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第77話 第1回ダンジョンアタック〜マリカ&セーゲル(8)〜


ちょっと島田が忙しくなってるので、いつものように気長に次の更新をお待ちください。

読者の皆様にはご迷惑をおかけしてますが、どうぞよろしくお願いします!m(_ _)m


 




『先に言っておく。女王戦はーー……』



 王の間に入る前の、最後の休憩。

 その時に聞かされた女王戦での注意事項を頭の中で確認しながら、あたくし達は珊瑚や真珠、貝殻などで装飾された美しくも大きな扉を押し開けていく。


「…………まぁ……」


 目の前に広がったのは、美しい大広間。

 真っ白な床に、紫水晶の柱。天井の色鮮やかな薔薇窓から光が差し込み、空間を色鮮やかに染め上げている。

 そんな広間の奥ーー横に長いタイプの王座の肘掛けに上半身を預けながら横たわる王冠を被った人魚。

 このルートの中ボスである女王は血のように赤い瞳を細めながら、パチリッと開いていた扇子を閉じた。


『よう来たのぅ。あれは汝らを歓迎しよう』


 微笑んだ女王の声が響くと同時に、女王の左右に先ほどまで戦った王女達が並ぶ。

 忌々しそうに睨んでくる第4の王女。目線を彷徨わせる第3王女。爛々と勇ましく微笑む第2王女。そして……淡々とこちらを観察する第1王女。

 女王はパサリッと扇子を開いて口元を隠しながら……微妙な視線をセーゲルへと向けたわ。


『…………が、戦いを始める前に。その、とんでもない格好をなんとかせぬかのぅ?』

「「…………あっ」」


 言われて思い出す。

 そういえば……セーゲルはその屈強な身体に似合わないフリフリピンクなワンピース着てたわね、と。

 彼も自分の格好を思い出したのか……〝ボンッ‼︎〟と顔を赤く染める。

 あたくしは口元に手を添えて、目を丸くした。

 無駄に可愛い反応してるわね、セーゲル。


『多分、下っ端どもの目を欺くためだったのだろうが……吾らは男だからと見境いなく襲うような尻軽ではないからの。普通の格好に戻ると良い。勿論、準備が整うまでは吾らは攻撃せぬことを約束しよう』

「えっと……なら、お言葉に甘えて」


 流石に女王戦でワンピースのままで、というのは障りがあったのでしょう。見た目的にね。

 セーゲルはコソコソと広間の隅に移動して、後ろ向きでワンピースを脱ぎ始める。……別に。下に水着を着ているのだから、そんなに恥ずかしがらなくていいでしょうに。

 とにもかくにも。まさか向こうから言ってくるとは思わなかったわね。

 セーゲルの着替えが終わるまで手持ち無沙汰になったあたくしは、同じように彼を待っている女王達に向けて声をかけたわ。


「悪いわね、待ってもらってしまって」

『構わぬよ。流石に目に毒だったからのぅ。…………悪い意味で』


 チラリッと視線を逸らす女王達の顔には、ありありと〝ヤバい格好でした〟と書いてある。

 …………まぁ、えぇ。そうね。冷静に考えると、確かに凄い格好だったけれど。

 でも、そんな自分に似合わない格好をさせられて涙目になっているセーゲルが可愛いのに。それが分からないなんて……。

 ……とはいえ、そんな可愛いセーゲルを他にヒトに見せてしまうのは勿体無いですし。可愛い一面はあたくしだけが知っていれば良いんですもの。

 あたくしは女王の呟きに、敢えて何も答えなかったわ。


「すまない、待たせた」

『うむ。もう問題ないかの?』

「あぁ」

「えぇ」


 ワンピースを丁寧に畳んで戻ってきたセーゲルは一言謝罪してから、あたくしにワンピースを渡してくる。

 それを胸の谷間にしまってから、改めて仕切り直し。

 女王は『ごほんっ』と咳払いしてから、王女達に命じたわ。


『よし……今後こそ本番じゃ。さぁ、吾の可愛い娘達?吾を楽しませておくれ』


 ーーぶわりっ‼︎

 青い光の波動が女王から放たれ、真っ白な床が青に染まり、水面のような模様へと変わる。

 ………あたくしは緩みかけた警戒心を高めながら、構えた杖を強く握り締めたわ。


「…………マリカ、打ち合わせ通りに」

「えぇ」


 女王固有の能力ーー《聖海認定》。

 戦場フィールドを自分の配下に置き……味方には攻撃強化付与を。敵には弱体効果を付与する能力そうよ。

 ここで強化されるのは勿論、王女達で。弱体化させられるのはあたくし達。

 現に、上手く身体が動かない。腕を持ち上げるだけで、かなりの負荷がかかる。

 セーゲルから身体の鈍化(この効果)を聞いていたけれど……実際に体感すると、その恐ろしさがよくよく理解できたわ。


『畏まりした。我ら4姉妹……女王陛下に勝利を捧げてみせましょう』


 第1の王女が恭しく頭を下げながら、そう宣言する。

 それから身を翻したと思ったら。彼女達はあたくし達に向けて攻撃態勢へと移る。

 女王戦では最初、王女達4匹と戦う。前衛は当然ながら第2王女。第3王女は後方からの魔法攻撃で、第4王女が全体支援。そして、第1王女は指揮ではなく斥候スカウトが担うような遊撃役になるそうよ。

