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第27話 一応、今回の主役はスイハですよ?


スイハ目線‼︎

よろしくね‼︎


 







「リジーが落ちてったから怒ってる」



 グランの冷やっとした声が響き、リジーはちょっと身を竦める。

 あぁ……なるほど。

 リジーが興奮し過ぎて落ちた感じ?

 おれはアウラを抱き締めたまま、真顔で首を傾げた。


「いや、あんたらこのぐらいの高さじゃ死なないだろ」

「死なないかもしれないけど、死ぬかもしれないだろ?絶対はありえないんだよ。お前だって死なないと分かってても、王女が木から落ちて打ち所が悪かったら……」

「あぁぁ、納得したからそれ以上言うな‼︎恥ずかしいだろっ⁉︎」


 思わすストップをかけると、今だに呆然としているアウラ王女に視線を向ける。

 そして、彼女にもう一度キスをした。


「んんん〜っ……⁉︎」


 僅かに開いた唇の隙間から、舌を忍ばせて絡め合う。

 至近距離で絡まる視線。

 潤んだ珊瑚の瞳には、ゆらゆらと熱が宿っているようで。

 きっとおれも同じ顔をしてるんだろうな。

 ……やっと唇が離れた時、彼女は腰が抜けて倒れそうになっていて、それをおれはすかさず支えた。


「………な、ん…で……」

「ちょっとグラン達の印象が強過ぎたから」

「じゃ、なく……て……なんでここ、に……」

「またな、と言っただろ」

「……そんな、の……」

「取り敢えず、国外追放されたってことはもうアウラを縛るものはないよな?なら、お前はおれが貰う」


 笑顔でそう言いながら、アウラの顔にキスの雨を降らせる。

 アウラはそれを聞いて目を瞬かせた。


「…………貰うって……どういう意味、で?」

「嫁に、だが?」


 即答された答えにアウラは目を大きく見開き……そして、徐々に潤ませていく。


「…………貰って、くれるの?」

「あぁ。本当はアウラを逃がした後、おれはここでその代償として死ぬつもりだったんだが……お前が追放されるなら話は別だ。おれ、お前が好きなんだ。お前がずっと頑張ってきたことを知ってる。真剣な顔も、拗ねた顔も、笑った顔も好きだ。離れたくない。側にいて欲しい」

「……………ちょっと待って。そんなストレートに言われたら照れ……」

「愛してるぞ、アウラ」


 アウラは顔を真っ赤にしてポロポロと涙を零す。

 おれは苦笑しながら、彼女の目尻にキスをして……もう一度キスをーーーー。



「はいはい。取り敢えず落ち着けよ、スイハ」



 呆れた顔をしたグランに止められて、おれは嫌そうな顔をしてしまった。

 いや、お前らもこんな感じだったぞ?


