第26話 場の空気を無視していくスタイル
新連載同時刻に始めました。
「引きこもり魔法使いが、(自称)ペットになりました。−ついでに師匠にもなりました。−」
よろしくね‼︎
ただいまの私達は〜……某スパイ映画さながらの様子で、結婚式の会場である聖堂の天井に潜んでいます☆
まぁ、正確には天井付近にある装飾バルコニーもどき(?)になんだけれどね(少しノリが昔に戻っている)。
「ってか、二人は王子と公爵令嬢ってのは驚いたけど……天井に潜んでていいのかよ」
「いーんだよ。庶民派王子だから」
「みーとぅー」
「庶民派って意味間違ってるよな。というか、その王子王子しい格好と令嬢らしいドレス着といて庶民派……」
まぁ、確かに?
グランは王族の正装だし、私も翡翠色のドレスだけど……スイハ(互いに呼び捨てしあうことになったわ)の藍色の着物も結構決まってるわよね?
あ、余談だけど……無事に恩赦でスイハは牢屋から解放されたわ。
おめでとう。
閑話休題。
眼下に広がる人々の姿。
大聖堂というヤツだから、かなり人が多いわね。
五百人くらいかしら?もっと?
ちょっとよく分からないわ。
「蟻みてぇ」
「ちょっとグラン。それに見えてきちゃうから止めて頂戴」
「おれはもう蟻にしか見えなくなったぞ」
なんて馬鹿な会話をしていたら、厳かなメロディーと共に入場してきた王女様。
柔らかな金髪に、珊瑚のような柔らかな瞳。
純白のウェディングドレス姿を纏った彼女は……あら、凄い美人ね。
「へぇ。アレがスイハの嫁さん」
「おれの嫁じゃねぇよ」
「似たようなもんだろ」
なーんて、今度はグランとスイハが馬鹿な会話を始めたら……事件が起きた。
…………まぁ、情報収集してたから知っているけどね?
「アウラ王女を拘束しろっ‼︎」
「なっ⁉︎」
「「「‼︎」」」
アウラ王女は問答無用で、兵士達に取り押さえられて言葉を失くす。
あぁ……驚いてるわ。
可哀想に。
「アウロ‼︎一体、これはっ……‼︎」
彼女の前に、彼女と同じ色を持つ青年が立つ。
アウロ・マニ・ルーデント。
一言で言えば、アウラ王女の弟ね。
「アウラ王女。貴女には殺人未遂の容疑がかかっている」
「……………は?」
「自分の婚約者を、王都で殺そうとしたでしょう?」
その言葉に彼女は目を丸くする。
あぁ、そうなっちゃうわよねぇ。
もう既に隣でスイハが飛び降りそう(グランが羽交い締めにして止めてる)になってるし。
「わたしを殴った男。ヤツは貴方が放ったのだろう?」
「…………………何を、言って……?」
そう言ったのは、紺色の髪を持つ純白のタキシードの青年……オーフェ・ルニオン。
スイハが殴った王女の婚約者。
彼の言葉を捕捉するように、王子は告げたわ。
「アウラ王女があの男によく会っていたと、報告されている」
「っ‼︎」
つまり、スイハのことを……アウラ王女が放った暗殺者だと考えているのだと。
うわぁ、作り話も甚だしいわ。
「違うわ‼︎わたくしはそんなこと、していない‼︎」
「嘘をつけ‼︎わたしだけでなく、ナナリー男爵令嬢もいたんだぞ‼︎」
「オーフェを殺そうとするなど……未来の女王が聞いて呆れる‼︎アウラ王女、貴様を断罪する‼︎」
「待って下さい、アウロ様‼︎オーフェ様‼︎」
『ナナリー⁉︎』
そんな中、一人の令嬢が飛び出してくる。
ブルネットの髪の、珊瑚色のドレスを着た少女が。
それに伴ってアウロと、オーフェだけでなく……複数人の青年達も出てきて。
…………………………あらぁ……なんか、実物見るとイラっとするわぁ……。
「なんか、イラっとするな。あの女」
「それな。というか、グラン口悪いわよ」
「あ、すまん」
思わず無音ハイタッチしちゃったけどね。
「ナナリー‼︎どうして出てきたんだ‼︎危ないだろうっ⁉︎」
「僕達がどうにかすると言ったのに……」
「でもっ、私がいけないんです‼︎私が、皆様達と仲良くしたから……」
