第73話 第1回ダンジョンアタック〜マリカ&セーゲル(6)〜
へい。一応祝100エピソードです。
ダラダラぐだぐだですが、よく続きましたわ。
これも全て読んでくださってる皆様のおかげですね。
長々とお付き合いくださってる読者の皆様に感謝を!
誤字脱字を報告してくださっている方々にも感謝を!
今後とも『悪役令嬢は乙女ゲームよりRPGがお好みです。』をよろしくお願いします!
では今回もいつものご挨拶。
よろしくどうぞっ( ・∇・)ノ
1匹目の王女を倒し、ある程度進んだところでーー唐突に、魔法による強襲がかけられた。
「っ‼︎」
垂れ幕の向こうから放たれた水の弾。
1つ目を避ける。避けたところを狙った2発目を魔法で凍らせて、砕く。その行動に被せるように3発目。あたくしは魔法を応用した防御壁でーー範囲を捨て、瞬発的に発動させたーーそれを防ぐ。そして、3発目に合わせて背中を狙ってきた4発目は、胴体を貫かれる前に身体を横にすることでギリギリ、その攻撃を避けることに成功したわ。
「セーゲルッ」
「マリカッ」
あたくしと同じように攻撃を防いでいたセーゲルが、俊敏な動きで移動して、背中を合わせてくる。
あたくしは攻撃を警戒しながら、敵の攻撃を分析を行う。
……まさか、魔法攻撃が放たれたのに、このあたくしが直前まで気づかなかっただなんて。
あたくしが魔法攻撃をここまで許してしまうなんて、本来ならあり得ない。でも、その魔法攻撃自体に隠蔽がかけられていたら話は別。
敵の姿を探す。見えないから姿の方にも隠蔽をかけているのかもしれないわ。気配も感じられないから、気配遮断もね。
ゆらりと、風もないのに揺れた垂れ幕。反射のように氷の針を飛ばすけれど、針は垂れ幕を突き抜けて壁へと刺さる。
唐突に7時の方向に気配を感じた。あたくしよりも近いセーゲルが走り出し、剣を振り下ろす。
でも、どうやら空振りのようで……それどころか彼の背後の空間から唐突に水の刃が迫る。
当然、容易く攻撃を受ける彼ではない。セーゲルは攻撃に気づいて間一髪でそれを躱し、元の位置に戻ったわ。
「……面倒だな」
「そうね。いやらしい攻撃だわ」
放たれる攻撃自体は恐れるものではない。でも、攻撃の仕方がやらしいわ。
魔法による気配遮断、隠蔽……気配を感じたはずなのにいなかったのも考慮すると幻惑あたりも、かしら?
気配遮断でどこにいるかを分からなくして、隠蔽で姿や水の弾を隠し、幻惑でそこに人魚達がいるかのように錯覚させる。
それに、ヒラヒラと揺れる垂れ幕を使って、視覚的にも惑わしてきてるわね。
きっと、これが次の戦いーー2匹目の王女からの攻撃なのでしょう。
でも……影からネチネチ、ネチネチと。うざったらしいったらありゃしないわ。
自分達は姿を隠して安全にして、一方的に嬲る気なのかしら?1匹目といい、王女タイプの人魚って〝イイ性格〟してるわね。
こういう陰湿なの、あたくし大っ嫌いよ。とても苛つくもの。
だからーー。
あたくしはとっとと、この茶番を終わらせることにしたわ。
「あたくしは《境界の魔女姫》」
あたくしは一歩、前に出る。
「始まりの境界線を越え、人ならざるモノに転じたモノ」
杖をくるりと回しながら、魔力を高めて。
「そして、数多の境界線を越え……《魔王》に次し高みへと辿り着きしモノ」
拡散させる。
「つまりね?」
見つけたわ。
「あたくしと魔法勝負をしようなんざーー」
身体強化を発動させて、一瞬で移動する。
目の前は何もない空間。けれど、あたくしの魔力が満ちた今であれば、見えないはずのものが見える。
そして、あたくしはーー。
「5000年、早くってよ」
思いっきり、そこにいるモノをぶん殴ったわ。
『ギョァッ‼︎‼︎』
叫び声と共に空間が歪む。滲み出るように現れたのは、ローブを纏った普通の人魚。
あたくしは(ほぼほぼ勘だけれど……)こちらを嘲笑っているだろう王女を逆に嗤って、そこに飛んだわ。
「貴女に言っているのよ、お馬鹿さん」
『ッ⁉︎⁉︎』
右の拳に左の掌を重ねて押し放つように肘鉄、そのまま右の裏拳、払って、左の正拳突き。最後の締めに、回し蹴りっ‼︎
全てが華麗に決まると、バンッ‼︎‼︎とその身体が壁へと叩きつけられる。
そして、今度こそ現れたのは……長いローブを深く被った人魚。
長い前髪の所為で、顔は分からない。
