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カノジョの妄想癖。

「ねえ、蓮!今日は行けるでしょ?」

「ごめん、俺パス」


放課後、週番の為黒板を消していると、後ろの方から女子達のブーイングが響いてきた。

ああ…………湊人君の席からだ。


「え〜…湊人君来ないの?」

「そんなの、つまらないよ〜」

「蓮、なんで?」


口々に言う女子達の声を割って言葉を挟んだのは、新谷さん。

その口調からして、まあまあ怒ってるように聞こえた。


「なんでって……」


そこからの会話は、あまり聞こえなかった。

ただ、湊人君が何かしらの理由を言って、女子達が納得したのは分かった。


「まあ、呼び出しなら仕方ないね」

「早く終わったら、その子も連れていつもの店おいでよ?」

「おー、わかってるって」


ああ、呼び出し…………か。

さすが湊人君、今日はまだ呼び出しがなかったから、ないのかなとか思ってたけど。

やっぱり、1日1回は必ず呼び出されるっていう噂も、ほんとだったんだなあ。

心の中で私も納得しながら、黒板消しを窓側で叩いた。




***




「………っよし」


誰もいなくなった教室で、私は静かに伸びをしていた。

やっと終わった………週番の日誌。

これを書くのが、地味にめんどくさい。

まあ、週番はローテーションで週に2人ずつの入れ替わりだから、そう滅多に回ってこない。

昨日は、もう1人の子がやってくれたことだし。

今日は私がやらないと……ね!


ちなみに、女子は男子と違って妄想することもないから、普通に話すことは出来る。

大丈夫、私はノーマルな人間。

好きになるのは、ちゃんとした男の子。

そう思ってたんだけど……

まさかの、男子を避けすぎて女子も避けてしまうっていう、最悪な行動を取ってしまったんだ。

なかなかそのイメージは定着しちゃって、女子からも距離を置かれるようになった。

話しかけられたら、普通に話すのになあ……

自分から話しかける勇気もないから、未だに友達っていう友達がいない。


「あれ、まだいたんだ」


突如背後から聞こえたその声に、私は目を見開いた。

振り向かなくても分かる、湊人君だ。

呼び出し、もう終わった……とか?

だから、荷物取りにきたのかな。

隣の席を見ると、まだ湊人君の荷物が机上に置いてあった。

ああ、だから教室に戻ってきたのか。

聞きたいことが聞けるほど、私はおしゃべりな人間じゃない。

だからこうやって、自分で分析して納得するしか、方法がないんだ。


いつものように、湊人君からの言葉に返答することもなく、私はゆっくりと日誌を閉じた。


───ガタン


瞬間、背後から伸びてきた両手が、私の体を優しく包んだ。

………って、え!?

いきなり何して………!?


もう、湊人君が私を落とす計画はスタートしていたみたいです。


まあ大丈夫、こんなの妄想で何度も思い描いてたシチュエーション。

あくまで落ち着いた口調で、落ち着いた行動で。


……………いつもどおりで。


「………窓、閉めないと」


するりと湊人君から抜け出して、そこから1番遠い窓際へと歩いていき、窓を閉めた。

それは湊人君に言ったわけじゃなくて、独り言だったと言い聞かせることで、なんとか自分を納得させることができた。


目の前の窓を閉めていくことによって、少しだけ早まる心臓を沈める。

まさか、宣言した次の日から決行してくるなんて。

さすが女好きな噂なだけあって、手の早い男子………

でも、これで妄想メモリアルのネタとして、書くことができる。




────トン




あっ………


こんな時に自分の世界に入り込んでいた、大馬鹿な私。

目の前に見える窓には、背後からと思われる両手がしっかりと添えられていた。

こ、これは…………壁ドンですか。

いや、今の状況からして………窓ドン?!


「…………御門」

「ひ……」


耳元で囁かれる名前に、一瞬ゾクリと背筋が伸びる。

やば、私いま変な声出さなかった………!?

今の状況を差し置いて、思ってたよりも敏感だった自分の体に、動揺が隠せない。

妄想ネタとしては、もう十分。

これで、3ページ分は妄想を膨らませることができるはず………!

