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ボクには変わった友達がひとりいる。
パパの食べ物屋さんで『アルバイト』をする大人の男性だ。
あぁ、大人の…というのにはちょっとアレかも。
ボクの知らないゲームや面白い御伽話をよく知っていて、それを教えてはくれるのだが、裏を返せばボクみたいなガキと頭のレベルが一緒だということじゃないかな?
彼の趣味は『インドア』なモノに偏っていて、そのせいか他の大人と比べて色が白い。
でも彼はいつも汗だくに働いていて、それでもぼくが顔を見せるとニカッと笑って手を振ってくれるのだった。
他の大人たちと違って、ボクを対等に見てくれるところに、ボクは大きな友情を感じているのだ。
年齢差15歳の、『エターナル』な友情である。
***
休憩の時間だ! パパの声がお店中に響いた。
ボクは座っていた石を蹴転がしながら彼を探す。居た。
近頃だいぶ日に焼けてきた、ご自慢の『背筋』が見つかった。
まだまだ生っちろい、と度々パパに言われてる。実はボクもそう思うけど、気を悪くするのでおじさんには言わない。
「うおぉぉぉぉ! 掘るなら掘らねば! 」
と、よく分からないことを叫んで、気付かず働いているおじさんの頭を掴むと、休憩だよ、と声をかける。
そしていつものように話をせがんだ。
どれだけの物語を知っているかは知らないが、短い休憩時間でもおじさんの話は面白い。
「ねぇ、人外ってどんな意味?」
その日の御伽話は、ある普通の『高校生』が突然戦いの場へ駆り出されるも、女の人とか吸ったり揉んだり(?)して活躍するというものだった。
戦争で『鬼神』(ちょー強いらしい! 角が3本も生えてるんだって! かっこいい!)の如き働きを見せる主人公を指すセリフが、人外である。
彼はいつものようにちょっと困った顔して、さぁな、と笑ってボクのヒザを叩いた。
「大人になれば分かるんじゃないか」
お決まりのごまかしだ!
思わず彼の頭に『ツッコミ』を入れると、面白いくらい咳き込んだので、二人して笑った。
落ち着いてからニヤリと、『クール』に笑って畳み掛ける。
「大体そういうことじゃあ、おじさんにも分かってないってことだよね」
ボクは憮然とした顔のおじさんを見て、しばらく笑いが止まらなかった
「俺もう三十路だっつーの!」
***
それからも毎日、おじさんは汗水たらして働いた。
ボクはドキドキしながら、話をよく聞いた。
岩山に囲まれた村で、二人で遊んだ。
『クール』で『エターナル』!
***
おじさんの家は、僕らの家とは様子が違った。
石がゴロゴロしてないし、ちょっとそれはどうなの? というくらい床をキレイにする。
そして風通しの良さそうな一室には、ネズミだのヘビだのの皮を剥いだものがぶら下がっている。
『燻製』っていうんだって。
「煙で燻すと長持ちするんだ。
ちなみに俺みたいなカッコいい男のことは『燻し銀』というんだぜ」
ニカッ。
そうやって笑いながら色んなことを聞かせてくれる。
おじさん。ボクの友達。
ボクは「吊り下げ部屋」を抜けてドアを開けた。
寝室で、おじさんは『ベッド』に横になっていた。
最近はずっとだ。
病気だと、思う。
おじさんはある時から急速に、体の調子が悪くなってしまったのだった。
まるでサボテンが枯れるのを見てるよう。
しばしば咳き込み、体は萎んでカサカサだ。
たまに体を起こせば、自慢の『背筋』の影もないのだった。
もう、一人じゃうまく歩けないおじさん。
おじさん、おじさん。また来たよ。こんにちは!
「よぉ。また来てくれたのか」
おじさんの顔がクシャっと潰れた。
***
窓を開いて風通し、軽く掃除をする。近頃のボクの日課だ。
体を拭いてやり、おじさん直伝のネズミとサボテンのスープを作ると、それをおじさんに持っていく。
「ほら、おじさん。
『ブルゴーニュ風』だよ」
おじさんは横たわりながら、窓の外、岩山と砂舞う空を眺めている。
ボクは今日こそ、と心を込めて、声をかけた。
「おじさん、今日こそお医者さんに行こうよ!」
彼は頑なに首を振った。
そういう病気とかではないんだ。お医者で治るものじゃないんだよ。
「よく、保ったほうなんだ」
何でそんなに諦めているの、おじさん!
おじさんのことについて、大人は皆諦めている。
パパまで!
ボクの友達を助けられない、助けてくれない人ばっかりだ。
パパはボクの頭を撫でながらこう言った。
『彼のそばに居てあげなさい』
そう、だからボクは何もかも投げ捨ててここにいる。
なんで! おじさん! お医者にいけばきっとよくなる!
諦めないのが『ヒーロー』だって教えてくれたじゃないか!
うつむいているとおじさんがゆっくり、言い聞かせるように、言った。
「ねぇ、寿命なんだよ」
「またそんなウソばっかり!」
ボクは信じなかった。
おじさんの話はちょっと『盛って』いるところがあったし、変なことを教えこまれて笑われたのも一度や二度では済まないから!
ヘビの抜け殻を耳に詰めるとヒゲが生えるとか、村の誰よりおじさんが若いとか。
そんなのボクだって信じない!
「ウソだよ…」
だって、だって、確かにおじさんはまだ若いじゃないか。
ボクと違ってヒゲが生えてるけど、だから大人だけど、まだ肌が青くない。
ヘソも伸びてない。そう、だからまだまだ若いってことなんだ。
78歳になったばかりのボクだって、800歳まで生きるはず。
しんじゃうだなんて! 全くなんでそんなウソを?
「そう…」
そうだ、食べ物が悪いんだ
黄青石を食べないのがいけない。もっと硬いものを食べなくちゃあ。
皆言ってる。一番青くて硬いところが肌と体をカチカチにしてくれるんだって。
「おじさん待ってて! 今パパのお店から…」
玄関に向かおうとすると、彼はボクの手を握った。
振り向くと、ニカッと、いつもの彼がいた。
言ったろ、繊細だから岩なんて食べれない。
ぼそぼその唇を開いて彼は続けた。俺は死ぬんだよ。
「それより水を持ってきてくれ、とっておきの話がある。」
***
とても長い話だった。
その間、ボクらは全くいつもの調子だった。
どこかで聞いたことのあるような話だった。
それでいて、素晴らしく『クール』で、忘れられない話だった。
ずっと一字一句諳んじられる。『エターナル』に。
ボクがそう言うとおじさんは豪快に笑った。そして咽た。
あわてて背中をさすると、おじさんは柔らかい手で、覗き込むボクの目元を拭う。
そして言った。
「いや、ようやく完結しそうだ」
***
いいか、なぁおい。
まず、この話はハッピーエンドなんだけど。
神様の手違いで住んでる星が木っ端微塵になって死んでしまった地球人たちが異世界にトリップしてしまって…。
(おわり)
このお話は5題噺でした。
以下はお題です。
>神様の手違いで住んでる星が木っ端微塵になって死んでしまった地球人たちが異世界にトリップ
>「エターナル」
>年齢差15歳
>人外
>掘るなら掘らねば




