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灯りのあるこの街で (短編集)

平和な世界で

作者: 新垣 電燈

20XX年、ついに平和な世界が実現した。戦争、犯罪、事故など直接死に至ることから、人種差別、男女差別、お金、恋など様々な問題が解決された。


「今日も世界は平和です」


ニュースキャスターのこの声から、今日もほがらかな1日が始まる。車は全て自動走行であり、事故が起きることはない。仕事も重労働を強いられることはなく、休みもしっかりある。そのうえ、給与は充分な量が与えられる。最新鋭の人探しシステムにより、好み、価値観の合った最高のパートナーが見つけられる。その他、ここでは書ききれないほど問題が全て解決されている。人類の不幸は老衰による死のみとなった。何にも困らない素晴らしい世界である。


これほど平和で幸せな世界なのに、この高級住宅に住む平野という男は幸せな気分ではなかった。

「もうこんな世界は嫌だ。ニュースは田口さんの庭の花がさいたとかどうでもいいことばかりだし、映画や小説は殺人が扱えなくなり、つまらない。子供の頃から憧れた職業にはすんなりと就けたが、毎日が単調すぎる。このまま死ぬのは嫌だ」

平野は独身である。お見合いシステムで理想の相手が見つからなかったわけではなく、そのシステムが信用できなかったのである。

平野は全てが嫌になっていた。

そこであることを思いつく。

「…そうだ、昔の人達は、こういうときはテロというものをすると歴史の授業で習った。テロには人を殺す道具が必要だった気がする。確か隣町に銃を扱う店があった。あれはスポーツ用だが人を殺すには充分だ。」

早速銃を買うための準備をしようとしたとき、


ピンポーン


家のインターホンが鳴った。

平野がドアを開けるとそこにはスーツ姿の男が二人立っていた。

「誰ですかあなたたちは」

「ピースキーパーです」

「何だ、何しにきた」

「あなたを消しにきました」

「何だと?」

平野は驚きを隠せなかった。

「どういうことだ!」

「あなたは先ほどテロという人を不幸にしようとすることを実行しようとしました。よってこの世界の平和を維持するためあなたを消します」

「どうしてテロをすると分かった!」

「あなたの体の中に入っている小型機械により、あなたがどれだけ人や物に怒りや憎しみの念を持っているかが分かります。これを陰謀レベルと呼んでます。この陰謀レベルが5以上になった人は他の人々を不幸にすると判断し、消去します。あなたの陰謀レベルが5以上になったので、我々が消去しに来たというわけです」

「なんで俺だけ…」

「 あなただけではありません。全ての人が生まれたときに小型機械を埋めこみます。政治家、巨匠、国王にも埋めこまれてあります。例外はありません。もちろん我々も…」

「だがしかし…」

平野は必死に抵抗する。

「俺が殺されたとみんなが知ればみんな悲しみだろ!不幸になるだろ!」

しかしスーツ姿の男は全く動じない。この質問がくることを予期しているかのようだ。

「分かりませんか。我々は殺すのではなく、消すのです。始めからこの世にいなかったことにするのです。」

男はカバンから大きなスイッチの付いた装置を取り出した。

「私がこのスイッチを押した瞬間、あなたはこの世から姿を消し、あなたの家族、友人、同僚からペットまで、あなたと関わった全ての人、生物からあなたとの記憶を消去します。これにより人々があなたがこの世からいなくなることを誰も悲しみません。ご理解いただけたでしょうか。では…」

男がスイッチのカバーを取りはずそうとした。

「待ってくれ!」

「はい、何でしょう?」

平野はどうにかスイッチを押させないようにしたが、どう説得しても、スーツ姿の男の顔は変わらず、冷たい反応が返ってくる。

「俺は今不幸だ!お前達の目的と違うではないか!」

「もしあなたを野放しにしておくと、たくさんの不幸な人が出てしまいます。今不幸なのは一人だけです。

我々はたくさんの人の幸せを維持するのが目的ですので、より多くの人々が幸せでいられる道を選択します」

「そんな…」

「他にご質問は」

平野は首を横に振った。

「では左の肩を前に出してください」

男は小型機械が埋め込まれていると思われる左の肩あたりにスイッチの機械をかざした。すると、ピーという電子音が鳴った。

「認証完了。では…」

男はスイッチを押した。



「…あれ、私はどうしてここに…」

この部屋にはスーツ姿の男二人以外の人はいない

「仕事が終ったんですよ」

もう一人のスーツ姿の男が言う。

「そうか。やはり実感がわかないな…」

「おい!外を見ろ! 虹だ!」

「え!どこ?」

仕事が終わると二人は急に友達口調で話しながら外の景色を見てはしゃいでいる。


「ただ今、北崎町上空に虹がでています。

今日も世界は平和です」


ニュースキャスターの声とともに、人々は子供のころのまなざしを忘れることなく、平和な日々を過ごしていく。

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