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魔法騎士~ルーン・ナイト~  作者: 神海 十夜
第一章
2/10

出会い


 今日は気ままに街を歩いている。この街、ひいてはこの国だが、古く千年近くの歴史を持っている。街並みはレンガや石材、木材などを多用したしっかりした建物が多い。かく言う自分の屋敷も城並の堅牢さを持っていたりする。


 スウィード王国王都、ラングフェーラ。それがこの街の名前だ。


 今日の服装は黒で統一してある上着とズボン。裾、ふちは真逆の白で補修されている。


 出歩いている用件は食料の買出しと、髪紐の購入、そして新しい剣の調達を兼ねての散策で、剣は良い物が手に入った。古の時代の強力な付与魔法の施された魔剣だ。自分で魔力探知を使って探し出した業物だ。銘が見当たらなかったが、後で追々調べる事にした。


 しかし今日は冬にしては妙に暖かい。黒い外套と服が太陽光を吸収して少し熱い。風があるのが救いだが、背中の中ほどまである、解いた自分の金髪が靡いて少しうざったい。切れば良いのだが、短いのは何故か嫌いだ。普段は縛っているのだが、今日に限って髪紐が切れてしまった。気付けば予備も無いという有様。


 この良い陽気の中、俺は概ね気分良く歩いていた。


「ごうが~い! 号外~! ヴァン皇国の第四皇女が行方不明になってもう一週間だよ~! 懸賞金は今までの倍の金貨四百だ~!」


 そんな街頭の声も聞こえてきた。まぁ、物騒だな。皇族が誘拐されて一週間も行方が分からないとは。しかしおそらく、いくら懸賞金を掛けようと、出てくる筈は無い。今は、そういう世の中だ。


 そんな事を考えていると、俺の背後から聴いた事がある声がした。


「よう、隊長」


 俺を気安く呼びとめる声。この声には聞き覚えが在る。仕方なくため息をつきながら振りかえる。やはり、知っている人間だった。


「何だ? ウィンセント。いくら俺がお前の隊長でも、休日まで俺に声を掛ける事は無いだろう。連れの、ヴィークも迷惑だろう」


 俺は声を掛けて来た相手、ウィンセント=クラン=ヴィンゲイツに気の無い答えを返す。連れているのは同じ分隊のヴィーク=ヘンツェだ。


 ウィンセントは最近俺の分隊に入ってきた、騎士としては新米だ。傭兵上がりでこの国に腰を落ち着けるつもりになった、と本人は言って騎士団入りしてきた。だが、騎士団の第二小隊隊長を務めている、しかも直接の上司の俺にこの声の掛け方だ。なっていない。わざとなのか、それとも単に傭兵時代の癖が抜けないのか。


 確かに俺はまだ十七だ、実戦経験も一年と少し前に一回きり。餓鬼と言われても仕方が無いし、向こうの方が年上だ。しかし……しかし、だ。体面上もう少し言葉に気をつけてもらいたい。一応これでも王立治安騎士団第二小隊隊長なのだから。


「そう言いなさんなって。確か隊長はお一人で、家には誰も居ないときた。寂しく、無いんですかい?」


「『俺にそんな感情は無い』と、言いたいが、少々前から寂しさを感じ始めた。だが、それがどうかしたか?」


「いえね、隊長の性格だ。誰も寄せ付けていないんじゃないかと思いまして」


「お前のような奴以外、俺に関わろう何て考える人間は、騎士団及びこの街にはそうそう居ないだろうな。俺はもう今日までの二年間を、そんな風に生きている」


 この辺の住人で無いウィンセントには俺のことが良く判らないようだ。人嫌いで名の知れている俺の噂ぐらいは、聞いた事があるだろうに。


「寂しいねぇ」


「ウィンセント。ヴィークが迷惑する。これ以上、俺に構うな」


 俺ははっきり言ってやった。別に嫌われているわけではないが、俺と関わろうとする人間は居ない。


「ヴィーク。お前、隊長嫌いか?」


「ウィンセント!」


 俺はウィンセントを怒鳴る。こと、迫力について言うなら常に仏頂面の俺は無用に威圧感があるらしい。大人でもたじろく者が多い。余り歓迎する事では無いが、こういった脅しには重宝する。


「あの、別に嫌いと言うわけではなくて、その……」


「付き合い辛いんだろ? 言わなくてもわかっている」


 ヴィークが口篭もるのを見て、俺は言った。自分自身こんな人間と関わりたくないと思っている。だから、他の人間も俺とは付き合い辛いんだろうと判断していた。


「いえ、違います! そんなことないです!


