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【序】 解占呪屋の女占い師

 カミナリ×ハーブ×テノヒラ】

【三問噺のような落ちのない、3問話、つまりはただの無駄話】

 ◆◆A月8日 日曜日◆◆

 ◆

 僕は今階段を降りている。その階段は一階分だけしかない。1FからB1Fまでしかないのだ。それは、地上から地下へと向かう階段である。地上から地下。

 薄暗い。

 暗いのだ。

 地下に光は向かわない。底には光は届かないということだ。足元、いや――階段の段が見ることは難しくて、慎重に足を動かさないと階段を踏み外しそうだった。一応、階段に手すりは付いているらしい。スッテン転んで尻餅ついて、段差のある滑り台を滑り降りる?気が全くこれっぽっちも起きなかったので、僕は手すりを持って慎重に一歩一歩下へと降りて行った。地下に近づくにつれて、足元はより暗くなっていく。地上の光も届かなくなっていく。

 ん?

 いやっ、だんだん明るくなってきているぞ。

「あれっ、おっかしいぞー(コ●ナン風)」。

 何か明るいものであるのだろうか?階段の終盤に差し掛かかるにつれて、徐々に光がさしてくる。

 十秒後、ようやく階段の最下層にたどり着いた。先ほどの光は何から発せられていたのだろうか?僕のその思考の答えは、すぐに見つけられた。

 光る看板だ。これが光っていたのだ。

 光る看板。おそらく、店の看板であろう。その光る看板にはもちろん、その店の名前が書いてあった。僕がこれから訪れる店の名前。

【解占呪屋  真来招伝(解呪もやります) ごきがるにどうぞ】って書いてある。


 ◆


「カランコロン」

 ドアを開けると、途中で光が差し込んでくる。

 まぶしい。まぶしい。

 一瞬、いや――数秒、僕は突然の光の登場によって、まぶしくて目が見えなかった。明順応ってやつだ。そして数秒後、目の働きが戻った僕は微妙に開いていたドアを大きく開き終え、店内に入った。

 ここで僕の中に疑問が生じた。その疑問とは、

【なぜ、店の中は明るかったのに、ドアの前には、そこまで明るくなかったのか?】ということだ。少々の光は看板からもたらされていた。まぶしいと思うからにはドアの内と外では明るさの差が相当必要だ。

 ここまでで分かることは――ドアから光はさしてなかったということだ。なぜならば、もしドアから光がさしているのならば、明順応するほど明るさの差はでないであろうからだ。次の疑問として【ドアからはなぜ光が差し込まなかったか?】を思案する。そうしながら店に入ると、すぐに僕は答えを知ることとなった。

 店の入り口のドアに黒い布がかけてあったのだ。これでドアの内から光は外に漏れなかった。

 単純。単純。至極単純。

 僕もこんな簡単なことに気付けないとは、相当なレベルで注意力が足りないな。ホームズさんにあきれられそうだ。

 ドアの向こうは、待合室であった。そこまで広くはない。二十畳はないだろう。


 少し待合室について説明しよう。

 僕から見てドアが2つある。右手に一つ、左手に一つだ。店の入り口を合わせると、この部屋には3つのドアがあるらしい。右手のドアには、toilet の文字が見えるので、トイレだろう。左手のドアは、入り口のドアと同じように、光を通さない使用らしくて、黒い。黒い。きっと黒いカーテンでもつけてあるのだろう。

 壁の色はベージュ色だった。壁の色は普通だが、装飾品はそうではない。異様だ。異様。

 まず、壁にかけているものを述べてみよう。

 シカのはく製。インドのゾウの女神(ガネーシャといかいったか?)の絵。掛け軸(道と書いてある)。普通の電波時計。西洋絵画の風景画(海辺の絵らしい)。オーストラリア原住民の調度品タケノコみたいなやつ。吹き矢の筒。液晶テレビ。

