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カノジョの日課。

「ただいま…」

「おかえり〜」


家に帰りついてからも、私は周りが見えないくらいぼうっとしていた。

そんなの、あたり前。


だって、だって……




───バタン




扉を閉めたと同時に、私の口元が思いっきり緩んだ。

そのまま私は床へと倒れ込んで、その状態でばたばた悶える。




「………御門 杏由菜。






あんたを落としてやる。






だって!」




きゃああああああ、もう!

なんって、心地いい言葉なんだろう。

恥ずかしいけど、嬉しくて何度もリピートしてしまう。

どうしよう、ニヤニヤが止まらないよ。


…………そう、もうお気づきかも知れませんが。




私、御門 杏由菜は





男子にものすごく興味があります。




といっても、学校ではそれを隠そうと毎日平然を装ってるわけなんだけど。

だって、ほんとの私を受け入れてくれる人なんて、絶対にいないから……




…………湊人 蓮。




つい先日、彼と誤ってキスをしてしまったせいで、隠してきた自分が出てきてしまいそうなのです!

それは、誰にも見せないように内に秘めてきた、変態で妄想癖なもう1人の私。


階段から倒れ込んだ体勢の時点で、私の頭の中はそこから先起こるであろう、あらゆる恥ずかしい妄想を繰り広げていた。

そんな私の思考を停止させるくらい衝撃的だった、あの湊人君の一瞬の表情。

私は、見逃さなかった。

首筋を痛めてるのに、無理に笑おうとしている人を目の前にして。

私は、“心配”してしまったのだ。

自分のせいだと、心の底から思っていたのだ。

気づいたら、両手で湊人君の頬にを添えていた。


そもそも、湊人君のことは入学してすぐに耳に入ってきていた。

その時から、湊人君を1番妄想しやすい代表的な対象に選んだ私。

毎日のように、湊人君情報を言い合って騒いでる女子達の話を、いつも私はすました顔で流してきてたけど……

実際のところ、食いついてないはずがなかった。

だって、噂通りのルックスに勉強も運動もできる、全く欠点のない人。

私としては、1番妄想しやすい相手で……

湊人君のことを考えてたら、妄想のシチュエーションがぽんぽん出てきてしまうくらいに、文句のつけようがない完璧男子だった。

入学したその日から、湊人君は妄想の中で私の彼氏だった。




“蓮は、みんなの蓮なんだから”




去年、湊人君と1番仲の良い女子と言われている新谷 朱里ちゃんが言ったひとこと。

その言葉を信じた女子達は、好きだって気持ちを、なくした。

その代わり、自分の都合のいい時に、湊人君が彼氏のように振る舞ってくれる。

それなら、振られると分かっている女子達も、浮かばれるってものだよね。

私がその中に加わりたくて、仕方なかった。

だけど、妄想癖という重大な問題があって………そんなことできるわけなかった。

妄想が現実になったらそれこそ……私が暴走してしまう瞬間な気がするから。


………彼のことが好きでもない私が、浮かばれる女子達に加わりたいと思う理由?





───だって




私の妄想メモリアルを増やすネタになるかもしれないでしょ?!





でも、入学してからずっと押し殺してきたこの気持ちを、そう簡単に開放させる訳にはいかなかった。

だって、すぐ妄想しちゃう癖なんて………

明らかに、変態でしょ?!

