表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

【破】 ハーブ×カミナリ×テノヒラ 

 満足した答えを得たようで、一瞬、ほんの一瞬だけ笑みを見せた彼女は、僕のことを考慮してかすぐにその笑みを消し、再び僕に話しかける。

「わかりました。あなたのその症状の正体が。」

「・・・えっ本当ですか?」


「はい。」

 彼女は断言する。


「まず、間違いないことですが、あなたは憑かれている、ということですね。これは絶対です。」

「・・・絶対・・・ですか?」

 僕は【絶対】という言葉のような(矛盾するようだが)【絶対ありえないもの】は好きではなかった。


「絶対です! 」

 言いきられた!!


「あなたは間違いなく【魔】に憑かれています。」

「・・・・・・【魔】?」

 間?真?痲?磨?眞?麻?馬?


「はい。【魔】です。」

「【魔】というのは結構な人に憑いている人間とは違うことわりのレール上で動くモノのことをいいます。」

 なっ、なんか変な話を始めだした〜!!


「世間一般で言われている、霊、という存在は【魔】の1種なんです。」

 ム? 【魔】の1種が霊ということは、僕に憑いている【魔】というのは、悪霊とかそういうのに近いっていうことなのか?


「はい。まあ、悪霊っていうのは【悪魔】という区分の中の1つですね。【魔】というのは状態によって2つに区別されます。1つを【良魔】1つを【悪魔】。両者は本質的に全く同じ【魔】です。でも、両者で異なることがあります。それは【魔】が人間にとって利益か不利益かということなのです。」

 うーん。つまり【良魔】と【悪魔】の違いっていうのは、「益虫」と「害虫」の関係と同じだな。


「益虫」と「害虫」はどちらも本質的には同じ昆虫である。

でも、人間に利益を与えるものは「益虫」、害を与えるものは、「益虫」と呼ばれる。この関係と【魔】の関係は同じものなのだろう。

 人間に利益を与える【魔】を【良魔】、害を与えるものを【悪魔】と呼ぶのだろう。


「・・・ということは僕に憑いているものは【悪魔】っていうことか。」

「確かに今の状態は【悪魔】と呼べますね。」

 今の状態?

 ・・・ということは前の状態があったということであり、後の状態があるということだ。【魔】は状態を変化させることができるということか?


 さっき彼女は、【魔】は状態によって、【良魔】と【悪魔】に分けることが出来ると言っていた。

 彼女から聞いた話を全て総合して、仮説を立ててみよう。

 おそらく、

「・・・僕の中には元から【魔】が憑いていた。その【魔】は、元は【良魔】だった。そして何かのきっかけで、僕の中の【良魔】が【悪魔】に転じてしまった。」

 まさか・・・そういうことなのか?

「・・・その通りです。さすがです。頭の回転が早いですね。」

 そんなことはないと思うが。どうなのだろうか。僕は頭の回転が遅いとしか言われたことないぞ。つまりはお世辞だな。お世辞。おべんちゃら。


「【悪魔】は人間に悪影響を与えます。だけれども、それだけじゃないんです。【悪魔】はそれに加えて、人に圧倒的なパワーを与えることがあります。」

 ・・・あー。だからか。僕が歩きたばこの男の金属製のライターを右手の握力だけでぶっ壊せたのは。圧倒的にパワーが上がっていたからだったんだ。


「・・・さて、今一番の問題は、なぜあなたの【良魔】が【悪魔】に転じてしまったか?ですね。実は、その理由を私は、あなたが最初の部屋で起こした行動から、すでに知ることが出来ました。」

 最初の部屋での僕の行動・・・・・・だと・・・・・・?

