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第76話 第1回ダンジョンアタック〜リリィ&スイレン(7)〜


不思議だね。何も植えてないはずの鉢植えから。


大葉が出てる……????(困惑)


そんな宇宙なにゃんこを背負ってしまった島田がお送りしますリリィ達のダンジョンアタック(7)。


よーろしくねー!


 




 スイレン陛下がグール達を倒して、浄化して、倒して、浄化して。

 ノルから『いや、あの……そろそろ甲板に行きません??』と言われるぐらいに船の隅々まで回ること数時間ーー。


 あたし達は今ーー船の甲板までやって来ていた。




「随分と、薄暗くなっちまったね」


 船の中を回っている間に、海上の天候が悪くなっていたらしい。

 海賊船に乗り込む前は綺麗な光景だったのに……光が差し込まなくなった海底は、どんよりとした薄暗い姿に様変わりしていた。かなり不気味な雰囲気だ。

 胸騒ぎって言うのかね?なんだか嫌な感じがして……あたしは顔をしかめずにはいられなかった。


「リリィ嬢?大丈夫か?」


 そんなあたしの不安に、目を隠してるってのに目敏く気づいたらしい。あたしを包む陛下の腕に力が入る。

 あたしは陛下の手をポンポンッと軽く叩いて、異変がないかと、辺りを見渡しながら告げた。


「どうも嫌な感じがするんだ。気をつけた方が良さそうだよ」

「相分かった。リリィ嬢も気をつけてくれ」

「あぁ、勿論さ」


 そんな風に警戒心を強めたあたし達だったんだけど……。


『ふぃー‼︎やぁっとここまで来たわね‼︎さぁさぁ、お2人さぁん⁉︎船長室はあそこだぜー⁉︎オレらの船を乗っ取ってくれちゃったお馬鹿さんをシバきにいくわよ‼︎』


 そんなあたし達に向かって……ノルが変なお嬢様言葉で先に進むよう、催促してくる。

 ……。

 …………。

 ………………よくまぁこんな微妙な空気の中で、そんな態度でいられるモンだね……?いっそ尊敬するよ……。

 でも、そのノルの言葉が攻略が進むトリガーだったらしい。

 船の後方にある扉が、ギィィィィ……と、耳障りな音をたてながら開いていった。


『おやおや。これはこれは……我らが()船長ノル殿じゃねぇーですか』


 ーーカッ、カッ、カッ。

 ブーツの踵が床にぶつかる音を響かせながら、()()()が現れる。

 扉から現れたのは……禍々しい黒いオーラを纏った、人と骨が半々ぐらいの化け物だった。

 豪華だったであろう裾がボロボロになったコートに、大きな羽がついた帽子。袖から除く両手には骨だけの手が見えていて……顔の半分も同じように、骨が剥き出しになっている。

