第30話 建国
アハハハハハ
二人の間抜けな声を聞き、会議の場は笑いに包まれてしまう。
「待て、待て、待て」
「待って、待って、待って」
レオン、タイガが同時に言うが、各国元首達は笑うのみ。
自軍の部隊長たちも呆気にとられた顔になっている。
「では、私が代表してご説明いたしましょう。まず、レオン様は自国をお持ちではない。ただ全世界の獣人の為を集めるとするならば、受け皿が必要でございましょう。ロアザナトスの街では、どう考えても無理な話です。現に街の外にも住民が住み着いている次第。このシルヴァン神国をレオン様の国になさいませ」
「い、いや、それは……。そうだ、ウィンザー王の考えなんだろ?他の国は……」
「それは、ご心配には及びませぬ。既に初めての戦闘、あの最初の進軍の際のことです。あの後、各国元首と話し合っていたのです」
「なにを?」
「遅かれ早かれ、シルヴァン神国を倒すと思っておりました。そうなれば、各国在住の獣人族はレオン様の元へと集まる事でしょう。それは想像に難くありませんので。この考えは私だけではございません。各国元首も同様に考えていたそうですぞ。私が呼びかけたのは確かではございますが、すんなりと受け入れられたのです」
ウィンザー王国、サハラド王国のシルヴァン神国を除いた両大国の王が、レオンに話を続ける。
「うーん、しかしなぁ~」
「兄ちゃん、これって良い話だと思うけどな。ウィンザー王もサハラド王も考えてくれてるんだよ。それに他の国の王様たちもだよ」
「それはわかるが」
「シルヴァン神国が倒されたことは、世界中に情報として流れるんだよ。そうなるとさぁ、獣人の王が建国した国に集まってくるのは当然じゃないか。違うかい?」
「…………」
レオンは腕組みをして目を瞑り、考え込んでしまう。
「兄ちゃん、覚悟を決めなよ。僕は兄ちゃんと一緒なら、建国も頑張るよ」
「……そうか。……そうだな。…………わかった」
ガバッと席を立つレオンに、全員の視線が注がれる。
「獣人の為の国を興すことを、ここに宣言する!」
ワーー、パチパチパチパチパチパチパチ
全会一致で建国は了承されたのである。
――――
シルヴァン神国のヴォルク・ヘイトリード・シルヴァン王。そして宰相のニコラス・ハーミテージ公爵の両名は公開処刑となり、王城前の広場にて絞首刑となった。
首に縄をかけられ、床板が外されるまでの間、ずっとレオンへの恨みつらみを言い続けていた。
また捕虜となった騎士達全員は斬首刑となった。
マチルド・ヘイトリード・シルヴァン妃、グレゴリー・ヘイトリード・シルヴァン王子は、ウィンザー王国の修道院にて、生涯幽閉されることが決まり、すでに護送されている。
シルヴァン神国の国民は、他国へと流れる者も多くいたようだが、特に引き止める必要もない。
先祖代々住んでいた住民のみが残ることになったのだが、彼らには犯罪歴等の身上調査を行い、住むことの許可を与えたのである。
但し、その調査に関わったのは、レオン軍の各部隊。つまり獣人が調査を行った訳である。
その彼らに対し、嫌悪感や暴言、不満を吐いたものは、即座に国外追放処分となった。
獣人は『半端者』。
人族の奴隷、玩具と根強く思う住民が多かった。
特に性奴隷として花街も賑わっていたと言う。
当然、取り壊されており、オーナーには重い処罰が与えられた。
結果、この王都に残った住民は、全国民の一割にも満たなかったと報告を受ける。
残ったものの多くは、商人たちであり、商魂たくましいのだった。
シルヴァン神国が陥落した報は、全世界を駆け巡った。
世界各地では、陥落祝いと称した祭りも連日行われたと言う。
また、諜報部隊からの報告では、世界各地から続々と獣人がここへ移動し始めたと報告を聞くのだった。
――――
シルヴァン神国の陥落から三か月。ようやく王都も落ち着きを取り戻しつつあった。
すでに各国からの獣人も多く住み始めたようだ。
住居は去った住民のものをそのまま使わせている。
「兄ちゃん、準備できたよ」
