第17話 入学前から疲労困憊
甘々を目指しつつ、著者の体調不良と相談しながら更新していきます。
今後もよろしくお願いします‼︎
ガルディア魔法学園の建物は歴史を感じさせるアンティーク調の洋館で……全寮制となっている。
寮は男子寮、女子寮、王族用の特別寮の三つで、基本的に他の寮に入るのは禁止されていて。
まぁ、未婚の男女が互いの寮に入るなんて問題よね。
特別寮なんてそれこそ王族と厳しい審査を通った使用人くらいしか駄目なんだけど……。
「私、こんなに特別寮にいていいのかしら……」
「俺が許してるんだから、いていいだろ」
ソファに座ったグランの膝の上に座ったまま、私は溜息を零す。
入学式の5日前に入寮して、明日から学園が始まるのに……私は、荷物を置いた時ぐらいしか自室に戻っていなかった。
「……一応、婚約者も立ち入り禁止だったわよねぇ?」
「そーだなぁ。まぁ、関係ないだろ」
グランはニコニコしながら私のうなじにキスをする。
………いや…関係あると思うわ。
「一応、ルールは守らなきゃいけないと思うわ」
「もう破ってるから問題ない。それに、授業が始まったら一緒にいる時間が少なくなるだろ?この5日間は充電期間だったんだよ」
「…………いや、去年の会う量になるだけよね?それどころか同じ学園に通うから、去年よりも会う時間多くなるわよね?」
「いいんだよ。それに、リジーだって俺と一緒にいるの満更でもなさそうだったじゃないか」
グランがニヤリと笑って私の頬にキスをする。
………いや……それは、ね?
好きな人と一緒にいれるのは……満更でもないのは当たり前だと思うのよ。
………じゃなきゃ、こうやってお膝抱っこも受け入れないし。
……………グランだって私の本音に気づいてるはずなのに……意地悪だわ……。
「それに……リジーにはあの聖女がいる女子寮にいて欲しくないし」
「………グラン……」
………グランは、ヒロインが私に何かするんじゃないかって心配してくれてるのね。
私は嬉しくなって、彼の頬に手を伸ばそうとして……。
「できればずっと、イチャイチャしたいし」
………………。
それを聞いて動きを止めたわ。
「………ねぇ、イチャイチャしたいってのが本音っぽそうなのだけど」
「いやいや、1割ぐらいは女子寮にいて欲しくないって思ってるぞ?」
「9割はイチャイチャしたいのね」
ちょっと呆れ気味になりながら、グランの身体に寄りかかる。
もぅ……。
「まぁ、聖女を警戒するに越したことはないだろ。だから、俺と一緒にいてくれ。側にいてくれたら……守りやすいからさ」
「守られなくても大丈夫よ?」
「リジーが強いってのは分かってる。けど、好きな人は守りたいと思うモノだろ」
優しい笑顔でそう言うグラン。
私は……思わず目を瞬かせてしまったわ。
「…………グランって精神的にもイケメンね」
「…………え?今更?」
「ちょっと惚れ直したわ」
「………………」
あ、顔が赤くなった。
グランは口元を手で覆って、そっと目を逸らす。
「…………ちょっと…待て……急に言うなよ……照れるだろ……」
「………あら、可愛い反応」
ピシッと固まるグラン。
…………あ、嫌な予感。
「……………………よし。リジーも可愛い反応しようか」
「え?」
ガシッと逃げられないように掴まれる手と腰。
……………………どうなったかは、皆さんのご想像にお任せするわ。
*****
「おはよう、リジー」
女子寮の前でキラキラとした笑顔を浮かべる、濃紺色の制服を着たグラン。
私はジトーッとした目で見ちゃったわ。
「…………元気そうね」
「あぁ、勿論」
「………私は元気じゃないわ」
「それは大変だ」
ワザとらしい態度のグランに、思わず溜息が出る。
昨日の夜……いや、朝ね。
ほとんど睡眠時間なしで、転移で自分の部屋に戻って。
軽くシャワーを浴びて着替えたらこの時間。
本当、目の前で王子スマイルを浮かべてるグランが憎らしい……。
「………………………」
「………………………」
無言で見つめあうこと数十秒。
すれ違う女子生徒達が野次馬感溢れる視線を向けてくるけれど……私達は目を逸らさない。
そして……。
「グランヒルト様っ⁉︎」
…………………奴が来た。
背後を振り返れば頬を赤くしたリリィの姿。
聖女だからか、制服の色は白。
彼女はグランを見て、慌てて駆け寄って来たわ。
「おはようございます、グランヒルト様‼︎」
「………………おはよう、リリィ嬢」
うわぁ、凄いわねぇ。
私が一切、見えてないわぁ。
というか、グランと私は互いに向き合っていて周りの人達も話しかけられない感じだったのに……鈍感なのかしら?