 落ち窪んだ眼孔には眼球はなく。代わりにあるのは轟々と燃える真っ黒い炎。

 その悍ましい姿にあたしは息を呑んでーー……。


『出たわね‼︎パドリックッ‼︎ここで会ったが100年目よ‼︎大人しくオレに船を返しなさぁい⁉︎⁉︎』


 ーーヒョォォォォォ……。

 こんなシリアスな空気の中でなんでかお嬢様喋りを続行したノルに……一気に脱力したよ…………。

 というか……流石に、脱力せずにはいられなかったよね……。これには……。


『…………アンタ……相変わらずだな……』


 どうやらむこうさんも頭痛を覚えたらしい。骨の指先で眉間の間を揉んでいる。

 多分、生前(?)もこんな感じだったんだろうね。

 なんだろう……。敵なのに……。ノルにとても苦労をかけられたんだろうなって思っちまったよ。


『……はぁ。こんな空気の中で話を進めるのはすっげぇー……本っっっ当に嫌なんだけど。うっざいことに進めずにこのまま……という訳にはいかねぇーからさ』


 ノルにパドリックと呼ばれた男は獰猛に、眼窩の炎を轟々と燃え滾らせながら笑う。

 そして、腰にぶら下げていたサーベルを鞘から抜き取ると、その刃先をあたし達へ真っ直ぐに向けた。


『船を返すのはお断りだ。折角……アンタを殺して、手に入れた船だぜ?そう簡単に返す訳ないだろ‼︎この船を返して欲しいならば……』


 ーーガタガタガタガタッ……‼︎

 船が揺れて、軽い何かがぶつかり合う音がする。船の外板がいはんから白い何かが上ってきて、甲板に降りていく。

 それは、無数の骨の魔物ーースケルトン。



『俺を倒して、無理矢理にでも奪ってくんだなぁ‼︎』



 ーーカータカタカタカタッ……‼︎

 パドリックの声に呼応するように、スケルトン達の頭が揺れて骨がぶつかり合う不快な音が響き渡る。

 けれど、あたしは全然動じてなかった。

 だってさ?


「陛下」

「……あぁ」

「他人任せになっちまって申し訳ないんだけどさ……お願い、してもいいかい?」

「ふっ……勿論だ」


 陛下が自身の目元を覆っていたリボンを、目隠しを外す。

 そう……今、ここにいるのはスケルトン。()()()()()()()

