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第74話 第1回ダンジョンアタック〜リリィ&スイレン(6)〜


誤字報告ありがとうございます。


最初は珍しくシリアス風味です(笑)

今回も〜よろしくどうぞっ( ・∇・)ノ


 





 リリィ嬢は、とても危うい。


 感性ーー特に〝共感性〟と呼ばれる感覚が、鋭敏だからなのだと、儂は思う。



 共感性ーー。

 これを簡潔に説明するならば、他人の気持ちや場の空気を敏感に感じ取れる感覚のことをこう言うのだとか。

 この共感性が強い人は言葉にされなくても、その人の心の内を察せれるらしい。だからこそ逆に、他人の感情を自分のことのように錯覚してしまうこともあるそうだ。

 結局何が言いたいかと言うと……リリィ嬢はこの共感性が強いため、必要以上に他人に()()()()()()()ようであった。

 あの偽聖女が良い例だろう。

 長年身体を乗っ取られていたというのに、彼女は怒る様子もなく……それどころかあの偽聖女の幸福すら祈っていた。


 普通はもっと怒るはずなのだ。

 リリィ嬢は理不尽にも10年もの時間を奪われていたのだから。

 普通はもっと嘆くはずなのだ。

 ただそこで、自分の身体を乗っ取った〝誰か〟の行動を見ているだけしか出来なかったのだから。

 普通はもっと恐れたはずなのだ。

 あの時は……本物のリリィ嬢が自身の身体の主導権を取り戻せるかなんて、分からなかったのだから。

 普通はもっと絶望するはずなのだ。

 もしかしたら……リリィ嬢はあのまま。偽聖女に身体を奪われたままで、一生を終えることになっていたのかもしれないのだから。


 なのに、リリィ嬢は偽聖女を赦した。赦してしまった。

 それはきっと、リリィ嬢はあの偽聖女に深く同情してしまっていたから。

 あの偽物の気持ちを、思いを的確に感じ取って。それが自分のモノであると錯覚してしまっていたからなのではないかと。儂は思うのだ。

 そうでなければあんな所業、赦せるはずがない。赦せるはずが、ないのだ。


 儂は恐い。

 良く言えば情が深い。悪く言えば情が深過ぎるから、必要以上に相手に深入りし過ぎてしまう……そんなリリィ嬢が。

 …………いつかこの子はこの共感性の強さの所為で、取り返しのつかないことをしてしまうのではないかと。そう、思えて……ならなくてな。

 ……現に、あの偽聖女の一件があることだし。

 …………もしかしたら。この子はもっと酷い目に遭うのではないかと。それで命を落としてしまうのではないかと。

 そんな未来が……あり得てしまえそうで。儂はそれが、恐ろしくて堪らない。


 ゆえに儂は、リリィ嬢をこの世に留める言葉を紡ぐ。言霊という名の呪いをかける。



 彼女の情がいつか、その身を滅ぼさぬようにと。


 自分勝手な祈りを込めて。




 *****




「前から3体っ‼︎1列だよっ‼︎」

「《貫け》っ‼︎」



 あたしの指示でスイレン陛下が、水の柱を真っ直ぐに放つ。

 1列に並んでいたグール達は貫かれて、消滅するーー……なんてことはなく。

 キラキラと輝きながら、腐乱死体から半透明の幽霊へと姿を変えた。


『…………あ、れ……?』

『おれ、らは……』

『何を……』


 下っ端海賊風の衣装を着た彼らは、人の姿に戻った半透明の手の平を見て目を見開く。

 そんな彼らの前にノルは〝どーんっ〟と立って、偉そうにドヤ顔をした。


『正気に戻ったなぁ〜⁉︎子分ども〜‼︎』

『『『ノ……ノル船長‼︎‼︎』』』

『んもう〜‼︎簡単に乗っ取られやがって〜‼︎何してんだよ、お前ら〜‼︎』

『『『はぁ⁉︎⁉︎その言葉、そっくりそのままお返ししますけどっ⁉︎⁉︎』』』


 …………なんなんだろうね。この会話、今回が初めてって訳じゃないんだけど。もう何度か繰り返してるんだけど。

 …………毎回、ノルは同じ反応を、船員からされてないかい……?

