第26話 農奴
レオンの怒声はシルヴァン神国の王、ヴォルク・ヘイトリード・シルヴァンにも聞こえていた。
窓から覗くと、多くの軍隊を前にした一頭の獣人が、手に何かを持って宣戦布告を宣言している。
「な、なにをしておるのだっ!早う、早う、軍隊を向かわせよっ!」
「はっ!すでに城門前へと向かわせております」
「て、敵はどの程度の規模だ?半端者ばかりか?」
「いえ、約二百万は超えているのではないかと思われます。半端者が先頭で、ウィンザー王国やサハラド王国の旗印が見えております。それ以外の国々も参戦しているようです」
「ええい、半端者どもがぁぁぁぁぁ!宰相!我が国の軍事力は?」
「はい。兵士が四十万。徴兵した農奴が五十万でございます」
「足りぬ!足りぬ!まったく足りんわ!ま、魔術師は?」
「先日の召喚魔法失敗により、殆どの者を死罪に致しましてございます。残っているのは数人程度かと」
今まで勇者に頼り切り、魔鉱石を言い値で買い取らせ、のうのうと暮らしていたシルヴァン王国には、軍隊と呼べるものがなかった。
勇者ひとりで一国を蹂躙することが可能だったからだ。
今、勇者はいない。
正確には四人程度はいたが、すべて年老いた者ばかりで、すでに王に切り殺されている。
それは、王城へ呼び、レオン達の街を襲わせようとしたのだが、スキルは失われていたのだった。
あの『召喚魔法』が使えなくなった日から、勇者の固有スキルが失われたと言う。
一振りで一万の軍勢を切り殺せるスキルを持つ勇者。
両手からほとばしる雷撃魔法の勇者。
転移魔法を使い、各地で蹂躙していた勇者。
天候を操り、各国の農業地帯を干上がらせた勇者。
誰一人としてスキルを使う事ができなかった。
「徴兵した農奴を突撃させよ!農奴が全滅したのなら王都の住民に戦わせれば良い!
「はっ、農奴を向かわせ、後方には騎士。そのまた後方には魔鉱石部隊を配備いたしました。王城の守りには上級騎士を配備しております」
「魔鉱石部隊?あの部隊は実戦で使えるのか?」
「いえ、試用試験は行ってはおりませんが、もう我が国に残されている部隊はそれしか残されておりません」
「むぅ。そうか」
「宰相よ。敵将の首を獲った物には、褒美を好きなだけ与えると言っておけ。爵位でも金でも女でも男でも、なんでもよい。王の座をやってもよいわ!早う、言ってこい!」
「はっ、陛下の仰せのままに」
宰相が、軍部へと連絡に走り、陛下の褒美の事を話すと、騎士達は俄然ヤル気になり士気はグングンと上がって行った。
王城を守る最後の砦。ここを守護する上級騎士は戦場に出た事はない。
勇者と奴隷の獣人族、そして下級兵士や下級騎士が戦場に出ていたからだった。
その間、上級騎士は何をしていたかと言うと、王を守ると言う名目で好き放題遊びまくり、活躍した下級兵の手柄を横取りするだけである。
下級兵、下級騎士からは、相当に恨まれているのだが、完全なる貴族社会では反論すれば不敬罪で一族郎党が斬首刑になってしまう。
上級騎士や貴族に対する不満は爆発寸前だったが、その不満が爆発する前に今回の戦が始まったと言う訳だった。
ガス抜きには丁度良かったのだった。
命令を受けた農奴たちが動き始まる。
隷属の首輪を着けられた、装備もボロボロの農奴たちは口答えをすることもなく、ロボットのような動きで槍や棒きれを持ち、城門へと向かって行く。
「けっ、気持ち悪い奴らだぜ」
「ま、そう言うなって。俺達の肉壁になってくれるんだからよぉ」
「それもそうだな。しかし、半端者の逆襲かよ。笑えるなぁ」
「まったくだ。おい、宰相殿が睨んでるぜ。俺達も行こうぜ」
「あぁ、本当だな。怖い、怖い」
シルヴァン神国の下級兵達は、相手が半端者だけとしか聞いていない。
だから、余裕な態度で軽口も叩けるのだった。
宰相も、あえて他国の兵士が大勢来ているとは話していなかった。
話してしまうと、士気が下がるのは分かり切っていたからだった。
農奴五十万が城門前へと一直線に進軍する。
