第13話 防具
「あぁぁぁぁ、もうー面倒くさいぞぉぉ!」
「兄ちゃん、前にも言ってたよね。でも仕方ないじゃないか。ほら、辺境伯様も困った顔になってるよ」
「しかしだなぁ、タイガよ。嫌なものは嫌なのだ」
「レオン殿、気持ちは理解できますが、こればかりは私でも拒否権がないのですよ。どうか、ご理解ください」
「わかってる、わかってるだけどなぁ〜」
憂鬱な気分のレオン。
憂鬱な理由は王から二人に礼を言いたいとの事だからである。
――――
王からの手紙が辺境伯家に届いたのは先日のこと。
その日のうちに辺境伯家のお抱えである服飾店の店主が呼ばれ、レオンとタイガの謁見用の服を作ることになった。
レオンもタイガも別室へ移動させられ、身体のあちこちを採寸されてしまったのである。
服は嫌いなのだが、一国の王と会うためと仕方なく従うしかなかった。
「できれば窮屈な服は止めてくれないか。身体を動かしやすい物で頼む」
「はい、承知致しました。私共の総力を挙げて完璧な物を作らせて頂きます」
店主が胸を叩いて、自信たっぷりに言うので出来上がりを期待してしまう。
「なぁ、アンタの店には防具って売ってないのか?」
「防具でございましたら、防具屋で取り扱っておりますよ」
「そうか。防具屋か……」
「レオン殿、丁度良い機会です。冒険者の登録もなさったことです。防具を一式ご購入されては?代金は我が辺境伯家が持ちますので。金に糸目をつけずに『特級冒険者』に相応しい一品をお作りください。タイガ殿もご一緒にどうぞ」
「何から何まで悪いな」
「何を仰います!レオン殿、タイガ殿のお蔭でシルヴァン神国の野望を打ち下すことができるのです!これくらいは安い物でございますよ」
採寸も終わり、タイガを連れて冒険者ギルドへと向かった。
いつもの様に冒険者ギルドは賑わっていたが、二人が入ると途端に静かになる。
(おい、アレが冒険者登録に来た日に特級になった奴らだよな)
(あぁ、間違いない。あんな獣人は見た事がないからな)
(どんな手を使ったのやら)
(バカヤロウ!俺は見たんだよ!第二等級のアンナが手も足も出なかったんだぞ。危うく殺される所だったんだ)
(アンナが?嘘だろ?この国でも上位の冒険者だぜ。単体でオーガの巣を壊滅させたくらいだぞ)
(本当だって、それにロッシュも一瞬で倒されてたんだ)
(それじゃあ、本当のことかよ…………)
「ギルドマスターはいるか?」
「はい、どうぞ中へお入りください」
ガチャリ
「邪魔するぞ」
「おぉ、レオンにタイガか。どうした?特級冒険者様が何用だ?」
「あぁ、防具屋を紹介してくれ」
「防具屋をか?それならアンナが詳しいんだけどなぁ」
「アンナはいないのか?」
「今は討伐に行ってるんだよなぁ。他の誰かに聞くか?」
ドンドンドン
「誰だ?入れ」
「討伐済んだぞー。あっ、レオン様ー」
「おい、態度が違うじゃねぇかよ」
「当たり前だろ!アタシの大事なお人なんだよ」
アンナの言葉でギルマスがレオンを見るが、レオンは苦笑いを返すしかなかった。
「アンナさん、まだ早いよ。まだ友人でしょ?」
「でも、でもタイガさん、友人から恋人へ。恋人からお嫁さんになるのよねー」
「まぁ、妄想するのは勝手だからいいけどさぁ」
アンナの討伐成功の報告を一緒に聞き、それが終わったのでアンナに防具屋を紹介してもらう。
場所だけ聞くつもりだったが、案内するからと言うので二人は後ろをついて行く。
街の外れにある一軒の防具屋。
見るからにボロボロの店構えである。
「おい、アンナ、ここか?言っちゃあ悪いが、店がボロボロじゃねぇか」
「まぁ、まぁ、入ったら分かるって。アタシの亭主は細かいねぇ」
「まだ、旦那じゃねぇぞ!」
「えっ?『まだ』って事は期待してもいいのかい?」
「もう、うるさい!早く入れ!」
「はーい。おっちゃーん、来たよー」