「あの、どうしてここに……?」
リリィは何を期待してるのか頬を赤くしながら聞く。
グランは無表情のまま、それに答えたわ。
「婚約者のフリージア嬢を迎えに来たんだ」
「…………………婚約、者……?」
そこでやっとリリィは目を大きく見開く。
え?まさか、私に気づいてなかったの?
「グランヒルト様には……婚約者が、いるんですか……?」
「いや、この間紹介しただろう。何を言ってるんだ?」
スパンッと切り捨てるグランは、絶対零度の空気を放ちながら私の方へ歩み出る。
え、何する気かしら?
「行こう、リジー」
「きゃあっ⁉︎」
勢いよく抱き上げられて、お姫様抱っこされる。
そして、リリィに向ける視線と打って変わって、蕩けるような笑顔付き。
周りの女子生徒達は、「キャーキャー」黄色い歓声を挙げているし。
……………というか、ちょっと待って。
至近距離でこの笑顔は、駄目だと思うの。
顔が熱くなるし、心臓が痛くなる。
「………ちょっ……ちょっとグラン‼︎皆さんが見てるわ‼︎」
「見せつけてるんだよ。俺の可愛い婚約者をね」
私の頬にキスをする。
それと同時にまた響く黄色い声。
グランはそんな声も、リリィも無視して歩き出したわ。
「なっ……なんでっ……こんなことっ‼︎」
彼の肩を叩きながら聞けば、グランは周りを見渡して……私の耳元に唇を寄せる。
そして、囁くように答えたわ。
「イチャイチャしとけば横恋慕しようなんて思わないだろ」
………それってつまり……。
「………リリィに見せつけるため?」
「それもあるけど、リジーに無理させたのは俺だからな。責任を取らせてもらおうかと」
「……………っ‼︎」
ニヤリと笑いながら告げられたその言葉に顔が熱くなる。
きっと、今の私の顔は茹でダコ状態だと思うわ。
「………愛してるよ、リジー」
「うぅぅぅっ……馬鹿っ‼︎」
顔が上げられなくなったのは、グランの所為よ‼︎
*****
「…………グランヒルト様に……婚約者……」
私は、初めて知ったその事実に呆然とした。
聖女になって、王族の方達と謁見した。
その時、出会った人。
亜麻色の髪に翡翠の瞳……この国の王子様。
とっても格好良くて、私が知る男性の中で一番だった。
ーーーー初恋、なの。
私は聖女で、彼は王子様。
聖女となった人は、王子様と結婚する人が多いって聞いていたから……この出会いは運命だと思ったわ。
私は、グランヒルト様と結婚するんだと思ってたの。
なのに、彼には婚約者がいたなんて……。
「…………ううん、まだ諦めることはない」
まだ結婚してないならチャンスがあるはず。
だって、簡単に諦められない。
それだけ彼が好きなんだもの。
それに……グランヒルト様に私を好きになってもらえば、私と結婚してくれるかもしれない。
だから……。
「私の、初恋だもの。諦めないわ‼︎」
私は大声で宣言しながら、学園に向かって歩き始めた………。