 骨董品を集めていると思いきや、最新の電化製品もあり、宗教画があると思ったら、なぜか吹き矢がある。といったカオスぶりだった。

 後この部屋にあるのは、長椅子、椅子、机、本だな、本棚の中にある本,観葉植物である。

 机は、よく店の外のテラスとかに置いてある、白くて丸い四本足のパラソルとか立てれるやつだ。机の周りには、机と同じ色の椅子が置いてある。これは部屋の中心にある。

 本棚は小さい、3段式である。中身は見えない。少し寄ってみてみるかー。


 僕は、本棚に向かって歩き出す。カーペットは、青地にさまざまなバラの花が咲いているものである。美しい。

 本棚の前に着く。本棚をのぞくと、意外とふつうである。漫画は、トリコのだめコナン初めの一歩君に届け、絵本はガラガラドンなど、雑誌は適当だ(名前も知らん)。

 ガラガラドンといえば、ヤギの3兄弟で有名な話である。ヤギのガラガラドンたちは草のたくさん生える隣の山へ行こうとするのだが、その途中の橋で、トロルという化け物が出てくるのだが、その化け物が怖くて、ぼくは最後まで読めなかった記憶がある。


 次にその近くにある、観葉植物を見る。

「これは、ペゴニアだな。」

 僕は観葉植物にさわりながら、つぶやく。

 ベゴニアはとても丈夫で、多くの人に楽しまれている植物だ。多年草で半日陰でも育つために育てやすいという点もあるだろう、大変人気なのだ。

 そうつぶやいた時だった。

「カランコロン。カランコロン。」

 と音がする。

 左手の黒いカーテンのかかったドアからだ。ドアに鈴が仕込んであるのだろう。



「おや、お客さんですか?」

 ドアの内側から人が出てきた。この店の店員であろう。この人の声はとても落ち着いた声だった。声の高さからおそらくこの人物は女性であろう。

【おそらく】、というとおり、彼女の姿から性別を判断するのは難しいことかもしれない。

 なぜ、外見から男か女かわからないか?

 単純。単純。至極単純。

 彼女は黒いローブを着ていたのだ。

 ローブはフードの付いたもので、頭の方から足の方にいくにつれてしぼられていき、コートと同じく、地平線上と平行に切れている。いっちゃ悪いが、黒いてるてる坊主に見える。占い師というか、RPGとかで魔術師が着ていそうな服である。

 それにローブのフードを少し目深にかぶっていて、目が見えない状態だ。顔が見づらいという点でも、彼女が男なのか女性なのか、視覚で区別するのは難しいといったのだ。

 彼女の声と、フードに隠されていない顔の下半分、もとい、鼻より下を見ると、彼女はそこまで年を取ってはいなさそうだった。おそらく三十歳にはとどいていないのだろう。髪の毛は金髪らしい。


「・・・はい。そうです。」

 僕は彼女にゆっくりと答えた。

「・・・やっぱり、そうですか。お客様ですか。」

 彼女は僕に近づき歩いてくる。ローブの裾が思ったよりも長そうで、自分で踏んでしまってこけるんではないかと思ったが大丈夫だった。僕の目の前までやってきた。彼女は意外と小さい。僕より、10cm以上は離れているだろう。そして彼女は言葉をつづける。

「お客様、お客様・・・・・・うーん・・・ということは、まさか・・・うん、そうだ。・・・・・・お客様ということは、お客様は何かお悩みがあるんじゃないですか?!」


 彼女は、手をぶりっ子が良くするように、手のひらを内側に向け握りこみ、その握り拳を顔の下側につけていた――まるでボクシングのピーカブスタイルのようだ。その構え?で――僕を見上げる状態で、自信ありげに話す。見上げる状態で僕に話しかけてきたので、このとき僕は彼女の顔を見ることに成功した。

 すっごい自信ありげな顔をしていた。目をまるで獲物のシマウマを見つけたライオンのようにギラギラ――いやキラキラに光らせて、口は閉じながらもニコリと笑っている。


「・・・あっ、はい、そうですよ、・・・僕は悩みがあって、この店にやってきたのです。」

 っていうか、悩みがあるから、占い屋に来ると僕は思う。っていうか、当たり前じゃないか、占い屋の客に悩みがあるのって、当たり前ジャン。当たり前ジャン・・・・・・ジャン。キルシュタイン。

