、振り返ったわ。


「状況説明、して下さりますわね?」

「いえっさー‼︎」




 生徒会メンバーへの説明よね。






 *****







「強者」




 どうやら、セーゲルという男は言葉少ななタイプらしい。

 俺は首の後ろを撫でながら笑う。

 だけど……動けないように、さっきより威圧を強める。


「っっっ⁉︎」

「俺の威圧で動けなくなってる時点で、敵わないって分からないかな」

「…………しかし……」


 ぶっちゃけ、こいつが何故俺に剣を向けたのかが分からないんだよなぁ……。

 乗っ取り宣言したのはリズベットさんだし。

 …………俺が一番強そうだから?

 ……このまま相手取るのは面倒だから……事情を話すか。


「仕方ないな。俺らの目的を話そう」

「……………何だ」

「これは国王の許可を得ている公的な乗っ取りだ。で、俺らの本来の目的は……聖女と魔王の運命の出会いを演出するついでに、他の奴らを鍛えようぜ‼︎ってことなんだ」

「……………………ん?」


 ちょっと意味が分からないのか、セーゲルは首を傾げる。

 詳しく説明すると……サバイバルをキツくして、追い詰める。

 ついでに強い俺達もちょっかいを出す側に回って、更に極限状態にさせる。

 そこをスイレンさんが助ける。

 ついでに周りの人達も巻き込んで鍛えちゃおう……というのが、俺達が考えた作戦なんだ。

 セーゲルは納得したような納得してないような……険しい顔をする。


「だが、そんなことができるのか?」

「できる。俺とリジー……加えて、今回はハルト達がいるからな。できないはずがない」

「…………………」

「信じてないって顔だな。まぁ、実際に見てから考えればいいさ」

『グラーーーンッッッ‼︎クレマチス様が凄く怒ってるぅぅぅ‼︎私一人だけにしないでぇぇぇ‼︎』


 俺はセーゲルに背を向けて、歩き出す。

 …………リジーが念話でSOS出すぐらいに、クレマチス嬢が怒ってるみたいだし。





 俺は怒られたくないなぁ……と思いつつ、リジーの元に戻るのだった………。







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