「うふふ〜……他人のイチャイチャ見るのは楽しいわぁ〜」

「…………リジーは反省の色が見れないから、後でお仕置きするとして……取り敢えず、ご挨拶を」


 グランがそう言うと、今までニマニマしてたリジーも凛とした顔立ちに変わる。

 …………変わり身早っっっ⁉︎

 二人は困惑するアウラを見て、優雅に頭を下げた。


「第Ⅱ大陸のディングス王国より参りました。王太子のグランヒルト・ファイ・ディングスです」

「婚約者のフリージア・ドルッケンですわ。よろしくお願い致します」

「………グランヒルト様……フリージア様……」


 王族らしき衣装と高級そうな翡翠色のドレスからそれなりに高貴そうに見える。

 いや、高貴なのか。

 こいつら、親しみやす過ぎだろ。


「第Ⅱ大陸……?」


 アウラにとって、第Ⅱ大陸なんて殆ど関わりがない大陸だ。

 それほどまでに離れているしな。

 なのに、どうしてそんな人達がいるのかと……首を傾げているんだろう。


「なんで第Ⅱ大陸の人間が……と思いますわよねぇ。ぶっちゃけ、スイレンさんの依頼がなければここには来なかったわ」

「それな(笑)。スイレンさんも驚くだろうなぁ……自分の甥っ子が嫁さん連れ帰ったら」

「でしょうねぇ」


 …………うーん……高貴そうな雰囲気が一気にゆるゆるじゃん。

 こいつらの変わり身マジで早い。

 アウラはグラン達とおれを見て、恐る恐る質問してきた。


「スイハは……グランヒルト様達とお知り合いなの?」

「いや?会ったのは三日ほど前だな」

「え?」

「だけど、叔父上からの手紙を渡されたし、この二人が緩くて。まぁ……なんでこんな危ない人と知り合いになってるのかは、叔父上には確認したいけど」


 そーいや……なんで叔父上とこいつらが知り合いなのか聞いてなかったな。

 ジトーッとした視線にグラン達は目を逸らす。

 そして、リジーが誤魔化すようにパンッ‼︎と手を叩いた。


「取り敢えず‼︎スイハさんはアウラ様を連れて帰るってことでいいわね?」

「あぁ。俺の番はアウラだけだ」

「分かりました。アウラ様、困ったことがあったらなんでも私達に仰って下さいね。大抵のことは可能ですから」

「そうだな。身内のいない大陸に来るのは不安があるかもしれないが……スイハの一族は一途な男ばかりらしい。そこだけは安心するといいさ」


 グランはもう既に、彼女が第Ⅱ大陸来ることを前提としているようで。

 アウラは完全に困惑モードのようで、おれを見上げた。


「えっと……わたくしは……」

「大丈夫だ。俺が側にいる」

「……………えぇ……」


 優しく笑いかけてやれば、アウラもふわりと花が咲くように笑う。

 その笑顔は、その場にいるほぼ全ての人を魅了するようで。



「わたくし、貴方と共にーー……」



「待って下さいっっ‼︎」



「「「「……………………」」」」


 しかし、アウラの言葉はあの女(・・・)の声に遮られる。

 おれ達は互いに顔を見合わせて……ゆっくりとそちらに振り返った。


「ア……アウラ様っ……」


 ぷるぷると震えるなんだっけ?ナナリー?だっけ?

 大抵の人間であれば庇護欲を唆られるであろう姿を見せながら、彼女はポロリッと涙を零す。


「………アウラ様……どうして、そんな酷いことができるんですか……?」

「「「「……………………は?」」」」

「オーフェ様を裏切るようなことっ……他の男の人と親しくしていたなんてっ………」


 ナナリーは両手で顔を覆ってしまい、それを青年達が慰め始める。

 いやいやいや……裏切るも何も、先に裏切ったのはオーフェの方だろ?

 浮気をしていたのは、彼の方で。

 アウラの方は、こんなことがなければおれと想いを交わすことはなかったはずだ。

 なのに、なんで婚約者の浮気相手に責められるのか。

 何をもって彼女がアウラを責めているのか……おれ達は意味が分からなかった。



「………やっぱり……あのリリィといい、目の前の女といい……ヒロイン体質の女って頭沸いてるのかしら……」



 リジーの言葉が式場に響き、空気が凍る。

 アウロ達や参加者の顔が固まり……おれとアウラはそんな令嬢らしからぬ言葉(というかドスが効いた声)にギョッとするが、グランだけはクスクス笑っていた。


「リジー。本音が漏れてるぞ」

「あら……つい本音が。どうも脳内お花畑みたいだから、つい言っちゃったわ」

「止めてやれ。そんな脳内お花畑に現を抜かす王子達がいるんだぞ?まぁ……あんな尻軽女に骨抜きにされてるとなると、この国の未来が心配になるけど」

「そうよねぇ?」


 ほのぼの毒を吐く二人におれとアウラは互いに身を寄せる。



 一言で言って、恐い。



 なんか放たれる威圧感が凄い。

 完全に只者じゃない……いや只者じゃないんだけどさ?なんか、ヤバい気配が、二人から流れ出ていた。


「さて……やろうと思えば俺達の力で、お前達を社会的に抹殺できるんだが……いや、物理的にも国ごと沈めてーーー」

「いいえ、グラン。少し本気でやれば大陸ごと物理的に海に沈むわ」

「…………そうだった……」


 いや、〝そうだった〟で済む話じゃなくないか?

 大陸沈めるってどんな天災だよ。


「まぁ、でも?所詮、他国……いや、他大陸の話だ。そこまでの介入はお門違いだろ」


 グランはそう言いながら、アウロ達を冷たい目で見る。

 その視線に射抜かれた彼らは、ビクッと身体を震わせた。

 …………多分、おれでもビクってなるよ……うん。


「アウロ王子は、アウラ王女を国外追放すると言った。よって、アウラ王女はもう一人の女性だ。スイハが貰ったって問題はないだろう」

「そんなことっ……」



 バキンッ‼︎



 アウロの否定の言葉、その破壊音によって止まる。

 グランが軽く床を踏みつけただけで……床全体に大きな亀裂が入ったんだから。



何か言ったか(・・・・・・)?」



 笑顔の威圧と言うのは、まさに彼のような笑顔を言うのだろう。

 ガクガクと震え始める彼らを見て……おれはちょっとムスッとしながら、グランに文句を言った。


「おい。やっぱりなんか、無駄にお前が格好いいところ、持ってってないか?」

「…………いや……王族相手の脅しは王族の方が……」

「…………一応、俺も王族扱い?だからな?多分………」

「あ、そうだったな」


 グランが納得するってことは魔王も多分王族なんだろう。

 そーいや人の姿に擬態したままだったな。

 おれは隠していた二角を露わにする。



「では、改めてご挨拶を。俺は……《第Ⅱの魔王》スイレンの甥、水龍のスイハと言う。アウラは、俺が貰い受けるぞ」



「………………え?」


 アウラだけでなく、その場の参加者達が全員固まった。



「というか、俺を牢屋に放り込んでくれたんだ。慰謝料代わりにアウラを貰っていったって文句は言えないよなぁ?」



 数十秒間の沈黙ー。

 そして……会場に絶叫が響いた。



 えっ⁉︎何っ⁉︎






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