第07話 残党
――数分後――
「ただいま」
「うわっ!タ、タイガ殿か?」
「あっ、ゴメン。すぐに解除するよ」
スキルを解除して姿を現す。
「それで?」
「うん、内部は単純な一本道だったよ。一番奥には頑丈な檻があって、人間が二人。獣人が四人だったね。みんな、殴られた跡があって瘦せこけてたよ。多分、ご飯なんか貰ってないかもね」
「――なっ、なんと非道なことを!」
「隊長さん、まぁ、落ち着けって。それで野盗の数は?」
「えっと、男が六人で女が二人。二人の女は野盗と同じ服じゃなかったね。うーん、どう言えばいいのかなぁ」
そう言いながら落ちていた木の棒で、ガリガリと簡単な絵を地面に書いている。
「その恰好は魔術師の可能性がありそうです。もし、魔術師であれば救出は困難かと……」
「なんで?」
「いや、どのような魔法を使って来るかも不明ですので。それが攻撃系であれば躱すことも可能でしょう。しかし拘束系や体力を奪うものであればと……」
「ふーん。じゃ、行こうか」
「あ、あの、レオン殿、聞いてました?」
「聞いてたよ。でもなぁ、そんな事を言ってる間にも檻の中の奴らは衰弱してるんだぜ。俺とタイガは行くが、隊長さんは好きにしな」
「い、いや、私も参ります!」
「タイガ、お前は先にスキルを使ってバレずに檻の前にいろ。俺と隊長さんが入ることにするからな。俺達が入れば檻の前の警戒も薄れるだろうさ。おっと、タイガが檻の前についたら霧を解除してくれ。それを合図に入って行くからな」
暫くして洞窟内の霧がサァーと消えてなくなった。
どうやらタイガが到着したようだ。
洞窟にはレオンが先頭に入り、後ろからプリムローズがついてくる形で入って行く。
洞窟内は狭く、レオンの頭がスレスレになってしまうくらいだった。
「な、なんだテメェらー」
ワラワラと三人の野盗がレオンへと剣を振るうが、なんの痛痒も感じない。
ズラッと鉤爪を伸ばし、三人の野盗の首を狙って横なぎにする。
ボトッ、ブッシャー
ボトッ、ブッシャー
ボトッ、ブッシャー
一瞬で野盗の首が飛び、残った胴体からは噴水の様に血しぶきが舞う。
「はい、終わり。行くぞ、隊長さん」
「あ、あぁ……」
ズンズンと洞窟内を進んで行く、途中で罠があり壁から槍や矢が飛んでくるが、レオンが反応する前にプリムローズが叩き落している。
「隊長さん、やるじゃないか」
「これくらいはね」
タイガが言った通り、洞窟は一本道になっている。
罠があるとわかった為に、今度はプリムローズが先頭で歩き始める。
暫く歩くが、途中で野盗も出ることもなく、罠もなかったようだった。
「タイガの話では、残党は五人か。魔術師が二人ってことだよな?」
「えぇ、それ以上に隠れている可能性もあります。ご注意を!」
また、道を進んでいると人の声が聞こえてくる。前を歩くプリムローズに言うが聞こえていないと言う。
これだけハッキリと聞こえてるのは、レオンがライオンであったのが一因であろう。
ライオンの聴力は、獲物が約一.六kmも離れていても聞き取れるのである。
おまけに咆哮は、約八kmから十km先まで届くと言われている程である。
「うん?なんだ?お前らは?」
開けた場所に到着すると、タイガが言うように頑丈な鉄の檻があり、中には数人の人と獣人が詰め込まれている。
顔は腫れあがり、肋骨は浮きあがっている。あれは人間だろうか?横になっているものも見える。
「おいっ!誰だって聞いてんだろうがっ!」
「うるさいっ!」
「ギャッ」
野盗がレオンに大声を出した瞬間に、長い鉤爪で眉間を刺されて事切れる。
仲間の野盗が倒されたのを呆然と見ているが、誰も動かない。
「ファイアー!」
女魔術師が放った炎の魔法がレオンに直撃してしまった。
「あぁぁ、レオン殿ぉー」
プリムローズが慌てて近寄ろうとした時だった。
「アハハハハハハハ」
大笑いしているのは魔術師ではない。ほかの野盗でもプリムローズでもない。ましてや捉われた人々ではない。
その声は姿は見えないが、タイガであることに間違いはなかった。
誰もいないところからの高笑いが聞こえ、ギョッとする野盗たち。
「あぁ、面白い。兄ちゃんに火の魔法を使うなんてさぁー。アハハハ、あー苦しい。笑い死ぬ」
言いながらスッと姿を現すタイガ。
野盗が声を上げる前に、『ダーク・バインド』で捕えてしまう。
そこをプリムローズが縄で改めて縛り上げる。
まだボウボウと燃え盛っているレオン。
「ハァ、ハァ、ハァ。ば、化け物め。アタシの魔法で燃え尽きなっ!」
炎は徐々に勢いを失っていき、姿が見えて来る。
魔術師は炭になった死体を想像していたようだったが、現れたのはニヤリと笑ったレオンである。
「ヒィ、なんで、なんで?」
「教えてやろうか?兄ちゃんはな、炎のスキル持ちなんだよ。兄ちゃん!見せてやれっ!」
「おおよ!」
