第一話
ってことで期待の(?)ストーリースタートです。
「ふう、約束の時間はとっくに過ぎているのに、まだかしら」
少女は呟いた。昆虫の少女としては妥当な十六センチ五ミリほどの背丈。黒を基調に青のラインを取り入れた布を胸に巻き、腰の青い布にはギリギリのラインまで深いスリットが入っている。黒と青のストライプの触覚つきカチューシャでまとめられたマリンブルーの長い髪が、ふわっとなびいた。
祖霊崇拝が盛んな時勢、衣類などからある程度種族を想像する事ができる。肩から生えた青地に黒の斑模様の羽からしても、おおかた、ルリボシカミキリ族の娘だろう。
そんな彼女は、木をくりぬいて造られた巨大な建物の前に立っていた。「人間総合博物館」と書かれた看板。文字通り、かつて地上に栄えた人間と言う生物を総合的に研究、結果を展示している施設だ。
「よし、カーナーさんが来るまで中の展示でも見てよう。無料みたいだし」
「おい、待て。お前もカーナーとか言うのに呼ばれたのか?」
突然、背後に立っていた巨漢に呼び止められ、少女は振り向いた。黒一色でまとめられた衣類は所々裂けている。肩に装着された装甲からは角をかたどった突起が装着され、いかにも荒くれ者といった雰囲気だ。しかし、その漆黒の瞳はどこかしら純粋な少年のもののような光を放っている。
装甲の下からのぞく黒一色の光沢のある羽はおそらくコーカサスオオカブト族のものだろう。
「そうよ、あなたも?」
少女は物怖じしない態度で答えた。
「ああ。俺らだけじゃなかったんだな」
と、巨漢。
「へえ、じゃあ、あなたの他にもまだ呼ばれた人がいるってこと?」
「まあ、あいつは遅刻したみたいだけどな」
「失敬だね。もうとっくについてるよ」
張りのある、芝居向きの声が突如響いた。声のしたほうを見ると、館内から出てきたらしい長身の青年が腕組みをして巨漢の方を見ている。細いながらもバランスがよい体躯をぴたりと包む、正面に黒いラインが一本入った山吹色の長袖の衣類。前髪だけを黒く染め抜いた橙色の長髪はさらりと胸の高さまだ真っ直ぐに伸びている。そして整った顔に浮かべた憎らしいほどの余裕――。
「もしかして、クレス様……?勇者クレス・ディナステス・ヘラクレス・ヘラクレス様ですか?」
青年の背に生えた黒い斑点のあるオリーブ色の羽をしげしげと眺め、少女が恐る恐る声をかけた。思いがけず街中で有名人に会ってしまった時の表情、まさにそれだった。
「おや、僕のことを知ってるの? さすがだね」
クレスと呼ばれた青年は、少女に駆け寄り手を取った。
みんなの人気者ヘラ・ヘラ(略)登場です!
それにしても少女と巨漢の名前……出し損ねた(ぁ
次の話でちゃんと出します(汗)