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カレの決意。

それから数日後の放課後、俺は机に突っ伏していた。


「クソ………もう、なんでだよ〜」

「蓮、最近なんか変だぞ」

「…………そうか?」


新学期早々、男が嫌いだと思われる女子と、キスをした。

いや、あれはどう考えても事故だ。

事故以外の何事でもない。

それなのに、俺は………




──不覚にも、ドキドキしてしまったのだ。




いや、まだお互いが動揺してあたふたするのなら、分かる。

だけど、そんな少女漫画みたいな展開になることは、滅多にないようだ。

俺の目の前にいた御門は、一瞬大きく目を見開いたけど…

またすぐに平然とした顔になり、すっと立ち上がって行ってしまった。

俺も俺、その時は何も言えなくて…ただじっと、御門の後ろ姿を眺めることしかできなかった。


だけど、なんとも悔しい出来事だった。

あの時以来、隣の席がまともに見れなくなったのだ。

あれから数日経つのに、御門は何ら変わりのない生活を送っている。

気にしてるのは……………ただ1人。


「なんで、俺だけっ…」

「な、ほんとにどうした?」


独り言を呟いて、机上で悶える俺の頭を、ノートの角でこつんと叩く康平。

そうだよな、こいつにも何一つ言ってないんだもんな。

でも、言ったところでどうなるだろうか??

まだ俺の中でもきちんと整理がついてないのに……


「れーんっ!」

「どうしたの、最近?」

「え、ああ……おはよ」


切り替えて接していたつもりの女子達も、俺の異変には気づいていたらしい。


「それより、久々にお呼び出し来てるよ♪」


そんな女子達の中の1人、新谷(シンタニ) 朱里(アカリ)が俺の前にしゃがみ込んで、意地悪く笑った。

…………呼び出し、か。


「おう、んじゃ行ってくるわ」


明るく笑ってみせて、俺は教室を出ていった。

そうだよ、俺には御門のことを気にしてる暇はないんだ。

俺には俺の、やるべきことがあるんだから。




***




「お待たせ♪」


そう言って、もう使われなくなった教室へと笑顔で入る。

俺はここに、何度来たことか……

教室の真ん中には、1人の女子生徒がいた。


「ごめんな、待っただろ?」

「ううん、そんなことないっ」


どこかで1度は目にしたことがあるような生徒。

俺が近づくと、恥ずかしそうにはにかんで笑っていた。


「………で、何かあったんだろ?」

「あ…」


俺が女子生徒の背中に手を回して引き寄せると、顔を真っ赤にして俯いた。

これが、いま俺のやるべきこと。


入学早々、俺はそこら辺にいた女子達に、カッコいいとかなんとか噂を立てられた。

その噂から、モテるでしょ、とからかわれるようになり、たくさん経験のある奴だと言われ、ついには女好きだなんて噂まで立った。

俺は大して気にしてなかったが、女子の力は恐ろしい。

1年の時に、告白された数は……

正直、数え切れない。

俺からすれば、告白されることは嫌なことではなかったし。

俺のことを好きになってくれる人がいるっているのは、素晴らしいことだ。


だけど、俺は告白される度に胸がちくりと傷んだ。

どの女子生徒も、きっと顔で選んでるんだろうな…

そんな考えが頭から離れなくて。

付き合ってみて、好きになることだってあるはずなのに、俺は誰ひとり告白を受けなかったんだ。


そんなある日、朱里が言ったひとこと。




───蓮はみんなの蓮なんだから。




そのひとことで、俺への告白は嘘のようにぴたりと止んだ。

その代わりと言ってはなんだが、今のような呼び出しが始まったんだ。

俺がそこで、呼び出した女子生徒にしてやることは……


「幸せすぎて、死んじゃいそう…」

「なに言ってんだよ、馬鹿」


ただ、甘い言葉を囁いて…

そっと、抱きしめてあげること。

女子達は、心から幸せだと俺に言ってくれるけど。

俺からしたら、目の前で寂しがってる人を、慰めているだけのようにしか思えなかった。

それくらい、俺は心から人を好きになったこともなければ……

人を愛したこともなかったんだ。


「蓮君は、私のこと………」

「ん、好きだよ」


顔をあげて問いかけるその子に、俺は微笑んで答えた。

すると、俺を抱きしめる力を強くして、その女子生徒は俺に顔をそっと近づけた。




───グイッ




「………蓮、君?」

「あ、ごめ…」


あれ、なんで……?

いつもなら、もっと上手い流れでかわせたはずなのに。

最近の俺は、やっぱり変だ。

そうさせたのは、言うまでもなくあいつの存在。


「続きはまた今度、な?」


俺の口元に触れた人さし指を、目の前の女子生徒の口元にそっと当てて意地悪く笑う。

その瞬間、その子は大きく目を見開いて、小さく頷いた。




***




「ただいま」

「おかえり、どうだった?」

「どうだったって……聞かなくてもいいだろー?」

「そうだったな、悪い」


迎えてくれた康平は、申し訳なさそうに笑って言った。


俺は、ああやって呼び出してくれる女子生徒を慰めたり癒したりすることが、自分のやることだと思ってる。

だけど、キスだけは拒むようにしてきた。

それだけは、好きな人とするべきことだと、思っているから。




───そう考えると。




「…………はあ」


また、思い出してしまった。

事故だったとしても、あれはやっぱりキスだ。

あれが初めてだったわけじゃないけど、好きでもない人とするキスは…

なんだか、後ろめたさがあるな。


ま、まあ、相手が御門だったから、まだよかったか?