「おっ、そうか。もう、そんな時間か」
「そうだよ。さぁ、さぁ、みんな待ってるよ」
「わかったから、押すんじゃない」
シルヴァン神国の王城は、レオン達の住居になっている。
今日は、王城前に沢山の獣人、人で溢れかえっている。
城のバルコニーにレオンが姿を現すと、集まった人々からの大歓声と拍手に迎えられた。
レオンが両手を上げると、一瞬で静まり返った。
眼下に広がる連合軍の隊列と、各地から集まりつつある同胞たちの群衆を静かに見渡した。
一番前列には、各国の王と重鎮が席を埋めている。
ウィンザー王国のアズーラ・フォン・ウィンザー王。
同じく、ウィリアム・アッシュフィールド辺境伯。
砂塵の国と呼ばれるサハラド王国のガザン・アル・サハラド王。
エルフの国のエルダー女王国であるリリアン・リー・エルダー女王。
『氷晶の国』と呼ばれているフリージア国のエルシュオン・フリージア女王。
そして連合軍として参戦した小国の王。
その王達もレオンを見上げている。
「まずは謝意を。連合国の勇士たちよ。そして地を這う屈辱の中から立ち上がった我が同胞たちよ!まず、この勝利のために流された尊き血と不屈の闘志に、心からの敬意と感謝を捧げる。諸君らの剣がなければ、この冷徹な支配の壁を穿つことは叶わなかっただろう」
レオンは眼下の人々に深く頭を下げる。
その姿に人々からどよめきの声があがるのだった。
頭を上げ、言葉を続ける。
「かつて、この地を支配したシルヴァン神国は、獣人を『半端者』と呼び、言葉を解さぬ獣のごとく扱った。捕らわれた彼らは名前を奪われ、自由を奪われ、ただその命を浪費されるだけの道具として鎖に繋がれてきた。だが、見よ!その鎖は我らの不屈の意志と、国境を越えて結ばれた真の友情によって、粉々に砕け散ったのだ!」
集まった獣人族から、嗚咽の声が聞こえてくる。
「我、レオンは、ここに高らかに宣言する!」
一歩前に出て、咆哮にも似た力強い声が、拡声魔道具すら不要なほどの迫力で広場に響き渡った。
「旧シルヴァン領は、現時点をもって消滅した。その上に、新たなる秩序と誇りの地を築く。国の名は、『ロアザナトス王国』である!」
ウォォォォーと大きな歓声があがる。
再び、手を挙げて静まるようにとジャスチャーで示す。
「この『ロアザナトス』という名には、虐げられた過去を捨て、誇りある命として新生するという誓いを込めている。この国は、獣人が集うだけの場所ではないのだ!強き者が弱き者を虐げる理を否定し、己の足で立つ意志を持つ者すべてを、我は国民として迎え入れようではないか!」
獣人達の嗚咽の声が大きくなっている。
「我らと共に戦った諸国へ。我が王国は、諸君らの恩義を生涯忘れぬ。我らは力による侵略を望むものではない。しかし、我が民の髪の毛一本であっても、それを不当に害そうとする者が現れるならば、その時はこの獅子の牙が、そして我が弟のタイガの智略が、地の果てまで追い詰め、容赦なくその喉元を噛み切るだろう」
その言葉には噓偽り、虚勢ではないと感じられた。
「世界各地で、今なお暗い影に隠れ、震えている同胞たちよ。もう、誰も恐れるな!顔を上げよ!この獅子の王旗を目指して進め!道なき場所には、我らが道を切り拓こう。壁があるならば、我らがその壁を打ち砕こう。このロアザナトスの地こそが、同胞たちが二度と『半端者』と呼ばれぬための、不滅の聖域である!」
一度言葉を切り、眼下を見回す。
「我、レオンは、この王冠とこの命を賭して、我が民の自由を永遠に守り抜くことを、我らが神、ヴィータリス様に誓おう!我らの歩みは、これからである。ロアザナトス王国に、そして共に歩む全ての友に、永遠の栄光あれ!!」
ウワァァァァーー
レオンがバルコニーから去った後も、群衆からの大歓声と拍手はいつまでもいつまでも鳴り止まなかった。
今、レオンを王とする『ロアザナトス王国』が誕生したのであった。
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