表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冷やし中華はじめました

作者: たいやき
掲載日:2015/04/22

こないだケータイをスマホに変えたので、その練習で書いてみました。



「きみは、あの看板の真意を知っているかい?」

四月のはじめ。だいぶん暖かくなってきた頃。

街を歩いていると、隣を歩く先輩がそんなことを言い出した。

いきなり何を、と先輩の方を向く。先輩は僕の方を向いておらず、明後日の方向を向いていた。

何を見ているのか。先輩の視線の先を見ると『冷やし中華始めました』という看板があった。

「そういえばもうそんな時期ですね。ちょっと早い気もしますけど」

「ああ。あの店はなかなかチャレンジャーだね。それともよほど冷やし中華に自信があるのかな?」

「……自信ですか?」

「そう。自信だ」

にやにや笑う先輩。何がおかしいのだろうか。

ヒントはないかと考える。

すぐに先ほど先輩に聞かれた質問が蘇る。

あの看板の真意。

真意なんて言っても、その通りではダメなのだろうか。

「普通に、冷やし中華を始めたから食べに来てねってことじゃないんですよね」

わざわざ尋ねたということはそんな当たり前の答えじゃないはず。

しかし、意外なことに先輩は「いいや、正解だ」と笑った。

「とはいえ半分だけどね。どうして食べに来て欲しいんだと思う?」

「お店なら何時でもお客さんが欲しいんじゃないですか?」

「何時でも、というのに異論がないでもないけれど。まあ、普通はお客さんが欲しいだろうね。当たり前だ」

「お客さんが欲しいのは当たり前だから、看板にそういう意図があるのは当たり前ってことですか。じゃあ、新しい商品を始めたとアピールすることで新しい顧客を取り込もう、とか」

「ふんふん、それもあるのだろうね。けれどきみの意見だとボクのチャレンジャーだという評価を説明できないんじゃないかな?」

「む、確かに。冷やし中華は定番メニューですもんね」

もっとピーキーなメニューならともかく、ラーメン屋で冷やし中華ではチャレンジ精神はかんじない。

蕎麦屋で冷やし中華とかなら、チャレンジャーと思わないでもないけれど。

「だと……なんでしょう。チャレンジャーと思う根拠も説明するとなると。むう」

「ふふ、お手上げかな?」

「……はい。悔しいですが降参です」

降参宣言すると先輩はとくいげに胸を逸らした。

考えないで分からないと言うと不機嫌になり、あっさり答えを言い当てると不機嫌になる。

物知りで頼れる先輩なのだが、そのへんはちょっとめんどくさい。

「ヒントはこの時期だ」

「……時期。冷やし中華は夏のイメージですから、春先はちょっと早いですか」

「そう、そこが大事なんだ。きみが言ったお客さんに来て欲しいというのは正しいけれど、もっと切実な理由があるのだよ」

言われて、考える。

客を呼びたい切実な理由。

……営業成績が振るわない、とかじゃないんだろうなあ。

「まだシーズンには早いから、売れ残るって話ですか?」

「おしい! 八割正解! 他の商品にも売れ残りリスクがある中で冷やし中華が問題になりやすい理由を挙げられたら正解をあげよう!」

「冷やし中華に固有の売れ残りリスク? 同じラーメン屋の商品の中で? ……分からないです」

「ううん、本当に惜しいねえ」

と、言いながらも先輩はニマニマ嬉しそう。

楽しいようで何よりです。

「じゃあ正解を教えよう。……冷やし中華はね、廃棄量が多くなるんだ。保存がきかないからね」

「食べ物って、もともと保存がききづらいものじゃないですか?」

「中でも特にということさ。ほら、冷やし中華の具に多いものといえば?」

「ええと、ハムやチャーシュー。錦糸卵にキュウリとか。最近はトマトを入れるところもありますよね」

「そこだ。普通のラーメンの具といえばチャーシューやメンマ、味噌ならモヤシくらいだろう? 生野菜をたくさん使うラーメンはあまりない。少なくとも、ボクが知る範囲ではね。さて、そんな生野菜を使うリスクは?」

「……あ! 傷みやすい!」

「その通り! 加工食品であるチャーシューやメンマより保たないんだ。だから、リスクが大きいんだよ」

「仕入れた分が売り切れないとそのまま廃棄になっちゃうってことですね」

「仕入れた食材は売れなきゃ廃棄。売れる見込みがなきゃ始められない。廃棄にだってコストがかかる。売れる見込みが少ない季節外れに売るからチャレンジャー、と」

「うんうん、その通り。正解だ。あの看板は、冷やし中華を始めたから売れ残りが出ると困る、ぜひ注文してほしいという切実なアピールなのだよ」

先輩は嬉しそうに腕を組んで頷く。

そこはかとなく得意げである。

足を止めていた僕らの周りには何時の間にか人が集まっていた。ぱちぱちと控えめな拍手が起きた。

照れ臭そうにしながらも、先輩はちょっと嬉しそうだった。





「……では、急にそんなウンチクを披露した理由をお聞きしましょうか」

「……ボク、冷やし中華を食べたいです」

「じゃ、寄ってきますか」

「……お金、ない」

「……来月、返してくださいよ」

「……うん。ありがとう」



ちなみに冷やし中華は作るのに手間とスペースが必要なので、ラーメン屋には好かれないメニューだったりします(店舗差があります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] もう少ししたら、食べたくなりますね。
[一言] 勉強になりました。
2015/04/22 22:51 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