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魔法騎士~ルーン・ナイト~  作者: 神海 十夜
第二章
6/10

入浴と睡眠と





「どうでした?」


「美味しかった?」


「俺よりは、な」


 二人が作った夕飯は、俺よりも美味かった。料理を初めてそう時間が経っていない筈なのに、何故だろうか。


「どうしてこんなに料理が美味いんだ?」


「私達の母は、元々皇帝専属のメイドでした。それは私達の国で『皇帝の侍女』(メイド・オブ・エンペラー)の称を受けた者がつける職業なんです。だから、私達は家事全般が得意なんです」


「料理のコツとか、お母様が色々話してくれたの」


 レイが若干額に汗を浮かべながら、レンは嬉しそうに母親の事を話す。余程好いているのだろう。そこで、一つの提案を思いついた。私達の国、とレイがいっているのだ。この国では無いのだろう。なら、せめてレイとレンが好いている母親くらいには、二人の所在を教えても良いだろう。


 ……非常に、危険且つ危ない橋ではある。が――。


「レン、レイ。母親に、手紙を出そうか?」


「出来るんですか?」


「本当に?」


 私は提案してしまった。甘いにも程があるだろう。本当に。迂闊だと他人から罵られても仕方がないほどに。


「ああ。字は、書けるか?」


「私は書けますが、レンちゃんが…」


 しかし、二人の笑顔を見てしまうと、そんなリスクすらどうでもいい様な気になってしまう。


 だが、レンは読み書きが出来ないのか、なら、レイと一緒に教えるか。


「今回は、レイが代書してやってくれ。次までに、レンには字を覚えてもらおう。それが目下の目標だな」


「そうですね」


 レイが答える。レンは少しボーっとし始めている。早めに眠らせたほうが良さそうだ。


「レイ、はやく風呂に行ってこい。レンが眠そうだ」


 レイがレンを見て、動いた。風呂場へ。レイに首輪の鍵を渡しておく。


 二人が出ていき、これから少しの時間の暇の潰し方を考えようとした時、レイが戻ってきた。


「ルシア様」


「どうした? レイ」


「その腕で、お一人でお風呂に入られるのですか?」


 俺はその事を完全に失念していた。この状態ではまともに服を脱ぐ事も出来ない。


「それは、どうしようと言う事だ?」


「よろしければ一緒に。と、言う事です……よ?」


 レイが少し赤面している。やはり、恥ずかしい事は、恥ずかしいのだろう。しかし、俺はこれを逃すとトンデモナイ事になる。


「……悪いが、頼む」


「はい」


 今度は俺も一緒に風呂場へ向かう。脱衣所ではすでにバスタオル一枚になっているレンが居た。


「あれ? ルシア様。どうしたの?」


「腕がこうだから、レイに頼んで体を洗ってもらおうと思ってな」


「そう言う事なの。レンちゃん、いい?」


「私はいいよ」


 レンは何故か笑顔だ。やはりレイよりも精神的に幼いのかもしれない。まだ羞恥心と言うものが無いように見える。


 レイが俺の服に手を掛ける。上着を器用に脱がし、下の肌着も左腕を気遣いながら脱がしていく。流石に下は自分で脱いだが。


 そうして腰にタオルをつけて浴室に入る。威張れる事ではないが、この浴室は広さが結構ある。大人三人が余裕で浸かれる浴槽、それ以外の場所は大人が五人は座って居られる。


 まず、レイに腰の周囲以外の場所を洗ってもらう。そして少し離れて後ろを向き、タオルを外して洗い残してある部分を洗う。そこまでレイにさせるわけにはいかない。


 今度は蛇口を捻り、シャワーでお湯を浴びる。左肘でシャンプーボトルの頭を押し、右手でシャンプーを受ける。そして頭を洗う。しかし、どうにもやりづらい。


「ルシア様。やりづらいんですか?」


 レイが俺の背後に立っている。レイもバスタオルを外しているので、俺は凝視できずに目をそらす。


「少しな。悪いんだけど、やってくれるか?」


「はい」


 レイは俺の髪を洗い始める。


「ルシア様の髪って、綺麗ですね」


「そうか?」


「はい。髪だけじゃなくて、肌だって白くて目立つ傷は一つとして無いし。女の人みたいに造形も良いし。


 眼も神秘的な、一点の曇りも無い夜色ですし。


 とっても綺麗ですよ」


「そうかな」


 俺は自分の容姿その他に別段気がかりは無い。だが流石にここまで美辞麗句をいわれると少々恥ずかしい。


 しかし、容姿について言うなら物心ついたときからこんなものだったし、それ以来人との係わり合いを避けて暮らしていて、そんな事を面と向かって言われた事は無かった。ただ、貴族の娘達が言い寄ってくる事はあったので、そこそこ見れる顔だと言うぐらいにしか考えていなかった。