それを見て道を譲る王都住民達。
首の隷属魔法を見て、あからさまに眉をひそめている。
ザッザッザッザッザッザッザッ
隊列が崩れることもなく、無駄口をきかない農奴たち。
手にしているのは、折れた槍、欠けた剣、棒きれ、鍬に鋤を持っている。
農奴までが戦場へ駆り出されているのを見る、王都住民は負け戦を確信するが、逃げようにも逃げ場がない。
海へ逃げても魔物の餌になり、城門には敵国の軍勢。
前にも後ろにも退路はない。
各々の家の中でうずくまって耐えるしかなかった。
――――
城門は壊され、城壁もあちこちと破られレオン率いる連合軍は王都へとなだれ込んでいる。
「死にたくなければ、剣を置き、頭に手を乗せてしゃがめ!そうすれば、命は取らぬ。死ぬ覚悟があるものだけが、向かってこいっ!」
呼びかけるが城門にいた数十名の衛兵が果敢にも攻撃をしてくるのだが、一瞬で倒される。
その呼びかけに応じたのは住民達。
王都から外へと出るようにと促されている。
わらわらと城門から逃げ惑う多くの住民達。
念のために、避難誘導した先には後方支援部隊が待っている。
おかしな動きをした場合には、即座に殺されることだろう。
城門を破壊し、城壁に穴を開けた重装部隊は、王都内の監視塔の破壊を行っている。
歩兵部隊は連合国の兵士とともに王都中を駆け回り、戦意の無い住民の避難誘導を行っている。
特殊部隊、諜報部隊は、すでに戦が始まった瞬間から姿を消している。
「報告!報告!報告でございます!前方より隷属の首輪を嵌めた農奴が向かって来ております。接敵まで三時間!」
飛行部隊が上空からレオン達に大声で知らせて来る。
「兄ちゃん、魔道具貸して」
宣戦布告を行った際のレオンが使った拡声器の魔道具を貸せと言う。
理由も聞かずにタイガへと渡してやる。
「全軍に告ぐ!後退せよ!城壁外へと速やかに移動せよ!」
タイガが全体命令を下す。
「タイガ、何故、後退させるんだ?」
「だって、王都内で戦ったら無関係な人の家や店が潰れるだろ?まぁ、まぁ、僕に任せてよ。考えがあるんだからさ」
「お前が言うなら従うだけだ。全軍、聞こえたな!?速やかに後退し、城壁外に出よ!」
レオンも同じ命令を全軍へと通達する。
するすると水が引くように全軍が城門や穴が空いた城壁から出て来る。
出て来ては、すぐに隊列を組み正面に向かって武器を構え直す。
正面にはレオン達の軍。
右翼にはウィンザー王国。
左様にはサハラド王国。
後方には、エルダー国とフリーザ国。
そのもっと後方には、各国の補給部隊と医療部隊が隊列を組んで待機する。
「三時間後には接敵が予測されている。各自、今のうちに水分、食料の補給を行え!」
各国の補給部隊が後方から走ってきて、騎士、兵士たちへと糧食と水筒を渡して行く。
レオン達にも、補給部隊のヴォルペス自らが配りに来てくれた。
「ヴォルペス、ご苦労」
「前線で戦っておられるレオン様、タイガ様に比べると我ら部隊の苦労など大したことはございません」
「ヴォルペス、何を言うのだ。お前達は十分に役に立っているぞ。戦時下においての飲み物、食べ物ほどありがたいものはないんだぞ。胸を張れよ、ヴォルペス」
「ありがとうございます」
「あと、医療部隊のハゼル達にも同じことを伝えてくれ」
「承知致しました」
一息ついた頃に、王都内からかなり大きな足音が聞こえてくる。
突撃兵として徴兵された農奴で間違いないだろう。
「さて、ここが正念場だな。タイガ、あれ返してくれ」
タイガから拡声魔道具を受け取り、声を上げるレオン。
「全軍に告ぐ!我らの前に立ちふさがるは、シルヴァン神国の奴隷にされた者達である。その数、五十万!全軍、攻撃準備!」
オォォォー
「恨むなよ。恨むなら、自分たちの王を恨め。可愛そうだがな……」
一人、城門に向かって呟くレオンである。
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