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戻るべき日  作者: 半間浦太
8/17

8話(現在)


「彼女の脳は特別だった。

 彼女には、他の生物の脳の微小管から僅かに漏れ出た物質が見えた」


 えーと。

 どういうこと?


「彼女には、過去現在未来に至る、他の全ての生物から漏れ出る物質が見えていた」


 過去と現在と未来? 大きく出たなぁ。


「微小管から僅かに漏れ出る物質は量子と混在化し、彼女にこの世の過去と未来を見せるに至った。

 量子学で言うところの波束の収束、それも限定的な……。

 彼女は、観測者だったのだ」


 はい? そうなの?

 うーん、あれだよね。量子の振る舞いは観測によって確定されるっていう……よく分からないあれ。

 彼女が、その観測者だっていうのか。


「そうだ。ところが、彼女はこの世に一人しかいない。

 彼女のことを知れば、いつか必ず、誰かが独占する」


 いやいやいや、それがお前たちなんだろ。

 悪いけど、お前たちが彼女を独占していたようにしか見えなかったよ。


「違う。我々はそれを阻止するために動いていた」


 はい?


「未来を収束できる観測者をクラウド化して人類全体で共有すれば、人類は次の段階に上がれると信じていた」


 人ひとりを犠牲にして人類を何とかする。

 理屈としては分からないでもない。

 でも、乱暴すぎるんだよ。そういうことをすると、誰かが傷つくって、なんで分からないんだ。


 いらいらする僕を無視して、おっちゃんは喋り続ける。


「これは全人類にとってためになる。それどころか、静かに死んでいく宇宙の未来を変えられる可能性をも秘めている。

 ……という推測を抱いていたのだよ。

 彼女をクラウド化するまでは」


 やっぱりな。何かあったんだな。


「彼女をクラウド化した今、私も彼女の機能の恩恵に与れるようになった。

 私には過去と未来が見えるようになった。他人の思考が分かるようになった。

 君に忠告を出したり、先回りすることもできるようになった。君が転生するのと同じ程度にはね」


 なるほど。先回りされていたのか。だから、僕のベッドの傍に突っ立っていたんだな。

 あれ? だとすると、僕の目の前にいるこのおっちゃんは『どこの』時間からやって来たんだ?


「『別の私』や『今までの君』を見て、別の可能性が思い浮かんだ。

 我々が彼女をニュートリノ走査した際に、彼女を構成する量子情報を傷つけてしまったのではないかと。

 その結果、クラウド化された彼女の機能は、未来を収束させるのではなく、未来を消費するという方向性に働いているのではないかと」


 未来を消費するかー。さらっと言ってくれるなぁ。

 それってさぁ、僕が転生したら、僕の来世が消費されるってことじゃないか。


「タイムマシンを使った空想をすることは?」


 ハイ無視ー。頼むから僕の感情を無視しないでくれる?

 まー、仕方ないから答えておくか。そーだね、たまには昔に戻りたいとは思ったりするね。


「なら、分かるはずだ。もしも遥か未来にタイムマシンがあるならば、未来人が大挙して現代に押し寄せてくるはずだ。

 では、なぜ未来人は来ない? 恐らくは、それは未来の法律で禁止されているか、あるいは」


 未来が消滅している?


「そうとも。未来が消滅していて、途切れている可能性がある。

 我々が彼女をクラウド化してしまったせいでね」


 やっぱりお前らが悪いんじゃないか。


「後悔はしているよ。

 我々はタイムマシンを破壊してしまったのではないか。タイムマシンを破壊することで、未来をも破壊してしまったのではないかと」


 後悔ねぇ。

 とりあえず、他人をマシン扱いするのはなんか違うと思う。


 おっちゃんは深々と溜息をついた。


「君に聞きたいことがある。

 君は、彼女のことをどう思っている?

 彼女は、君のことをどう思っている?」


 それは勿論、










 ……あれ?


 僕はふと思った。

 そういえば、僕は彼女をどんな目で見てたんだっけ?

 義務感? この子がいなくなったら怖くなる?

 でも、それは、僕だけが抱いている感情じゃないか。

 彼女が僕をどう思っているのかなんて、思いも寄らなかった。


 彼女は僕のことをどう思っていたんだろう。

 そんなの、考えたことも無かった。




 彼女のことを、自分の一部か何かだと思っているんじゃないかと。

 この時点で、僕は初めて気づいた。


続きます。

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