第3話
夜の時間、四葉は家でサンドバッグを殴っていた。
(くそったれ。あの司令、人の心がないのか。そんな男が既婚者だと。)
四葉は頭で司令を思い浮かべ、拳に力を入れた。
「世の中は不条理だ。」
身体強化された拳は、容易くサンドバッグを貫通した。
四葉はサンドバッグから腕を抜こうする。
しかし腕が挟まったかのように抜けなかった。
「なんでだよ。抜けろ。今日は姫さんとも喋れず、司令には馬鹿にされる。そしてサンドバッグまで俺を馬鹿にするのか。」
四葉はサンドバッグに逆ギレした。
身体強化で、無理に腕を抜こうとする。
力を入れすぎてしまい、
腕が抜けると同時に、余った力が爆発した。
勢い余って体重を支えきれず、
四葉の体は倒れ、盛大に頭を打った。
「いだぁぁっ!!」
家の中に、四葉の悲痛な叫び声が響いた。
◇ ◇ ◇
朝になると四葉はベッドから目を覚ました。
起きると母が作ってくれた朝食を食べ始める。
両親は共働きで、四葉を育ててくれている。
ヒーロー活動でお給料をもらっている。
親から「将来のために使いなさい」と言われていた。
そのせいか、四葉はいまだ、親孝行ができていない。
ヒーロー関係なく両親は四葉を愛してくれている。
そのことに四葉は両親に、いつも感謝している。
「ご馳走様」
朝食を食べ終わる。
ニュースを見ながら学校の準備を始めた。
それが四葉の一日の始まりだ。
(今日の目標は姫さんに挨拶を返してもらうことだ。こうした積み重ねが恋に発展するのだ。)
この男は初恋で、恋を何も知らないど素人である。
「いってきます。」
家から出て学校に向かう。
家から町にある学校直通バスまで歩いていく。
三十分はかかる。地味に遠い。
身体強化で行きたいが、力を使ってはダメなのだ。
使えば、なぜかバレる。
この前もバレて司令に怒られた。
しかし、俺は通学中もパトロールを忘れない。
ヒーロー活動は年中無休二十四時間体制なのだ。
◇ ◇ ◇
学校に着くと、俺のヒーロー活動は休憩に入る。
学校中に事件が起きたら、司令室から連絡が来る。
そしてジャージ仮面が出勤するのだ。
学校中の四葉は、姫さんしか頭にないのだ。
「おはよう、みんな!」
四葉が自分のクラスに入り、挨拶をする。
「今日は時間通りに来たぞ。」
「来ない日もあるくせに。」
「不良は迷惑なんだよ。」
小声で四葉の陰口を言うクラスメイトは多い。
四葉の学校イメージはこうである。
ヒーロー活動で遅刻は当たり前。
ヒーロー活動で欠席は当たり前。
ヒーロー活動で早退は当たり前。
みんなはジャージ仮面の正体を知らない。
四葉の行動は完璧な不良に見えるのだ。
素の身体能力が高い四葉は、すべて聞こえていた。
(大丈夫。みんなは俺の正体を知らないだけなんだ。それに、あまり出席しない人が来るのが嫌なのは当たり前。)
四葉は胸を張り、クラスに入る。
カバンを机に置くと席を外し、トイレに向かった。
周りに人がいないことを確認してトイレに入る。
トイレの中で一人寂しく落ち込んだ。
「そこまで言わなくてもいいじゃん。俺も友達が欲しい。」
四葉が落ち込んでいると、外から歓声が聞こえた。
四葉は手で頬を叩き、気持ちを入れ替えた。
(そうだ。切り替えろ。今日の目標は姫さんに挨拶を返してもらうことだ。)
四葉はトイレから出ると、自分のクラスへ戻る。
(教室に入ったら、「おはようございます。おはようございます」だ。)
四葉が教室の扉を開く。
息を吸い込み挨拶の準備を始める。
その瞬間、扉から人の波が四葉を襲う。
「なんだ、これ!」
四葉が後ろに後退し、驚きの表情を見せた。
「今日も姫の波が起こったか。」
「あいかわらず凄いな、姫の波は。」
(姫の波?)
四葉が疑問に思い。
二人の男子生徒の話に耳を傾ける。
「姫さんが通学すると、挨拶のために姫さんに人が押し寄せ、人が流れる。このことから、これを姫の波と呼ばれるようになった。」
廊下で話す男子生徒の説明に四葉は納得した。
四葉は立ち上がり、諦めずに教室を目指す。
「また来るぞ。」
廊下にいる男子生徒の声が聞こえた。
新たな姫の波が現れ四葉を襲う。
「くそ。俺は諦めない。姫さんに挨拶をして、必ず認知してもらうんだ。」
四葉は波で流れる学生を掴み、教室を目指す。
「あと少しで、姫さんにおはようの挨拶ができる。」
波の頂上が見え始め、四葉に力が入る。
そして最後の波を踏み越えて教室に入る。
後ろ姿の姫さんを視認した。
四葉は目を光らせ。
挨拶をするために息を吸い込む。
挨拶をしようとした、その時――。
「みんな、おはよう。」
姫さんの挨拶の声が四葉の耳に響いた。
姫さんの天使を宿す声が、世界を浄化する。
美しく、清らかな声がみんなを天国へ導いた。
美しすぎる美声に、四葉は立ったまま気を失った。
「出たわ!天使の声が!」
「相変わらず、凄い光景ね。」
「姫さんの声には、すべての人を癒す力があるのよ。朝に姫さんの声を聞いてしまうと天に上る気持ちになり、異性は気を失い、同性は腰を抜かすのよ。この理由から、姫さんの声は天使の声と呼ばれているわ。」
「姫さん、凄いわね。通りで私たちも今、腰を抜かしているわけね。」
女子生徒たちが腰を抜かし。
姫の声について説明した。
姫が四葉に近づき、自分の手で頬に触れた。
「私に挨拶をするために来てくれたのかな? 四葉君。そんなに一途に思ってくれて嬉しいな。早く気絶していない君と顔を合わせてお話がしたいなぁ。待ってるよ。私のヒーロー。」
姫が気を失った四葉に声をかける。
周りの女子生徒が黄色い悲鳴を上げる。
「姫ちゃん、早く告りなよ。すぐに付き合えるのに。」
「四葉君、あまり学校に来ないから、チャンスの時に行きなよ。」
女子生徒たちが姫に告白を勧める。
姫は女子生徒たちに顔を向けて尋ねた。
「みんなは、告白して付き合う私たちと、付き合う前の私たち、どっちがいい?」
その問いかけに戸惑う女子生徒たち。
「付き合えば、みんなの前では絶対にイチャイチャしないよ。私だけが彼を独占するから。でも、私たちが付き合う前なら見せてあげる。私たちの恋の物語を。」
姫は再度、女子生徒たちに尋ねる。
「答えてよ。」
姫が女子生徒たちに小悪魔な笑みを見せる。
「付き合う前がいいです。」
女子生徒たちは、示し合わせたように即答した。
姫さんの小悪魔な笑みを浮かべ。
女子生徒たちはまとめて気を失った。
「先生が授業を始める前に予習しよ。」
姫は自分の席に腰を下ろした。
机に腕を置いて頬に手を添え、静かに空を見た。
「告白は嫌よ……だって、一度はヒーローに愛されて、告白されたいって思うでしょ?」
姫は頬を赤く染めた。
誰にも聞かれないほど小さな声で夢を語る。
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