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第16話 乙女ゲームの舞台が幕を開ける………かもしれない


なんか今回は駆け足です‼︎

ごめんね‼︎


今後もよろしくどうぞ‼︎


 





 その日ー。



 いつも通り冒険者スタイル(ただの一般人の服装)&認識阻害魔法を発動させて、冒険者稼業に精を出そうとしていた私達は、王都から出ようとしたところで大きな物音を聞き……足を止めた。




「キャァァァァァァア‼︎あたしの子がぁぁぁぁあっ‼︎」



 その叫び声を聞いて、私とグランは慌てて駆け寄る。


「どうしたんだ‼︎」

「どうやら馬車が倒れたみたいで‼︎」


 グランが野次馬らしき人に聞いて、小さく舌打ちをする。

 どうやら、小さな女の子が下敷きになっているみたいね。


「リジーっ‼︎」

「えぇ‼︎」


 私は身体強化の魔法を発動させて、グランと一緒に馬車を押し退ける。

 野次馬達が歓声を上げているけど、それどころじゃないわ‼︎


「ナナ‼︎ナナ‼︎」


 母親らしき女性が下敷きになっていた女の子に駆け寄る。

 私達も同じように駆け寄った。


「………出血が酷いな……」

「下手に動かさない方がいいわ‼︎頭を打ってるみたいだから‼︎」


 グランの呟きに頷きながら、女の子の身体を揺すろうとしたお母さんを止める。

 医療知識はそんなにないけれど、下手に動かさない方が良いってのは分かるもの。

 それよりも、この子をどうにかしない……。



「…………ナナ……?」



 そんな時、一人の少女が野次馬の中から現れる。

 薄緑の髪に柔らかな桃色の瞳。

 普通の服を着ているのに、酷く不釣り合いな可愛らしい顔立ち……。



 ……………あ。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ‼︎」



 パァァァァァァア………‼︎



「「………………………」」



 ……………黄金色の光がその少女から溢れ出す。

 黄金の光はキラキラと、怪我をした女の子に降り注ぎ……その傷を癒していく。

 あぁ……私、馬鹿だわ。

 今日はあの日じゃない……。

 そう……全ての始まりの日ー……。

 近所の子供が大怪我をしたことで、神聖属性魔法が発動する……。



 …………………聖女覚醒イベント……。



 そう思った次の瞬間、私はグランにお姫様抱っこされてその場から離脱していたわ。



「えっ⁉︎」


 人の波を這うように走り去るグランはまるで一陣の風のようで。

 というか、本当に凄まじい勢いで事故現場から離れて行ってるわね⁉︎


「俺達は何も見てない、興味がない。はい、リピート・アフター・ミー」

「えっ⁉︎俺達は何も見てない、興味がない?」

「よし。という訳で、とっとと依頼達成しに行くぞ」


 あっ、聖女覚醒イベントを見なかったことにするのね⁉︎

 結局、後で会う羽目になると思うけれどっ⁉︎


「……グ……グラン……‼︎」

「大丈夫。ヒロインらしき女を見ても、俺が好きなのはリジーだった。つまり、ゲームの強制力はないっ‼︎よっしゃぁ‼︎これで何も気にせずリジーとイチャイチャできる‼︎」

「ちょっと‼︎昔みたいな性格になってるわよっ⁉︎」

「これが喜ばずにいられるか‼︎リジー、愛してる‼︎」

「馬鹿ぁっ‼︎いきなりそんなこと言わないで‼︎恥ずかしいわ‼︎」

「じゃあ、二人っきりの時に言う‼︎」


 グランはキラキラと笑顔を振り撒きながら、私の頬にキスをする。



 ちなみに、その日の討伐依頼はとんでもない速さで終わって。

 帰ってからは、グランにデロデロに甘やかされたわ………。





 余談だけど……後日、グランが私に告白したことを他の冒険者(幼い頃から見てくれているから、既に保護者感覚)達が凄いお祝いしてくれたわ。

 なんか、自分の子供の結婚のように。



 ……………恥ずかしい……。







 *****







 そんな聖女覚醒イベントから1週間後ー。




 王宮にあるグランの部屋で、グランは凄まじい顔をしていたわ。




「…………グラーン?大丈夫?」


 ソファに座ってイライラする彼に歩み寄り、顔を覗き込む。

 あら……本当に御機嫌斜めね?


