第14話 謁見
長い日数をかけて王都に到着することができた。
先触れにプリムローズが王城へと走って行った。
アンナが護衛のために馬車へと乗り込んできたのだが、ちゃっかりレオンの隣に座っている。
入場門から街を抜けた先の丘の上に建つ王城。
真っ白で飾り気も無いが、巨大さのあまり圧倒されてしまう。
王城へ入るとメイドより別室に案内され、湯浴みと着替えを手伝ってくれた。
レオンは白を基調とした礼服で、タイガは逆に黒を基調とした礼服である。
金糸、銀糸もふんだんに使われ、襟や袖口、ズボンの横には綺麗な刺繍が施されている。
特にレオンは金色の鬣が白い服に映え、着替えを手伝ったメイド達でさえも見惚れるくらいの美しさである。
タイガは黒い服が顔の縞模様と相まって迫力が増したように見える。
また袖口の金糸の刺繍がタイガの腕にもよく似合っている。
「兄ちゃん、挨拶は大丈夫かい?」
「あぁ、任せとけ。俺にも『知恵の神』の加護がついてるんだぜ。安心しろ」
「……なんか不安だな」
そんな風に冗談を言い合っていると、謁見の準備が出来たと呼びにくる。
そのまま着いていくと大きな扉の前で、ウィリアム・アッシュフィールド辺境伯が二人を待っていてくれていた。
どうやら、謁見の間に入る際の案内を勤めてくれるのだと言う。
「女神ヴィータリス様の使徒であらせられるレオン様。同じくタイガ様、ご入場でございます!」
扉の前の騎士が中へと大きく声を上げ、ゆっくりと扉を開けてくれる。
中央には赤い絨毯が敷かれており、右側には辺境伯と同じような服を着た男女。この国の貴族のようだった。
左側にはズラリと騎士が直立不動で立っている。その中にはプリムローズがいることに気がついた。
中央奥の玉座と呼ばれるところから降りて大きく手を広げている男がいる。
一際、豪奢な服装で頭に王冠を乗せているので、この国の王であるとすぐに理解できた。
「ここからは、私についてきてください」
辺境伯の数歩後から中に入り、ゆっくりとした歩調で進んで行く。
「「ん?」」
「レオン殿、タイガ殿、どうされました?」
「あぁ、すまない。気にしないでくれ」
辺境伯から聞かれたが、そのまま進むようにと答える。
玉座前には二脚の椅子。少し離れた対面には一脚の椅子が置かれていた。
「こちらにお掛けください」
そう言ってから辺境伯は右側の貴族の方へと去っていった。
「ようこそ。異世界からのお客人。長旅、お疲れ様でございました。私は、ウィンザー王国の王であるアズーラ・フォン・ウィンザーと申します」
王の挨拶の後、レオンとタイガは立ち上がる。
「丁寧な挨拶、痛み入る。我が名はレオン。横にいるのは我が弟のタイガ」
タイガは綺麗な所作で一礼をする。
「知っての通り、シルヴァン神国の禁忌魔法により、この世界へと召喚された。元は四つ足の獣である。それにより我らが礼を失する事もあろうかと思われる。どうか寛大な気持ちでご容赦願いたい。さて、召喚において我らの肉体、思考、能力は劇的に変化した。我らの能力は同胞を救い出すために創造神イオニアス、女神ヴィータリス、また他の神々から与えられたものである。だが、我ら二人では限界があろう。是非、御国に御助力賜りたい。ハッキリと申し上げよう。我らにとってシルヴァン神国は敵国である!」
一拍の静寂の後、割れんばかりの拍手、歓声が沸き起こった。
目の前の王ですら感心した面持ちである。
王がスッと手を挙げると、たちまち静かになった。
「レオン殿、タイガ殿。お気持ちしかと受け取りました。我が国、いや、彼の国以外の世界中の国の意思はお二方のお考えと同意であります。特に我が国の歴史におきましても、何度も煮湯を飲まされたおったのです。しかし、お二方のご活躍により、彼の国の謀略の一端を垣間見ることができたのです。この情報は非常に世界の救いになりましょうぞ。我らも彼の国を打ち倒し、拉致された人々を救い出したい気持ちは同じでございます。助力と仰らず、その戦いには我らも一緒に戦わせていただきましょうぞ!」
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謁見の間は、また大きな拍手に包まれたのだった。