 隊長はまだ若いのに、俺たち以上に剣が使えて、魔法も使えて、頭だって良いんです。血筋も立派だし、そんな人間に俺たちみたいな下級騎士でしかない者が周りに居ても、邪魔なだけだと思って。

だからみんな、隊長には近づけないんです」


 俺の名前はルシア=クォン=ファンディアハル。ファンディアハルはこの城下街では貴族ではないが名家だ。祖先は建国王の右腕として存在し、騎士を多く輩出した血筋で、爵位こそとある理由から無いが、並みの貴族よりも名が知れている。俺自身、今は小隊長だが、後二年もすれば近衛兵ぐらいになれるだろう。最終的には二十歳ぐらいで近衛兵よりも遥かに上の存在、この国一の、王の称号に次ぐ名誉、『魔法騎士(ルーン・ナイト)』の称号を戴く事になる可能性だってある。


「俺はこの歳まで人を近づけない生活を送っていた。邪魔だと言う前に、誰も俺には寄ってこなかった。それだけだ。


 別に、俺は誰かを邪魔にしたりはしない。俺だって、今は一介の騎士に過ぎない。

ヴィーク、お前たちと何ら変わらない。俺は、無闇に権力をかざすのが嫌いだ。人は平等だとは言わないが、部下の扱いに実力以外の理由で差をつけたりはしない」

真実だ。権力は必要なときにだけ働けば良いし、昔とは少し心境が変化している。周りに誰か居てもそんなに嫌だとは思わなくなった。何故だかはわからないが、取り敢えず今はそうだ。


「そうなんですか?」


 ヴィークが驚いているように見える。だから、俺は言葉を続けた。


「ああ。だから、そんなに恐縮するな。もし、俺の物言いがきつく感じるなら、それは他の人間と話す事に慣れていないからだ。突き放しているわけではない。


 気にするな、と言うのは無理だろうから、覚えておいて欲しい。他にそういう理由の者が居るなら、そう伝えてくれ」


「はい!」


「これで、隊長の心内が少しは分かっただろう? ヴィーク。俺は間違ってないだろ?」


「ウィンセント、お前凄いなぁ」


 ヴィークは感心している。どうやらこの為にウィンセントは俺の配下の中で一番人望のあるヴィークを連れてきたたのだろう。しかし、良く人を見る奴だ。俺も少し感心する。


「隊長。本当に一人で暮らしてるんですか?」


「ああ。


 二人とも知っての通り、俺の両親は既に他界している。家には使用人は誰も居ない。雇うのも、気が引けてな。一人だ」


 ヴィークは本気で驚いていた。あの広い屋敷に一人で、と言う点についてだろう。


「使用人を雇いたくないなら、奴隷でも買ったらどうです? 俺たちみたいな人間には出来ませんけど、隊長ぐらいの身分の人間ならそれも出来るんじゃ?」


「そりゃいい。使用人よりずっと安上がりですぜ」


「簡単に言うな。第一、俺は奴隷市場の場所なんて知らないんだ」


 そう、この国では奴隷と言うものが在る。この大陸の他の国と国際条約を交わし、奴隷を公認のものと決めている。腐った国の文化だが、それが国に予想以上の収益を齎すので、誰も止めさせない。逆に奴隷売買に関する法律まで整備されている始末だ。そして、そこに居るもの達は金で人生を売られる存在。身売り、盗賊に攫われた者、色々だ。