「私も、髪の色は銀じゃなくて金の方が良かったな」


「レイとレンの銀髪も、綺麗だと思うぞ」


 そんな事を言っていると、どうやら終わったようだ。すぐにシャワーで泡が流され、さっぱりとした気分で蛇口を閉じる。今度は浴槽に一足先に入る。レイはレンの元へ戻り、今度はレンの頭を洗っているところだ。


「あー。ルシア様ずるーい。一人だけ先に入っている」


「レンちゃん。動かないの。後少しだから」


 レンが恨めしそうな目で俺を見ている。その隙にレイがレンに頭からお湯を被せる。


「はい。お終い」


 レイが言うのが速いか、レンが動くのが速いか、レンは走りはしなかったが急いで浴槽にきた。そしてその後にレイが続く。こうして見ていると、レイとレンは年齢に差があるように見えてしまう。


「レイ、レンとは双子だよな?」


「はい。そうですよ」


 何故か俺を中心に左右にレンとレイがつく。そして俺の質問にレイは答えた。


「レンとお姉ちゃんは双子の姉妹だよ。見て分かるでしょ?」


「確かに外見は良く似ているが、見ていると、年齢に差があるように見えてくる」


 俺の率直な感想だ。するとレイは少し苦笑した。


「仕方ありませんよ。レンちゃんは私と違ってずっとお母様の所に居ましたから。甘やかされているんですよ」


「そんな事、無いもん」


 レンがレイの言葉を否定するが、どうやら思い当たる節があるらしく、完全に否定しきれていないようだ。レンは口までをお湯につけてぶくぶくしている。やはり子供っぽい。


「私はレンちゃんよりも先に知性を覗かせましたので、その分早くに『教育』が始まったんです。だから、私とレンちゃんには歳の差があるように感じるんですよ」


 そう言われて俺は納得した。それなら仕方ないだろう。早くから他人を付き合う事のあった者と、長く身内だけといた者ではその精神面での成長に差が出るだろう。レイとレン、二人はその端的な例と言う訳だ。そしていう事を言い切ったレイは、すっかり脱力して、顎辺りまで湯に浸かるような格好をしている。目も閉じられて今にも気の抜けた声を出しそうな感じだ。


「こら、二人とも。あまり長い時間浸かっているとふやけるぞ」


 俺は二人に声を掛ける。


「「は、はぁい」」


 情けない声まで揃っている。やはり双子だな。そして、そんな事で感心してしまう自分。


「ほら、出た出た」


 二人を急かしながら俺も出る。脱衣所で体を拭き、服を着る。俺は本当に情けないながらもレイにしてもらう。


「はい。出来ました」


「ありがとう」


 レイに礼を言う。これは当然の礼儀だ。相手が誰であろうと。


 レイとレンは自分の首に首輪をかける。そしてレイは鍵を俺に返す。それを受け取って部屋へ向かう。当然ながら、左右に二人を連れてだ。


「えへへへへ」


 レンは妙に上機嫌だ。何がそんなに嬉しいのだろうか。俺には皆目見当がつかなかった。表情も困惑を浮かべてしまう。


「レンちゃん。こうして人と一緒にくっついているのが好きなんです。それが特に自分の気に入った人だとこうなんです。


 ルシア様、レンちゃんに気に入られたんですよ」


 俺の心を読んだかのようにレイが喋る。


「ルシア様が、聞きたそうな顔してましたから」


 そんなに顔に出やすいのだろうか。俺は。


「まぁ、怯えられるよりは良いけど。こういうのは、慣れてないからな」


「あれ? ルシア様、女の人と付き合ったことないの?」


「俺の傍に、ここまで近づいているのはお前たちが初めてだよ。


 俺は今まで、人を遠ざけていたし、そんな俺に、寄ってくる人間もいなかった」


 そこで言葉を一旦区切る。二人の顔は見ない。


「最近は……そう、お前達がきてからは、この近さで人と一緒にいるっていうのも、悪くは無いかな。って、思い始めてる」


 そこで、自然と顔が緩み、微笑している形になるのが分かった。本当に、最近はよく笑うようになったもんだ。自分でもそう思う。――少し前なら、顔を緩めることも無かったのに。


「「ルシア様」」


 俺の右側にいるレイが右腕に、俺の左側にいるレンが胴体にしがみついてきた。この温もりも、本当に悪くない。いや、むしろ心地良い。そう、人の温もりが本当に心地良いものだと知ったのも、レイとレン。二人がきてからだ。


「さ、早く寝よう。湯冷めしてしまう」


 部屋に戻り、ベッドに入る。二人は言っていた通り、また俺の左右につく。左腕の方は二の腕だけ使う。そこから先は固定されている。


「「おやすみなさい」」


「おやすみ」


 二人と就寝前の挨拶をして目を閉じる。今日は疲れた。睡魔はすぐにくるだろう……。今日は、骨折以外は良い事が多かった。





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