で、でも……ロ、ローブの上からティアラを被ってる……⁉︎という、ちょっとアレな格好のおかげ(?)で、コイツが2匹目の王女だと分かる。
あたくしはその格好に驚いているのを表に出さずに、再度拳を握り締めたわ。
「よくもまぁ、ネチネチと攻撃してくれたわね。さぁ、覚悟なさい。攻撃とはこうするのだと、教えて差し上げるわ」
握った拳を掲げて、ハンマーのように降り落とす。
『ギャァ‼︎』
攻撃が当たろうとした瞬間ーーハッと我に返ったらしい王女は水の膜を張った。
でも、そんなの関係ないわ。あたくしは拳に氷魔法を纏わせて、そのまま水の膜を凍らせて打ち砕く。
振り下ろした拳が床に当たって、バキッ‼︎とヒビが入った。けれど、王女は既にそこにいない。
あたくしはまた姿を隠したのかと拡散した魔力を意識して……。
「…………えっ」
普通にこの場から泳いで逃げる王女の後ろ姿を見て、間抜けにもぽかんっと口を開けてしまったわ……。
「…………えぇ…??」
そうしている間に、統率が崩れた雑魚どもをセーゲルが片付けてくれていたわ。
なんか、王女が逃げた瞬間、お遊戯でもしてるのかってぐらい、あたふたになったそうよ。
そうして数分後ーーあたくし達は若干の消化不良(?)を感じながら、小休憩を取りつつ先ほどの戦闘について会話をしたわ。
「…………先ほどの戦い、どうやって敵を見つけたんだ?」
「あぁ……あれはあたくしの魔力をこの空間に拡げたのよ」
「拡げた?」
「そう」
魔力は魔法を発動するためのエネルギーで、自分の魔力は自分で知覚出来るのが普通だわ。
そして、魔力と魔力は基本的に反発し合うモノ。稀に相性が良くて混じり合う人もいるけれど……今回の相手は魔物だもの。確実に反発すると思ったの。
だからーー。
「あたくしの魔力を空間に満たして……魔力が反発したところに敵がいるって寸法よ。反発が大きければ大きいほど、相手も魔力が多いか相性が悪いってことだから……王女である可能性が高いって推測したのよ」
「成る程……魔力にそんな使い方が」
「でも、こんなことが出来るのはほんの一握りだけでしょうね。なんせ、魔力は体外に出ると一気に扱いづらくなって、容易く散ってしまうんだもの。一定空間に留めておくことは、それだけ魔力操作に長けたヒトじゃないと厳しいと思うわ」
「む……。戦闘に応用することがと思ったんだが……。俺では厳しいか?」
「無理じゃないかしら?あたくしの他だと出来そうなのは……フリージアさん達か、スイレン陛下ぐらいじゃない?」
「うん、無理だな」
そうやって自分には無理だって認めるの、地味に凄いと思うわ。
「だが、良い勉強になった。ありがとう」
「えぇ。どう致しまして」
戦闘に関しては真面目なセーゲルは、わざわざお礼なんか言ってくる。
知識はいくら知っていても役に立つモノね。今回のこともいつか彼の役に立てば良いと、あたくしは思ったわ。
「でも……驚いたな」
「…………何が?」
「マリカは体術も得意なのか。素晴らしい連続技だった」
……あぁ。あの肘鉄からの回し蹴りまでね。
「戦闘中に止まって魔法を放つなんて、格好の餌食でしょう?」
「まぁ、そうだな」
「つまり、魔法使いにもある程度の機動力が必要だと思うのよ。それに……魔法使いって魔法防御は高いけど物理攻撃には弱かったりするものだから。だからあたくしは、人並みに接近戦も出来るように鍛えているのよ」
…………実のところ、今まで魔法でなんとか出来てしまう敵ばかりだったから。この拳を実際に振るったのは《第Iの魔王》ぐらいだったのだけど。
なんか今回は拳で解らなせなきゃいけない気がしたのよね。なんでそう思ったかは分からないのだけど。
「流石だ、マリカ。益々惚れ直した」
「…………ふぁっ⁉︎」
唐突にそんなことを言ってくるセーゲルに、あたくしの顔がボンッと熱くなる。
「俺も研鑽を積まなければな」
そう言って、キラキラとした目で見つめてくるセーゲル。流石のあたくしも、それには照れてしまう。
…………まぁ、ね。あんな、男にドン引きされるような攻撃を見てもこう言ってくるんですもの。
ちょっと絆されてしまうのは、仕方のないことでしょう?
「よし、そろそろ行くか。次は俺も良いところを見せたい」
「そ、そうね。頑張って頂戴」
「あぁ、頑張る」
休憩を終え、先に進み始めたセーゲルの後を追う。
…………本当、普段の阿呆っぽい彼と違って格好良いところばっかり見せてくるんだから。
…………嫌になっちゃうわね……?