 そんな人々を売買する場所こそ、奴隷市場だ。


「俺は知ってますぜ~。こう言う事もあろうかと、ちゃんと調べてあるんですよぉ。隊長」


 ウィンセントはにたりと笑った。……どうやら、こいつはただ単に行って見たいだけの様に思えた。


 横を見れば、ヴィークも興味津々のようだ。


「仕方ない。行ってやる。俺は場所を知らないから、ウィンセント。同行しろ。


 ヴィークは南方訛りを喋れたな。役に立つかもしれないから、同行しろ」


 俺はそう言う。二人の要望をかなえてやろうと気まぐれで思っただけだったが、二人は更に目を輝かせた。


 この大陸には数種類の言語が存在し、普段俺らが常用語として使っているのが公用語北方訛り、時々南方から連れて来られ、南方訛りしか喋れないものも居る。そういうのに会ったときの為にヴィークも同行させる。建前はそれでいい。


「へへへ、話しが分かりますね。隊長」


「隊長。覚えてたんですか? 私が南方訛りを喋れる事」


「俺は一応お前の上司だ。部下の誰がどんな特技を持っているか、自己紹介されたときに言われた分は覚えている」


「凄い」


「ほら、ウィンセントが動き出した。行くぞ」


「はい!」


 ウィンセントに連れられて、俺は奴隷市場の会場へ向かった。





 ウィンセントの話では会場は地下にあるらしい。道理で俺が知らないわけだ。地下の情報は厳しく管理されている。地下には下水道、宝物庫、地下墓地など色々なものが乱立している。色々な所が細い通路で繋がっていて、迷い込むと厄介なので限られている出入り口は厳しく管理されている。よって情報も管理されていると言うわけだ。俺は好き好んでそんな地下の事など調べようとは思わなかった。と、言うことだ。


「隊長、ここです。入り口は」


 ウィンセントがある建物の前で止まった。出入り口にはやはり門番が立っている。俺が近づくと門番は意外にも俺を知っていた。まあ、俺の家の事を知らない奴は、王立機関には居ないだろう。王立機関に居るだけで、嫌でも俺の家の事及び、俺個人の様々な噂を聞く事になるから。特にこの金髪黒瞳の特徴を持っているのは、この大陸でもファンディアハル直系――つまり、今は俺だけだ。


「それでルシア様。この度は奴隷市場にご用ですか?」


「そうだ。後ろの者達は俺の連れだ」


「分かりました。どうぞ、中へお入りください」


 門番が扉を開ける。はじめに俺が入ると、後にヴィーク、ウィンセントの順についてくる。


 すぐに下る階段があった。出口が見えない、かなり長いな。


「ウィンセント、ヴィーク。ここから先、俺は責任持たないからな。今日はお前等の隊長じゃないんだ」


「分かってますよ。俺だって自分のケツくらい自分で持ちますって」


「私は隊長についていますから、問題は起こしません」


 二人を連れて階段を降りる。何故か下に行くと光が見えてきた。まあ、理由は検討がつくが。




 厭な活気に満ちる地下。独特の熱気と鼻を衝く――饐えた臭い。




 地下はとても騒がしく、直径二キロぐらいの広さを持った空間だった。高さも上に五十メートルはあった。半地下状のドーム型の建物だ。天井には光源、おそらく巨大な照明石だろうと思われるものが光っている。しかし、騒がしい。


 まぁ、聞こえてくる喧噪の中には悲鳴や絶叫が時々混じっているのだが。


「こりゃすげぇ。話に聞いているのより派手だな」


 ウィンセントが口笛をヒュゥと鳴らし、感嘆の声を上げる。


「隊長。男と女、どっちです?」


「女だ。男を家に置きたいとは思わない。そんな趣味は、ないからな」


「じゃ、右ですね」


 ウィンセントに比べてヴィークは冷静だった。ここから先はヴィークに先頭をいってもらうことにしよう。


 二人に気付かれないように位置を入れ替える。


「歳は?」


「……十四から十六だ」


 更に区画を絞っていく。始めの場所に図解されていた。右が女、左が男。奥に行くと年齢が下がっていく。丁度俺が指定した年齢は右の真中ぐらいの場所だ。


「この辺ですね。誰か、目を引くのは居ますか?」


 ヴィークに言われて俺は周囲を見る。しかし、「何か」では無く、「誰か」と、言う辺り、ヴィークは根っから善人なんだろう。此処に並んでいる者たちは、一様にモノ扱いされているというのに。


