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二物

作者: 埃川 彼芳乙


 貴方が私を見ている時、その瞳に映る私もまた貴方を見ている。

 貴方が笑えば、私も笑い。貴方が喋れば、私も喋る。


 考える時に見せる俯き加減。

 我慢する時に食む唇。

 小鼻を蠢かす時に表れる幼さ。

 驚いた時の窄まる瞳孔。

 笑った時の上がり切らない右の口角。

 緊張した時の微かに揺蕩する喉元と上擦る声。


 これら貴方の無意識の仕草や癖が堪ら無く、私を興奮させる。

 貴方が何を考えているのかなんて言うのは見るまでも無く分かるけれど、それを知った上で尚、貴方を見ていたい。

 貴方を細部まで知る事で獲られる愉悦は、貴方の意識までも蹂躙する様な感覚に似ていて、私を一層魅了する。


 でも、貴方の事をどんなに細緻綿密に知っても叶わない事が在るの。

 私には貴方に触れられ無い。触る為の手が無いの。

 貴方には手が在り、私に触れられるけれど、私にはそれが感じられ無い。

 不公平よね。人は皆平等の筈なのに。

 天は二物を与え無いと言うけれど、皆は最初から二物を与えられている。

 私だけ。私だけが皆と違う。

 でも、良いの。私はそれを不平等とは思わ無いし、不幸だとも思わ無い。そんな些末な事で嘆いたりはし無いわ。

 そうでしょう。だって、もう直に手に入る玩具を翹望(ぎょうぼう)する事は在っても悲嘆には暮れ無いでしょう。

 ただ、貴方を通して感じたい。それだけで私は満足なの。

 欲を言えば、貴方にも感じさせたいのだけれど。

 でも、それは良いの。

 今は貴方を見ていられる、貴方と一緒に笑っていられる、貴方と喋っていられる。この時間だけで。

 


 反転して映る、上がり切らない僕の右の口角。

 僕の左の口角を上げ、貴女は笑っていた。


 貴女が僕を見ている時、その眼に映る僕もまた貴女を見ている。

 貴女が笑えば、僕も笑い、貴女が喋れば、僕も喋る。

 

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