「大丈夫じゃない。何が悲しくて聖女になんか会わなきゃいけないんだ……そんな暇あったらリジーとイチャイチャしてる方が良い……」

「…………もぅ……」


 そう……今日は王侯貴族と聖女リリィが謁見する日。

 一応、聖女というのは大切な存在だから……国家として聖女を援助するのよね。

 まぁ、だから同じ学園にも入れたんでしょうけど。

 取り敢えず……他の皆さんがいる前にキレてるグランを出すのもなんだから……グランのご機嫌を直しましょうか。


「ほら、私も隣にいるから……それで我慢して?」

「二人っきりでデロデロに甘やかしたり甘えたり……気持ち良いコトとかしたいんだが?」


 グランは色気たっぷりの笑みで私の腰を引き寄せて、翡翠色のドレスの上から足を撫でる。

 私はそんな彼の頬をペチリッ、と叩いたわ。


「駄目よ?そういうのは夜にして」

「………なんだかんだと言って、リジーも受け入れてくれるようになったのが嬉しいな」

「……………馬鹿……」


 グランの首に腕を回して、耳元でコソッと囁く。



「………なんだかんだと言って…私だってグランを愛してるんだから……受け入れるわよ」



「っっっ⁉︎」


 ガバッと顔を真っ赤にしながら、耳を押さえるグラン。

 ……………可愛い反応ね。

 私はニヤニヤしながら、グランの頬を撫でる。


「………顔真っ赤よ?」

「…………クソ……ヤラレた……」


 グランは悔しそうに呻きながら、私を抱き締めつつソファに仰向けで倒れ込む。

 彼の身体に寄り添いながら、私はクスクスと笑う。


「偶には私が主導権を握るのも良いわね」

「………これ以上、可愛くならないで……俺の理性が焼き切れる……」

「嫌よ?いつも私の方がヤラレてばかりだからね。もし、理性を飛ばして獣になったら、調教してあげるわ」

「……………それはそれでちょっと興味が……」

「変態」


 またペチリッと彼の頬を叩いて戯れる。

 そして、互いにそのまま顔を近づけてキスをする。

 …………至近距離で見たグランの瞳は、飢えた獣みたいで。

 …………私を求めてくれることに対する優越感と、ほんの少しの恐怖。

 グラン、本当に沢山愛してくれるんだけど……いつか本当に食べられちゃいそうなのよねぇ……。


「これ以上は駄目ね。グラン、行きましょう?」

「…………二人でサボらないか?」

「駄目よ。ほら、早く」

「ちぇっ」


 グランは大きな溜息を吐いて、私を抱いたまま起き上がる。

 そして、片手で私を抱っこしたまま……歩き出したわ。


「ちょっとグラン?」

「少しでも側にいたいから」


 隣を歩いていたって変わらないと思うのだけど。

 ………まぁ、グランの好きにさせましょうか。


「…………優しく運びなさいよ」

「勿論。俺のお姫様」









 そうしてやってきた謁見の間。


 どうやら私達が最後だったみたい。

 私が抱っこされているのを見て先に来ていた貴族達は、〝あぁ、いつものか〟と訳知り顔。

 ………まぁ、グランの私への溺愛はいろんな意味で有名だものね。

 胸焼けしてそうな顔してるけど、若干慣れてくれたわよね。


「………グランヒルト……」


 国王陛下が呆れたような顔をする。

 グランは一切、悪びれた様子もなく王座の横……王族の立ち位置に立った。


「すみません、リジーを愛でてて遅れました」

「…………はぁ…まぁ、いい」


 国王陛下ももう諦めてるわね。

 隣にいる正妃様も苦笑してらっしゃるし。

 …………第二王妃は……いないみたい。

 私もグランの抱っこから降ろしてもらい、彼の隣に立つ。

 先に立っていた、グランよりも濃いめの色合いの容姿を持つアズールヒルト第二王子がグランを見てクスクスと笑ったわ。


「いつも通りですね、兄上」

「まぁな。アズだって婚約者殿と仲睦まじいと噂だぞ?」

「兄上達を見てたら、わたしだってそうしたくなりますよ」


 …………昔は、アズールヒルト王子のお母様がグランを殺そうとしたりしてたみたいだけど、本人達はこうして仲がいいのよねぇ……。