 俺自身も、モノ扱いするつもりはサラサラ無いのは当然だが。

そこかしこに首に首輪を嵌められた同じ年位の女が数多く座らせられている。他国から連れてこられたような服装をしている者、肌の色が褐色の者、髪の色が赤い者、中には獣人の子も居た。


 そうして視線を巡らせていると、ある所で俺の眼が止まった。


 その視線の先には、見事な銀髪の可愛らしい少女二人が居た。両方同じ顔なので、おそらく双子だろう。


 その容姿は、俺の記憶に引っかかる顔と髪だ。何処かで、見た気がする顔に思えて仕方が無い。


 俺はその二人の元へ足を向けた。ヴィークとウィンセントもついてくる。


「お、隊長。面食いですねぇ」


 ウィンセントが茶化す。俺の右手はウィンセントの腹にめり込みたいらしかったから、その通りにした。


 腹に一撃入れただけで、その後、それは気にしない。


「あ、おい? ウィンセント!?」


 ヴィークの慌てる声が聞こえたが、無視した。


「店主」


「はい。何でしょう」


 妙な感じのする大柄な男だ。歳は四十前と言ったところだろう。


「この銀髪の娘二人は、何が出来る?」


 俺に質問に、店主は人の良さそうな笑顔を浮かべる。長い事この仕事をしているな。それが見て取れる。


「お客さん。目が高いですね。この二人、掘り出し物ですよ」


 だが、聞いてはいない事を答える。この口上は商売上手になるための秘訣のようなものか? ……、少し、俺も対応を変えるか。


 しかし、本当にどこかで見た事があるような気がしてならない。だが、それがどこで、いつ見たのかは、さっぱり想い出せなかった。


「何故此処に、と言うのは薮蛇だな。で、何が出来る?」


「覚えが早くて家事全般は可能です。二人とも、体には手垢一つ在りません」


 つまり生娘だと言っているのだろう。運が良い。聞いた話では、此処に並ぶ場合、大抵は暴行を受けているのが常だと聞いている。生娘のままだと付加価値があるということか。それとも、この二人をここまで連れてきた者が、以外にも良識人だったのか。まぁ、どちらにしろ、本当に運が良い。


「二人とも、ここに居たいか?」


 俺は腰を折り、両手をそれぞれの膝に当て、目線を座っている二人に向ける。


 すると、何だ? 二人とも俺を見て驚いているようだが。やはり俺はこの二人と面識が在るのか?


「……嫌、です……」


「……出たいよ……」


 二人は同じ声でそう言った。


「店主、合わせて幾らだ?」


「金貨三百と銀貨四十です」


 その値段は俺の一年の給料と大体同額だ。ヴィークとウィンセントは顔が青くなっている。二人では、丸二年分ぐらいに相当するんだろう。しかし、相場が解らないから高いのか安いのか……判断が出来ないな。普通の感覚でいえば間違いなく高額ではあるが。


 ちなみに金貨一枚が銀貨百枚と同価値で、銀貨一枚は銅貨百枚と同価値だ。しかし、そんな枚数を持ち歩くのは不便なので、それぞれ一、五、十、五十の金、銀、銅貨が存在する。まぁ、五十金貨なんて、一般の市場じゃ、まず見かけることは無い。


「店主。これで良いか? 釣りは要らん」


 俺は考える事を止めた。眼に着いて、足を止めた。それだけで、取り敢えずの理由としては十分だろう。


 上着の内ポケットから一粒の宝石を出した。金よりも価値の在る四大宝石の一つ、スカーレット・ルビーだ。その中でも〝真紅の涙〟と呼ばれる特級の物。この大きさの物なら、査定額は金貨五百以上になる。


「ちょっと待った。店主、その二人、俺に金貨四百で売らねぇか?」


 横から明らかに好色そうな中年の太い男が口を出してきた。眼がすでに上へ吊りあがり、ニタニタと笑っている。正直気色が悪い。俺は、生理的にこの手のこの種類の人種が一番大嫌いだ。吐き気がする。


