表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

【急】物語の終わり

◆◆選手交代◆◆

 

 オーラが彼の周りからあふれ出しています。

 圧倒的な【悪魔】の力によって彼の肉体は完全に支配されている。

 怒りによって我を忘れているのです。


 「ウウウウウゥ。」

 まるで野獣のように声を荒立たせながら、襲い掛かってきました。

 足をしっかり踏み込んだうえでの右ストレート。

 彼の右こぶしが私の顔面に吸い込むように伸びてきます。

 勢いのあるパワーのあるパンチです。風を切る音が聞こえる。


 拳が私の頬に触れる1cmほど前。

 私はそのときでもまだ1歩も、どころか、体全体でさえ1mmすら動いてはいませんでした。もし、彼の意識が覚醒している状態なら、この瞬間、彼は私に拳が当たるのを確信したでしょう。


 「ビュッ」

 拳が空を切る音。

 残念ながら私の顔面に彼のこぶしが刺さるなんていうことはありませんでした。


 私は直前によけたのです。

 常人には拳との距離が1cmになってからよけることなど不可能でしょう。

 私は常人じゃなかった。それだけのことです。彼のこぶしを自分の顔を左にそらすことによってよけました。

 私の顔を貫けなかった彼のこぶしは代わりに、私の着ていたローブのフードに突き刺さります。


「びりっびりっぃーー」

 思いっきり破れました。ローブは高いものだったのですけど気にしてもいられません。


 私は自分の右こぶしを彼の顔面へと打ち放ちます。彼は右ストレートを打ったばかりで隙だらけです。思いっきり私のこぶしが刺さり、後ろへ、奥の方へ吹っ飛んでいきました。

 

 クロスカウンター。

 私が彼の攻撃をギリギリまでよけなかったのはこれを決めるため。

 クロスカウンターの利点は、パワーの上乗せにあります。普通のパンチよりカウンターの方が威力は高い。与えるダメージも大きいのです。なぜかというと、カウンターのこぶしには、私が送り込んだ彼を後ろへ吹き飛ばす力、加えて、彼自身が前に出ていこうとする力、この2つが合わさった力が乗っているためです。言うならば、彼の顔面は、2つの力に挟まれた、プレス機で挟まれた空き缶のような状態なのだったのです。


 後ろに派手にぶっ飛んだ(3mほど)彼でしたがすぐに立ち上がろうとします。仰向けになった状態から起き上がろうとする。

 だけれども、なかなか立ち上がれない。力が入らない。

 実は私が細工しておいたのです。もう彼は痺れて数10秒は立ち上がれないでしょう。

 しかし、立ち上がれないとしても、まだ完全に彼の【悪魔】がやられたわけではありません。もっと強烈な一撃を与えないといけない。


 ある程度の時間を確保することができました。

 私はボタンを開けて、フードの破れたローブを脱ぎ去る。

 あーあー。また縫い合わせないといけないかな。まあ、裁縫が趣味だからいいんですけど。むしろうれしいんですけどね。

 畳んでおく暇まではないので、どさっと床に置きました。


 よし。

 私は体の中の力を呼び覚ます。

 心の中で、力を少し貸してくださいと頼む。

 「お願いします。」

 そうすると、私の心の奥底から、

 「おう、わかったぜ。」

 という野太い声が聞こえた気がする。

 その声が聞こえると、私の体の周りにオーラが噴出した。彼のオーラの量とは比べ物にならない大きさと密度をもったオーラです。オーラはただ出るだけではなく、循環し始めます。サーキュレーション。この循環によって力を安定化させることに成功する。


 次に私は少し右の腕全体にオーラを集めて集中しました。

 「はぁあああーー!! 」

 アイ●―ルド●1ではないから安心してください。

 私の右腕にたまったオーラは、次の瞬間、電気へと変換されます。


 「バリバリバリバリバリッィ」

 右腕から多数の雷エネルギーが発生し、私の右手がそのエネルギーの流出をとどめる。圧倒的な光と熱も同時に発生しました。

 これがオーラ変換。自分自身のオーラという一般的なエネルギーを、オンリーワンの、個人の、1人1人の、インディビジュアルなエネルギーに変換することをいいます。ある一定のレベルに達した者のみが発現できる力。


