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カノジョの疑問。

「わわっ、やば!」

「ねえ、御門さん何かスポーツやってたの!?」

「すごいじゃん!御門さん」


今日は、クラスマッチ当日。

そんなわけで、朝イチから試合ってことなんだけど………

私は、あの日を境にえらくチームの皆から信頼を得てしまったようです。

いや、嬉しくないわけじゃない!

女子と普通に話せるようになりたいと思っていた矢先のことだから、もう大声で叫びたいくらいに嬉しい。


それに、今まであまりスポーツなんかしてなかったから、どっちにしても迷惑かけちゃうなんて思ってたけど……


「っよ………と」

「御門さん、ナイスナイスっ」


なんだ私、意外と運動できるじゃん!

ということに、最近気づき始めました。





***





「いやあ、ごめんね………御門さん」

「え?」


試合が終わって、ひと息つく私の周りに集まった、チームの皆。

その誰もが、申し訳ない表情を浮かべていた。


「私達、御門さんのこと誤解してたみたい」

「1人でいるのが好きだと思ってたから……今まで話しかけるの避けちゃってて」


ああ、やっぱり。

男嫌いだと思わせる為にしてきたことが、女子達にも影響を与えていたんだ。

大失態だなあ、私。

肩を落とす私に、新谷さんが手を伸ばしてきた。


「一緒に練習を重ねてくごとに、もっと御門さんと仲良くなりたいって、思ったの」


─────え?


「私と………これからも、仲良くしてくれる?」


新谷さんが、首を傾げて優しく微笑む。

なんてことでしょう。

まさか、クラスマッチとゆう行事がここまで私の人生を一転させてしまうなんて。

神様!仏様!クラスマッチ様!

私、御門 杏由菜は………いま、最高に幸せです!!


「もちろんっ……」


そう言って、新谷さんの手を笑顔で握る。

やっと、夢見てた生活が現実になるんだ。

妄想を学校で爆発させることもなく、平和に友達と他愛もない会話をすること。

これで、学校では友達との時間が私の妄想に使う時間を埋めてくれる。

誰からもバレることのない、楽しい毎日が送れるんだ……!


「これも、湊人君のおかげだね」

「うんうん、あの時言ってくれなかったら、私達……気づかないままだったもんね」


………湊人、君。

以前私に、「落としてやる」と言ってきた男子。

クラスマッチの練習をしていた時、皆の様子をぼーっと見ていた私の前に、颯爽と現れた。

あの言葉が全部、私を落とす為に紡いだものだったとしても。

私は素直に、嬉しかった。

もし、それが湊人君の思い描いたシチュエーションなら、私はその通りに進んでしまった哀れなヒロイン。

それでも………分かってても、目の前の湊人君がものすごく輝いて見えてしまったんだ。


まあ、そんな時にでも妄想をしていたのだけれど。

さすがに、私の都合のいいようにはいかなかった。

それでも懲りずに妄想するのが、この私!

あの日は、たくさんの収穫ができた。

家に帰ってからは、ニヤニヤが止まらなかったなあ……♪

あんなことが毎日あったらいいのに!


毎日の中に、少しでもの刺激を求める私には、どんな些細なことにも敏感に反応してしまう。

そう、例えばいま…………

目の前からすごい勢いで迫ってくるボール。

これは、普通じゃありえない、ありえるわけがない。

そんなことに、人並み以上にいち早く反応することができる。


───ドゴッ


鈍い音と同時に、顔面に衝撃が走る。

ああ、この痛みも普通じゃありえない、ありえるわけがない。

毎日の中に、少しでもの刺激を求めている私。


………でも。

こんな刺激は、望んでない、かな………?

そんなことを考えていると、少しずつ意識が遠のいていった。





***





…………あれ、私、何してたんだっけ?

気がつくと、目の前は真っ白。

視線をずらすと、近くには誰かがいる。

まだ視界がはっきりしないため、誰かは分からない。


「誰…………?」


目を擦りながらぽつりと呟くと、その人はいきおいよく立ち上がった。

その瞬間、私としっかりと視線が交わる。

なんで、湊人君がここに…………


「ボールぶつかったの、覚えてる?」

「え…………と」


あ、そういえば、私ボールに……

ぶつかった!そうだぶつかってた!