「残念だが、俺が払う金額の方が大きい。諦めてくれ」


「幾ら払うってんだ?」


「店主」


 食い下がってくる男に、俺は諦めさせるために店主に宝石の査定をさせた。

大体の奴隷商は宝石鑑定の技能を有している。もしくは、鑑定技能の保有者を雇っている。コイツはどうやら前者だったようだ。拡大鏡を取り出し、査定を始める。


「……こちらの方は、スカーレット・ルビー、〝真紅の涙〟級の純度の石。


 金貨五百は下らないもので御支払いです」


「五百? なら駄目だ。払えねぇ」

その額を聞いて、男は割と簡単に引き下がった。もう少し食い下がられるかと思っていたが、案外物分りの良いほうだったようだ。


「店主、誰に売ったかを言うな。忘れろ。それは口止め料込みだ」


 少々高いが、気にしてはいけない。こういう時にこそ、金と言うものは使うのだ。でなければ、金の意味は無い。生活するだけなら、何も大層な金は要らない。


「はい。


 では、これが二人の首輪の鎖と鍵です。


 毎度」


 店主は二人の首輪の鎖と鍵を出した。俺はそれを受け取ると、まず鎖を外し、逃げないように一応言い、二人を立たせて歩くように言った。当然後にはまだ青い顔をしているヴィークとウィンセントをつれて。


 奴隷市場を抜けてヴィークとウィンセントを連れたまま家に戻る。その間、何度も道行く人々の視線を受けた。それはおそらく、俺の名前と顔を知っている人間か、俺が連れている奴隷の首輪をつけた二人に目を奪われたものだろう。可愛らしい少女二人に、いかつい首輪を嵌めているのだ。奴隷についての知識が薄い人間なら、変な趣味のあるという偏見で、奇異の目で見るのは当然だろう。だから、分からないでもないが、あからさまな視線は気分が悪い。


 しかし、歩みを速めるわけにもいかない。二人の事を考えて、首輪から鎖を外しているので、速度を上げるために引く事は出来ない。


 そのままの速度で、俺は周囲を威圧するような顔をしながら家まで歩いた。家に着くと、目頭が痛くなっていた。眉間にも皺が寄っていたようだ。それを片手でほぐしながら、俺はぽそぽそと呟く。屋敷の敷地一杯に張ってある、多重の魔法防御結界を一時的に解除したのだ。こうしないと、門までしか他人は入る事が出来ない。


 そして、家のエントランスに入ったところで結界を復帰させる。そのとき、ウィンセントとヴィークを見るが、ここでも二人は青い顔をしている。


 エントランスから階段を上がり、二階へ向かう。そこには俺が普段使っている自室が存在する。

自室に通すと、ウィンセントとヴィークの二人は、ようやく顔に赤みが戻ってきた。俺は腰に吊るしてあった剣を二本とも外して立て掛ける。今日はもう出かける必要が無いからだ。剣と言うものは、無駄に重かったりする。街中に居る分には使う事は無いが、俺は一応持ち歩いている。自分の自己流の格闘術だけでは、不安だからだ。幼い頃より少し憶えのある剣の方が、いざと言うとき役に立つと判断したからだ。


 そして、その二本の内、一本は今まで使っていた何の付加能力の無いただの鉄の板のような剣。もう一本は新しく買った魔剣だ。


 

「どうだった? 奴隷市場は」


「あんな額が動く場所だったんすね」


「俺には、一生縁が無いです」


「そうか」


 俺は淡白に答える。昔から社交場へだけは連れていかれていた俺には、大した場所ではなかったが、二人には十分驚ける場所だったらしい。


 とりあえず、二人がもう少し回復するまで少女二人を見る事にする。部屋の端の方から、まだ何処か怯えた様子で、俺のほうを見ている。仕方が無いだろう。俺は二人に向けて笑顔すら浮かべていない。仏頂面が馴染んでいるこの顔が、笑顔を最後に浮かべたのは何時だったか。





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