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浦島太郎は何を考えたのか  作者: やまむら
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前編


「親父が倒れた」


メッセージの送信者は数年会っていない年の離れた弟だった。 弟は他に「帰ってきて」とだけ書いており、詳しい状況や容体は分からなかった。


今日の仕事をどうにか終わらせ、一息ついていたタイミングでの連絡だった。

日が変わりそうな時間の会社には人影が無く、ひっそりとしていた。自分以外の人間など存在してないような錯覚に陥る。


席を立ち、オフィスの角にある安っぽいコーヒーメーカーの電源を入れる。

コーヒーの粉末を少し多めに入れ、ドリップボタンを押す。

流し台に放置してある自分のマグカップを軽く水で洗い流し、出来上がるのを待つ。

それにしても、もう少し何か伝える事はあるだろうに、と中学生だった弟の姿を思い浮かべて自然と頰が緩む。

備え付けられたガラスの受け皿に黒々としたコーヒーが少しずつ溜まっていく。


東京に出て来てから何年経ったのだろうか。無我夢中で生きてきたら、いつの間にか時間が経っていた。仕事が激務であるという事も理由だが、より広い視点で見ると、都会の生活へ慣れる事に必死だったのだ。


最初は人の多さにも驚いていた。地元とは比べものにならないくらいの人、人、人。

地方に住む人間は他人の視線を気にする傾向が強い。閉鎖的集落の性質が未だに残っており、ご近所付き合いというのは生活の質をかなり左右するためだ。もし失敗してしまえば村八分の様になってしまう。何を持って失敗と言うのかは分からないのだが。

少し後に思考の迷宮を抜けると、黒々とした液体の中から自分がこちらを眺めていた。


自分の席へと戻り、少し冷めたコーヒーを啜りながら乱雑になった机の上を片付ける。少し厚めの茶封筒や関係者の連絡先・所属が書かれた青色の厚いファイル、そして制作作品のグッズ。

片付けの途中でデスクに張られたスケジュール表が目に入り、手が止まる。

片付けを再開するも、溜息が漏れている事には気付かなかった。



2.

翌朝、始発の新幹線で地元へと向かっていた。

昨夜タクシーで帰る途中、一席空いている事をネットで発見し、チケットを購入したのだ。


会社には新幹線に乗ってから休みの連絡を入れた。

事後報告ではあるが、夜中の連絡か無断欠勤よりはマシだろう。


社会人としては失格だが、いつもは出来ない休みの連絡を何の抵抗もなく出来たのには自分自身も驚いている。これまでは体調が悪かろうが、都合が悪かろうが出勤していた。実際は出勤させられていたとでも言うべきではあるが。


車窓から見える景色は、様々な色を含んだ灰色から鮮やかな緑色に変わっていった。


急遽地元へ帰ることにしたのは、今年で高校3年になる弟が心配だったためだ。今回の件が受験に響いてはいけない、早めに安心させてあげようと思い立ったのだ。早く顔を見せて安心させたい。元気にやっているだろうか。

と、思考を弟に集中させようとするも、頭の奥では父を思い出していた。


家を飛び出す原因となった父のことを。

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