6話(過去話)
僕と『彼女』の話をしよう。
僕と彼女は幼馴染だった。僕らの両親は元々親交があったので、僕と彼女はいつも一緒だった。
保育園に入った時からずっと、僕は彼女と一緒にいた。家の中でも彼女と一緒という状態が続いた。
理由。
理由か。
手間が省けて楽だから、と言えばいいのだろうか?
僕らの両親は、あまり非効率的な行為はしたくないタイプだった。
僕と彼女は、効率的に育てられた。
僕らの両親は、僕と彼女をお互いの家に預け合って、家族同然のように生活した。
一週間の内、4日は僕の家で僕と彼女が暮らし、残りの3日は彼女の家で僕と彼女が暮らすという具合だった。
朝起きる時も、昼食を食べる時も、外で遊ぶ時も、家でテレビを見ている時も、夜寝る時も、ずっと彼女と一緒だった。
そのせいだろう。僕は次第に、彼女が少し変わっていることに気づいた。
彼女にとって、この世界は少しズレて見えていた。
ある日、僕は彼女に髪飾りを贈った。
商店街でいつもお世話になっている玩具屋の親父にからかわれたからだ。「男だったら彼女にプレゼントぐらいしたらどうだい」――そんな感じだったと思う。
受け取った彼女は、きょとんとした様子で尋ねてきた。
「ねぇ、これ、どこで貰ってきたの? 商店街は、いつも閉まってるよね……?」
何を言っているんだろう、と思った。
商店街はどこも閉まっていない。そのときの僕は、彼女が単に寝ぼけているんだろうと思っていた。
翌年から、彼女の言葉は現実のものとなった。
商店街の隅っこの店から順にシャッターが下り始め、僕らが小学校を卒業する頃には、商店街は完全にシャッター街になっていた。
勿論、こんなのはまだ序の口に過ぎない。彼女は色々なものを予知してみせた。
そう、予知だ。予知としか思えなかった。
彼女は、未来を見ているんじゃないだろうか? 彼女は超能力者か何かで、きっと、人や物の未来が見えるに違いない。
僕は、そう推測した。
そして同時に、怖くなった。
彼女の能力に畏怖したんじゃない。彼女がいなくなることに、僕は恐れを抱いていた。
彼女を守らなければいけない、という義務感が僕の心に根付いた。
だから僕は、彼女に「今日から芝居をしよう」と言った。
続きます。