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村と村長

ーーースタート地点まで戻ってきました



 「はい!着きました~!」


 そう言って連れて来られたのは俺が異世界で目を覚ましたときの、その大木の下であった。予想通りである。

 (しかしここに入り口なんてものあったか?入り口っていうか樹洞ぐらいしか穴は無かったよな…?)

 記憶では確かに穴は無かったはずだった。


 「で?此処に本当にあるのか?俺の記憶ではこの樹洞ぐらいしか入り口らしきもの、いや、これもただの穴だったし、特に思い浮かぶ物がないんだか?」


 「え?ありますよ?ほら」


 レミアが樹洞を指差しながら言う。


 「いや、だから樹洞には…」


 「樹洞じゃなくてその裏の根っこのとこですよ~」


 まさかと思いつつ裏を覗き込むと、言った通りに人一人が通れそうな穴が根っこ部分かは下に向かって伸びていた。

 (は…恥ずかしぃぃぃぃいい!!!穴があったら入りてぇ!!はっ!穴あるじゃねぇか!!ってこれから入るんだよ!うわぁぁぁあ!!!………)

 俺は表情は動かさずに心のなかでは超高速回転をしながら転がりまくっていた。

 表情を変えないことに全力を向けていたがために微動だにできない俺を不思議そうに見つめるレミア。…ごめんなさい、許して。

 数分後、やっと活動を再開した俺はレミアに謝罪しつつ、レミアに先行してもらいながら穴から地下へと潜行する。


 「で、こっからどのくらい行けばレミアの村に出るんだ?」


 「えーとですね、迷わなければ30分ぐらいですかね」


 …なんだか不審なワードが出てきた。


 「…迷わなければ?」


 「はい、迷ったらそこで人生詰みます。ちなみに詰む可能性は50%ですね、てへっ」


 …殺意の波動を感じる………

 はっ!だめだ!此処で殺ったら、あくまでも冗談だが、確実に詰む可能性は100%越えて99999999%までいくだろう…


 「詰まないように頑張ってくれ、ガチで頼む。……詰んだらお前食料な…」


 最後にぼそっとセリフを吐くと、顔を蒼白にしてウサミミをこれほどまでかというぐらいに活用して道を進んでいく。やや可哀想だったかもしれない。


 その後、特に迷うこともなく(多分)、穴の先から地上の光りが見えてくるのが分かった。その光りを見つけるや否やレミアがとててててと駆け出してゆく。それを追うように俺も穴の外へと飛び出す。


 暗いところから急に明るいところに出たがために目を手で覆う。しばらくして目が光りに慣れてくると、そこに見えてきたのは日本とは違う、けれども人の住んでいるところとなんら変わりない、宿場町とでも呼べばいいのだろう町並みが広がっていた。ただしそこに住まう人々は全員がウサミミだったが。


 「ようこそミストルデ族の村へ!さぁ、まずは村長のところへ行きますよ~!!」


 「お、おい!」


 腕をとられ足早に駆け出したレミアに半ば引きずられるような形で進んでいく和成。初めは穴から飛び出してきた人族に好奇の視線を向けていた周囲の彼らであったが、それが生暖かい視線に変わるのは早かった。


 村長の宅は村長宅らしく村の中央に陣取り、立派な門構えをしていた。使用人らしき人にレミアが村長への謁見を申し出ると、使用人が奥へとパタパタと駆けてゆく。数分後、許可が降りて俺達はそんなの元へと出向いた。


 「人族の子よ、良く我らの村にお越し下さった。まぁ楽にしてくださいな。して、この度はどのようなご用件で?」


 物腰柔らかく、好好爺と言わんばかりの風体のご老人が正面に座り出迎えてくれた。背筋はしゃんとしてその威風堂々たる気配を纏ったその人の前では、こちらも背筋をしゃんとせねばと思ってしまう。そして、村長の問いに


 「それは私が説明しますね。ここ数日のうちに村の近くにて魔物が発見されたのです!その情報を掴んだ私は一刻も早く村へ戻らねばと思い草原を駆けていたところ、この彼に会い、自衛するための手段がないということで保護という形で連れてきた次第です!」


 と、レミアが胸を張って答える。だから、無いむ…お!?寒気がする!?

 

 「なんと!魔物のとな!?それは一大事じゃ!村へと第二種警戒作戦を発令する!!」


 使用人にそう言うと、拍子木を鳴らして村の方々へと駆けてゆく。


 「人族の子よ、安心して下され。して、名前はなんと?」


 「はい、三島和成と申します。」


 「カズナリ殿か、では村の奥へと避難して下され。」


 村長は俺に避難するように言うが、こちらもここで簡単に退くわけにはいかない。いや、退けない。何故ならば、一応何かしらの功績を残さなければ元の世界に戻ることも能わず、ここで退くようならば功績も残せるはずがないのだ。


 「いえ、微力ながら戦闘へと参加させては頂けませんか?実際、私は武器を持っていないので剣や槍などを貸して頂く形になりますが、肉の盾ぐらいにはなりましょう。どうかお願いします!」


 「うむ…武器をお貸しすることは可能ですが、客人として迎え入れたい此方としては承諾はできませんな。」


 「しかし…!」


 村長は頑なに要求を受け入れてくれない。それでもと食い下がろうとすると村長は声に張りを持たせて答える。


 「はっきり言うと人族と我がミストルデ族、いや獣人との間には身体能力の決定的な差があり、足手まといにすらならないのです。なので、ここはお引き取「お爺ちゃん!」な、なんじゃ!?」


 レミアが急に大声をだし、俺と村長がビクッと驚く。ん…?お爺ちゃん…?


 「お、おい、レミア。お爺ちゃんってなんだよ?」


 「あれ、言いませんでしたっけ?私お爺ちゃん、村長の孫ですよ?」


 「な、なにぃー!?そ、村長さん?お名前を教えてもらっても?」


 「あぁ、すっかり名乗るのを忘れていましたな。私の名はライズ・アル・ミストルデ。レミアのじぃで村長をやっとります。」


 「まじか…」


 「くっ…!名前を聞いておきながら、先に名乗るのを忘れるとは…!わしも歳、もはやこれまでなのか…?」


 そう言うと肩を落として落ち込む村長、もといライズさん。そして俺は確信した。あぁ、この二人は確実に祖父と孫なのだと。あまりの落ち込みようになんとか励まして元の話に戻す。


 「で、レミア、なんでさっきライズさんの話を遮ったんだ?」


 「ふっふっふっ、私に良い考えがあるのです!!」


 そう言ってレミアは不敵な笑みを浮かべ、それに俺は不安感を募らせるのだった。



ーーーーーーミストルデ族は名乗るのを忘れて相手の名を聞くと、かなり落ち込み特性をもつ。

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