第06話 騎士
「申し遅れた。私はアーサー・プリムローズと言う。爵位は子爵である。よければ、君達の名を教えてもらえるだろうか?」
「俺はレオン。ライオンの獣人だ」
「僕はタイガ。トラの獣人だよ。レオン兄ちゃんとは兄弟なんだ」
「ほぉ、兄弟であったか。しかし、『ライオン』と『トラ』か……。獣人族で間違いないのだろうか?」
「あぁ、間違ってないぜ。俺達は獣人だ。ただ、この世界には存在しない種族らしいぜ」
「それは誰かに聞いたのだろうか?」
「それはな「ちょっと待って!」。タイガ、どうした?」
「ちょ、ちょ、ちょっと、プリムローズ様。ちょっとこちらへ」
タイガがレオンの言葉を遮るのも珍しいが、それ以上にプリムローズを他の騎士から離れた所へと誘っている。
あの警戒心の強いタイガが珍しいと思っていた。
プリムローズはタイガに呼ばれて行こうとするのだが、他の騎士は見た事のない獣人と近くに行かせるのを制止したのだが、それを一笑に付してから騎士達から離れる。
「おい、お前達は首改めと捕縛された男の人物鑑定をしておけ。私は二人と話して来るのでな」
部下の騎士達が捕縛された首領らしき男と首を調べ始めるのを見てから、レオンとタイガの所へとやってきた。
「それで皆から離れた所に呼ぶと言うことは、何か大事な話でもあるのだろうか?」
レオンが話そうとしたが、タイガの方が頭が良く、整理してうまく説明してくれるだろうと思い、タイガの横に黙って立つだけにする。
流石に頭が良いタイガの説明は理路整然としていた。
まず自分たちは異世界での獣であったが、シルヴァン神国の手の者に召喚されたことを話すのだった。
「そ、それは誠か……。確かにシルヴァン神国は召喚魔法で勇者を呼び寄せていると噂では聞いたことはあったが……。誠であったか……。ふむ……、そうすると二人は異世界からの勇者と言う立場であるのだな」
「いいや、俺達はただの『半端者』さ。勇者なんて偉そうな奴じゃない」
「それは違うっ!」
「「おっ!?」」
プリムローズが怒ったような口調でレオンを咎め、二人は勇者であることは間違いようのない事実であると力強く言い切るのだった。
「えーっと、まだ話の続きがあるんだけど……」
「おぉ、それはすまない。では、話してくれるだろうか」
タイガが次に話したのは獣の姿から身体が変貌し、所謂、獣人の姿になってしまったこと。
二人共にスキルと呼ばれる特殊能力が使える事。
そして、女神ヴィータリスに出会った事を話したのだった。
「…………」
「あれ?兄ちゃん、動かなくなっちゃったね」
「そうだな。おい、おい!あんた、大丈夫か?」
「ハッ!あぁ、すまない。女神ヴィータリス様に会った?本物であるか?いや、異世界からの召喚者だ。嘘偽りを言う意味がない。それに女神ヴィータリス様は獣人族の神であった筈。そうなると……」
またまた、思考の奥深くに行ってしまったように、プリムローズは只管にブツブツ言い続けている。
とりあえず、元の状態になるまで見守るしかない。
数分後、やっと意識が戻ったかのようなプリムローズは、二人の前に跪く。
「な、なんだ?なんだ?」
「プリムローズさん、どうしたって言うのさ」
「い、いや、あなた方は異世界からの訪問者であり、女神ヴィータリス様の使徒であらせられる。一国の子爵が偉そうな態度で発言する訳には参りませぬ!」
「いや、頭を上げてくれ」
「それはできません」
攻防が続いたが、結局はプリムローズが折れてくれ、立ち上がってくれたのだが、目はキラキラと二人を見つめている。
そんな純真な眼差しは、以前の檻の外から自分たちを見ている子供達と同じだった。
「隊長!こちらへお越しください!大変です!」
「む?わかった。では、お二人もご一緒に参りましょう」