 ってことは、だ。


「グールじゃなければ儂の本領発揮よっ‼︎」



 スイレン陛下がやっと、この海賊船で本気を出せるって訳だ。



「《水月の型 零雨》ッ‼︎」


 ーーカチンッ。


『『…………はぇ??』』


 ノルとパドリックの呆気に取られた声が漏れる。

 それもそうだろう。なんせ、刀を納刀した音が響いたと思ったら次の瞬間にはスケルトン達が木っ端微塵に斬られてたんだから。


『『はぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎⁉︎⁉︎』』


 2人の驚愕した絶叫が響く。

 あー……すっごい。分かってたけど本当、陛下ったら強いね。

 さっきまでの怯えてた可愛い陛下が、嘘みたいだ。



 本領を発揮している今の陛下は……とっても、格好いい。



「リリィ嬢には情けない姿ばかり見せてしまったからな。少しは良いところを見せねば」


 不敵に笑った陛下は、油断することなく敵を見据えている。

 パドリックはハッと我に返ると、慌てた様子で口を開いた。


『いやいやいや、ちょっと待て‼︎ちょっと待て⁉︎何者なんだ、テメェッ‼︎』

「何者と聞かれたら、しがない剣士だが?」

『んな訳あるかっ‼︎たかが剣士風情が強化した俺の配下達を瞬殺なんてあり得ねぇーんだよっ‼︎なんでそんな一瞬でスケルトン達を倒せてーー』

「良いことを教えてやろう、パドリックとやら」

『はぁ⁉︎』


 パドリックの言葉を遮った陛下は、腰を低く落として刀の柄に手を添える。

 それは確か……居合いと呼ばれる構え。


「儂は元々、それなりに強い方だが。こんなにも貴様らを瞬殺できるほどに強くなったのは……なんかちょっとおかしい友らが起こすアレやコレに巻き込まれたからだ」

『……………はぁ??』

「そして儂は‼︎その友らよりも遥かに‼︎弱い‼︎」

『はぁぁぁぁ⁉︎⁉︎そんな訳あるかぁぁぁぁぁぁっ⁉︎⁉︎ーーーーあっ』


 ーー斬ッ‼︎

 瞬きをした間。ほんの一瞬でパドリックの背後に移動していた陛下は、刀を抜刀した構えのまま止まっている。


「《水月の型 止水》」

『…………そ、ん……な……‼︎』


 驚愕に目を見開きながら、サァァァア……と、塵となって散っていくパドリック。主人を失くした帽子とコートが、パタッと床に落ちる。

 それを見たあたしは両手を組んで、静かに冥福を祈った。

 後、〝本当にスイレン陛下よりも強い人間(※フリージア様達)はいるから、嘘じゃないよ〟というダメ押しも忘れずにね。

 祈り終わったあたしは顔を上げ、ぽかぁ〜んっと立ち尽くすノルに声をかける。


「ってな訳で、終わったよ。ノル」

『…………嘘ぉ〜ん……終わるのはっや。パドリック、出オチやん』


 思わず本音が漏れたらしい。

 確かに終わるの早かったから、普通の人なら驚くだろうね。

 でも……。

 スイレン陛下が言ってた通りーーフリージア様達がってたらもっと速かったんだろうから……この程度じゃあたしらは驚かないかな……。

 …………地味に非常識に毒されてきてるな、あたしも……。


「ノル殿。パドリック?とやらが倒せと言ったから実際に倒したが。これでよかっただろうか?」

『え?あ、うん……大丈夫。めっちゃなんか、不完全燃焼だけど問題なし。えーっと……なんだっけ……あ、そうだ。ありがとね、オレの船を取り戻してくれて』


 あたしの隣に戻ってきた陛下に声をかけられてハッとしたノルは、そう言ってから落ちていた帽子とコートを拾い、そっと胸に抱く。

 彼が静かだったのはその時まで。


『よっしゃぁー‼︎それじゃあ気を取り直して行くか‼︎』


 パッと振り返った時には、ノルは帽子を被りながら元気よく声をあげていた。


『へ〜んしんっ‼︎』


 ーートゥルルルルルルンッ‼︎

 どうしよう。シリアスが完全崩壊するような、変な効果音がしてる。いや、シリアスはノルがいる時点で崩壊してたか……。

 真顔になったあたし達の前で、ノルの身体からキラッキラと光が放たれる。凄い、眩しい。目を開けてられない‼︎

 ガタガタッと揺れる海賊船。バキバキバキッと、船が壊れてるんじゃないかって錯覚しそうな恐ろしい音が響き渡る。

 まさかぶっ壊れんのかと不安になって目を開けたら、信じられない光景が目に入ってきた。

 穴が空いていた床や壁が塞がり、折れていたマストも元の戻っている。幽霊が出そうな(実際に出てた)王道なオンボロ沈没船は、見る影もない。

 そこにあったのは……絵本なんかを見てイメージする海賊船よりも数割美しい、船の姿。

 小綺麗な格好で舵輪ハンドルを手に取ったノルはニッカリと笑うと、ピシッと人差し指を海上へと向けて指差した。


『準備いいか⁉︎野郎ども‼︎錨を上げろー‼︎サンタ・ポラリス号ーー発進‼︎』

『アイアイサー‼︎』


 ノルがキリッとした声で号令をかけると、パッと現れた船員達が忙しなく動き始め、グンッと船が前に進む。

 急に動き出したモンだから、その反動であたしはバランスを崩さずにはいられなかった。

 でも、陛下が横からサッと支えてくれたお陰で、転倒せずに済む。


「へ、陛下‼︎ごめんっ、支えてくれてありがとね‼︎」

「いや、構わぬよ。だが……ノル殿‼︎動かすならば一言、声をかけるぐらいしても良いのでは⁉︎」

『おっと、悪い悪いー‼︎んじゃあ今度はちゃんと声をかけるわ‼︎』


 …………ん?()()


『準備はいいかい、お2人さん‼︎』

「えっ、ちょっ」

「待て⁉︎何をするつもりでーー」



『ーーーー()()ぜ』



「「……………………はっ⁉︎」」


 ーーガクンッ‼︎

 推進力が増したのか、勢いよく船が海上へと進んでいく。


「っ‼︎リリィ嬢‼︎」


 慌てた様子の陛下はあたしを抱き抱えて、柵に結ばれていたロープを掴む。

 その行動に嫌な予感がしたあたしは、離されないように慌てて、陛下の身体に思いっきり抱きついた。


「構えろっ‼︎」

「っっ‼︎」

『浮上ォォォォ‼︎』


 ーーザッパァァァァァン‼︎

 激しい水飛沫が飛ぶ。

 雲1つない青空に、燦々とあたし達を照らす太陽が浮かんでいる。




 そして、あたしと陛下は……言葉を失った。







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