私は小さく深呼吸して、思いきり後ろを振り返った。


振り返ると、そこには私に目線を合わせようと屈んでいる湊人君がいた。

その距離は、思っていたよりもずっと近い。

屈んでるせいで、妙に可愛く見える上目遣いに、私は怯みそうになった。

それを隠すように、私は思いきり湊人君を睨みつけた。


「私になにしてるか、わかってんの」


そんな気持ちを込めた、言葉のない動作。

それが伝わったのか否や、湊人君は小さく笑った。

上目遣いからの微笑みは………正直、私にとって反則すぎるほど反則だ。

湊人君って、こんな顔するんだ…………!


「御門、俺──」


…………ああ、どうしよう。

目の前でそんな真剣な眼差しを向けられたら。

私、どうすればいいのか分からない…………


徐々に縮まる湊人君との距離に、私は拒めなかった。

私、このまましちゃうの…?

今度は事故なんかじゃなくて、意識的なキス。

気づけば、私はゆっくりと目を閉じていた。


「……………っぷ」

「??」


吹き出すような声に、ゆっくりと目を開けた。

そこには、笑いを堪えている湊人君の姿があった。

い、一体これはどういう……

状況が呑み込めない私を見て、湊人君は意地悪く笑った。


「キス、されるかと思った?」


!!!!


私は、甘い夢を見すぎていたみたい。

私を落とすと言った彼は、相当相手を焦らすのが好きなようです。




***




まさか、途中まで同じ帰り道だとは思わなくて。

私の少し後ろを湊人君が歩くという、一緒に帰ってる形になっていた。


「そういえば、さっき目ー閉じてたよな?」


何か思いついたように、私の顔を覗き込んでくる湊人君。

私はもう、絶対に目を合わせないとばかりに顔を背けた。

あんなに、人をドキドキさせた上に……よく普通に話しかけるよね?!

まあ、あんなの湊人君からすると慣れっこだと思うけど。

……………うん、恐れ入ります。

こんなことを今まで考えまくってきた私より、よっぽど手馴れているんだから。

やっぱり、私よりも上手(ウワテ)だなあ。


「てことは、俺を受け入れてくれたって意味にとって、いいのかな?」

「なっ、ちが……」


その言葉に、私はまた湊人君を睨みつけた。

………って、私。

どうしよう、湊人君に返事しちゃったよ。

今まで、男子に返した言葉なんて数えるほどしかないのに。

これじゃあ、隠せなくなっちゃう。

このままだといつか、本当の私が出てきちゃって………湊人君が引くくらいのことを求めてしまう。


……しっかりするんだ、杏由菜!!


私の目的は、湊人君が私を落とそうと仕掛けるあらゆる言動全てを妄想メモリアルに加えて、更に妄想を発展させていくこと。

初めからこんなにドキドキすることをしてくれたってことは、求めなくてもこれからだって、ドキドキさせてくれるはず。

だから、お願い、変なことは考えないでね、私。

キスを寸止めされたのが物足りないだなんて、思うだけならいいけど……私から何かするなんてことは、あってはいけない。

湊人君から何かしてくれることだけ、妄想メモリアルに書くんだから。


「ちょ、御門っ!」


!!


前方が全く見えてなかった私の腕を、いきなり引き寄せた湊人君。

目の前には、車が勢いよく通り過ぎていた。

もし、湊人君がいなかったら、私………

いやいや、まず湊人君がいたせいでこんな深く考えるハメになったんだから、おあいこだよ、うん!


「何ぼーっとしてんだよ、馬鹿」

「…………」


引き寄せられたまま、湊人君の腕の中にすっぽりとおさまっている私。

このまま、目を瞑ったら眠れそう。

だってなんだか、すごく落ち着く……

っじゃなくて!


勢いよく湊人君から離れると、私はその場から立ち去ろうと駆け出した。

ドキドキするのはいいけど、そこから自分の欲を出すのは、ほんとにやめないと……

早く、早く家に帰って叫びたい。

今日はいろんな気持ちが頭の中ぐるぐる回って。

もう、パンクしちゃいそうだ。

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