第19話 救出
闇夜に乗じて三人の男女がシルヴァン神国の国境を乗り越える。
「ここから先は農村しかありません。ただ、街道を通るのは少々危険と思われますので、脇の森を突っ切りましょう。三日も走れば王都に到着予定です」
「わかった。案内は頼んだよ。見つかりそうになったら僕の近くに来てね。スキルで隠すからさ」
「はっ!」
「流石、タイガね。頼りにしてるわよ」
「頼りにするのは僕じゃなくて、ロイヤルだよ」
「恐れ入ります」
「じゃ、行くよっ!」
三人は森の中を猛スピードで走り抜ける。
アンナは森の木々をピョンピョンと枝から枝へと渡っている。
ロイヤルは犬族の中でもグレーハウンドの獣人である。
その走力はトラの獣人であるタイガよりも勝っている。
ロイヤルの少し後を走り続ける。
昼夜問わずに走り続けること三日。
ようやく遠くの方に王都の高い塀が見えてくる。
「日が昇ったばっかりだね。夜になるまで待機だね」
「えぇ、そう致しましょう。この先に使われていない潰れかけの小屋がございます。そちらで待機と致しましょう」
昔は農具を淹れていた小屋に到着し、交代しながら仮眠を取る。
三日間も寝ずに走ったせいか、ロイヤルとアンナはぐっすりと眠っているようだった。
タイガもあくびを噛み殺しながらも小屋周辺の警戒を怠らなかった。
すっかり夜も更け、あたりは暗闇に包まれている。
そろりそろりと王都の壁つたいに歩く。
タイガのスキル『|サイレント・ストーカー《無音の追跡》』を二人にも施しているので、移動時に発生する振動や音を完全に吸収されて無音状態である。
「ロイヤル、アンナ、先に僕が入ってからゲートを開けるよ。いいね?」
コクリと頷く二人を見てから、高い塀を飛び越えて行ったタイガ。
すると壁に真っ黒な穴が現れる。
既に見知っていたアンナが先に入り、続いてロイヤルも入る。
「まずは一番近い同胞が入れられてるのはどこだい?」
ロイヤルは、ある建物を指さす。
ひとつ頷いてから、タイガはスキルの『シャドウ・ベール』を使って、自分の姿を周りの景色に同化させる。
「二人は僕に続いて」
三人で酒場の建物の裏手へと廻った。
「この下水処理の入り口から入って、四度角を曲がった先です」
「了解。先に行くよ。二人は警戒しながらついてきて」
下水の強烈な悪臭に耐えながらも、ロイヤル言う通りに進むと二人の騎士が立っている。その後ろには頑丈そうな扉がある。
この奥かと、ロイヤルに目で合図すると、頷きで返事をしてくれた。
「じゃ、手筈通りに」
タイガは姿を消したまま、スッと扉の前へ立つ。
後ろから一気に警備中の騎士の頸動脈を切り裂く、続けてもう一人も同様に倒す。
「さて、開錠はアンナさん、頼んだよ」
「任しときな」
カチャカチャと鍵を触ったかと思うと、カギはガチャリと音がする。
「開いたよ」
「よし、入ろう!」
中に入ると下水よりもキツイ臭気が漂っている。
「だ、誰だ?」
「シー、僕たちは味方だよ。ホラ、同じ獣人だ。安心していいよ。みんなを助けに来たんだ。いいかい?絶対に声を出しちゃダメだからね。それと今から黒い穴を出すけど、そこに入って欲しい。入れば僕たちの仲間が大勢いるところに出るからね。信じるか信じないかは君達で決めていいよ。でもね、もうすぐ戦が始まるんだ。無駄に命を散らされるよりもいいと思うけどね」
「し、しかし、俺達には首輪が……」
「あぁ、そうだったね。ヨイショっと」
バキッ、バキッ、バキッ、バキッ、バキッ、バキッ
「えっ?えっ?えっ?こ、壊れた……」
「はい、はい、驚くのは後にしてよね。アンナさん、案内を頼むよ。全員を街に入れたら戻って来てね」
「わかった。ほらっ、行くよ。楽園に行きたい奴はついて来な。死にたい奴は残ればいい。さっさとしなっ!」
監禁されていた獣人達は約二百人程度。その全員が恐々とゲートに入って行った。
「全員、つれていったよ。あとは医療部隊に任せて来た」
「お疲れー。じゃ、次に行こうか!」
次から次へと各所を飛び回り、獣人達を救い出して行った。
中にはタイガの言葉を疑い、残るものもいた。
説得する時間もないので、諦めざるしかなかった。
また、子供が泣き叫ぶために、ヒヤヒヤしながらの救出劇であった。
日が昇り始めた頃には、ほぼ全ての獣人を救い出すことに成功する。
やはり時間を要したのは、獣人達への説得だった。