「さて、先日のご活躍に関しまして、是非に我が国から何かしらの褒賞を受け取って頂きたいのです。ご希望がございましたら何なりと仰って頂きましょう。我が国はすべて対応させて頂きます」
スッと手を挙げたのはタイガ。
「タイガ殿、何かご希望が?」
「はい、兄に変わりまして、ここからは私がお話し致します。まず、陛下にお尋ねしたい儀がございます。よろしいですか?」
「えぇ、なんでしょうか?」
「御国では、“獣人差別”はございますか?」
「いいえ、ございませぬ。我が第三騎士団は獣人族で構成されている程ですので」
「ふむ、神に誓って……ですか?」
「そう聞かれると難しいのですが、我が配下にはおらぬと思っておりますが」
「そうですか。少々、失礼。『ダーク・バインド』」
「――なっ!?」
タイガがスキルを唱えると影で出来た手が貴族達の方へとスルスルと伸び、四人の男女を王の前へと連れてくる。
しっかりと身体が固定され、口も影で塞がれているので声も出せない貴族達。
「こ、これは……」
「はい、彼らは私たちが謁見の間に入った際に、こう話されておりました。極々小声でしたが、我ら兄弟、元は聴力、嗅覚に優れた獣でございますれば、すべて聞き取ることは可能です」
「な、何をでございましょうか?」
「はい、彼らは私たちに、『獣臭い』、『我が王城に獣人が入るとは嘆かわしい』、『着飾っても獣は獣である。滑稽だ』、『王も何をお考えなのか?おかしくなられたのか?』などなどです。入ってすぐに立ち止まったのは、そう言った理由です。あぁ、聞き間違いではありません。それこそ、神に誓って……ですけどね」
さっきまでの優しげで微笑みを浮かべていた王の顔が一気に憤怒の顔へ変わっていく。
「近衛っ!」
「はっ!」
タイガがスキルを解除すると、腰が抜けたように座り込み、顔を青くしてガタガタと震えている。
近衛と呼ばれた騎士数人が謁見の間から連れ出して行った。
タイガのスキルを目の当たりにしただろうか、なお一層静まり返ってしまった。
いち早く我に返った王から謝罪を受けるが、それを聞き流すようにタイガは言葉を続けたのである。
「謝罪は受け取りましょう。さて、報奨の件でしたね。我らが欲しいものは、ウィリアム・アッシュフィールド辺境伯が収める領地内の街の外。そこに広めの土地と幾つかの住居が欲しいのです。当面の生活費と共に頂きたい」
「それくらいであれば。しからば、訳をお聞かせ頂けますか?」
「私たちはそこを拠点とし、獣人族の部隊を作るつもりです。かの国に一番近く、また我らが常駐する事により、国境付近の安全も図られましょう。御国にとっては良い事だらけではございませんか?」
「た、確かにタイガ殿の言う通りだが……。いや、委細承知した。すぐに土地、家屋、金銭面等の援助を確約させていただこう。書面が出来上がり次第、自由にお使いくださって結構」
「ありがとうございます」
謁見も終わり、二人は客室へと戻された。
その頃、閣議の間では、王と宰相、そして各大臣で緊急会議が行なわれる。
それはレオンの王者の風格とタイガのスキル、そして言い返すことができないほどの理路整然とした交渉術。
それも獣人差別をした貴族を捕縛した後であるので、交渉はタイガの言いなりに近かった。
また、金銭面の援助でも明確な金額を言わなかったのは、いつでも入用な時に国から出すようにとの一種の脅しに近いものである。
皆が感心する中で一人の大臣が手を挙げる。
その大臣は『武の大臣』。戦では猛将と呼ばれた負け知らずの将軍である。
大臣であり、将軍であり、且つ、騎士団の中でも一番強いとも噂される『特殊精鋭騎士団』の団長でもある。
その男が言うには、タイガのスキルは見たが、二人の実力が見られない限り、報奨の見直しが必要だとの意見である。
大臣達から反対の声が上がる中、どうしても手合わせで実力を見たいと譲らなかった。
王も二人の実力は辺境伯であるウィリアムから聞いてはいたが、やはり自分の目で確かめたく思い、その提案を了承。
「……と言うことで、明日、手合わせをお願いしたいとの事です」
辺境伯ウィリアムから言われたレオンは、一言だけ言うのだった。
「あぁ、面倒だなぁ」と。
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