 よく言えば親密フレンドリー。悪く言えば、親玉ボス扱いされてないって感じだ。

 ノルが本当に船長なのか……ちょっと疑問視したくなるやり取りだった。

 まぁ、そうは思っても実際のところ、船員達はノルのことを〝船長〟ってハッキリと言ってるから、本当に船長ではあるんだろうけどね……。


「ノル殿は随分と慕われておるようだな」


 あたしの背中に張りついたスイレン陛下が、彼らの会話の邪魔をしないように、小さな声で呟く。

 目が見えてないのに声だけで、なんだかんだ言ってるノル達が笑っているのを把握したらしい。

 確かに……目の前で笑い合って肘で突き合ってるのを見れば、慕われてるのは疑いようがない。

 あたしはこくんっと頷いて、それに同意した。


「そうだね。きっと、良い船長だったんだろう。…………海賊だけど」


 そう……和やかなやり取りをしている彼らだけど、忘れちゃあいけない。

(もう既に死んでるけど、生前の)ノル達は海賊だ。人を襲って、荷物を奪う、海の荒くれ者。

 ……まぁ、ダンジョンの中にいる海賊だから、実際に海賊として人を襲ったことがあるかは分からないけどね。

 こんなに良い人そうなのに、悪党だと言うのだから。人は見た目によらないんだな……と、改めて思った。


『んじゃ。そーゆーことで〜。またグールにされないように、その時が来るまで隠れなさいよっ‼︎』

『『『イエッサー‼︎』』』


 その命令に従って、オンボロ船の壁の中に消えて行く船員達。

 あたし達が話している間に、向こうも話がついたらしい。

 ノルはクルッと軽やかに振り返ってこっちを向くと、親指を立てながら笑った。


『お待たせ〜‼︎次に行ってみよー‼︎』

「あぁ、分かったよ」

「うむ。では、リリィ嬢。頼んだ」

「はいよ。歩くよ」


 あたしはスイレン陛下の腕を掴んで、足を進める。

 現在ーーあたし達は再度、1階(船の階層ってどういうのが正しいんだろうね?)を回っていた。

 さっきも隅々まで探索したけど、今はノルが同行してるからか。攻略に変化が起きたからだ。

 そう……それが今の光景。腐乱死体グールからの幽霊ゴーストへの変化。

 この現象が起こる前にもう既に何体か倒しちゃってたけど、それはもう仕方ないらしい。

 とにもかくにもこんな風に……グール達を倒してゴーストへと変えてやる(?)のが、この沈没した海賊船の攻略方法のようだった。


『にしてもさ〜空間把握能力に長けてるからなんだろーけど、されでもよく後ろの姉さんは目隠ししたまま歩けるよね〜‼︎補助役がいようがこんな足場が悪い場所じゃあ転ぶの必須だって言うのに』

「「……………」」


 前を歩く(浮遊する?)ノルの後ろ姿を見つめながら、あたしと陛下は黙り込む。

 まぁ、ね。ちょくちょく気になってはいたさ。

 …………どうもコイツ、勘違いしてるんじゃないかって。


「…………ノル殿」

『ん?何ー?』

「儂は、男だ」

『……………………へ??』

「儂は、紛うことなく、男だ」


 ーーしぃぃぃぃぃん……。

 思わず足が止まって、3人で黙り込みながら見つめ合った。痛いぐらいの沈黙ってこういうことを言うんだろうね。

 こんな気まずい空気の中、1番最初に我に返ったのはこの話を切り出したノルで。彼はギョッとしながら、スイレン陛下を指差した。


『は、はぁ⁉︎お、男ぉ⁉︎』

「男だ」

「男だね」

『こんなクールビューティーなのにっ⁉︎男ぉ⁉︎信じられないんですけど⁉︎』


 分かる、分かるよ。確かにスイレン陛下は中性的ーーぶっちゃけ女顔寄りーーな美人だ。

 でも、よく見れば喉仏出てるし。顔が綺麗なだけで、身体は鋼のように鍛え上げられてるのが分かるだろ。


『うっそぉ〜ん……結構、姉さんタイプだったのに……』


 愕然としているノルはどうやらスイレン陛下の容姿が好みだったらしい。

 それを聞いたあたしの眉間にシワが寄る。

 なんだろう……なんなんだろうね?すっごい胸がモヤモヤするよ。ううん、イライラする?


「安心せい。儂はノル殿は好みではないからな。例え女人であったとしても可能性はなかろうよ」

『容赦なくフラれたっ⁉︎あぁぁ‼︎でも、姉さーー……じゃなくて、兄さんほどの美人だったら男でもーー』

「ほれ。巫山戯とらんで、早う攻略を進めるぞ」

『やっぱり容赦ないっ‼︎‼︎』

「…………リリィ嬢?大丈夫か?」


 ギャーギャー騒ぐ2人に反して。黙り込んだあたしに違和感を覚えたのか、陛下が心配するような声をかけてくる。

 あたしは「大丈夫」と答えてから、お腹に回った陛下の手を強く掴んだ。

 …………本音を言うと、全然大丈夫な気がしない。でも、なんで大丈夫じゃないかが分からない。

 1つだけ確かなのは……ノル(コイツ)に、気を許しちゃいけないってことで。


「…………大丈夫だよ。先に進もう」




 そう言いながらあたしはジッと、ノルを見つめ続けた。





ノル『い、いやぁ〜ん(冷や汗)。瞳孔ガン開きで睨まれてるぅ……』(ガクブルガクブル……)


リリィ、無自覚な嫉妬


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