私はこの学校生活の中で、好きな人ができたとしたら……

ほんとの私がぽろっと出てしまって、引かれるのは嫌だから。

そしてそれが、どれだけ悲しいことか、痛いほど知っている私だからこそ…

ほんとの私は、この部屋だけで閉じ込めておこうと心に誓った。

こんなこと、普通の人から見たら笑っちゃうかもしれないけど。

私はいたって、本気だ。


「あ、そうだ」


私は思い立って、自分の机の引き出しを開けてノートを取り出した。

これこれ!なくなったら私の人生が終わったも同然の、“妄想メモリアル”。

これは、誰にも見せるわけにはいかない。

だから学校へは持っていかずに、こうやって大事に保管しているのだ。

そりゃあ、持っていった方が何かと便利だと思うけど……

なくす可能性を考えれば、持っていかないことが1番の策だと考えた。




───学校一のモテ男に、“落としてやる”と言われる。




一体どうやって落としてくれるのだろうか───




これでよし、と。

書き終わったノートを、両手でぎゅっと握りしめる。


「いいの、遊びでも…………」


本気の恋なんて、望んでないから。

湊人君だってそうだよね?

私を落とすことが、1番の目標なんだから。

ほんの少しの、気まぐれに満ちた遊び。





………できるだけ、長く




私に甘い夢、見させてよ………





***





「おはよう、蓮」

「ああ、おはよ」


今日も、笑顔でクラスメイトと挨拶を交わす湊人君。

去年は違うクラスだったから、見ること自体難しかったのに。

今はこうやって、側で声が聞けてる……♪

まあ、その声は私に向けられてるんじゃないんだけど。


「おはよ、御門」

「……」


今、私の名前………呼んだ!?

私はちらりと湊人君を見てから、すぐに向き直った。

どうしよう、見る度に思い出してしまう。

昨日の、湊人君の言葉。


“あんたを落としてやる”


何度も、私の脳内でリピートされる。

やっぱり私、変わってるよね………

昨日まで、湊人君を見る度に思い出してたのは、その数日前のキスした出来事。

あれも、未だに忘れられていない…………ってとは。

これから湊人君を見る度に、昨日と数日前の思い出のダブルパンチ!!


……………今更思ったことだけど。

湊人君って、結構草食系なのかな?

去年はクラスも一緒じゃなくて、たまに顔を見るくらいしかなかったから、どんな人だなんて分かんなかったけど。

彼が肉食系なら、昨日のあの言葉に付け加えて、キスのひとつやふたつでもかますんじゃないかと思うと。

私が今まで妄想してきた湊人君は、強引で好きなものは意地でも手に入れるってタイプで、それから……(まだまだあるのでカット)


とにかく、私のイメージしていた湊人君とは、遠くかけ離れてるっていうか。

女好きを気取ってる割には、言い寄ってくる女子に優しいってところも……

湊人君のモテるポイントなんだなって、思った。

……………いやいや、でも男子なんていつ豹変するか分からないからね!

優しいってことは、湊人君を呼び出した女子達と数日間での私が見た感じのイメージでしか分かってないから。

実際、隠れたところでグイグイ攻めてるのかもしれないし……


「………………って」


学校のまだ早朝の時間に、私はまた何考えてるんだ。

これ以上、妄想を膨らませてしまったら…

学校とはいえど、口元が緩んでしまうのはまず間違いない。

落ち着かないと、自分の身勝手な欲で、なんの為に男子との関わりを避けてきたのか、その理由さえも忘れてしまいそうになる。


“落としてやる”なんて言う男子が、どうやって落としにくるのかはなんとなく分かる。

それを、内心喜び悶えながらも冷めくあしらうんだ。

絶対に、ボロを出してはいけない。

これは、学校での私のキャラを保つためでもあり………学校一のモテ男である湊人君にきゅんきゅんさせてもらえるいい機会でもあるんだ。

も、もちろん、キャラを保つ方が最優先だけど…


「……御門」




!!




思わず肩を跳ね上がらせて、ちらりと隣に視線を送る。

そこには、指を私の前の席に指して「プリント」と口パクしている湊人君がいた。

…………あ、プリント回ってきてる。

私は、前の席の人に軽く頭を下げながら、プリントを受け取った。


ダメだ、やっぱり学校ではこんなこと考えないようにしないと。

思ってた以上に、周りが見えなくなってしまう。


私はプリントを握りしめて、大きく頷いた。

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