あざといくらいの涙声に、目尻を拭う仕草。
それを見て、思わず真顔になってしまう。
………きっと、私とアウラ王女、今の顔が一緒ね。
しかし、その顔を見て彼女はワザとらしいくらいに身体を震わせた。
「アウラ王女‼︎ナナリーを睨むな‼︎」
「………睨んでないわ。真顔になっただけよ」
アウラ王女はなんとなく展開を読んだのか……溜息を零しながら、パンパンと手を叩いたわ。
「で?何?暗殺者を放ったとしてわたくしを処刑するの?」
「処刑っ……⁉︎」
ナナリー(もう呼び捨てでいいわよね)がふらりと倒れそうになり、青年達に支えられる。
それを見てアウロ王子が叫んだ。
「そんな物騒な単語、言葉にするな‼︎ナナリーの負担になるだろうっ⁉︎」
「じゃあ、わたくしをどうする気なの」
「そんなの国外追放にーー」
「よし、なら俺が貰って問題ないな」
『ーーーーーえ?』
「「あ」」
思わず隣を見たけど既にそこには、スイハの姿がなくて。
慌てて下を見れば、アウラ王女の身体が背後から何かに抱き締められているところだった。
スイハは彼女の腕を取って、手袋に包まれた手の甲にキス……そして……。
「迎えに来たぞ、アウラ」
呆然とする王女様に優しく微笑んでいたわ。
「スイハ⁉︎」
「あぁ、昨日ぶり」
スイハはニコッと笑ってアウラ王女のベールを捲る。
そして、その唇に噛み付くようにキスをした。
「っっっ⁉︎」
「きゃー‼︎見た、グラン‼︎凄いわ‼︎なんか、凄いわ‼︎」
「リジーさん、落ち着け(笑)」
だって、凄いんだもの‼︎
腰と顔の輪郭を撫でたり……アウラ王女の顔真っ赤だし‼︎
無駄に音を反響する聖堂だから、チュッ…チュッ……と甘い音を鳴らすキスが響くし‼︎
なんか、甘いわ‼︎凄く‼︎
「楽しい‼︎」
「そうだなぁ〜。他人のを見るのは楽しいよなぁ〜。取り敢えず、興奮し過ぎると落ちるから落ち着こうな〜」
「あっ」
「えっ」
グランの忠告も虚しく、興奮し過ぎた私は身体を乗り出し過ぎて地面へと落ちていく。
グランはそれを見て、絶叫した。
「だから言っただろぉっ⁉︎馬鹿リジーィィィィィィィッッッ‼︎」
…………うん。
あんなに慌てるグランの顔を見るのは初めてかもしれないわ。
愛されてるわね、私。
グランが一瞬で私の元へ転移して、抱き抱える。
そして、スタッと地面に着地したわ。
唐突に現れた私達に驚く皆さん。
あ、挨拶をーーーー。
「この馬鹿がっ‼︎怪我したらどうするつもりだったんだ‼︎危ないだろ⁉︎」
「うわっ」
「うわっじゃない‼︎心配したんだからな⁉︎何落ちてんだ‼︎テメェ、とっとと妊娠させて二度と危ない真似できないようにさせるぞっ‼︎」
「ちょっ、ちょっと待って、グラン。柄がかなり悪いわ。落ち着いて?」
「落ち着いてられるか‼︎自分の大切な女が落ちていく瞬間なんて、心臓止まるかと思ったわ‼︎二度と危ないことすんな‼︎お前が死んだら、俺も死ぬからなっっっ⁉︎」
ギュウッッッ‼︎と息が苦しくなるまで抱き締められる。
あぁ……まさか……こんなにグランが心配するなんて、思ってもみなかったから……。
えっと……その……。
「ごめん、なさい……グラン……」
「……………………」
「心配させて、ごめんなさい……グラン……」
私達はチートだから。
多少の危険があっても、心配しなくて大丈夫だと思っていたの。
でも、それとこれとは別なのよね。
チートだからって、死なないとは……限らないんだものね。
やだ……今更、恐くなってきちゃったわ。
「…………馬鹿リジー……もう、俺の手を離すなよ」
「うん、うんっ……‼︎」
震えているのが分かってしまったのか、グランが優しく私の背中を撫でてくれる。
彼の背中に手を回して、ゆっくり互いの顔を近づけたその瞬間ーーーー。
「いや、何してんの」
スイハにツッコミ入れられたわよね。
……………ごめんなさい。
スイハ達のこと、忘れてたわ。