 ぴくっ、ぴくっ。と僕の体が動き始めた。やばい。これはやばい。

「・・・って・・・」

 僕はそう発していた。

「て?」

 彼女は聞き返してきた。彼女は僕を見上げるようにしながら、首をかしげる。

「・・・て・・・」

「て?」

 また聞き返してきた。

 体から熱が出ている気がする。熱い、暑い、熱い、あつい、アツイ、熱い、アツイああつい。やばい。抑えないと。抑えなきゃ。

「シュッーーーー」と僕の体の周りから、空気が噴出している気がする。

 僕は、右ポケットに入れてある円形の箱を取り出す。手のひらサイズだ。僕は素早くその箱をスライドさせて、パカッとあけて、中から錠剤を2つ取り出し、素早く口の中に入れ込んだ。

「・・・ってっていうか・・・」

「っていうか?」

 またまた聞き返す。

 僕は、口の中に入れた錠剤を噛んだ。「がりっ」という音が鳴る。

 その間も僕の周りからは湯気が出ている気がしたし、暑かった。あついあつい。アツすぎる。

 そして、ある境を越えた瞬間、感情をコントロールできなくなった。僕は叫んだ。

「・・・っていうか、占い屋に来てんだから、悩みがあるのは当たり前だろーがァァァァァーーーー!」


 僕の言葉は途中で小さくなっていった。錠剤が効いたのだろう。抑えがきいた。

 シュッーーーーという湯気の音は、だんだんと小さくなっていく気がして、数秒後には完全に収まった。僕自身もすぐに元に戻った。冷静さも取り戻した。

 彼女は僕が錠剤を取り出し食べるところをとても真剣なまなざしで、注視していた。そのとき僕は気づかなかったのだが。これは後々重要になる。


「あっ・・・、あっ・・・、あわわっ・・・、あのっ。・・・はいっ、・・・そうですね。・・・確かに当たり前ですよねっ。占い屋に来ているなら悩みがあって当然ですよね。・・・すいません。すいません。」

 彼女はあわわわとしていた。いきなり客が怒鳴り散らしたのと同じことをしたのだ。そう対応してしまうのもしかたがない。


 僕は瞬時に。

「すいません。ちょっと神経が昂っちゃって、適当なことを申してしまいました。本当にすみません。」

 そう謝る。実際そうなのだから仕方がない。

 謝るとあわわ状態だった彼女は瞬時に回復して。

「・・・・・・そうですか。では、悩みがあるんでしたら、今日はどちらのご用でしょうか?」

「・・・・・・どちら?」

 どちらってどういうことだ。【どちら】ということは、2、3種類【用】があるっていうのか。

「そうですよ。この店はたぶんお知りになっていると思いますが【解占呪屋】です。店のサービスの内容は、解占呪屋の名の通り、解呪と占いとなのですよ。ですから、あなたは――お客様は、どちらがお望みでしょうか?」


 彼女は答えを知っているような口調で僕にゆったりと聞いてくる。彼女と再度目を合わせたが、今度の目は先ほどのギラギラ、否、キラキラした目ではなく、何かを知りきった――悟りきった、聖母のような目である――と僕が思う目であった。(実際聖母なんて見たことないし。)

「・・・・・・もちろん、解呪のほうです。ついさっきも見られてしまったと思いますが、実は数週間前から・・・・・・」

 僕は話し始めるが、すぐに割り込まれた。

「ちょっとっ、待ってください。・・・立ち話もなんですから、奥の専用の部屋――占い部屋、あのとびらの向こうですね――あそこで座ってゆっくりお話をしましょう。」

 彼女は、自分が出てきた左手の黒い扉を指さした。あの部屋の中が占いの部屋なのだろう。病院で言うところの診察室であろう。

 僕もすぐに承諾し(当たり前だが)

「わかりました。」

「では、いきましょうか。」



 彼女は僕に軽くお辞儀をし、それから、すたこら、と部屋へと向かい歩いていく。僕もそのあとについていく。彼女が黒い扉を開けて部屋の中に入っていくので、そのあとに続く。一応、黒いドアを確認すると、やっぱり入り口のドアと同じで黒いカーテンが張られていた。予想通り。予想通りだ。遠目で見て完全には分からなかったが、やはりドアが黒いのはカーテンがあったからか。さすがだな僕、と自画自賛する。