それで倒れちゃって、それから………

も、もももしかして、私。


「お姫様抱っこ………」

「え?」

「!」


やっばい、つい心の声がもれちゃったよ!

私の中では、運んでもらった=お姫様抱っこに結びついてしまうのだ。

でもよかった、湊人君はぽかんとした顔をしてる。

これは、私の衝撃的な一言を聞き逃した顔だな、うん!

私は毛布の中で、小さくガッツポーズをした。


「……おう?」


ん……………何?

今度は私が聞いてなかった?

何かの返答のような湊人君の言葉に、私は首を傾げた。

一体、何に大しての………


「お姫様抱っこ………した、けど?」

「ぬあっ…!」


お姫様抱っこされたんだ、やっぱりされたんだ私!

なんでこんな大事な場面で目を覚まさないのよ、バカ〜〜〜!

っじゃなくて!

聞かれてたじゃん、湊人君に………

これは、かなり、まずい?

………でも、よく考えて杏由菜。

ここで私が男子に興味あるとか、妄想が趣味なんですとか言ったとします。

そしたら、もしかしてもしかしてもしかすると……


『へえ、御門って頭ん中ではそんな恥ずかしいこと考えてんだ…』


そう言って、異様な笑みを浮かべながら徐々に迫ってくる湊人君。

そしたら、私の妄想メモリアルに書き込める量も頻度も増えちゃうんじゃ……!?

今まで密かに男子を観察して、存分に妄想してきたけど。

いっそ特定の人だけにバラしちゃって、弱みを握られた可哀想なヒロインを演じてみても……いいんじゃない!?

あの女好きの湊人君が、この機会を利用しないわけがない!


私の妄想が、今、現実となる───!


「わ、私「顔にケガとか、してねえよな?」


まさに真実を口にしようとした瞬間。

湊人君は、私の頬に手を添えて、軽く持ち上げた。

こ、この状況で真実を言うなんて……できるかっ!

まじまじと私の顔を見つめる湊人君を直視できなくて、私は視線を落とした。

…………ああ、書きたい。

今すぐにでも、妄想メモリアルに手を伸ばしたい。

よくよく考えなくても分かる、今の状況。

たくさんたくさん、頭の中で膨らむ妄想。


………さあ、どう来る湊人 蓮!

やっぱり恋愛といえば王道の、


『何、恥ずかしくて俺の顔見れないの?………こっち向けよ』


これでくる?それとも、女好きで経験も豊富そうだから、もう強引にでも私の唇を……


───ダメだ、これ以上考えたら、頭が爆発してしまう。


本物が目の前にいるんだから、しっかりと確かめてみればいいじゃん!

ニヤニヤはしっかりと抑えて、震える体もぐっと堪えさせて…

準備OK、いつでもどーんとこい!

私は真剣な眼差しで、目の前の湊人君を見つめた。


「よかったー…」


ため息混じりのその声に、私は目を丸くする。

え、っと…………?

ちょっと、私が思っていたシチュエーションと違うんですけど。

いや、ちょっとじゃない、かなり!

驚く私の前で、湊人君はふわっと優しく微笑んだ。


「キズ、残ったりしたら大変だろ?」





***





「…………あう」


恐るべし、湊人君。

私の予想をはるかに超える、あの対応。

もう、神を通り越してる気がする。


「なんであの状況で、手を出さないのよ〜〜〜!」


ほんっと、もどかしくてたまらない。

私は保健室の毛布の中で、じたじたと暴れていた。

あの後、湊人君は試合があると言って、出ていってしまったのだ。

今日も、なんにもナシかあ……

少しだけ、虚しさが心に残る。

……って、いやいや!!

いいんだよ別に!

あんな場面にしてくれたおかげで、私が妄想を膨らませることができたんだから。

それで…………十分じゃん。


何ほんとのこと話そうとしちゃってんだろ。

言ったって、絶対私の思った通りにことが進むわけないもん!

それに…………特定の人だけに言っても、とか考えてたけど。

湊人君が、誰かに話しちゃったら、それこそ私おわりだよね!?

人脈が多いし、言ったらどんどんどんどん広まってくに違いない。

学校中の噂になるなんて、私は嫌だ!


