第11話 グランの方が魔王様っぽい
よろしくね‼︎
畳の部屋に正座で座り。
緑茶を啜りながら、ホッと一息。
急須で入れた緑茶のなんと美味いことか。
「そちらのお三方は飲み慣れていそうだの」
スイレンさんが急須でお代わりを淹れてくれる。
あざます。
「まぁな。久しぶりに飲んだけど」
「やっぱ生粋の日本人ってことなんだよ」
「グラン君もリジーちゃんもちょっとおっさんくさいよ……」
「「あ〝?」」
「失礼致しました」
マッキーは沈黙する。
そんな私達の会話を見てスイレンは笑った。
「ふはっ。仲が良いのだな」
「え?眼科行ったら?」
「眼科行った方がいいよ?」
「酷いっ‼︎」
完全にマッキーが沈没するのを確認して、私はなんとなく聞いてみた。
「ところで、なんでオネエさんの格好してたの?」
「む?」
「女装だよ、女装」
「あぁ……」
スイレンさんは中性的な美貌を翳らせて、目を伏せる。
とてもアンニュイな雰囲気が無駄に似合ってて驚くんだけど。
「儂、綺麗だろう?」
『…………………は?』
私達はそれを聞いて固まる。
いや、まさかのナルシスト発言ですかい?
「儂は綺麗で魔王だからな。魔族達が儂の妻を勝手に見繕おうとするのだ」
「………なんか先が見えたぞ」
グランはピクッと反応して、苦笑した。
「勝手に妻を見繕われそうになってたから、女装して女性達に忌避されるようにしてたとか?」
「まさにその通りだ。女装している男の妻になどなりたいと思わぬだろ?」
「あー……なら、俺みたいに婚約者作っちゃえばいいのに。それかこいつみたいにハーレム作るか」
「ハーレムはご遠慮願いたいの。夫婦とは一夫一妻が望ましかろう」
「「あ、仲間やん」」
私とグランはガシッとスイレンさんと握手する。
スイレンさんは驚きつつも、それを受け入れた。
「何故、握手?」
「俺らもアンチハーレムだから」
「ハーレム自体を否定する気はないけどね」
「なるほど」
その後、ほのぼのと会話しながらお茶を飲み……。
暫くしてから、グランが「さて」と切り出した。
「本題に入るか」
「うむ。では……」
スイレンさんもスッと目を細める。
グランもいつものおちゃらけた感じではなく、王子としての威厳ある雰囲気になった。
「改めて。俺はグランヒルト・ファイ・ディングス。ディングス王国の第一王子だ。こちらは俺の婚約者であるフリージア・ドルッケン公爵令嬢」
あら?私もご挨拶した方がいい感じっすか?
私も令嬢モードになって、微笑んだ。
「ご紹介に与りました、フリージアと申します。よろしくお願い致しますわ」
私達の身分を知らなかったハーレムズの姉ちゃん達(特にナターシャさん)は口と目を大きく見開いて固まる。
すまん、話すのが面倒だっただけなんだ。
教えなかった理由は特にない。
スイレンさんも王子と公爵令嬢が魔王に会いに来たという事実に少し驚きつつも、挨拶を返した。
「《第Ⅱの魔王》スイレンだ」
「軽い自己紹介が終わったところで、早速話に入ろう。まず、そちらが聞きたいことがあるんじゃないか?」
グランは大人顔負けの笑みを見せる。
スイレンさんは少し狼狽しながらも……真剣な眼差しで、浄化魔法の魔鉱石を持ち上げた。
「この魔鉱石は?」
「俺が作った。浄化魔法は俺の婚約者であるリジーが。半永続化させたのは俺だな」
「………これを…幼子が……」
「まぁ、浄化の魔鉱石を渡したとなると、何が目的だと思うだろう?」
「…………お主との会話は、一国の王を相手取るようだな」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
グランはクスクスと笑う。
グランのトークは大人顔負けだね‼︎凄いぞ‼︎
「タダより高いものはないと言うし……そちらとしては俺が何を目的として、どんな取引がしたくて、あんたに渡したのかが気になるところか」
「………本当に、お主との会話は嫌になるな」
………確かに、自分の心理を見透かすような会話をされたら嫌にもなるか。
グランったら魔王をも会話術で圧倒するってヤバくね(笑)?