大声を出したのは首領の前に立っている騎士だった。
どうやら首領が何かを言ったのかもしれない。
「どうした?」
「はっ、こやつらは賞金首の『赤トカゲ』で間違いなかったのですが、どうやらアジトに複数の獣人が捕えられているらしいのです。商人が来た時には金品を。獣人なら攫ってシルヴァン神国へ売り飛ばしていたそうです。あと……」
「なんだ?」
「女性は乱暴された後に殺したとのことです」
ボカッ、ドカッ
プリムローズは首領の顔面を蹴りまくる。
あまりにも激しい蹴りの為に、慌てて周りの騎士たちが止めに入った。
肩で息をしているプリムローズは二人の元へと戻って来たのだが、顔は険しく怒りのために顔を赤くしていた。
「それで、アジトに行くんだよな?当然、俺たちも行くぞ。仲間を助けるのが俺たちの使命だ!」
「兄ちゃんの言う通りだ。一刻も早く助けないと」
「えぇ、その通りです。お二人も来ていただけると思ってました。では、早速、参りましょう。……と言っても馬をどうしましょうか?」
「馬?いらんよ。馬に乗るよりも自分で走った方が速いだろうからな」
「では、大人数で行けば見つかる可能性もあります。私の他に三名の騎士と一緒に参りましょう」
「わかった。そっちの準備が出来たら言ってくれ。俺たちもちょっと用事があるんでな。行くぞ、タイガ」
レオンとタイガはインバの所へ行く事にした。
「爺さん、ちょっくら仲間を助けに行ってくるわ」
「そうかい。儂もここで待っとるからの。いいか、絶対にケガなく戻ってくるんじゃぞ」
「わかった」
森の中を疾走するレオンとタイガ。そして隊長のプリムローズと三人の騎士。
首領が話したアジトは街道から三十分ほどの距離だという。
そのアジトは山肌の洞窟内とも聞いている。
「止まれ!この辺りだろうな。匂いがプンプンしてるぜ」
「そうだね、兄ちゃん。アレじゃないか?」
二人で話していると馬から降りて来た騎士達が不思議そうな顔をして近づいてくる。
彼らに洞窟を指さし、あれがアジトに間違いないのではと確認すると
「えっ、確かにあの場所だとは思いますが……。よく気づきましたね」
「俺達は鼻がいいからな。それで作戦なんだが、タイガが説明してくれる」
タイガが立てた作戦は、まずスキルを使い単独潜入して内部の様子を探ってくることになった。
内部に何人の捉われた人々がいるのか、そして野盗は何人がいるのかという二点だった。
プリムローズのみ洞窟の外で待機し、三人の騎士は洞窟近くで他の野盗が戻ってくることを想定し、警戒の為に近辺を探すことになった。
「じゃ、諸々準備は大丈夫ってことで始めるよ」
タイガは洞窟内部に向かって『ミスト・オブ・アニマ』を唱えると、内部には松明の明かりも見えていたが、今は真っ暗になっている。何も見えなくなっている。
今頃、洞窟内はパニックになっていることだろう。
「んじゃ、中に入ってくるよ」
「あぁ、タイガも気をつけろよ」
タイガはひとつ頷いてスキルを唱える。
「次に、『|サイレント・ストーカー《無音の追跡》』。それと、『シャドウ・ベール』。これでよしっと」
サイレント・ストーカーはその名の通り、足元に闇の魔力を薄く敷き、移動時に発生する振動や音を完全に吸収するのである。
シャドウ・ベールは、周囲の影に同化させる広範囲型カモフラージュ魔法である。
このスキルを多用することで、タイガが敵の警戒網を突破することを可能になる。
「ちょっと言って来るよ」
そう言うのだが、タイガの姿を見えず、レオンは返事をすることもできなかった。
プリムローズは口をアングリとあけて呆然としている。
「い、今のは……」
ポンポンとプリムローズの肩を叩きながら笑うレオンである。
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