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第29話 ブーメラン〜クリティカルヒット‼︎

 






 流石に……私達の所(王宮)に転移する訳にもいかず、スイレンさんの所へ転移した私達。


 いきなり現れたもんだから、一般的な和室でお茶をしていたらしいスイレンさんは、驚いてお茶を零しちゃったわ。

 ……………驚かせるつもりはなかったのだけどね。


「おぉ〜‼︎凄いねぇ、ハル君‼︎」

「だな、リズ」


 …………というか……いきなり違う場所に転移したっていうのに、暢気にそんなこと言えるリズベットさん達って凄いわね?

 スイレンさんは、顔を顰めながら……私達を睨んだわ。


「…………………状況説明」

「「いえっさー」」


 スイハさんが国外追放されたアウラ王女を妻として連れてきたこと。

 ついでにリズベットさんとハルトさんという方もついて来たことを話すと、スイレンさんは大きな溜息をついたわ。


「…………そこの若いの二人」


 スイレンさんが、楽しげに昔の和風屋敷みたいな魔王城(?)を見ていたリズベットさん達に声をかける。

 二人は何か納得したように頷いた。


「あぁ、はいはい。自己紹介ね?でも……その前に。ハル君、お願い」

「あぁ」


 ハルトさんは「お茶請けに」と言うと、何もないところからお煎餅やら人数分の湯のみ茶碗、お茶葉入れなどを出現させる。

 魔力の流れが一切感じられなかったから、私とグランはギョッとしたわ。


「「なっ⁉︎」」

「あぁ。魔力の流れが分かるのか。俺のこれは特別仕様だから、分からないと思うよ?」


 ハルトさんは全員分のお茶を入れて、これまたどこかから出現させた座布団に正座する。

 リズベットさんも、素早く正座して座ってるし……本当に、同じ転生者なのね……。

 私達が座布団に座ると、リズベットさん達は語り出したわ。


「ではでは、ご挨拶‼︎私の名前はリズベット・フリューゲル。《聖母》で、ハル君の奥さんになります‼︎」

「俺はハルト。リズの《伴侶》で……まぁ、分かりやすく言えば村人Aだな。アウラ王女も一応、挨拶しといた方が良いのでは?」

「………アウラ・レ……いえ。ただのアウラですわ。元王女でした。よろしくお願い致します」


 三人が挨拶をすると、スイレンさんも自己紹介をする。


「《第Ⅱの魔王》スイレンという。スイハの叔父にあたる。よろしく頼む」

「俺達は……自己紹介しなくても大丈夫か。さっき、挨拶したしな」

「えぇ。取り敢えず……アウラ様をお休みさせた方が良さそうね。顔色が悪いわ」

「………おれが言おうと思ってたのに」


 ………………言うのが遅いのよ、スイハ。

 アウラ王ーーーいいえ、アウラ様はだいぶ顔色が悪いのよね。

 私はさり気なく解析魔法をかける。


「あぁ……転移酔いみたいだわ。横になれば良くなると思う」

「分かった」

「えっ……きゃあっ⁉︎」


 スイハは私の診断を聞くと、アウラ様をお姫様抱っこして連れて行ってしまう。

 ……………まぁ、主役なのに喰われかけてたものね。

 お姫様を介抱は任せたわよ?







 二人の姿が消えて、お茶を啜って一息ついてから……リズベットさんが微笑んだわ。



「聞きたいことは《聖母》のこととか、転生のこととかかな?なんでも説明するよ?」

「あぁ、教えてくれるか?」


 リズベットさんは頷くと……自分達のことを説明し出した。





 なんでも……リズベットさんとハルトさんは、何百回と転生を繰り返してきており……私達と同じ世界だったり、異世界だったり。

 人間だったり精霊だったり、人外だったり、魔王と妃だったりと……その度に巡り会い、恋に落ち、共に過ごしてきたのだとか。

 ……………転生の大先輩って言葉じゃ甘かったわね。

 何百回とか信じられないわ。

 それを全て覚えているらしいハルトさんが、若干恐いわ。


「まぁ、ほら。何百回と産まれ変わってもこうしてリズに会おうとする俺は……きっと自覚ありヤンデレだよ」

「自分で言っちゃうのかよ」

「え?ストーカー並みの執着心だと思わないか?客観的に見てヤンデレだろ」

「うふふ〜。そしたら、私もずーっとハル君に執着してるからヤンデレ〜」

「リズの執着ヤンデレとか超可愛い‼︎」


 なんて言いながら、抱き合う二人。

 そのままチュチュと始めちゃったから、私はストップをかけたわ。


「脱線しかけてるから、話を戻して頂戴」

「おっと、ごめんね?フリージアちゃん‼︎」



 …………今回の二人の立ち位置は聖母と伴侶。

 聖母とは聖女と違い……神を産むための母体となる者を指し示し、伴侶は聖母のためならばなんだってできると言う謎チート能力を有しているらしいわ。




「まあ、そんなこんなで?私が魔王の子を宿せば……その神は穢れた存在となると言われている所為で、《第Ⅶの魔王》に狙われてたりするけど……ハル君とイチャイチャしながら、暮らしてます♪」