「では、こちらの要望を告げよう」
「……………」
スイレンさんは凄く警戒するような顔をする。
しかし、その顔を見て……彼は苦笑した。
「安心しろよ。戦争に協力しろって言うつもりはないし、俺の目的はその逆だ」
「…………何…?」
「魔王領とそれを取り囲む5つの国と同盟を結んでもらいたいだけだ」
スイレンさんは目を大きく見開く。
しかし、グランを疑うような視線で睨む。
「…………何が目的だ?」
「簡単だ。言ってしまえば、この大陸内での戦争が起きないようにしてしまいたいんだよ」
「………そんな…聖人のような目的で……」
「まさか。俺は聖人じゃないし、人類平和のためとかじゃないぞ?俺が楽したいからだ」
グランはそこでやっと息を吐く。
そしたら、いつもの適当モードに戻ったみたいで。
え?凄くね?なんでそんな二重人格みたいに簡単にキャラ変えられんの?
「はっきり言って……魔王領相手にしろ他国相手にしろ、戦争になると俺が面倒になるじゃん?だって俺、王子だし……否応なしに戦争に駆り出されるだろうし」
「………うむ?」
「そーなるとさぁ。戦争を隠れ蓑にして俺を殺そうとしてくる奴がうじゃうじゃ出てくるんだわ。そいつらの対処をするのも面倒だし」
「………そんな、ことが起こるのか?」
スイレンさんは驚いた様子で言う。
というか、私も驚きなんだけど?
戦争で隠れて、グランを殺そうとする人がいるの?
「あははっ、起こる起こる。だって俺、赤ん坊の時点で既に毒殺されかけてるし」
…………ねぇ、グランさんやい。
それ、笑顔で言うことじゃなくね?
「王位継承権争いってヤツだな。俺が第一位だけど、側妃やら第二王子派の奴らからしたら面白くないだろうからな」
「…………つまり、それ以前に戦争が起こらないようにすると?」
「あぁ。今回の魔王との同盟ついでに、他国との同盟も成り立たせる」
「子供でしかないお主にできるのか?」
「あははっ……できるできないじゃなくて、するんだよ」
グランは笑う。
そして、一気に威圧を放った。
『ヒィッ⁉︎』
魔王を含めて、私以外の全員がビクリッと震えて後ずさる。
グランはそれを確認して、威圧を霧散させた。
「これでも、俺にできないと思うか?」
顔面蒼白になった皆は何も口を出せない。
それほどまでに、グランヒルトという存在に怯えている。
仕方ないなぁ……。
私はスイレンさんの代わりに質問した。
「グラン。力技で解決するの?」
「まさか。力技は最終手段だ。普通に口で丸め込む」
「そっか。なんか、グランの方が魔王様みたいだね」
「なんか、それはどう反応すればいいか微妙な感じだわー……」
グランは私の言葉に苦笑するけど、マッキーwithハーレムズは同意するみたいに頷いてるからね。
どんまい‼︎
「取り敢えず、どう?もう暴走の心配もいらないと思うけど?」
「………それ、お主が交渉相手である以上……拒否権はないよな?」
「拒否権ぐらいあるぞ?」
「…………はぁ…」
スイレンさんは困ったような顔になる。
そして、すっと頭を下げた。
「全て、貴殿の随意のままに」
「ん?そんなに畏まらなくていいんだが?」
いや、畏っちゃうんだと思うよ?
グランの方が格上って感じがするし。
「……いや…普通に、貴殿の方が強いだろうに……」
私の予想は正解みたいだね?
まぁ、とにかく。
チャラララチャチャチャ~ン♪
スイレンがグランの仲間になった(某RPG風)‼︎