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第三話

「わぁ」

 ルゥリーは感嘆の声をあげた。薄暗い館内に高くそびえ立つ人間の骨格標本。ルゥリーの八倍もあろうかという体長にも関わらず、子供の個体だというから驚きだ。

「内骨格の生き物って気持ち悪いっ!」

 昆虫の女子には内骨格生物を気味悪がる者も多い。思わず後ずさるルゥリーだったが、クレスがたしなめられた。

「でも、これに肉が付くと、余り僕達と変わらないらしいよ」

 髪をさらっと撫でて、クレスはややもったいつけるように続ける。

「それに、僕達の魔法文明だって、ほとんどが人間の遺跡から発掘された技術をもとに成り立っているんだ。

例えば、今僕達が着ている服。魔鏡(テレビジョン)魔信機(テレフォン)みたいな生活必需品とか――それに僕の仕事、剣闘士(グラディエイター)だって人間の文化だしね」


「ふん。実に下らぬ」

 ルゥリーが感心して聴き入っていると、背後から突然何者かの苛立った声が聞こえた。

 声の主は赤茶色の和服と同系色の長髪で髷を結った精悍な顔立ちの青年。背はそれほど高くないが、どこか達観したような仕草がただものではないことを物語っている。

「テメー、何者だ?」

 喧嘩っ早いカフサスがすかさずファイティングポーズをとり威嚇する。荒削りだが隙のない体勢。

 しかし、カフサスの問を無視して和服の青年は続ける。

「剣闘士など元はと言えば、大した医療技術もない時代の人間貴族が自らの奴隷同士の殺しあいを見て楽しんだのみ。それを文化だ文明だなどとは片腹痛し」

「ちょっと! クレス様の御職業を馬鹿にするつもり!?」

 その職業を生みだした人間を散々気味悪がっていたルゥリーが、自分の事を棚に上げて怒った。

 しかし和服青年は尚も達観した表情を崩さない。

「そもそも人間は自らが排出した|火の瘴気(二酸化炭素)による温暖化や|炎の滴(石油)の奪いあいによる無益な戦争で、内骨格生物大量絶滅の前にほとんど滅んでいたと聞き及んでおる」

 和服青年は言葉を切った。誰も何も言い返さない。

「人間文明に何かを守ることはできん。できるのはただ壊し、斬り裂くことのみ。――この薙閻爪(チェーンソー)の如く」

 言いながら腰にさした刀に手をやる。一般的な剣としては太すぎる。魔剣だろう。

「なるほど。一里あるな」

 やたらと説得力のある和服青年の言いぐさにすっかり感心してカフサスが頷く。

「そう言えば、名を聞かれてござったな。拙者、ノック・プロソポコリウス・インクリナツスと申す。人を待っておる故、これにて御免」

 ノックと名乗った和服青年は順路方向に消えた。

「何だったの?」

 まだ不満そうな顔をしてルゥリーが言ったその時。

「あっ、ノック、待ってよーッ!」

 突然頭上から声が降ってきた。三人が驚いて頭上を見上げると、小柄な少年が空調のパイプの上を走っていくのが見えた。黒い髪を肩の上で切りそろえ、髪と同じ色の動きやすい衣類。やや淡い色のバンダナには角をかたどった固めの布地のリボンがついていた。幼く見えたが、肩から生えた艶のある羽からして、一応成虫らしい。ヒラタクワガタ族だろうか。

「……今の虫、気配がありませんでしたね」

「ああ、面白ぇ」

 クレスとカフサスは少年の去っていった方向を見上げて言った。

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