第09話 領主
「あぁぁー、面倒くさい、面倒くさい」
「兄ちゃん、諦めなよ。隊長さんも困ってるじゃないか」
「そうは言ってもなぁ。あぁ、面倒くさい」
馬車はこのタングの街の中心にある領主邸へと向かっている。
プリムローズが昨日の手紙の内容を領主に報告した際に、功労者の二人に直接会い、労をねぎらいたいとのことだった。
今、二人は窮屈な豪華な服に着替えさせられているのだが、レオンは破り捨てたい衝動に駆られている。
元より服など来たこともなく、この世界に降り立った際には簡単なズボンのみ身に付けていた。
そのズボンはインバの爺さんに貰ったものだ。
荷馬車の中にあった売れ残りのものらしい。
半裸の方が動きやすいから嫌だと何度も言うのだが、タイガから説得され仕方なく着ていると言う訳である。
その豪華な服であるが、これもインバの爺さんがなじみの店から取り寄せたと聞く。
当然、支払いは騎士隊長であるプリムローズである。
「しっかし、窮屈だなぁ~。人間はこんな服で動けるのかねぇ~」
「ハッハッハ、私は動けておりましたでしょう?それに冒険者になると仰ってましたが、それなら尚の事、服に慣れた方が宜しいかと」
「なんでだ?」
「えぇ、獣人差別はございませんが、半裸では他の冒険者に舐められる恐れもありますので」
「そういうもんか?」
「そういうものです」
「ハァ~、わかった。我慢するか」
「そうなさってください」
馬車はレオンの憂鬱な気分を乗せてひた走る。
タイガは横で目を瞑っているが、絶対に寝ていないのは明らかだった。
かすかに耳と鼻が時折動いているのが証拠である。
「なぁ、隊長さんよぉ。俺たちは偉い人の前での礼儀なんて知らねぇぞ。アンタが恥をかくだけだ。なぁ、今からでも止めようや」
「その件でございましたら、既に連絡を入れております。伯爵様も構わないとの仰せです」
「そうかい、そうかい。カァー、仕事の出来る奴は凄いねぇ~」
「ハハハ、それ程でも」
「嫌味だつぅの」
「皆さま、間もなく領主さまのお屋敷でございます。ご準備のほどをお願いいたします」
御者が振り向き声をかけて来る。その声にタイガも目を開けてキョロキョロと辺りを見渡している。
「タイガ殿、よくお休みになられておりましたな」
「うん、あー、よく寝た」
(タイガの奴、嘘つきやがる!狸寝入りしてた癖に)
館は大きく、また立派な建物だった。
流石のレオンもタイガも気圧されてしまう程だった。
中に入り、これまた豪華な一室へと案内される。
座ると身体が沈み込むようなフカフカなソファー。
調度品も煌びやかで、日差しが反射して目が痛い程だった。
――ガチャリ
「失礼する」
頑健な身体の男性がレオンと同じように窮屈そうに服を着て中に入ってきた。
ザッっとプリプローズが立ち上がったので、レオンもタイガも同じように立ち上がり頭を下げる。
「よく、お越しになられた。感謝申し上げる。私はこの地を治めるウィリアム・アッシュフィールドと申す者。爵位は辺境伯を王より賜っております」
「俺はレオン。ライオンの獣人だ」
「僕はタイガ。トラの獣人です」
頭を下げて挨拶をする二人である。
「頭を上げてくださらんか?あなた方は神の使徒様でいらっしゃる。私に頭など下げる必要もございませんぞ」
「いや、我らの方こそ獣人である。使徒として崇められるほどの者ではないと自覚しておるのだが」
「そう言う訳には参りませんぞ。すでに女神ヴィータリス様にもお会いしているとの事でありましょう」
「それが嘘だと言ったら?」
「ワハハハハハ。それはありえませんな。一見華やかで優雅に見える貴族たちの社交界は、実は陰謀と裏切りが渦巻く伏魔殿でしてな。私もそのうちの一人ですぞ。嘘、偽りを看破できなくて、何が貴族でございましょうか。レオン殿の言は誠であると断言できますな」
「流石だな」
「それで、今日我らが呼ばれたのは自己紹介だけではないと思うのだが?」
「えぇ、その通りです。まずは人払いを致しましょう」