「主にエッチなことばかりだけどな?」

「もぅ‼︎それはハル君がオープンスケベ過ぎるだけです‼︎私はそんなにエッチな子じゃないよ?」

「………ふぅん?本当に?」


 ハルトさんはスッと目を細めて、彼女の頬を撫でる。

 リズベットさんは目を潤ませながら……頬を赤く染めつつ、俯いた。


「………………………ちょっと、だけ……だもん」

「ちょっと、ね?」


 …………と、なんかピンク〜な空気を出し始めるリズベットさん達。



 …………………………………………………うん。

 誰かこのR-18に移行しそうな、二人から助けて頂戴。



「頼むから、人前でおっ始めそうな空気を出さないでくれ‼︎あんたら、キャラ強すぎなんだから‼︎」


 グランはしっっぶい顔をして、叫ぶ。

 貴方、この二人にツッコミを入れるなんて勇気あるわね⁉︎

 でもね、グラン‼︎


「我が身を省みずって言葉を知ってるか。多分、それは、ブーメランだぞ」

「「うぐっっっ‼︎」」


 私達も似たようなもんなんじゃないかって、思っちゃったのよ‼︎

 私とグランは自分達の今までのスキンシップを思い出し悶絶する。

 …………あぁぁぁ……人のこと言えないわ……。

 こんなにピンクじゃないだろうけど、確かになんか……こうっ‼︎

 スイハとアウラ様の初々しい感じは見てて楽しいのだけど‼︎

 無駄に玄人(ちょっと自分でもなに言ってるか分からないわ)感が出てるイチャつきは、周りの人にとって毒だって、リズベットさん達を見て分かっちゃったのよ‼︎

 私達、大丈夫かしら⁉︎

 セーフ⁉︎アウト⁉︎


「…………………今後、人前でのイチャつきは考えてしようと……あんたらを見て思いました」


 ハルトさんの言葉に、グランは両手で顔を覆って撃沈する。

 まぁ……ね。

 私も……ちょっと、人前でこんな感じは危ないって分かったから。

 うん……今後、イチャつく時は考えてしましょうか。


「うふふ〜……絶対無理だと思うよ。二人はなんだかんだと無意識に、周りに砂糖を吐かせたくなるようなイチャつきをすると思う〜」


 リズベットさん。

 なんか予言みたいだから止めて頂戴。


「という訳で、一週間ぐらいしたら帰るから泊まらせて欲しいです」

「「えっ?」」

「どうしたの?」


 いや、首傾げてるけど……貴女、移住するとか言ってなかったかしら?


「リズ。リズはさっき、移住するとか言ってたから驚いてんだよ」

「あぁ、なるほど。移住する訳ないよ〜。だって、私達が移住しちゃったら日常的に出てくる人が多くて大変そうなんだもん。私、あんまり騒がしいの好きじゃないし」


 若干メタっぽい発言に聞こえた気もするけど……まぁ、置いておきましょう。


「それにね?あいつら、アウラを一方的に貶めたんだから……慌てちゃえばいいと思うの。聖母()って、国……ううん、《第Ⅶ大陸》の最重要人物だから……うふふふっ。大変だろうなぁ……?」


 …………………こっわっ。


 リズベットさんの笑顔が超絶黒いわ。

 ………でも、なるほどね。

 リズベットさんはとっても重要な人物で。

 そんな人物をキレさせて、他大陸へ移住するとまで言わせたナナリー達がお咎めなしになるはずがない。

 ……………下手すれば、大陸全体を敵に回したってことで……。


「え?それ、大変なんじゃないの?」

「大丈夫だよ?お父様にちょっと脅してき(出かけてき)ますって言っておいたから。国の偉い人達には私達がちゃんと帰ってくるって伝わってると思うの」

「あぁ……リズの腹黒い笑顔超可愛い……。まぁ、婚前旅行に来ただけだ。余り、気にしないでくれ」


 ……………おぉう……。


「…………というか、スイレンさんも俺らに話を任せないで、参加してくれよ」


 グランは、ずっと黙っていたスイレンさんに声をかける。

 だけど、彼は心底嫌そうに首を振った。


「平凡な儂がぶっ飛んだ会話についていける訳ないだろう。任せた」

「魔王だろうが」

「ぶっちゃけ、お主の方が魔王っぽいけどな?というか……」


 スイレンさんはニパッと笑う。

 その笑顔は、とんでもなく晴れやかだった。



「儂、スイハに魔王譲るからもう魔王じゃなくなるし」



「「………………………え?」」




 ……………スイハ、貴方、魔王になるらしいわよ?






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