タイガの優しい言い方では進まないとアンナに叱られ、あとはアンナが説得役として半ば脅すように獣人達をロアザナトス街へと送り続けたのだった。
――――
「た、大変ですっ!」
「騒がしい!閣議の途中であるぞっ!」
「し、しかし『半端者』達が……」
「はぁ?『半端者』がどうした?仲間同士で殺し合ってたか?それとも自死をしてたのか?ふんっ、何匹か死んでも代りはおるわ!」
「い、いえ、そ、それが……」
「えぇい!貴様、うるさいぞ。ハッキリと申せ!」
「はっ、お、恐れながら報告いたします。王都の『半端者』が忽然と姿を消しております。それもほぼ全員でございます」
「――なっ、戯けっ!そのようなことが起きるはずがなかろうがっ!ふざけたことを申すと、その首、刎ねてやろうぞ!」
「い、いえ、事実でございます」
「……、騎士は……、騎士に立哨させておったであろうが!」
「はっ、立哨していた騎士たちは、すべて喉を切り裂かれ絶命しております」
「ま、誠か……。誰だ?誰の手引きだっ!責任者を余の前に連れて参れ!」
シルヴァン神国の閣議中に飛び込んできた、およそ想像もできない事態を聞いた王のヴォルク・ヘイトリード・シルヴァン。
顔を真っ赤にし、唾をまき散らしながら、『責任者を呼べ―』と騒いでいる。
この状態であれば、妻子であっても止めることができない。
ヘタに止めれば、殺されるのがわかっているからだった。
「お、仰せの通り参上いたしましてございます」
「貴様が『半端者』の管理者であるかっ!?」
「は、はい。そうでございます」
「近う寄れ。褒美を授けよう」
「はっ、ありがたきし、グハッ。な、なにを、な、なさいま……」
「フンッ、汚い血で我が剣が汚れてしもうたわ。おいっ、こやつの死体を捨ててこい!」
獣人を扱っていたのはシルヴァン神国でも古参の貴族であった。
誰も嫌がる獣人の管理を押し付けられ、挙句の果てには切り殺されてしまった。
爵位は侯爵であったが、シルヴァン王の前では関係のない事柄である。
「ええい!魔法士たちは何をしておるのだっ!早う、異世界から勇者を呼び寄せんかぁー。魔法士たちを呼べぃ!」
次に連れてこられたのは二十人の魔術師たち。
彼らが召喚魔法を使い、異世界から人間を呼び寄せていたのだったが……。
「おい、召喚魔法はどうなっておる?前回の召喚に対する報告がないが、一体全体、どうなっておるのだっ!」
「は、は、はい、恐れながら申し上げます。召喚には成功いたしましたが……」
「成功しておるなら連れて来ぬか!何をしておるのだっ!」
「い、いえ、そ、それが、召喚で来たのは『半端者』でございまして、また姿形も見たこともない化け物でございまして……」
「今、何と言った?『半端者』の化け物を召喚しただとっ!おいっ、伯爵、貴様が召喚の責任者であったよなぁ。どういう事が有体に説明せよっ!」
伯爵が言うには、自分は知らないところで魔法士たちが勝手に召喚したと言う。
それに対し、魔法士たちは、伯爵の命により召喚させられたと発言が食い違う。
「のぉ、伯爵よ。召喚の儀は王城内にて執り行うべきことであるが、なにゆえに森の中にて行った?疾く、申せ!」
「い、い、いえ、そ、それは魔法士達が……」
「もう、よいっ!」
「グワァァァ」
「それで、次の召喚を早うせぬか!何をしておるのだっ!」
「そ、それが、召喚を行おうとしたのですが、魔術が消えてしまいます。それに召喚を行うには魔力が足りませぬ。あれは十年かけてゆっくりと溜まるのです」
「うるさいっ!余に逆らうなっ。魔力がなければ、生贄でやればいいだろうがっ!」
「そ、そんな方法はやったことが……、グアァァァ」
同様に伯爵、そして二十人の魔法士達も王に切り殺されてしまったのである。
「どうするのだ。すでに戦準備はできておるのだぞ!我が国は勇者に頼っておったので、騎士や兵士の数は少ないのだぞっ!」
顔を赤くし、机をバンバンと叩きながら大臣達に文句を言うのだが、誰も発言することができなかった。
肉壁の突撃兵としての獣人族はいない。
勇者も召喚できていない。
シルヴァン神国は自国から戦を仕掛けようとしたのだが、どうすることもできなくなっていた。
衰退への足音がヒタヒタと忍び寄って来る気がした王は、ブルっと身震いしたのであった。
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