2話
2話
午前6時00分
亀になるのは二度目だった。
テレビのリモコンを押して、ディスプレイ上の日付を見る。西暦2018年7月6日。『昨日』と同じだ。
急いで犯行現場に向かけなければ。だけど、亀の体で移動するのは骨が折れる。重労働と言ってもいい。
とにかくも、僕は階段を転げ落ちながら家を出た。
午前9時??分
散々階段を転げ落ちたせいで、体のあちこちが痛い。
けれども、今後彼女が味わわされる苦痛を思うと、それぐらいが何だという気持ちにはなる。
亀の歩で現場に向かうと、既に多くの人たちが集まって、遠巻きに拉致現場を観察していた。
情報が錯綜しており、火災が起きただの、爆弾テロが起きただの、割とでたらめな言葉が飛び交っていた。
警察も現場を調査してくれているが、黒服の男たちを追跡するのは(多分)困難だろう。
今回の犯行には間に合わなかったようだ。僕は項垂れながら近くの公園に向かった。
午後??時??分
夕暮れの公園で、僕は黄昏ていた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
彼女に命を助けられた時から?
そうだ。あの時、確かに僕は死んだ。僕の意識は拡散した。
どこかで見た論文(確か量子力学系だった気がする)によると、意識の正体は、脳の微小管に存在する物質らしい。
生物が死ぬと、脳の微小管が微小管としての機能を停止させ、そこから意識が拡散する。
そうして意識だったものは宇宙へと拡散していき、時間をかけて再び有機物に結びついて、新しい命になるんだとか。
転生みたいだな、と思った。
そして、どうやら『彼女』は、拡散した意識を集めて元の器に戻せるらしい。
簡単に言うと、死人を蘇生できる、ってことになる。
理屈は知らない。出来るんだから出来るんだろう。
でも、一度拡散した意識を元の器に戻すには、相当な苦労が必要らしい。
ここから先は完全に僕の私見だけど、あの論文を下敷きに考えるのであれば、宇宙には沢山の生物の意識が転がって、しかも混ざっている可能性がある。
となると、一旦拡散してから無理やり元の器に戻された僕の意識には、様々な生物の意識が混じっている可能性も捨てきれない。
考え事をしている間に、いつの間にか夜になっていた。亀の体だと、何もかもが遅いのかもしれない。
公園の時計はどこだったっけ。確か、公園には時計があったはずだ。
公園を隈なく探し回って、ようやく時計を見つけた。
体はもうガタガタだった。ひーこら言いながら時計を見上げると、時を刻む針は12時を指そうとしていた。
やばい。時間だ。
カチッ。
僕の意識は、暗闇に落ちていった。
午前6時00分
スマホのアラームが鳴った。
目を覚ますと、僕はカラスになっていた。
続きます