 ちなみに、アズールヒルト様の婚約者はカメリア・タウナー侯爵令嬢といって、落ち着いた紅色の髪を持つ可愛らしい女性なの。

 私もカメリアさんとは仲良くさせてもらってるわ。



「聖女リリィ様のご入場です」



 ……そんなのんびりした空気を遮るように、衛兵が告げる。

 …………やっと、聖女リリィのご登場ね。

 確か……ゲームだとここでグランがリリィに一目惚れするんだけど……。

 ゆっくりと開いていく謁見の間の扉。

 薄緑色の髪を白い花で飾り、白いレースのドレスを纏った彼女は……まさにその名の通りの白百合のようで。



 彼女は、とても美しい姿で……その場に現れたわ。



 周りの貴族達も「ほぅ……」と息を漏らす。

 そして……グランは……。



「ふわぁ……眠い……」



「………………………」



 欠伸をしていたわ。



 隣にいるアズールヒルト様は、バイブレーションで笑いを堪えてるし。

 いや、まぁ……私も笑いを堪えているけど。

 グランっ……流石にここでも欠伸はどうかと思うわっ……‼︎


「…………えっと…お初にお目にかかります、国王陛下。王妃様」


 そんな私達を傍目に、リリィは慣れないカーテシーをして国王夫妻に挨拶をする。

 陛下も威厳ある雰囲気で対応していたわ。


「うむ。まずは聖女としての覚醒、おめでとう」

「あ、ありがとうございます……‼︎」

「聖女とは邪を払い、人々に希望を与え、癒しを与える存在。ゆえに我が国を持って丁重に遇させてもらう。まずは、学問からと思うのだが……今年度からガルディア魔法学園に通うというのはどうだろうか」

「あの、名門校に⁉︎」


 リリィは頬を赤くして興奮する。

 このガルディア魔法学園っていうのが乙女ゲームの舞台ね。

 つまり、私と同級生……ゲームの設定通りね。


「第二王子のアズールヒルトは来年だが、第一王子のグランヒルトは昨年、その婚約者であるフリージア嬢は今年度入学することとなっている。年齢的に……二学年に編入となるだろう。何かあればグランヒルト達を頼るといい」


 国王陛下に名前を呼ばれて、グランは嫌そうな顔をしながら口を開く。



「グランヒルト・ファイ・ディングスだ」



『……………』


 えっ?終わり?

 グランさん……そんな適当なご挨拶……。

 あ、顔がやる気ないわね。

 ……………凄く面倒そうだわ。

 私とアズールヒルト様は、また笑いを堪えながら挨拶をする。


「ア……アズールヒルト・ファイ・ディングスです。仲良くして下さいね、聖女殿」

「グランヒルト様の婚約者であるフリージア・ドルッケンですわ。仲良くして下さいませ」


 私は笑いを堪えつつ優雅にカーテシーをする。

 公爵令嬢だもの。

 内心笑ってても優雅に演じれるわ。



「………………(ぽ〜っ……)」



 でも、私達の挨拶を聞いていないリリィ。

 …………やだわ……グランに見惚れてる……。

 嫌な気分になりそうになった私は、グイッと腰に回された腕に目を見開く。

 慌ててそちらを見れば、ニヤリと笑うグランの姿。

 そして、耳元で囁いてきた。


「俺にはリジーだけだよ」

「…………分かってるわよ」

「………愛してる」


 色気たっぷりな囁きに私の腰が砕けそうになる。

 だけど、そうなる前にグランが更に強く私の腰を抱いて……倒れないように支えてくれる。

 ………うぅぅぅ……私の気持ちを見透かしてるわね……。

 恥ずかしいけど……リリィに一目惚れしてくれなくて良かった……。

 リリィの方が一目惚れしたみたいだけど……。


「…………カメリアに会いたい……」


 私達のイチャイチャに当てられたのか、隣でボソッと呟くアズールヒルト様。


「……………はぁ……」


 国王陛下はリリィの様子も、私達の様子も全部理解したみたいで大きな溜息を吐く。

 面倒だと思ってるのは私達の方よ。





 こうして、聖女リリィの登場で……乙女ゲームの舞台が幕を開ける………かもしれないわ。







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