 ・・・ええと、確か・・・

 あの部屋に入った僕は、まず部屋の周りを見渡したはずだ。バラの絨毯とか、ペゴニアとかを観察したはずだ。

 その後彼女がドアから出てきた。

 たしか、・・・ええと、・・・そして彼女から何か言われたような気がするぞ。

 ・・・うん。そうだっ。「お客様は悩みがあってきたんですか?」って聞かれたんだ。むちゃくちゃ当たり前のことだ。よく思い出すと、最初はお客様と呼ばれていたんだな。数10分でフランクに変わるものだ。

 そして僕は・・・

「キレた。」

「キレて、その後どうしましたっけ?」

 彼女は少しニコリと笑いながら聞いてくる。

 ・・・うーむ。・・・キレた僕は、症状を抑えるために、ポケットから錠剤を・・・・・・


「・・・錠剤か! 」

僕は錠剤を服用することによって、キレる症状を抑えることが出来た。

 飲んだのは精神を落ち着かせる作用のある錠剤だ。

 もし、精神の問題なら、その錠剤を使ったら抑えることが出来るだろう。

 でも、【悪魔】が原因としたらどうだろうか?僕にはあの錠剤が【悪魔】に直接効くとは到底思えなかった。


 ではなぜ僕は【悪魔】を抑えられた?

 そう考えていた時、彼女は僕に質問してきた。

「あの錠剤の成分はなんなのですか?」

「・・・あの錠剤は、ただのカルシウムとハーブですよ。」

「・・・ふーむ。では、錠剤はあなたが作ったものなのですか?」


「・・・えーと。カルシウムの錠剤はうちの母がどこかの刑事ものにでも影響されて大量に買ってしまったやつを食べているんです。で、ハーブの方は僕の手作りですよ。」

「へぇー。また作り方教えてくださいね。で、そのハーブの錠剤を作ったのって最近の話ですか。」


「はい、そうです。あの歩きタバコを注意した日の次の日ぐらいだったかなぁ、取っておいたハーブからエキスを抽出して粒状にしたんです。」

「じゃあ、そのハーブを刈り取ったのって、歩きたばこにキレた時よりも前だったりしますか。」

「ええ。・・・確かハーブは、その前日に刈り取ったんです。あまり売れない品種でして、刈り取ったんです。」

 へぇーっと彼女は完全に納得したような、達観したような顔をしていた。


「そして、その錠剤、粒剤を食べたらあなたの興奮は収まる。つまり【悪魔】が収まる、のですよね。」

「・・・たぶん。」


「じゃあ、それと逆のことを考えれば、なぜ【良魔】が【悪魔】になったのかが分かるんじゃないですか〜?」

 好奇心旺盛な目で彼女は僕に語った。


 僕に答えさせる気だ。

 初心者に答えさせるとか、どんな専門家だよ。どんないじわるだよ。最初のおどおどしていた君はどこへいった。天国か? HEAVENにでも旅だったのか?

 まあいいか。せっかくのチャンスだ。彼女に格好いいところを見せるチャンスだぞ。よーく考えろ。


 彼女はハーブについてかなり言及していたな。・・・ハーブが重要な役割を果たしているのか?

 ハーブを取ると「悪魔」は収まる。・・・ということは、ハーブは「悪魔」を押さえつける何かしらの力があるのか?

 そういえば、ハーブを刈り取った日時についても彼女は聞いてきたな。

 ハーブが刈り取られた日は、確か、キレた日の前日だ。

 「良魔」が「悪魔」に変わった前日だ。



 ・・・うん?・・・まさか・・・そういうことなのか?(デジャヴ)

 当たり前の相互関係だが、

「ハーブが刈り取られたから、【悪魔】に変わったのか?」

「はいっ! それで間違いありません。」

 彼女は僕に推理をさせて十分に満足したようだ。


 そして推論を述べる。

「私は、あなたに憑いている【魔】はたぶんそのハーブがお気に入りだったんじゃないかと考えます。店の中に生えている、生きている、その植物が好きだったんです。だから、あなたが売れないからとそのハーブを刈り取ったことによって【魔】はキレたんです。そして【良魔】が【悪魔】に変わってしまったのです。