部屋の中の護衛騎士やメイドたち全員を部屋から出してから、辺境伯は口を開くのだが内容は大事の予感がする。
内容は、先日レオンが発見しプリムローズに渡した小箱。中に入っていたのは書簡であったそうだ。
その内容は、犯罪者に”表”も”裏”もないのだが、野盗をしていたのは世の目を欺く為であり、本来の仕事はウィンザー王国、つまりレオンとタイガがいる国を調べ、内乱を起こそうとたくらんでいた工作員であったと言う。
何故、工作員だとわかったのかと言えば、あの書簡の内容である。
シルヴァン神国の王印が押された指令書が入っていたからだった。
工作員として潜り込んでいた人数は不明であるそうだが、捕縛された首領はシルヴァン神国の諜報部隊の上の方に位置する男だったとも話をしてくれた。
「なんだか変な話だね。野盗にならずに商人に化ければいいのにさ」
「あぁ、タイガが言う通りだよな。なんでだろうな」
「それも説明しましょう」
続けて辺境伯が話してくれたのは、レオンもタイガも腹が立つ内容だった。
野盗として商人を襲い、金品を奪った後に自国へと送金していたようだった。
スキルを使える者と獣人は奴隷として働かせる為に一緒に連れ去ったと言う。
スキルがない男は惨殺され、森の中へと埋められる。
女性の場合は慰み者にされた後、殺されて埋められると言う。
あの数十名の野盗と言う皮をかぶった全員が工作員ではないようで、首領と魔術師の女は工作員であることは確定しており、あとは死んでいるので確認に手間取っている様だった。
「聞けば聞くほどに胸糞の悪い奴らだな。いっそのこと嬲り殺せばよかったかも知れんな」
「でも兄ちゃん、殺しちゃえば情報が手に入らなかったかもしれないだろ」
「それもそうか。それに小箱も偶然見つけたものだからな」
話し合いは長時間になり、今日は辺境伯の屋敷にて泊めらせてもらう事になった。
夕食はレオンとタイガのリクエストによる肉がメインであった。
食堂には辺境伯とプリムローズがいなかったが、多分二人で打ち合わせをしているのだろうと気にもせずに、目の前の肉に齧り付く二人である。
「あぁー食った、食った。動物園の肉よりも美味かったな」
「そうだね。あの固い肉に比べるとね」
「それによぉ、あの風呂ってのも気持ちがいいもんだな」
「僕は苦手かな。ちょっと熱いよ。サッパリすることには同意だけどさ」
客室へと案内され中へ入る。
当初、二人は別々の部屋でと言われていたが、幼少期よりずっと同じ場所で寄り添って寝ていたので、丁寧に断り同室にしてもらった。
「ふわぁー、流石に眠いな。『腹の皮が張れば目の皮が弛む』ってな。母ちゃんがよく言ってたよな」
「言ってた、言ってた。母ちゃんって、食べたらすぐに寝てたよね」
「そうだな。懐かしいなぁ」
「そうだね」
ちょっと死んだ母親を思い出し、しんみりとしてしまう。
「さっ、寝ようぜ」
「そうだね、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
レオンは大きなベッドへ潜り込むと、すぐに安らかな寝息を立てて寝てしまった。
(ふぅ、兄ちゃんも寝たようだな。さて、これからの事を考えておこうか。まず、シルヴァン神国の工作員が国境付近で活動してた。次に考えられるのは王様から賠償請求や拉致された人々の交渉事になるだろうな。そうなると詳しい説明も必要って訳だ……。ふむ。僕たちが王都へ行く必要がありそうだな。あとは野盗のアジトから自国へと戻るルートの確認が必要だろうな。インバの爺ちゃんは襲われたのは初めてって言ってたよな。そうなると別の場所で襲ってたのか?それとも襲う場所を変えて国境へと近づいて来たのかってことだよなぁ。その辺りは再度考える必要がありそうだな)
軽くイビキをかき始めたレオンの隣のベッドでは、タイガがひとり思考をフル回転させていたのだった。
ブックマーク、評価をお願い致します。
レビュー、感想等もお待ちしております。
誤字、脱字等がありましたらご報告をお願い致します。