あいつのこと、好きだなんて言う奴、いないだろうし。

あいつだって、好きな人とかきっといないだろうし。


……………でも。

御門も、一応女なんだもんな。

恋とか、したりしねえのかな?

いやいやいや、あいつは男が嫌いなんだぞ?

恋愛だなんて、微塵も興味ないに決まってんだろ。


「蓮、真奈すごく喜んでたよ〜」


1人で茶番を繰り返していると、どこから現れたのか、朱里が笑顔で俺の髪をクシャクシャと撫でた。


「なっ、にすんだよ!」

「え?いつも頑張ってる蓮に、ご褒美♡……みたいな?」

「は、なんだよそれ…」

「女の子に言い寄られて嬉しくないの〜?女の子好きの湊人君♪」


その言葉に、俺はなんの返答もせずに視線を落とした。


所詮、噂は噂だ。

俺はちっとも経験なんてなければ、女好きでもない。

周りの空気が、俺をこうさせてしまったんだ。

まあ、断りきれなかった俺だって悪いんだけど。

告白してくれる子を、毎回振るよりは、今みたいなことをしてあげる方が、女子達も気が楽なんじゃないかって思ってしまったんだ。


「………蓮、やっぱり変」

「いや、そんなことねえよ?」


ほんとは、そんなことありありなんだけどな……

本音は押しつぶして、嘘を口から平気でこぼした。


「じゃあさ、気分転換に今日カラオケでも行かない?」

「あっ、いいなあ!私も行く」

「いいよいいよ、駿太達も呼ぼっ」


笑いながら、どんどん話を進めてく朱里達。

まあ、最近付き合いが悪かった気がするし……

久々に遊べば、あの時のことなんて忘れられるだろう。


「蓮、行くでしょ?」

「もちろん、行くに決まってんだろ!」


お前も行くだろ、という俺の問いかけに康平はなんの反応も示さなかった。


「…………空、綺麗だな」

「な、お前なに言って………」


窓際の席にいた為、思わずちらりと空を見上げた。

うん、まあ……綺麗な夕焼け空だな。

こんなこと、康平今まで言ったことないよな。

お前まで、何かおかしく……


!!


視線を康平へと戻そうとした、その瞬間。

校庭を、1人の生徒が歩いてるのが視界に入った。


…………なんだ、この感じ。

妙に落ち着かなくて、すぐにでも動き出したい。


────追いかけたくなる、衝動。


気づけば、俺は荷物を背負いあげて教室を飛び出していた。

どうしてそうしたのか、俺にだって分からない。

なんであいつのことになると、こんなにも自分に余裕がなくなるんだろうな。


初めてだよ、こんな気持ち。




***




校庭へ飛び出すと、ゆっくりと歩いているあいつがいた。

それは、この間黙って立ち去っていったあの時と、全く同じ後ろ姿。


「…………御門っ」




───グイッ




駆け出して、肩に手を置き無理矢理振り向かせる。

やっぱりいきなりだと驚いたのか、御門は一瞬目を見開かせた。

まあ、すぐにあの冷めた表情に戻ったのは言うまでもない。


「お前、さ。あの時のこと…ほんとに何も気にしてねえの?」


荒れた息を整えながら、淡々と話す俺に、御門はすました顔で首を傾げていた。

………ほんとに、なんにもしゃべらない奴だな。


「もしかして、俺とキスしたから、恥ずかしくて余計に話せなくなった、とか?」


なんて、そんなことあるわけねえよな。

冗談のつもりで笑いながら言うと、俺は御門の様子を伺った。

ほら、まだそんな平然とした顔して………


「私は、あんなことで心を乱す程、あなたみたいに軽くない」




────な、いま。




まともに御門が、俺の言葉に返事した………よな?

なんでこんなに感動するのか、俺には分からなかった。

……いやいや、感動でつい聞き流したけど、俺軽くディスられたよな?


「その言い方、俺が軽いって言ってるように聞こえるな」

「聞こえるじゃなくて、言ったんだけど」


それだけ言い捨てると、御門からの返答はまたなくなった。

………数日前から、感じてたもやもや。

なんで、御門は男が嫌いなのか。

でも、今はなんとなく分かる気がする。

男が嫌いというより、まず男に興味がないんだ。

ないから故に、嫌う以外の選択肢が浮かばない。

それなら、あの時のことを俺だけが気にしてる理由にだってなる。



「…………決めた、俺







御門 杏由菜。







あんたを落としてやる」



それは、唐突に固めた決意。

俺とあの時したキスを、意識させる。

俺だけがドキドキしたなんて、男として見過ごすわけにはいかない。

こんな幼稚な理由、誰にも言えるわけない。

だけど俺はそうするって、強く心に決めたんだ。

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