どうやったらあなたの症状が完全に治るか、は簡単です。そのハーブをもう一回店にかざってください。おそらく少量でも構わないです。とにかく置いておくことが大事ですね。そうすれば【魔】も機嫌を取り戻すでしょう。」


 ・・・結局、終わってみれば、あっけなかったな。

 ただ、僕が【魔】の好きなハーブを刈ってしまったから怒って【悪魔】になってしまった。それだけだったんだ。


「本当にありがとうございました。」

「いえいえ」

 僕は彼女に感謝の意を表した。


 ・・・さて、次の問題は、いくら金がかかるのか?だな。

 結構専門的なことの相談に乗ってもらったからなぁ。

 かなり金がかかったりするんじゃないのか?オー、怖い怖い。

 ・・・彼女は大きく微笑む。・・・ま、まさか・・・


「明日にでもあなたの仕事場に行ってみたいので、住所教えてもらえませんか?」

 違う話だった。


「・・・なんで・・・ですか?」

「一応、あなた本人だけじゃなくて、仕事場もチェックしたほうがよさそうだからです。もちろん追加料金なんて発生しませんからご安心ください。」

「・・・じゃあお願いします。」

 タダほど高いものはないというが、まあアフターケアをしてくれるなら喜んで受けよう。


彼女はペンと紙をどこかからか取り出してきて、僕に渡す。

「では、ここにどうぞ書いてください。」

 僕はペンを手に取った。


 その後ボールペンのノックを押したのだった。

 このとき彼女はクスッと笑っていた。

 まだこのとき、僕は彼女のことを完全には理解できないでいた。

 彼女はただのおどおどとした物知りの、占い師、【魔】の専門家じゃない。それは間違いだ。

 実際の彼女は、曲がること嫌いなまっすぐな性格の持ち主であり、こう見えてしっかり者であり、面倒見もよく、やっぱり一番の特徴は、意外と意地悪というかサディストの気があるところだ。よくいままでをみると、Sの気がほんのりと香ってくるだろう。

 僕は彼女のそのときの笑みの理由を、数瞬後に知ることとなる。


 その瞬間――僕がボールペンのノックを押した瞬間、僕の体に電流が走った。

 ここでの電流はまさにそのままの意味を表す。

 びりびりと僕の指先から体の隅々まで電気が流れていく。

 彼女が渡したペンは、バラエティーでおなじみの、電気ショックボールペンだったのだ。

 ・・・・・・電流が流れるとどうなるかお分かりになるだろうか?


 はっきりいって痛い。

「いってぇーーーーェェェェェ!! 」

 僕は反射的に、右手からボールペンを投げ捨てて、立ち上がっていた。

 なんという理不尽さ。悪戯にも限度があるものだ。普段なら高い僕の耐久限度は、今大いに下がっている。そこへこの電気ショック。どうなるかはお分かりだろう。


 僕はキレた。

 本気で。

 全く抑えられず、否――抑えるという言語すら想像できず、僕の【悪魔】は再び覚醒する。

ブシューーーーーブシューーウウウウウウウ、と体から出る空気の勢いが大いに増大した。

 錠剤を飲んでいた時とは比べものにならないほどの変化だ。

錠剤を食べようにも体が、特に右手がスタンしてしまっていたので、全く飲む機会もなかった。

「ウウウウウウォオオオオオーーーー」

唸り声をあげる。


これ以降僕の肉体は僕の自由に動かせなかった。反射的に、自動的に動いていた。今考えるとおそらく【悪魔】が僕の体を動かしていたのではなかろうか。

 記憶もあいまいだ。


 だから僕が語ると非常にあいまいな話になってしまいそうだ。

 僕は語らない。ここで選手交代だ。

 最近の日本の野球も先発完投は珍しいと聞く。あとはリリーフとストッパーにまかせよう。今回の場合は1人2役だけどね。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