 中に入ったら

「どうぞ手前の席にお座りください。」

 と僕は誘導される。


 この部屋――占い部屋は先ほどの部屋に比べると少し薄暗かった。黒いカーテンで閉ざされたこの部屋の光源は、部屋の中心――ど真ん中の天井にぶらさがっているミラーボールみたいな形の光源だけであった。これにより、ここは占い師の部屋だ――というのを強く表現することに成功していた。 

 意外なことにこの部屋に物は少ない。イス2つと机1つだけである。

 机はさきほどのミラーボール的なものの真下にある。形は円形をしており、まるで中国料理店に行ったときにある、あの丸テーブルのようである。大きさはあのテーブルより多少小さいし回転機能もないので、ここで食事をとったところで某コ●ンのように殺人事件も起きないだろう。

 僕はすすめられたように、手前の椅子に腰かけた。

 彼女も、とことこ、と円形机を回っていき、僕の真正面――対面トイメンに着席した。


「・・・さて、ではお話しましょうか。」

 そう彼女が話し始めた時だった。僕は何か違和感を覚えたのだ。何か?――それは彼女の声音であった。・・・あれっこの人、こんなに真剣な感じでしゃべれるんだ、と思ったのだった。とても落ち着いた声音。そういえば最初僕が彼女に出会ったとき――あのときもたしか彼女はこのような落ち着いた感じにしゃべっていた。たぶん、僕の出会ってきた人のパターンからいうと、仕事に入ると途端にスイッチが入ってしまうパターンなのだろう。