 「くぅ・・・・・あぁ・・・・・・ううう」

 彼がスタンから少し回復したようです。

 頑張って立ち上がろうとしています。まるで生まれたばかりの小鹿のように。

 私は生まれたばかりの小鹿が立つのを待つ気はありませんでした。動物愛護団体などしったことじゃないです。

 クジラさんは見るのも好きだけど、食べるのも好きです。豚さんと同じですね。


 私は肉体を躍動させて、左足を大きく踏み込んで彼に向かいました。

 イナヅマのように速く。

 雷を纏った拳を、ぷるぷると立ち上がろうとする彼のボディに食らわせました。

 もちろん吹っ飛んだ。

 今度は立ち上がる気配さえありません。打撃によるダメージも、電撃によるダメージもさきほどとは段違いだからです。

 これで彼の【悪魔】も収まることでしょう。

 倒れ気絶している彼を見て、

 「・・・・・・さて、これからどうしましょうか。」



◆◆再度の選手交代(翌日) A月9日 月曜日  ◆◆


 翌日、仕事終わりに、僕は占解呪屋を訪れようとしていた。

 手には、バラの花束を持ってだ。


 ん?

 まさか、僕が彼女に告白しに行く、とか思った人がいるのか? 


 そんなわけがない。

 ただのお礼だ。うん。お礼なのだ、お霊、お隷。意味不明。

 というかおれいって文字見ると、おふだに見えてしまうのはぼくだけだろうか。

 実は昔みんなお礼とかいって、神社からもらった厄除けのお札とか渡していたりしたんだろうか?

 お礼回りならぬ、お札回りだな。

 自分でも言ってて意味が解らない。支離滅裂。荒唐無稽。


 そういえば、ぜんぜん関係ないけど、支離滅裂を、尻滅裂オシリがやばいとか、荒唐無稽を、高等無形(レベルの高いものは形のないものだ)だと僕はずっと思っていた。この誤認識によって笑われた数は数え知れないが、一度間違って覚えてしまった語はなかなか元の意味に戻すのが難しいものであると実感する。

 間違った習慣。間違った風習。それらは間違った教育から行われることが多いが、結局は、その間違った教育を是正しない限り、絶対に間違いは治らないんじゃないかと切に思う今日この頃である。