扉を開けて入るのだが、扉もギシギシガタガタと壊れそうである。
店内に入るのだが、飾ってある防具も埃を被って日焼けもしいている。
「タイガ、騙されたか?」
「いいや、兄ちゃん。ここ別に何かあるよ」
タイガがヒゲを動かしながらレオンに言うのだが、レオンにはわからない。
わからないが、タイガの言うとおり、別の場所から革の匂いがする。
「おっ、アンナか?どうし……。誰だ、アンタら?」
「おっちゃん、この二人はね、”特級冒険者様”だよ。ほら腕輪を見なよ」
「ほんとか?おぉ、本物じゃねぇかよ。それで特級様が何の用だ」
レオンは防具屋の親父に自分たちの防具が欲しいとのことでアンナに連れてきてもらったことを話し、また代金は辺境伯家から出るので最高級の品が欲しいと伝えた。
すると店主は入り口に『閉店』の札を出し、三重の鍵を閉めてから奥の部屋へ来るようにと手招きをする。
奥の部屋へ入るが、変わり映えのない普通の部屋。
店主が箪笥の引き出しを引っこ抜き、何やらゴソゴソとしているなと見ていると、どこかでガチっと音がした。
次に引き抜いた引き出しの下の段も同様に引き抜き、また何かの動きを見せる。
ギギギギギ
音とともに部屋の片隅がポッカリと穴を開け、階段らしきものも覗いている。
顎をしゃくり、ついて来いと言われ、二人とアンナが入る。
「な、何だこれは?」
「へっへーん、驚いただろ?これがアタシの紹介する、世界一の防具屋さ」
頑丈なケースに入っている防具の数々。
知識がないレオンもタイガも良いものだとわかるほどだった。
店主が二人に近寄り、身体をペタペタ触ると、二着の防具を持ってきて装着するようにと渡してくる。
レオンが渡されたものは胸当て。黒くて鈍い光を反射している。
そして、ガントレット。
どちらも何の素材かはわからないが、着けている感覚すらない。動きも阻害されない。
タイガには、灰色の上下セットの服。
身体にピッタリと張り付いているようだが、タイガもレオン同様に動きやすいと言って嬉しそうにしている。
素材は絶滅した古代の魔物で、もう二度と手に入らないものだと言う。
「こんな上等な物を売ってくれるのか!?」
「ああ、構わん。気に入らんなら買うな」
「いや、買わせてもらえるならありがたいのだが」
「じや、請求書は辺境伯様に送っておく」
ちなみにと代金を聞くとレオンたちよりもアンナが驚き、店主へと詰め寄るように聞く。
どうやら相当に低価格のようだった。
店主は黙って目深に被っていた帽子を脱ぐと小さいが獣の耳がついてあるが、人間の耳もついている。
「俺の先祖が獣人だったみたいでな、儂は隔世遺伝ってやつだ。同胞には安く売るのは当然だろうが。アンタら兄弟が神国相手に喧嘩するってのも聞いてる。だからな、それは正規の代金から期待料を引いてるだけだ。さあ、帰れ!」
追い出されるように店を出された三人。
アンナからは羨ましがられる程の上等な防具。
――――
「あー、この装備のままで会えねぇかなぁ」
また、ブツブツ言うレオン。
「ねぇ、ウィリアムさん。兄ちゃんには王様に丁寧な話し方を言っといたほうがいいよね?」
「いや、大丈夫でしょう。お二人は使徒様ですから、神様の次に崇められる立場ですぞ。いつも通りでよろしいでしょう」
「うーん、そうなんだけどさぁー」
辺境伯のウィリアムは丁寧に話す必要はないと言うが、レオンの口調はぞんざいで荒い。
そんな話し方であれば、『獣人は愚か』と思われるのは必至だろう。
自分が馬鹿にされても構わないが、敬愛する兄が馬鹿にされるのは許せない。
口調だけでも矯正する必要があると感じ、王都までの道のりでしっかりと教え込もうと息巻くタイガである。
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