 いいだろう。ここからは真剣パートだ。笑いなど一切ない。ただのマジ噺だ。

 よし行くぞ。僕は話し始めた。

「・・・・・・実はですね・・・」そう少し言ったところだった。


「っちょっ、・・・ちょっとお待ちください。」

 僕のマジ噺はそんな風に出鼻をくじかれたしまった。残念。

「・・・はい?どうしたんですか?」

「・・・えーと、・・・まずは少し手相を見せていただけませんか?」

 彼女は2本の指を、机の上で、まるで勢いの相当弱い鍔競り合いのように――くねくねと動かしながら言った。

 そうなると、

「・・・なぜですか?」疑問に思うのは当然のことだ。

「・・・あのっ、・・・それはっ、・・・手のひらからわかることってとても多いのは知ってますよね?」

「はい。知ってます。」

 手のひらからは分かることが多い。

 手のひらというと、まず手相がある。

 手相というのは当たるものらしい。

 なぜならば手相とは人の生きたあかしだからだ。

 どこにどんな線があるか、それは人の生活によってずいぶん変化する。

 つまり人の手相をみることでその人の生活、人生までもわかることがあるのだ。


「その通りです。」彼女はそう答える。

「まず相談の前に見ておいた方があなたをより理解できるんじゃないかと思って。

 そちらの方がいいんじゃないかと思ってですねぇ。」

 確かにそうかもしれない。

 まあ、ついでに見てもらうか。

 この人占いもやっているというし、手相占いもできるのだろう。

「わかりました。ではどうぞ。」

 僕は右手を彼女の前に手のひらを上にしてさし出した。

 僕のその手は、白くて柔らかい、彼女の手にとられた。

「・・・はいっ、では、・・・ふむふむ・・・」

 彼女は僕の手のひらをよく観察する。

 なんか変な気分になるな。女性と手をつないでいると。これが童貞の行きつく先の向こう側だ。そんなことを考えていると彼女の手相観察は終わった。そして彼女は僕に告げた。


「あなたはたぶん花屋さん・・・・・・ですね。」

「・・・えっ・・・・・・」


 正解だ。

 そんな馬鹿な。嘘だ、そんなことがあるはずがない。わかるはずがない。ありえない。こんなこと起こるはずがない・・・。

 って何を言っているんだ僕は。自分でさっき手のひらからは人生が分かると言っておいて。

 そう自分にツッコみをいれたが、それでも僕は動揺を隠しきれなかった。


「・・・・・・はい。そうです。僕は花屋です。・・・っで、・・・でもなんでわかったんですか?」

 素朴な疑問。単純な疑問。率直な疑問。


「・・・えっーっと。ではまず説明させていただきますと。」

 そう前置きを置く。置きに置く。沖に置く。いや沖に置いたら遠いだろう。全く意味不明なことを考えているな。動揺しているのは間違いない。


「まずあなたの手のひらには傷がたくさんありました。普段から何かとがっているものに触っているのでしょう。この傷はたぶん花の棘――バラなどの棘による傷だろうとおもいます。つぎに、あなたの手は大変荒れていました。これも、先ほどの傷と合わせて――花屋さんの手のひらのよくある特徴なんですよ。手が荒れるのは水と植物のためです。それに、花の灰汁やら葉っぱや樹液などがついて、手や爪が黒く変色してしまうのも大きな特徴ですね。」


 僕は完全に話に聞き入っていた。

 理論的に正しいし、そしてとても理解しやすい。

 まるで伝説の探偵、ホームズのような推理だ。

 そう考えていた時、


 でも、っと、彼女はクスクスと笑い、僕の顔に、いや――耳に口を近づけながら、小さな声で、

「・・・・・・実は内緒なんですけど、もっともらしく言いましたが、本当はさっきのだけじゃ特定できませんでした。」

「・・・・・・えっ・・・・・・」

 何・・・だと・・・。

「傷や荒れているのとや色だけじゃ、工場勤務のかたでそのような特徴を持った方もありえますからね・・・・・・」

「・・・・・・じゃあどうやって・・・・・・」

 彼女にこしょこしょと耳の横でしゃべられると、ちょっと僕はそわそわしてしまう。真っ黒なローブのフードがふんわりと動き僕にふれるかふれないかのところで揺れている。



「はいっ。実はあなたの匂いです。とても良い植物の匂いがしました。だからたぶん花屋なんだろうなぁーって。」

「えーーーーーーーー」

 なんじゃそりゃー。僕は自分の匂いを嗅いでみるが、確かに少し植物の匂いがついている気がする。ずっと花のすぐそばにいるせいか鼻が花の匂いに慣れてしまっていたのかもしれない。(ダジャレじゃないぞ)

 匂いって、それって手相関係ないじゃん。植物の匂いがしただけじゃん。

 ていうかせこくないかそれ。


 ・・・・・・うん?

 ・・・いや、よく考えろ。

 匂いを抜きにしても、彼女は花屋の手のひらの特徴を知っていた。

 それだけでもすごいんじゃないか? もしかしたら、手相を占うこともある占い屋が知っていたところで不思議でもないのかもしれない。だがその時の僕は気づくはずもない。

 彼女の推理はホームズだとか言ったのは間違いだ。

 ・・・これは工●藤真●一だ。有名な某ジェットコースタ事件の時の、手相占いの後のしょうもない理由のやつと同じ系統の推理だ。それだけに彼女の推理力は段違いだな。両方男だけど(ホームズも工●藤も)。

 わらけてきたぜ。そんな時に彼女を見ると、アハハハハと笑っていた。右手を顔に当てていた。僕もそこで吹き出してしまった。

 ワハハハハと二人で笑いあった後、

「えぐっ、・・・クスッ、・・・ちょっと涙も出てきちゃいましたよ。」

「どんだけ笑ってるんですか、フフ。」

 ようやく話は元に戻る。

 笑いも少し収まって、彼女はハンカチで涙をふき終わると。


「・・・・・・では、あなたの悩みを聞かせてもらえますか。」

 そして真剣モードに入った。

「はいっ。」

 ようやく本題に入った。

 さて、緊張しすぎないようにリラックスして、話を始めよう。

 「では話します。実は、僕何かに憑かれてるんじゃないかって思っているんです」

「憑かれている・・・・・・ですか。」

「そうです。憑かれているんです。決して疲れているわけでも、突かれているわけでもないんです。」


 ◆◆  1週間前  A月1日 日曜日 ◆◆

 僕はなにかに憑かれているのではないか。そう思ったのは約1週間前だった。

 それはある街中を歩いていた時だった。

 日曜日の午後、若者たちが闊歩し、活発に躍動する街中。僕はその日ちょっとおしゃれな服でも買おうと思い、場違いな都会に出てきたのである。そんな時不愉快なものを見つけた。