 【みんなよく知っているね。僕は何も知らない。いや、何も知らないっていう場合じゃないね(笑)。】

 これが某S九段とわかるのは相当な将棋通だろう。僕以外に知っているのは弟1人のみだ。知っている人がいればぜひ教えてもらいたいものだ。

 先ほどの全然関係ないけど、という言葉からここまで関係ないことが繰り広げられるとは読者諸君も考えてなかったであろう。すまない。


 ふぅーー。

 さわやかな風のもとをあるいていると、心が落ち着く気がする。

 清々しい。

 僕が清々しく感じているのは外の気持ち良い空気のためだけではない。

 僕の中の【悪魔】がなくなったからだ。

 彼女の矯正治療(高圧電流)により、力を失った【魔】はあまり悪さをしなくなった。すぐにキレることも、むかむかしたりすることもない。気分晴れやかだ。

 昨日のあの後どうなったか気になる人もいるだろう。僕は全く気にならないけどね。

 じゃあ、あの後の話をほんの少しだけすることにする。

 はっきり言って短い。それとお色気展開はないから男子諸君は気を落としすぎないように。


◆◆今から見て昨夜   A月8日  日曜日   ◆◆


 昨日気絶した僕は、彼女のベッドの上で目を覚ましたのだった。

 もう一回言っておこう。

 彼女のベッドの上だ

 なんでだ。なぜ僕はベッドの上にいるんだ。

 丁寧にも僕の上には布団が掛けられている。

 僕は困惑しながらも、布団を取り外し、起き上がる。

 うーん。

 並みの男なら、布団や枕をくんかくんかするところだぞ。

 彼女は男の習性というものを理解できていないようだ。

 だけれども、僕ほどの高レベルプレイヤーになるとそんな低次元なものなどどうでもよくなるのだから、僕に対してその行動は正解といえるかもしれない。

 ベッドから起き上がると目の前に彼女がいた。

 「起きられましたか。」

 うわっ。声にならない声をだし、ビビる僕。

 絶句。

 いきなり起きたら、目の前に女性がいた。それも美人。これに驚かない奴はいない。「・・・・・・ええと・・・・・・ここはどこですかね?」

 「はい。ここは私の自室です。」

 「・・・・・・そ、そうですか。わざわざ運んでもらってすいません。」

 キレてしまった後から全く記憶がない。たぶん暴れ疲れて寝てしまったのだろう。

 「いえいえ。私があなたを気絶させたんですからこのぐらいして当然ですよ。」

 「・・・・・・え?・・・・・・気絶させた?」

 何・・・だと・・・。

あの戦闘力が圧倒的に上昇しているはずの僕を気絶させることが出来るなんて・・・・・・、どんだけ強いんだよこの人。

 びっくりおどおど、かつ好奇心旺盛に彼女の話を聞く僕。

 記憶から抜けている部分を彼女に詳細に補完してもらった。

 十数分後。

 「じゃあ、僕の中の【悪魔】の力は収まったということですか?」

 「そうですね。私の電流でダメージを受けた【悪魔】は、力をほとんど失ってしまいました。だから今は、ただの【魔】の状態ですね。」

 「・・・・・・やっぱり憑いていたのが【魔】がなくなるわけではないんですね。」

 「ええ。解呪とはいってもそれは【悪魔】から【魔】へと戻すことになりますから。」

 【魔】はきっかけを得ないと、【悪魔】や【良魔】にはならない。

 「【悪魔】になる場合もあれば【良魔】になる場合もあります。だから毎日きっちりと付き合ってやってくださいね。」

 僕は自分の胸に親指を向けながら、

 「はい。《絶対》に僕がこいつを【良魔】にしてやりますよ。」

 あれ?また自分の発言に矛盾してるかな。ポリシーから外れてるかな。《絶対》は《絶対》に使わないとか言ってなかったっけ?まあ、いいか。矛盾なんて、ポリシーなんて。なぜなら、彼女の目の前にいるとき僕の心にはそんなものはどこかにいってしまっているのだから。


◆◆再び現在に戻る   A月9日 月曜日 ◆◆

 また今に戻る。

 僕には疑問がある。

 彼女が使ったという電撃の能力。

 あれはいったいどういう経路や方法でどこから生み出されているのだろうか。


 彼女の話、専門分野の話とかを聞いていると、皆さんもこう推測すると思う。

 彼女も憑かれている。

 彼女の【魔】はおそらく彼女を完全にサポートする【良魔】であろうと予測した。

 まあ、いっかそんなこと。

 今は彼女とどういう会話の流れで行くのか、を何度もリハーサルしながら、瞬時に判断しなければならないだろうことのリストアップでもするか。そちらの方が僕にとっては遥かに重要で考えるべき事案であろうことは明白だ。

 イメージトレーニングを3回以上すると、作戦成功確率が大幅に違ってくるらしい。IQ200以上の奈●良鹿●丸君が言っていたな。僕も彼に倣うとしよう。

 そんなしょうもないことを考えている間に、賞もないことを考えている間に、占解呪屋のあるビルの前までたどり着いてしまった。

 僕は暗い暗い階段を下りて行く。

 地下1階に着くとドアを開けた。

 「こんにちは」

 といいながら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