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戻るべき日  作者: 半間浦太
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7話(過去話)


 中学生になると、彼女は『少し変わった子』として見られるようになった。

 彼女がいじめられることはなかった。僕が根気よく彼女に『普通っぽさ』の演技指導をしていたから、いじめられるほどの逸脱性は見せなかった。

 それでも、ちょっかいを出してくる子はいたので、僕はよく彼女をかばった。

 かばいすぎるぐらいにかばった。我ながら過保護すぎたと思う。

 あまりにも彼女の近くにいすぎたせいか、僕と彼女は、いつの間にか『付き合っている』という体面になっていた。



 それでも、わけの分からない奴に絡まれる事態はあった。

 ある日、地球の全ては俺のものと信じて疑わないガキ大将みたいなクラスメイトが、彼女を体育館裏に呼び出して、「俺と付き合え」と迫った。

 僕は物陰に隠れて様子を窺っていたけれど、これはヤバいな、と感じた。何しろそのクラスメイトは悪い意味で有名だったからだ。

 俺の命令に従わない奴は殴り倒す。生徒だろうが教師だろうが関係ない。相手が病院送りになろうが知ったこっちゃない。そういう奴だったのだ。


 さすがに僕も肝が冷えた。いざとなったら僕が出なきゃならないんだろうな。でも病院送りはやだな。そんなことを思っていた。

 ガキ大将みたいなクラスメイトの命令に対して、彼女ははっきりと答えた。「ご、ごめんなさい! 無理です!」と。


 僕は反射的に飛び出していた。

 ああ、やっぱりな。こうなるんだよな。

 結果として、彼女の代わりに僕が殴られた。勢い余って変な体勢で彼女をかばったせいか、繰り出された拳は僕の首に命中した。

 後から彼女に聞いた話によると、あの一発で僕の首の骨は折れていたらしい。どんだけ運が悪いんだ、僕は。


「テンメェ、fmりbぢぇおlgfんみtじょh!?!!?」


 ガキ大将はわけの分からない言語(どこの世界の言語だよ)を発していた。第三者が物陰に隠れている事態など、想定外だったのだろう。

 薄れゆく僕の意識が捉えたのは、血相を変えて逃げていくガキ大将の姿だった。

 にしても、僕ってこんなに弱かったのか。まあ、そんなものだよな。ちょっとは鍛えておけば良かったかも。


 という感じで、僕はこの時、初めて死んだ。


 激痛が首周りを走っていた。どこかの神経がいかれたのか、まともに手足も動かせなかった。

 彼女は血相を変えて僕に近寄り、首筋にほっそりとした指を当てた。


「よっちゃん、大丈夫!? 今、手当てするからね!」


 彼女が何をしたのかは僕にも分からない。

 分からないけれども、『手当て』をされた僕は、なぜか生き返った。



 これが西暦2017年7月6日の話。

 今思うと、あのガキ大将は七夕祭りで、『俺は彼女持ちだ! どうだ、凄いだろう! 俺を褒め称えろ!』とアピールしたかったのかもしれない。

 ガキ大将って意外と取り巻きが多いから、自慢したくなるんだろうな。まあ、そんなことはどうでもいいか。

 僕は『彼女』のお陰で、二度目の生を送れるようになった。この件に関しては、僕は心の底から『彼女』に感謝している。



 とは言え、その日から僕は変な現象に苛まれるようになった。

 ほんの一瞬だけ、カマキリやカラスや亀や猫の声が分かるようになった。他の生物が僕に話しかけるようになった。しかも、なぜかその声が人間の言葉に変換されて僕の耳に届いた。

 ただの幻聴だろう。ガキ大将に殴られたせいで、どこかしらの神経の調子がおかしくなったに違いない。

 そう自分に思い込ませて、数日が過ぎた。



 ガキ大将の件が公になった。

 ガキ大将も僕も、引越しすることになった。ガキ大将が引越しするのは分かるけれども、僕が引越しするのは道理に合わない気がする。

 けれども、今回の引越しは両親の意向によるものだ。『彼女』のことは気がかりだったが、両親には逆らえなかった。もしかしたら、両親なりに僕を心配したのかもしれない、という思いもあった。

 今までずっと一緒に過ごしてきた僕と『彼女』だったが、ここで一旦お別れのようだ。何を言えばいいのかも分からず、お互いに別れの挨拶をして、一年が過ぎた。



 西暦2018年7月6日。

 事件が起きた。



『彼女』は誘拐された。

 そして、そのまま二度と帰ってこなかった。


続きます。

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