 ある男が歩きたばこをしていたのだ。

 僕はそれをみて少しむかっとした。日本人ならムカッとしてもおかしくないだろう。歩きたばこは危ない。危ない。もし子供の目にでも当たったらどうするのか。

 でも、なぜかその男は注意される様子もない。

 それはその男が悪そうなやつだからだ。

 金髪でサングラスかけて、いかにも注意したら逆切れされそうである。だから誰も彼に注意することが出来ないのであろう。

 ぼくも、むかっとはしたもの注意できそうもなかった。その日の僕でなかったのなら。その日の僕は違った。怒りの抑えがまったく効かなかった。すぐにキレてしまったのだ。   僕は怒鳴り散らした。

「歩きたばこなんて危ないからするんじゃない! 」

 男はぼくを見て、何こいつ舐めてやがるのかというような感じで睨んできた。

 すぐ彼は煙草をもみ消した。それにより、僕の心は落ち着きを取り戻すようにみえた。

 しかし、男はニコリと気持ち悪い、意地の悪い、笑いを見せると、右のポケットからもう1本の新しいタバコを取り出した。

 僕に見せつけるように大げさな動きをして、左手でライターを取り出す。そのライターは100均のプラスチックのライターではなく、高そうな金属製のライターだった。

 こいつ反省する気もないのか。むしろこの僕を挑発してやがるのか。

 沸点を超えた怒りはさらなる沸点、何と呼ぶべきだろうか――超沸点を超えた。

 男は火をつけようとライターのふたを開ける。その時、僕の右手が勝手に動いた。

「シュッ・・・・・・」

 素早く男の左手に握られているライターを奪い取った。男はあまりの速度に目も体もついていけないようだった。

 何のリアクションもない。

 数秒後、僕の右手を見て、自分の持っていたライターを奪われたことに気付いたようだ。どうやって奪われたのか、男の目にはそんな疑惑の念と困惑の念が浮かんでいた。

 そして、男にわざと気付かせるようにライターを見せつけてから、僕は右手を握りしめた。

 自分では全く抑えることのできない圧倒的なパワーを自動的に右手に集中。(矛盾か?)

「ブグワッキンッ・・・・・・」

 右手を広げると、パラパラと金属が落ちていく。元々はライターの構成成分だった、金属の部品たちである。

 僕が右手の握力のみで金属製のライターをぶっ潰した瞬間だった。


 ◆◆現在に戻る   A月8日  土曜日 ◆◆


「ということがあったんです。」

 最近よくわからないが、以前よりキレやすくなっている。なぜか?と考えていても全く思いつかない。僕はこの症状を治したいと思っていた。

 花屋は客商売だ。

 キレやすかったら、うまくいく商談も破談にしてしまう。昨日も1回、一昨日も1回、お客さまを叱りつけて、いや――怒鳴りつけてしまった。

 僕は、この原因が何かわからないので、ちょっと大家さんに相談してみた。

 そうすると、

「・・・何か悪霊にでも憑かれているのかもしれないわね。ここに解呪屋というのがあるから見てきてもらったらいいんじゃない。」

 と場所を教えてもらえた。そして、僕は大家さんに何かお礼をすると約束したのだった。実は、大家(男)が僕を狙っていることをこのときの僕はまだ知らなかった。


 真剣な顔で聞いていたであろう彼女はふむふむとうなずき、

「・・・キレやすくなっているから、何かに憑かれているのではないか?ということですね。」

「・・・はいっ、そうです。」

 ふむふむ、と彼女はまた考え始める。

 ここで、名探偵のように、葉巻を取り出して一服とかをするわけではなく、サッカーボールを蹴り上げリフティングするのでもない。

 彼女は右指をまるで指揮者のように動かしながら考えていた。

 どうやって考えているんだ?それは・・・。頭の中の考えを、指で線を作り、つなぎ合わせてる、・・・とか、そんな感じか?

 数分間。彼女は夢中になって脳内オーケストラの指揮をしていた。その間ずっと、奏でられる音楽を聴き楽しむ、なんてことなどできるはずもなく、ただ緊張して座っていたのだった。

 絶対話しかけられない空気というのがここにはあった。

 そして思考が終わる。


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