第二話
――ヘラクレス・ヘラクレス族。遥か太古人間の時代から「勇者の一族」として崇められてきた一族らしい。
しかし、多種との混血が進んだ今、純血のヘラクレス・ヘラクレス族は最後の一匹となっていた。それが彼、クレスである。
彼の剣闘士としての実力は本物で、よく魔鏡――人間の時代で言うテレビジョンで報道されていた。いわゆるアイドル的存在だろうか。
「そんな、まさかこんな所でクレス様に会えるなんて……。あの、サインください!」
少女は手を合わせてクレスに頼んだ。クレスも笑顔でどこからか色紙を取り出し、サインをする。そのしぐさがいちいち華麗で、少女は見入ってしまった。
「さて、君の名前は?」
橙色の長髪をかき上げながら、優しく細めた目でクレスが訊いた。背景に薔薇が見えてしまうような憎らしいほど気障な仕草。
「ルゥリー・ロザリア・ベテスィ・ハロルドです」
「ミス・ハロルド」
名乗った少女に、確認するように訊くクレス。
「い、いえ! そんな、ミスだなんて……。ルゥリーで結構です」
「じゃあ、ルゥリー。はい、どうぞ」
クレスがそっとサインを書いた色紙を差し出そうとした。その時。
「おい、二人とも、俺は無視か!?」
すっかり忘れ去られていた巨漢が声を上げた。
「あら、そういえば居ましたね。カフサス・チャルコソマ・コーカスス」
「いちいちフルネームで呼ぶな!」
予想通りというかなんと言うか、クレスは同性からは嫌われるらしい。
「それはそうと、どうやら当分カーナー氏は来そうにありませんね。中で待ちましょうか」
クレスがルゥリーとカフサスに提案する。
「そーだな、ここで待ってても退屈なだけだからな」
カフサスが同意する。こころなしかルゥリーは尻込みしていたようだったが、結局三匹は博物館内に入っていった。
次回また新キャラ出す予定です。
ちなみに、昆虫博士な人なら気付いたかもしれませんが、
全員ミドルネーム以降の名前が
先祖昆虫の学名になってたりします。