「やっぱり、湊人君は私が思ってたのと全然違う人だなあ…」


女好きの癖に、女子にとんでもなく優しい。

普通、男子なら手を出してしまうような場面でも、我慢してるのか相手のことを考えてるのか分からないけど、何もしようとしない。

そんな湊人君が、呼び出した女子の相手なんて務まっているのだろうか。


それが、浮上してきた今のトップ疑問。

でも、何度も呼び出すってことは、何かしらで相手を満足させてるって、ことだよね?

抱きしめてあげてる?キスしてあげてる?それとも………

考えれば考えるほど、湊人君の顔が見たくなる。

おかしいな、さっき話したばっかりなのに。

それに、別に顔を見たって呼び出した女子に何してるかなんて、わかるわけないじゃん。


「もー……なんでこんなこと、考えてるんだろ」


まあ、こんなに期待させておいて、焦らしまくる湊人君が悪いと思うけど。

それをこんなに気にしてる私って、一体………


だって、初めてなんだもん。

妄想以外のことで、こんなに長い時間頭を悩ませてるのって。


───ガララ



いきなり開いた扉の先を、私は毛布の中から顔を出して、じっと見つめた。





***





「やっぱり、決勝は見とかなきゃ♪」

「そうだねっ……」


保健室から、体育館に連れ出したのは新谷さん。

あああ、これぞ望んでいた素晴らしい日。

このことに関しては、湊人君にも感謝だな。

だって、絶対あの時あんなことを言わなかったら……私は、今も一人でこの試合を見ているだろう。


「きゃーー!蓮君頑張って!」

「あ!湊人君がこっち見たああ」


あちらこちらで、女子達の歓声が聞こえる。

あ……………バレーの決勝って、湊人君のいるチームなんだ。

そっか、勝ち進んだんだ。

スポーツもできるし、その時の爽やかさがたまらないと評判の、湊人君のプレイ。

いい機会だから、しっかりと見させてもらいます……!


「………御門さんってさ」

「え?」


新谷さんの声に、私は素早く反応して振り向いた。

だって、女子から話しかけられるなんて、二年の新学期以来………


「蓮のこと、どう思う?」


……………なんで、そんなこと。

どうして、聞くんだろう?

戸惑って言葉の出ない私に、新谷さん明るい声で笑った。


「ごめんね!おかしなこと聞いちゃって!」

「ううん、大丈夫!……うーん、湊人君かあ」


わざとらしく、大袈裟に考える仕草をしてみせる。

だって、せっかく振ってくれた問いかけなんだもん。

しっかり答えてあげなきゃ……

でも、なんて答えればいいんだろう。

結局考えても答えの出ない私に、新谷さんは笑いながら口を開いた。


「クラスマッチ練習での一件で、気になったりしてないのかなって、思って!」

「そ、そんなこと…」


……………あれ、なんで言葉、出てこないの?

いやいや、そんなまさか……ありえないって!

気になってるのは、元からだったし。

気にしてたのだって、恋愛じゃなくて妄想の為なんだし。

今までも、これからもその為だけにしか、きっと湊人君を見ない。


「私、好きとかよく分かんなくて」


軽く笑いながら答えると、新谷さんは大きく伸びをして「そっかあ」と呟いた。


「まあ、まだ人生は分からないからさ。


もし好きになっちゃったら、遠慮なく言っていいからね?


蓮への呼び出し、してあげるから…」


まさか、女子が言ってる呼び出しは、新谷さんを通じて行われてることだったなんて。

そっか、だから毎回新谷さんが湊人君に「呼び出しきてるよー」とかお知らせしてたんだ。

新谷さんに呼び出して欲しいって言ったら、あのトップ疑問の解決に繋がるんじゃ……


…………気になる。

目の前に、解決に繋がるものがあるなら、今すぐにでも覗きたい。

でも、私の性格上……そんなことする勇気なんて…


「ありがとう、新谷さん。


でも今は………大丈夫」


「ううん、気にしないで!


また、気が変わったらいつでも言ってね」


とりあえず、今回はやめておこう。

今日は、新谷さんがすごく優しいってことに気づけた。

それだけで、十分。

そう納得させて、私は既に始まっていたバレーの試合をじっと見つめた。








「………………本気の恋なんて、して欲しくないから、ね」








最後にぽつりと呟かれた、誰かの言葉。

当然だけど、私の耳に届く事は無かった。

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