 この戦闘では、連戦時とは違って王女達の配下がいない。相手取る数は先ほどよりも少ないけれど、王女達自体が強い。それに加え、あたくし達の動きは鈍くなっている。

 きっと連戦の時よりも手こずることになるでしょう。

 けれどもあたくしは負ける気がしなかったわ。



 だってこの時のために……今の今まで、力を抑えてきたのですもの。



「《静寂の帷ーー今、ここに降りる。移ろわぬ華ーー今、咲き乱れる。領域支配ーー氷雪華域》」


 ーーパァァァァア‼︎


『‼︎‼︎』


 青く染まった床に氷の華が咲く。氷の華から花粉のように、氷の粒が溢れて。キラキラと光を反射しながら、空間に広がっていく。

 それと同時に苦しげに顔を歪める魔物(人魚)達。

 胸元を押さえながら驚愕に目を見開く女王と王女達に向けて、あたくしはニヤリとほくそ笑んでやったわ。


『お、主……‼︎吾の支配を、()()()しよったな⁉︎』


 王座から女王が叫ぶ。

 あたくしは動かし易くなった身体を軽く解しながら、それに応えた。


「言ったでしょう?あたくしは《境界の魔女姫》。永き刻を生きた人ならざるモノ。大雑把に言ってしまえば貴女達と大差ない存在よ。ゆえに……貴女達に出来ることが、あたくしに出来ないはずがない。ご理解いただけて?」

『……お主が氷属性の使い手であることは知っておったが……まさか、()()()()()を理解しておるとは……‼︎今までの闘いでは、それを隠しておったのかっ‼︎』

「ふふっ……伊達に永い時間を生きてはいないわ。あたくしは、永い生に胡座を掻いて、研鑽を怠るような女ではないの。それに、容易く手札を見せるはずがないでしょう?実力を隠すのも戦略の1つ。現に貴女達はあたくしの実力を低く見積もっていたようだし。まだまだ甘いわね、()()()()?」

『っ……‼︎吾をっ……馬鹿にしおってっ……‼︎』


 悔しそうに歯噛みする女王に、あたくしは挑発するような笑みを向ける。

 まぁ、実のところ?あたくしも内心歯噛みしたい気分ではあったけれど……相手にそれを悟られたら精神的な優位に影響が出るでしょうから、表情には微塵もそんな気配を出さないように気をつけたわ。

 でも、想定外だったわね……。予定ではこの《氷雪華域》という領域支配魔法で《聖海認定》の効果を打ち消すつもりだったというのに。まさか向こうの能力がそれなりに強力だった所為で、完全に上書きすることが出来なかっただなんて。

 けれど、こちらの弱体化は無効に出来たのだから、不幸中の幸いというモノかしら?

 あたくしはそんなことを考えながら身体強化を発動させ、王女達に強襲をかけたわ。


「《氷よ、弾けろ》‼︎」


 あたくしが向かう先にいるのは第3王女。しかし、氷の礫が向かう先は第1王女の方。

 いち早くあたくしの攻撃に気づいた第2王女が悲鳴のような声をあげる。


『っ‼︎姉上、ドライッ‼︎』

『そちらを優先なさい、ツヴァイ‼︎』

『ハッ‼︎』


 第1王女は自分で対処出来ると思ったんでしょうね。妹を救うように指示を出す。

 それに従った第2王女はあたくしの攻撃に割り込んできて、杖の先端による突進を防御する。

 至近距離で交わる視線。あたくしは思わずニヤリ。

 その笑みで引っ掛けられたことに気づいた彼女は、ハッとした様子で叫んだ。


『フィーアッ‼︎』

『キェッ⁉︎』

「遅い」


 ーーズブッ‼︎

 第4王女の胸に埋まっているのは、大剣の刃先。

 グランヒルト様から仕込まれた《縮地》を用いて背後から攻撃をしたセーゲルが、そのまま大剣を下へと振り斬る。


『っ……‼︎‼︎』


 驚愕に目を見開き固まった第4王女は、サラサラと崩れる砂のように崩壊した。

 怒りに染まった第2王女が反撃に出る前に充分な距離を取り、セーゲルもその場から離脱して隣に戻ってくる。

 残された王女達は警戒心を最大限に高めながら、こちらを睨み見据えてきた。


『シャァ‼︎シャァァァッ‼︎』

『落ち着きなさい、ドライ。気持ちは皆、貴女と同じです』

『チッ……普段は陛下のお力で敵が鈍化(弱体化)しているからつい油断してしまったな……』

『そうですね、ツヴァイ。回復役フィーアが初めにやられたのは痛いですが……仕方ありません。全員、警戒を怠らないように。これ以上、油断しないように。全力で事に当たりなさい』


 成る程ね……反応が鈍かった理由はそれなのね。

 普段は《聖海認定》の効果でこちらが弱体化しているから、余裕を持って戦えていたのでしょう。

 けれど、あたくしの《氷雪華域》の効果であたくし達は鈍化(弱体化)しなかった。つまり、普段の敵と違って素早い攻撃に移れた。だから奇襲が成功した、ということかしら。

 でも、それもこれっきり。油断してたから上手くいっただけでしょうし。ここからは相手も警戒を怠らなくなることでしょう。その前に回復役を落とせたのは僥倖だったわね。

 ここから先は……ほんの一瞬の気の緩みが命取りになる。

 そしてこの戦いは……。



 セーゲルが〝()()()〟を超えるか否かの戦いとなるでしょう。



「行くぞっ、マリカッ……‼︎」

「っ……えぇ‼︎」


 彼から声をかけられたあたくしは覚悟を込めて、走り出す。



 こうしてあたくし達の……ダンジョンアタック中ボス戦の幕が上がったわ。






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