*****
近づくにつれて露わになっていく、3戦目の敵達。
揃いの鎧と槍を構えて整列した人魚達と。その人魚達の前に立つ、一際大きな槍と無骨な鎧で武装したティアラを付けた短髪の人魚。
目を閉じていた王女がゆっくりと瞼を持ち上げる。
そして攻撃が届く範囲に入り前にーー彼女はドンッと、手に持っていた槍の石突きを床に叩きつけた。
『待たれよ‼︎』
「「‼︎‼︎」」
俺達の足が止まる。
今までの王女タイプが違ったから、今回も人語を介してくるとは思わなかったんだが……まさか、喋れたとは。
だが、ダンジョンでは喋れる魔物がいてもおかしくない。
加えて、人語を介せる魔物ほど強敵である傾向がある。俺は警戒を数段階、上げる。
3匹目の王女タイプの人魚。格好からも、立ち振る舞いからも、武人であることが察せられる。
この手の輩には……素直に応じた方が良い。
俺は手でマリカに攻撃しないように合図してから、口を開いた。
「貴女が次の敵か」
『如何にも。我が妹達は未熟ゆえ人の言の葉を介せぬ。妹達が布告もせず問答無用で貴殿らを攻撃したこと、まずは代わって謝罪しよう』
「いや。ここは戦場だ。貴女の妹達は正しいことをした。謝罪は不要だ」
『…………ふはっ。それもそうであるな。すまん。謝罪は撤回しよう』
「あぁ」
あぁ、やっぱりな。
こういう相手は、やり易いけどやり難いんだ。
『さて……既に察しているだろうが……わたしは無駄な殺傷は好まん。ゆえに、1対1の勝負を申し込む‼︎』
堂々とした宣告だった。
まさか、ここまで直球でくるとは思ってもいなかったから、呆気に取られる。
「ちょっと⁉︎誰がそんな申し出を受け入れるとーー」
「いや、受けよう」
「セーゲル⁉︎何言ってるの⁉︎」
だが、マリカが断ろうとしたので我に返り、俺は慌ててその言葉を遮った。
あぁ……マリカ。そんな怒り狂うような顔で見るのは、止めて欲しい。
ちゃんと、受けたのには理由があるのだから。
「あぁいう条件を突き出してくる敵は、基本的に受け入れた方がいいんだ。ダンジョン攻略への影響を考えたらな」
「…………へ?」
忘れてしまったか?
俺はSランク冒険者。ダンジョン攻略に関しては、そんじょそこらの奴よりも長けている自信がある。
「そうだな……有名な例だと、宝物殿の番人と称される魔物か。謎かけに答えて正解すれば、戦闘せずに宝物を手に入れることが出来る。だが、謎かけに間違って答えると……戦闘になる。今回のも、それと似たような感じがする。予想だと……1対1に応じなければ先の2戦みたいに乱戦になる感じか。後、横槍を入れるのも同じ結果になるだろう」
「…………でも、向こうがこちらを裏切る可能性だってあるわ」
「確かに、条件を突きつけておきながら反故にする魔物はいる。でも……あの魔物の振る舞いは武人のそれだ。それも搦め手を得意とするタイプじゃなくて、正々堂々と真正面から闘いを挑んでくるタイプの。経験則から言うと、ここは素直に受けておいた方がいい」
俺の言葉に彼女は顔を歪める。
きっと、色々と考えてくれているんだろう。これが本当に最善なのかとか、俺の身の安全は大丈夫なのかとか。
でも、彼女は渋々ではあるが納得してくれたようで。大きな溜息を零しながら、告げた。
「分かりましたわ。ここは貴方に任せましょう。あたくしは貴方の戦いを見守りましょう。でも……もしも奴らがこちらを裏切るようであれば。ーー分かっているでしょうね?」
「あぁ、勿論だ」
向こうが約束を違えたならば。その時は容赦なく参戦してくれて構わない。
でもこうやって一度、俺は全てを託してくれたのは。
きっとマリカからの信頼の証ーー……。
『そろそろ、準備はいいか?』
ここまで待ってくれていたらしい王女が声をかけてくる。俺は「あぁ。待たせたな」と言いながら、前に出る。
俺は目の前の敵を観察した。王女は獰猛な顔で笑っている。爛々と、瞳孔が挟まった瞳。ニヤリと笑う口角。抑えきれぬとばかりに、放たれた闘気。
……どうやら、戦闘狂の気もあるらしいな。これは、激しい闘いになりそうだ。
『女王が第2子、ツヴァイ』
「……Sランク冒険者《断絶》のセーゲル」
「『いざ尋常に……』」
大剣を握り締めた手に力を込める。
身体強化を発動させて……力を、溜める。
「『勝負っ‼︎』」
そして俺はーーその言葉を皮切りに、勢いよく床を蹴った。