自分に魔法を放った魔術師へゆっくりと近づき、両手を壁につけて逃げないように挟み込む。
「本物の炎を見せてやるよ。『ライオン・シールド』」
ライオン・シールドとは、体表の周囲に熱量の高い球状の炎の結界を短時間展開するものである。
本来は敵の遠距離攻撃を蒸発させ、レオンが敵陣深くまで切り込む際の防御を担うものである。
それを魔術師に身体を近づけてスキルを唱えたものだから、魔術師の衣服は一瞬で燃え上がる。
皮膚は熱傷によりブクブクと泡立っていく。それは顔、腕、身体、足と全身に広がっていく。
「ギャァァァァァァァァ!」
凄まじい声を上げるのだが、大きな口も一瞬で焼け爛れる。
「これ以上やると死んでしまうな」
スキルを解除すると、魔術師は焼け爛れた体をズリズリとゆっくり倒れて行った。
「タイガ、他に野盗はいるか?」
「いいや、いないね。隊長さん、外の騎士さん達を呼んできてよ。こいつら運ばないとでしょ?」
「……、あっ、あぁ、すぐに戻ります!」
洞窟はそんなに長いものではなく、途中の罠もプリムローズが解除しているので戻ってくるのも早かった。
「お、お待たせして申し訳ない」
相当、急いで走ったのだろう、三人の騎士も息があがっている。プリムローズは平気そうだったが。
「おい、こいつらを連れて行け。あぁ、そこに倒れてる女もな」
手分けして騎士が外へと連れだして行き、最後に大やけどの女魔術師の腕を取って起き上がらせようとすると、
「うわっ!」
何事かと思って見ると、騎士の手にはべっとりと焼け爛れた皮膚が張り付いていた。
やけどの為に皮膚がはがれたのだろう。
「おい、これを使え」
プリムローズが手渡したのは小さな小瓶。
それを女魔術師に振りかけると、やけど状態ではあるが少しだけ戻ったようだった。
「隊長さん、それなんだ?」
「これですか?これは応急処置用の初級薬です。ご存じでは……なさそうですね」
レオンの問いかけにプリムローズが教えてくれたのは、いわゆるポーションと呼ばれる物だった。
”初級”、”中級”、”上級”、”特級”、”万能”と五段階に分けられていると聞く。
初級薬は、応急処置用。
中級薬は、少し深いケガや麻痺なども治せる。
上級薬は、死に至るようなケガや病を治すことができる。
特級薬は、手足の損失も元に戻せる。当然、初級から上級までの薬効はある。
万能と呼ばれているものに関しては、ほぼ噂程度しか聞いていないと言う。
その薬効は、死んだものでも生き返らせると言う。
「なるほど……。そんなのがあればなぁ。母ちゃんも死なずにすんだかもしれんなぁ」
「兄ちゃん……」
二人の母ライオンは、檻に投げ入れられた袋入りのパンを食べてしまった為、ビニールが胃や腸の途中で完全に詰まってしまい、急死したのだった。
母ライオンは急に嘔吐を繰り返し、排便もできなくなっていたのだった。
異変を察知した飼育員と獣医の懸命の救命措置も間に合わなかった。
当然、二人は知る由もない。
二人は母親が急に体調を崩したようにしか見えていなかった。
そんな知識や知恵はなかったからだった。
「もう昔の事だ。隊長さん、そんな悲しい顔をするんじゃねぇよ。それよりも、この檻だよな。問題は」
「兄ちゃん、カギを探したんだけどね、見つからないんだよ」
「そっか。じゃ、力業で開けるしかないか」
「レ、レオン殿、それは無茶でございませんか?」
「まぁ、黙って見てなって。おい、お前ら!壁際まで下がれ!隊長さん、タイガも下がっててくれ」
レオンが檻の中と外へと声をかけ、全員をレオンから遠ざけると、レオンは鉄格子を両手で掴む。
掴むと左右へと引っ張っていく。
ミシ、ミシ、ミシ。
ミシミシミシミシ、ガガガガガ、バキバキバキバキ
ガッゴン
鉄格子を広げる広げるつもりだったが、思いのほか頑丈であった鉄格子は、天井と地面ごと引き抜かれてしまった。
「ありゃ、力を込め過ぎたかな」
「アハハハ、兄ちゃん、滅茶苦茶だ!」
「「「「「…………」」」」」
プリムローズも檻の中の者たちも呆然自失状態である。
「おーい、みんな大丈夫かー。僕たちが来たから安心していいよ。助けに来たんだからさ。兄ちゃんは顔は怖いけど、優しいから大丈夫、大丈夫」
「タイガ、一言余計なんだよ」
タイガの頭をポカッと殴りつけ、憤慨しているレオン。
その様子をみた彼らには安堵感からか泣き始める者もいたのだった。
「よし、歩けるものは着いてきてくれ。歩けない者は?二人か?レオン殿、お願いしていいだろうか?」
「あぁ、連れてくよ」
倒れていた二人をヒョイと肩に担ぎあげ、プリムローズの後をついていく。
「あれ?タイガはどこだ?」
気が付けばタイガがいつの間にかいなくなっていた。
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